IS学園校内、1年1組の男女比率はおおよそ2:28、圧倒的な女子の数に真奥貞夫はげんなりとしていた。
「周りがほとんど女って……想像以上に辛いな……」
真奥貞夫がISを動かしてから2カ月が経っている。
今日初めてのIS学園の登校日、生まれて初めての高校生ライフにほんの少しだけ心を弾ませていた貞夫は、十数人ほどの女子から浴びせられている目線にげんなりしていた。
唯一救いなのが隣で自分と同じように沈んだ顔をしている男子が一人だけいるということだ。
「そっちもキツそうだな、互いに男同士、仲良くやっていこうぜ、そう言えば名前は~織斑一夏だったよな?俺の名前は真奥貞夫だ。よろしくな。」
「あぁ、ってなんで俺の名前を知ってるんだ??」
「そりゃ有名人だしな、世界初の男性IS操縦者、織斑千冬の弟、織斑一夏ってな。」
そう言うと、照れるように一夏が頭を掻く。
「そう言えば、そっちも男性IS操縦者なのか?俺以外ってのは聞いたことがないんだけど?」
「あぁ、俺は2番目だからな、織斑先生に色々と匿ってもらってるんだ。」
「千冬姉が?」
「そうそう、色々あったんだぜこの2ヶ月の間は……」
始まりは2ヶ月前のあの日、ISを動かした日から開始した。
とりあえずは二人を信用してくれた千冬が、自身の寮の部屋に二人を招きその日はそこで過ごすことになった。
晩ご飯は千冬が用意したカツ丼を、二人はご飯をまき散らしながら食べた。
その際にアルシエルはこれがカツドゥン……味もさることながら何と力強い響きだ……、と一人呟いていたが、二人の余りの行儀の悪さに千冬からの鉄拳制裁が加わったのは言うまでもない。
次の日、6時に起きて早々、理事長なる人物に紹介され、4月から貞夫は学生として、芦屋は学園の用務員として働いてもらう、という至れり尽くせりの待遇を受けた。
戸籍と住民票を届けでろという理事長の申し出に、二人はまるまる1日を使って戸籍と住民票を残った僅かな魔力を使い獲得(詳細な内容は後書きにて)、晴れて日本人となった二人は銀行の口座も作り、理事長に提出した。
住む部屋は千冬が、学園近くのアパート(家具が備え付けられてないオンボロアパート)を借りてくれており、二人はひとまずそこで暮らすこととなった。
そして2日目、千冬が持ってきた大量のアルバイト雑誌を眺めている貞夫の姿があった。
千冬が持ってきた雑誌の中には、主に学園近辺で募集されている物だ。
「とりあえず2ヶ月分の食費などの諸経費、携帯電話の費用も私が出そう、外国人のお前たちには今月中に日本語について学んでもらう、そして貞夫、お前にはISの基礎知識も並行して覚えてもらうからな……覚悟しとけ?」
と、千冬は雑誌を置くなりどこかへ行こうとしたが、玄関あたりで二人に声をかける。
「後このアパートは、お前たちが学園の正式な生徒と用務員になるまでの仮住まいだ。4月からは芦屋は学園の寄宿舎、貞夫は学生寮に入ってもらう。いいな?」
「「イエス!マム!」」
そして、今度こそ本当に千冬はどこかへ行ってしまった。
次の日からおよそ1ヶ月、千冬先生のスパルタ日本語レッスンが始まった。
教師をしている傍らということもあって、一緒に出来ない日もあったが、千冬と一緒に勉強した日に至っては、貞夫たちの目から生気が抜け落ちていた。
芦屋に至っては日本語だけでいいと高を括っていたこともあって、貞夫と同じように進めようとしていたが、千冬に貞夫より時間があるんだ……もっと出来るはずだよな、とノイローゼになるまで宿題を出されたという。
「あ、あの女魔王様より恐ろしいのではないでしょうか……?」
「千冬が勇者じゃなくて……本当によかったと心から思っているよ……」
千冬が寮に帰り、生気を失い倒れている二人はか細い声でそう言っていた。
この時から、千冬>魔王&悪魔大元帥という式ができあがってしまい、恩人ということもあってか二人は千冬に対しては頭が上がらなくなっていた。
そんなこんなで1ヶ月で標準的な日本人になった貞夫はアルバイト探しへ、芦屋は4月から本格的に始まる用務員の研修へと各々進めていった。
貞夫はというと早速お眼鏡にかなった1つ目のアルバイト先へ、大急ぎで作った履歴書と共に向かっていった。
着いた先にはスター・マルクスというカフェのチェーン店であった。
事務所に通された貞夫は、落ち着いた感じの店とはかけ離れた、凄い大きくて紫色の人物に面接されることとなった。
「私がこの店のオーナーの志波美輝と申しますの、気軽にミキティーと呼んでくださって結構ですのよ。」
「わ、わかりました。」
この時、貞夫の心の中では、この店に入ると死ぬという強迫観念にかられていた。
その後、女の子が欲しいんですのと、バイトを断られるが、貞夫の心に安堵しかなかったという。
「ふぅ、千冬からもらったお金はもう殆ど無い、食料はあるが……早くバイトを決めないとな!!」
そして、繁華街を歩いている最中に1つのチラシが貞夫の目に入る。
「マグロナルド、IS学園前新規OPENによりスタッフ募集……これだ!!」
マグロナルドとは、全国展開しているハンバーガーのファストフード店だ。
途中から入るより、出来たての場所に入ったほうが馴染みやすいと考えた貞夫は、早速バイトの応募欄にあった電話番号に電話する。
「はい、こちらマグロナルドIS学園前の木崎と申します。本日はどのようなご用件でしょうか?」
丁寧な言葉に少し安堵し、すぐさま貞夫は本題を切り出す。
「あの、バイトのチラシを見たんですけど……」
「あ、バイトの応募?丁度今人手が足りないのよ、いつ頃に履歴書持ってこれる?」
「今履歴書持って店の前にいるんですけど。」
そういった瞬間電話が切れ、チラシの横にある扉から一人の女性が出てきた。
「今すぐ面接とかするからすぐ来て、何も問題なかったら明後日から来てね。」
そう言って腕を掴まれ、貞夫は店の中へと拉致されたのであった。
数分後、店から出てきた貞夫は震えるコブシを天に突き立てた。
「バイト、取ったぞー!」
この後、調子に乗った貞夫は千冬から貰い、芦屋が効率よく使っていたお金の残り半分を自転車や家財道具一式に使ってしまい、千冬に大目玉を食らって半殺しにあったのは言うまでもない。
その後はもう一度千冬からお金を貰い、何とか1ヶ月を凌いだのであった。
「……以上が、俺がこの学園に入るまでに経験したことだな。」
「なんて言うか、千冬姉と仲良くないか?それにおんぶに抱っこ状態だと思うんだけど?」
一夏は自分の姉と仲の良い?男子に嫉妬してるのか、少しばかり唇をとんがらせ、抗議を言ってきている。
一夏はブラコンなのかと、貞夫は邪推してしまった。
「いや、確かにおんぶに抱っこだけどよ、仲なんて良くないだろ、いい印象を与えてるなんて、今の話にはこれっぽっちもなかったじゃねぇか。」
「甘いぜ貞夫、千冬姉は意外と自堕落な生活を送ってるんだ。そのくせ変にお姉ちゃんぶるからな。意外とダメな奴を可愛がるんだよ、自分もダメだって言うのにな。」
そんな風に談笑していると、貞夫の後ろから女子の声がする。
「あの、もしかして真奥さんですか?」
貞夫の耳に聞き覚えのある声が聞こえる。
貞夫がバイトしてから半月ほど経ったある日に、新人バイトとして入ってきた女の子の声にそっくりなのだ。
振り向ことそこには背が小さいながらも山田先生と似た大きさの女子が立っていた。
「え?ってちいちゃん!?ちいちゃんもIS学園の生徒だったのか!?」
その言葉に彼女の顔に笑みが溢れる。
「はい!まさか真奥さんもIS学園に通うだなんて!世の中何が起こるかわかりませんね!」
「俺もびっくりだよ、まさかあのちいちゃんがIS学園になんてね……」
そう言う貞夫の目は、遠い過去を見ているような目をしていた。
この女の子、ちいちゃんもとい佐々木千穂は貞夫のバイト先の後輩で、貞夫はイモ撒きのちいちゃんという認識ができている。
そうして二人で話していると、一夏が会話に加わってきた。
「二人とも知り合いなのか?いいよな、知り合いがいるなんて心強いよな。」
「同じバイト先の佐々木千穂ちゃんだ。」
貞夫が先に説明すると、千穂は丁寧にお辞儀をする。
「あ、私マグロナルドでバイトしている真奥さんの後輩の佐々木千穂って言います。よろしくお願いしますね!」
バイトという言葉に、一夏の目が点になる。
「え、二人ともバイトしてるのか?学校にバイトってきつくないか?」
「まぁ実質2足のわらじは今日からだからな、なるようになるさ。」
そんな話をしていると、教室に真耶が入ってきてHRを始める。
HRの内容は各自の自己紹介と学園で生活するにあたっての注意事項の伝達である。
一夏は見事に自己紹介を失敗してしまい、周りの生徒達がずっこけていた。
そんな一夏の頭に今しがた来た千冬のげんこつが炸裂する。
「いってぇ……っげ!千冬姉、なんでここに!?」
弟の言葉に、千冬は再びげんこつをおみまいする。
「学校では織斑先生だ。」
その言葉に一夏は頭をおさえながら、うんうんと頷く。
そして、途中乱入ではあるが、千冬の自己紹介が始まった。
「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を1年で使い物にするのが仕事だ。」
その言葉に、1組の教室が揺れる。
女子生徒全員が一斉に騒ぎ出したのだ。
あまりの騒音っぷりに貞夫は耳を押さえる。
自分への生徒たちの態度に眉間を押さえる千冬、貞夫は密かに合唱する。
その後、落ち着きを取り戻した教室では、引き続き自己紹介が行われていた。
「えっと、次は真奥君、自己紹介お願いしますね。」
真耶の言葉にやっとかと、腰を持ち上げる貞夫、一夏や千冬で騒ぎ切ったのだろうと思い、安心して自己紹介をする。
「皆さんはじめまして、真奥貞夫と言います。外国からこの地に来てまだ2ヶ月ほどですが、どうぞよろしくお願いします。歳は18歳ですが、年齢とか気にしないのでどんどん話しかけてください。」
無難に安全に終わった。
そう思っていた貞夫の耳を再び騒音が襲う。
お兄様キャラ!普通な感じが好印象!はにかんだ笑顔が可愛い!など様々な感想が怒号の様に襲いかかってきた。
完全に油断していたのか、となりの一夏も耳を押さえて机に突っ伏していた。
そして、午前の時間割が終わり、昼休みになった。
一緒にご飯を食べようと貞夫が一夏に話しかけようとすると、それより早く別の女子が一夏に話しかけた。
「ちょっといいか?」
そう言って、一夏は謎の女に連れて行かれた。
貞夫は、寂しく一人で芦屋特製弁当を食べようとしたが、千穂に話しかけられ一緒に食べることにした。
そして、午後の授業が開始された。
普通のIS基礎学習なので、日本語勉強と一緒にISの基礎知識も勉強していた貞夫には、特にわからないことはなかった。
しかし、一夏は入学までに内容を理解しておくようにと渡された教科書を捨ててしまったらしく、授業についていけないということも合わせて、千冬からの愛の出席簿アタックを食らっていた。
頭をおさえている一夏の目の前に、タウンペ○ジの様に分厚い教科書が置かれた。
「全く、貴様は1週間でこの本の内容を覚えてこい。」
「え?この厚さの本を1週間とかさすがには……」
「やれ。」
千冬の言葉に一夏は敬礼しながら了承した。
「よし真奥、この問題、お前ならわかるよな?」
千冬の目には、日本語と一緒に勉強したし大丈夫だな?と半ば脅しのような意味合いが見て取れる。
何故か自分に矛先が向いたことに焦る貞夫。
あくびしそうになったのを堪えて応答する。
「ふぁっ!?PICの正式名称ですよね?パッシブ・イナーシャル・キャンセラーですよね?」
「よし、その通りだ。原理についてはこれから説明される。あくびは……程々にな?」
あくびがバレバレだったことに背筋が凍る貞夫、質問には答えられたので事無きを得た。
授業も終わり、疲れて机に突っ伏していた一夏と貞夫に声がかけられる。
「ちょっと、お二人ともよろしいかしら?」
「んぁ?」
「んぉ?」
そう言って二人が振り返ると、そこには金色のドリルが2つ浮いていた。
個人情報
名前:真奥貞夫
年齢:18歳
IS学園に入る経緯(捏造:千冬作)
外国では高校を卒業したが、IS適性があると判断され、IS学園の1年に編入。
名前:芦屋四郎
年齢:22歳
IS学園の用務員になった経緯(捏造:千冬作)
真奥貞夫がIS学園に入学するにあたって、親族の方々から選ばれた保護者役として日本に来日。
IS学園の理事長の計らいで、用務員としてIS学園で働くことに。