「まぁ、なんですのそのお返事?私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではなくて?」
いきなり金髪の女性に話しかけられ、反応したら怒られた事に、一夏と貞夫の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
そして、同時に返事を返してしまう。
「「悪いな、俺……君が誰だか知らないんだ。」」
余りのハモリっぷりに、二人はその場で笑ってしまう。
それが気に食わなかったのか、それとも自分のことを知らないことに怒っているのか、女性は顔を赤くして食いついてくる。
「私を知らない……?セシリア・オルコットを?!イギリスの代表候補生にして、入試主席のこの私を!?」
女性の言葉に熱が篭る、一夏は未だにクエスチョンマークを掲げ、貞夫は作り笑顔で話を聞き流している。
そして、一夏が手を上げセシリアに言葉をかける。
「質問いいか?」
「ふん……、下々の者の要求に応えるのも貴族の勤めですわ……よろしくてよ!」
「代表候補生って……何?」
その質問にクラス全員が椅子から転げ落ち、セシリアは魂が口からはみ出ている。
一方の貞夫は、頭の中で、マグロナルドでの接客のトレーニングに勤しんでいて聞こえていないようだ。
魂が戻ったセシリアは腕を震わせながら一夏に問い詰める。
「し、信じられませんわ!日本の男性というのは、皆これほど知識に乏しいものかしら、常識ですわよ?」
「で、代表候補生って?」
その言葉に、目を輝かせて説明しようとするセシリア、しかしそれを、マグロナルドから帰ってきた貞夫がさらってしまう。
「代表候補生というのはだな文字通り代表、この場合、国の代表だな。その候補生のことだ。」
「へぇー、なんか凄そうだな。」
「まぁ、ISをうまく扱えてる。いわゆるエリートって奴だ。」
自身の演説を阻止され、ご立腹のセシリアだったが、エリートという単語に反応し、笑みを浮かべる。
「そう、エリートなのですわ!本来なら、私のような選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡、幸運なのよ!その現実をもう少し理解していただける!?」
ずいっと、顔を貞夫に近づけてくる、しかし貞夫はその分だけ距離を取る。
貞夫はめんどくさそうに返答する。
「お~、凄い、ウレシイナ。」
「……馬鹿にしていますの?」
貞夫の反応に眉を震わせ、セシリアの顔が強張る。
しかし、プライドが許さないのか、あくまで平静を装うセシリア。
「まぁ、貴方はまだマシかもしれませんけど、そちらの方はよくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できると聞いていましたけど、期待はずれですわね。」
再びセシリアの目標が、貞夫から一夏に変更される。
「俺に何かを期待されても困るんだが……」
「ふん……まぁでも、私は優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ?わからないことがあればまぁ……泣いて頼まれたら教えてさし上げてもよくってよ?なにせ私、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから!」
自分を誇ることが好きなのか、どんどん饒舌になるセシリアだが、一夏が要らぬことを口走ってしまう。
「あれ?俺も倒したぞ?教官。」
「……はぁ!?」
一夏の言葉に驚愕するセシリア、自分だけという誇りを傷つけられたのか、今まで以上に激昂している。
そんなセシリアに構わず、一夏は言葉を続ける。
「倒したって言うか、いきなり突っ込んできたのをかわしたら、壁にぶつかって動かなくなったんだけど。」
「そ、そんな……確かに私だけのはずだって……」
「女子では……ってオチじゃないのか?」
その言葉にセシリアは、少女漫画(千冬に日本語講習の際に読まされた)のお嬢様ばりに、額に手を当てよろめく。
しかし、なんとか踏ん張り、今度は貞夫に問い詰めてくる。
「あ、ああ、貴方はどうだったのですの!?」
いきなり問い詰められた貞夫は、どう答えようか迷っていた。
実際に話、貞夫は試験を受けておらず、千冬個人の推薦と理事長の了解で入学できたという凄まじい幸運だけでここにいるのだ。
セシリアのことを考えると、勝ったと言うのは論外だ。
嘘にはなるが言葉を吐き出す。
「ま、負けちゃったんだよ俺はさ!」
これで、少しは機嫌を良くするだろうと思っていた貞夫。
しかし、返答に迷っていた僅かな間が、セシリアに誤解をうませる。
「……あ、貴方って人は……どこまで私をコケにするんですの!?」
「え?ちょ、落ち着けよセシリア?」
「こ、これが落ち着いていられますか!後、気安く名前で呼ばないで下さいませんこと!?だいたい貴方の態度は……」
一層激昂しそうになったセシリアだったが、その瞬間にチャイムが鳴る。
そのチャイムに、歯噛みをしながらも渋々と自分の席に戻ろうとするセシリア。
「この続きは、また改めて!よろしいですわね!?」
そう吐き捨て、セシリアが戻って行く。
一夏と貞夫はどっと疲れたのか、その日最後の授業はほとんど先生の話を聞いていなかった。
そして、全ての授業を終え、少ししてから貞夫は席を立ち、帰り支度をしている千穂の席へ向かう。
「今日って、ちーちゃんもシフト入ってたよね?一緒に行く?」
「はい!」
「んじゃ……」
貞夫が行こうかと言おうとした時、アナウンスが流れる。
「え~、1年1組に在籍している真奥貞夫及び、佐々木千穂は至急理事長室へ来るように、繰り返す……」
千冬の声がアナウンスから流れ、何事かと心配しながらも、二人は理事長室へ急行した。
部屋の中に入ると理事長と千冬が二人を待っていた。
「よし、二人とも、お前たちはIS学園の中でも珍しくバイトをしている若者だ。」
入るなり、いきなり珍獣扱いされた二人は目が点になる。
「バイトで学外へよく出る必要のあるお前たちには、こちらで用意した外出用パスを用意した。受け取れ。」
そう言って、千冬は二人にカードを渡す。
「そのカードはこちらが指定した日時ならば、いつでも学外へ出ることのできる特別なものだ。絶対に無くすなよ?後、外出する場合は私服で行け、学園の制服は目立つからな。」
その後も、カードによる重要事項を説明され、二人は理事長室を後にした。
そして、二人は部屋に戻って私服に着替えるため、一旦別れた。
貞夫は部屋に帰る途中、自分の部屋から1つ隣の扉が穴だらけになってる事に驚愕しながらも、自室へ入る。
そこには、全身を棒のようなもので殴打された一夏が捨ててあった。
「ど、どうした一夏!?リンチにでもあったのか?!あのドリル女か!?」
「い、いや……部屋を間違えた俺が悪かったんだ……」
そう言って、一夏の体から力が抜ける。
バイトに急いでいた貞夫は、一夏をベットに寝かせ、着替えて千穂の待つ正門まで走っていった。
モノレールに乗ろうとしたときに、セキュリティが止めに来たが、カードを見せると、潔く通してくれた。
モノレールから普通の電車に乗り継ぐ際にも、定期がわりになってくれ、何の不便もなくマグロナルドまで行くことができた。
マグロナルドでのバイトはいつも通り、後輩である千穂を先輩の貞夫がフォローしながら、つつが無く終了した。
千穂がポテトを床にばら撒いたりしたが、つつが無く終了した。
そして、帰り道の最中、気を落としている千穂を貞夫がフォローしている。
「大丈夫だって、週に2~3回ほど芋まきしてるけど、まだ新人なんだから……気にしないで!」
「だぁ~てぇ……私だけですよ?周りが接客してるのに一人芋を回収してるのなんて……真奥さんも失敗とかしたことあります?」
「あ、あぁ!あるある、俺だって入って1ヶ月の間は迷惑かけっぱなしだったよ!」
「例えばどんなことですか?」
「えっ……あ、あれだよ。……ごめん、思いつかない。」
「……やっぱ私はダメな子なんですよぉ~」
「大丈夫だよちーちゃん、次やらなきゃいいだけだから!」
そう言って親指を立てる貞夫、対する千穂の表情は暗いままである。
「……そう言って、もう何回目かわかりませんね……」
「……だね。」
そんな事をしながら、二人は学園に戻り、それぞれの部屋に帰った。
「お、貞夫お勤めご苦労さん、帰ってきて早々悪いんだけど、この状況を助けてくれ……」
部屋に入ると、一夏が正座をして出迎えてくれた。
一夏の横には、竹刀を持った箒がおり、その顔は怒りに燃えているようだ。
「篠ノ之箒さんだよね?この状況はどういう事なんだ??」
「箒で構わない、後この状況の説明はできない。」
「一夏の口から聞いてもいい?」
「その場合、一夏と真奥にはそれぞれ記憶を無くしてもらわなくてはいけないな。」
「へ、へぇー……悪い一夏、死ぬなよ。」
「ちょ、貞夫?!ルームメイトだろ、助けてくれ!」
「ちょっと散歩してくる、20分ぐらいしたら帰ってくるから、それまでに済ませといてくれると助かる、箒。」
「うむ、わかった……助かる。」
「俺の意志はどうなってるんだぁー……ギャー!」
そうして部屋を出る貞夫、心のなかで謝罪しながら、自室を後にする。
向かう先は、共にこの世界に来た無二の配下、芦屋の元に赴く。
部屋をノックし、芦屋の返事が聞こえたので入る。
「おっす、そっちの方はどうだ芦屋?」
「これは真奥様、仕事でしたら順調ですね。ただ……」
「ただ?」
「ここの女の子は皆、活発的な娘ばかりで……研修の時に見知った子達からよく声をかけられるので、仕事が進まない事が度々あるのです。」
「へぇ~、俺が頑張って勉強している間に、女といちゃいちゃか……」
「え?!真奥様、私いちゃいちゃとか言ってないんですけど?」
「もういい!とりあえず、もっと今の仕事に慣れて、早く魔力補給の術を探してくれ。」
「はい!任せてください、真奥様!」
貞夫は、他に特に用もないので、自分の部屋へ戻ろうと扉を開けようとすると、先に扉が開いてしまった。
「あれ?真奥君、芦屋さんに会いに来たんですか?」
貞夫が扉を開けた人物を見ると、そこには真耶がいた。
「え、山田先生?なぜここに……?」
「え!?ご飯を作りすぎちゃったので、芦屋さんにお裾分けをと……」
そう言っているが、顔が赤くどこかモジモジしている。
「真奥様?どうか……あれ、山田さん?なぜ貴方がここに?」
芦屋が玄関に来て、来訪者の真耶に声をかけると、彼女はタッパーに詰めた肉じゃがを芦屋に渡す。
「こ、これ芦屋さんに!つ、作りすぎちゃったんでお裾分けです!じゃあ、また明日~!」
そう言って、真耶は走って行ってしまった。
「ふむ、まだ暖かい、美味しそうだ。真奥様も一緒に食べますか?」
「いや、俺はいい、芦屋……殴っていいか?」
「なぜ!?」
その瞬間、貞夫に顔面を殴られ吹っ飛ぶ芦屋、肉じゃがの入った容器は死守していたようで無事のようだ。
「な、なぜです……真奥様……」
そう呟いた芦屋だが、貞夫の姿はもうそこにはなかった。
貞夫が自室に戻ると、一夏がベッドの上で眠っていた。
体の疲労もあったのか、貞夫もシャワーを浴び、寝ることにした。
翌日、ホームルームで千冬が教卓に立つ。
「これより、再来週行われるクラス対抗戦にでる代表者を決める。クラス代表者はクラス委員長的なポジションと思えばいい、自薦他薦は問わない、誰かいないか?」
その言葉に、何人かの生徒が、一夏を推薦する。
「え?俺!?」
「他にはいないのか、いないのなら無投票当選だが?」
「あ、俺貞夫を推薦します!」
昨日の仕返しだとばかりに、一夏が貞夫を推薦する。
貞夫も自分が推薦されるとは思ってなかったので、唖然としてしまう。
しかし、一夏の一声で他の生徒達も貞夫を推薦してきてしまい。
何故か、同じバイト仲間の千穂までが推薦してきているのである。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、俺には……」
貞夫がバイトの件を言おうとしたとき、後ろから聞き覚えのある声がした。
「納得がいきませんわ!そのような選出は認められません!男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!このセシリア・オルコットに、そのような屈辱を1年間味わえと仰るのですか?だいたい、文化としても後進的な国に暮らさなくてはいけないこと自体、私にとっては耐えがたい苦痛で……」
セシリアの言動に、一夏と貞夫に怒りが込み上げてくる。
「イギリスだって、大したお国自慢無いだろ、世界一まずい料理で何年覇者だよ?」
「うっせぇんだよドリル!日本バカにしてんじゃねぇぞ、このドリル!」
「なっ!?おいしい料理はたくさんありますわ!貴方、私の祖国を侮辱しますの!?後、ドリルドリルうるさいですわよ!私は削岩機ではありませんことよ!?」
そうして、三人の間に気不味い雰囲気が漂う。
しかし、貞夫は千冬の顔が綻んでいることに気づいていた。
千冬は最初からこうなることをわかっていたのだろう。
「決闘ですわ!」
「いいぜ、やってやるよ!」
セシリアと一夏の二人は完璧にやる気のようだ。
一方の貞夫は、面倒事はゴメンだとばかりに静かにしている。
「よし、話はまとまったな、それでは勝負は次の月曜、第3アリーナで行う、織斑とオルコット、それと静かにやり過ごそうとしている真奥の三人はそれぞれ準備をしておくようにな。」
「ちょ、二人の喧嘩でしょ!?俺関係ない!反対!反対!」
「ほぉ、いいのか?やめて?」
「え、だって俺……」
「いいのか?や・め・て?」
「……さて、この真奥の力、存分に発揮しちゃうぞ!」
「よし、では戦闘順は当日決める。各自準備を怠るなよ。」
そうして、半ば強制に貞夫のクラス代表決定戦入りが確定したのであった。