貞夫がISを手に入れてから数日後、クラス代表決定戦の日まではあっという間の出来事であった。
貞夫が専用ISを持ったという話は、瞬く間に学園中へと広まった。
しかも、そのISが訓練機であるラファール・リヴァイヴとわかると、話題性は更に高まり、貞夫はいちやく時の人となってしまう。
中には、訓練機ということで訓練機に慣れ親しんでいる2年生や3年生の女子が、操縦を教えてあげると貞夫に迫ってきたのだが、一夏が一緒に箒に教わろうと言ってきたので、一夏と共に箒の訓練という名のシゴキ(基礎体力作り)に付き合わされてしまった。
そんな事を続けているうちにクラス代表決定戦当日になってしまい、結局貞夫は千冬の前で展開して、その後1度もISを展開していなかったのである。
「はぁ……気が重い。」
一夏や箒、千穂と共に登校する貞夫は、ISの練習がほとんどできず、実質無理な体力作りだけで今日を迎えたことに、かなり気が滅入っている。
「ば、ばかもの!体力作りも修行の一環だ!ISに乗る以前に自身を鍛えるのは当たり前のことだろう?」
「でもさ、貞夫や俺が言ったように、少しでもISの練習をしたほうがよかったんじゃないか?」
「う、うるさい!自身の体が鈍っていたら、ISの反応に自分がついていけなくなる。それじゃ試合どころではないだろう?」
「まぁ、一理あるけどさ……」
「後はぶっつけ本番!なるようになれだ!」
箒が話題を無理矢理終わらせようとするので、渋々一夏と貞夫はこの話を終わらせる。
一旦会話が途切れた頃、不意に千穂が貞夫に話しかけてきた。
「そう言えば、真奥さんのISって訓練機なんですよね?自分なりに改造とかしないんですか?」
千穂の疑問に、他の二人も頷く。
「だよな、貞夫の好きな色とかにしないのか?」
現在のラファール・リヴァイヴのカラーは濃い緑色をしている。
「確かラファール・リヴァイヴのはずだな?あの機体はバススロットが豊富な上、機体性能も高い、真奥の好きなように武装を切り替えることもできる万能機なのが売りだったはずだ。」
箒の言葉に、頭を捻る貞夫。
「確かに万能機なんだろうけど、最初に起動したときは武装とかチェックしなかったし、それから今日までIS展開してないから、どういった武装があるとか全然わからないんだよな。」
貞夫の嫌味に、肩を落とし下を向く箒。
「ま、まぁ箒の練習も無駄にはなってないはずだから、さっきも言ったように、後はぶっつけ本番でもなんとかなるもんさ!」
直ぐ様フォローを出す一夏を、満面の笑みで見つめる箒に、貞夫と千穂は共に、箒は一夏にラブなんだと感じた。
教室に着くと、セシリアが得意げな顔で話しかけてくる。
「あらあら、真奥さんではありませんこと?私、今日は凄く気分が良いですの、今なら私のISの情報をお教えになってもよろしいことよ?」
セシリアの開口一番の言葉に、もはや慣れたのか、貞夫が切り返す。
「んじゃ、セシリアの専用機の特殊兵装って何があるの?」
「んまぁ!そんな事でいいですの?では、少し長くなりますから、よく聞いていてくださいな。」
セシリアが饒舌になり後ろを向き始めた頃、貞夫はセシリアを無視して席に着く。
その事に気付いていないセシリアは、延々と自身の情報を漏らし続ける。
しかし、セシリアの説明は細かすぎて、聞いていても全然わからないのだ。
聞くだけ無駄だと思っている貞夫だからこそ、この行動をとっているのである。
そんなセシリアに、唐突な終わりが訪れる。
セシリアの頭が、千冬の出席簿によって殴打されたのである。
「ホームルームを開始するぞ、さっさと座れ。」
叩かれてから全てを理解したのか、セシリアの顔が赤くなる。
貞夫を睨んでから、自分の席に座った。
「では、今日の連絡事項だが、予定通りに代表決定戦をやる。午後の授業の1時間分、アリーナの使用許可を取ってある。昼休みが終わったら各自集合するように……後、織斑は機体の調整がまだなので、先にオルコットと真奥の試合をすることになった。二人とも準備をしておけ、……では授業を始める。」
セシリアは授業中、頭の中でどう貞夫を無様に負かせるかを考えていた。
「今までの屈辱……試合で全て晴らして差し上げますわ……真奥貞夫!」
「オルコット、ここの問題の答えを言ってみろ。」
「えっ?あっ……わ、わかりません。」
「試合前で浮かれるのは構わんが、ほどほどに……な?」
その後、貞夫の背中には、常にセシリアの怪しい視線が突き刺さっていたという。
授業が終わり、更衣室でISスーツに着替える貞夫、更衣室を出ると、千穂が飲み物を持って待ち構えていた。
二人は会話しながらアリーナのピットまで移動する。
「真奥さん!こ、これ差し入れです!今日の試合がんばってくださいね!」
「お、おう……でもなぁ、相手は代表候補生だしな……」
「弱気なんて、真奥さんらしくないですよ!当たって砕けばいいんですよ!」
「だ、だな……ってかなんで、ちーちゃんのほうがテンション高いんだ?」
「あ、あれですよ。絶対に勝って欲しいからですよ!」
「そ、それなら仕方ないな!」
「真奥さんなら行けます!っね!」
ピットに着くと、千冬が待っており、説明を受ける。
「今回の試合は、互いの1000あるシールドエネルギーを削りあい、0にしたほうが勝ちだ。」
「えっ、他に説明は?」
千冬の簡潔な説明に、聞き返してしまう貞夫。
「時間制限もない、好きにやれ。」
モニターを見ると、もうセシリアがアリーナに出ていた。
「ほら、もう行け、華々しく散ってこい。」
「ひど!?そんなに絶望的な差なの!?」
千冬のあんまりな言葉に、千穂は苦笑い、貞夫は盛大に出鼻を挫かれた。
「あぁ!もう、行ってきます!」
そう言って、ISを展開し、カタパルトに乗る貞夫。
「ふぅ……真奥貞夫、行きます!」
そう言って出撃する貞夫を、千穂と千冬は腕を突き出し、親指を立てて見送った。
互いにシンクロした二人は、またもシンクロして笑ったのであった。
「あら、本当に訓練機そのままなのですわね。これでは勝負になりませんわね。」
アリーナに出た貞夫に、セシリアが最初にかけた言葉。
まるで期待はずれのようなそんな言葉に、貞夫が嘲笑う。
「っは、機体の性能だけで相手を見下すってのは、自分の操縦技術に自信のない奴がすることなんだぜ?」
「減らず口を……いいですわ。少し遊んであげようと思いましたが、次もありますし、すぐに終わらせて差し上げますわ。」
そんなセシリアの言葉を聞き流しながら、貞夫はアリーナの観客席を見渡す。
生徒は1箇所に集まっているが、一夏は最前列にいて、こちらが見ていることに気づいたのか、大きく腕を振っている。
「あれ、あの子あの時の……?」
生徒の中に、見知った姿があることに気付く、その赤い髪はとても特徴的だったので、一目見ただけでも覚えていただけなのではあるが、貞夫は名前も知らない女性をじっと見つめていた。
自分を興味なさ気に無視している貞夫に、ついに堪忍袋の緒が切れたセシリアが牙を剥く。
「今までの私に対する侮辱……貴方のプライドを壊すことであがなってもらいますわ!」
その瞬間、試合開始のサイレンがなる。
セシリアのブルー・ティアーズが射撃体勢に移り、眼下に映る貞夫に向けて、レーザーライフルのスターライトmkⅢを放つ。
よそ見をしていた貞夫は、それをモロにくらってしまい吹き飛ばされるが、地面に激突する直前で体勢を立て直す。
「っぶねぇ!不意打ちかよ!撃ちますよ、とか確認すんのが礼儀じゃないのか!?」
体勢を立て直した貞夫からの、意味不明な抗議をセシリアは鼻で笑う。
「っふん、そんな事をしていたら、何時まで経っても試合が終わりませんことよ!」
その言葉を言い終わるや否や、再びレーザーを撃ってくるセシリア。
貞夫は向かってくるレーザーを避けながら、自身のISのシールドエネルギー残量と武装をチェックする。
「シールドエネルギーは残り880か……武装は……アサルトカノンのガルムと、ショットガンのレイン・オブ・サタディ、最後に近接ブレードのブレッド・スライサーか……」
貞夫が確認している間にも、上からはセシリアの放つレーザーが降ってきている。
「まさか、武装が無いなんてことはありませんわよね?そんな無様、笑えもしませんわ!!」
そう言い、セシリアが攻撃の手を止める。
眼下には、レーザーの着弾による砂煙で、貞夫の姿が覆い隠されていた。
「ふん、この程度だなんて、期待はずれも甚だしいですわ。」
セシリアがそう言った次の瞬間、砂煙の中から無数の弾丸がセシリアに襲いかかる。
虚を突かれたセシリアは、数発の弾丸を受けるものの、すぐさま後方に下がり、攻撃を逃れる。
セシリアが後退している間に、貞夫は砂煙を身に纏いながら、凄まじい速度でセシリアに突進する。
突進している間にも、右手に構えたガルムを連射する貞夫。
それに応戦する形で、スターライトを放つセシリア。
しかし、貞夫が左手に展開していたブレードでレーザーを防ぐ、少しだけ突進が弱まったが、それでも弾をばらまきながらセシリアに追いすがる。
セシリアは棒立ちになっており、レーザーのチャージ中と思い、好機を逃すまいと更に速度を上げる。
この時、既に貞夫のシールドエネルギーは500を切っていたが、そんな事はお構いなしに突進する貞夫。
しかし、不意にセシリアの口角が上がっていくことに気づいた貞夫は、嫌な予感がし、突進を中断した。
その瞬間、目の前に4つの線が描かれ、それぞれのレーザーはアリーナの防壁や地面に着弾した。
「あらあら惜しいですわ。好機と思って突っ込んでくるところを叩いて差し上げようと思ったのですけども、失敗ですわね。」
そんなセシリアの周りに、青い涙を模した、遠隔操作武装が浮いている。
「それが、ブルー・ティアーズか?」
「えぇ、綺麗とは思わなくて?でも、綺麗なだけではなくてよ!」
4つのBTからレーザーが放たれる。
先程のスターライトとは違い、圧倒的な連射に徐々に追い込まれる貞夫。
「そう言えば、1つの武装でしか戦わなかったんじゃなかったっけ?」
「やはり殿方には、全力を持って戦わないと失礼と思いまして……それとも、手加減が欲しいのかしら?」
「いやぁ、負けそうなんで……手加減は……」
貞夫の言葉に、情けない自分の父親を見てしまったのか、激高するセシリア。
「やはり、貴方も弱い男なのですわね……あの男のように、頭を下げて気持ちの悪い笑みしか浮かべないような男なのですわね!」
しかし、魔王としての男は、そんな彼女の予想を裏切る。
「……して欲しいと思うか?今まで馬鹿にしてきた女相手に、手加減してくれなんて……死んでも言えるわけねぇだろ!」
貞夫の言葉に狼狽えるセシリア、しかしそんな彼女を無視して、貞夫は言葉を続ける。
「お前が男をどう思ってるかなんて知らないがな、普段は情けなくていいんだよ。男なんて、決めるときに決めりゃいいんだよ。普段の弱い男を男の全部だと思うんじゃねぇぞ?少なくとも俺は、お前の思っている男像なんかじゃ、決して無いからな!」
「う、五月蝿いですわよ!女性の顔色ばかり伺ってるのが男なんですわ!貴方も他の男と変わりませんわよ!!」
「じゃあ、見せてやるよ。男の実力って奴をな……」
セシリアがミサイルを放つ、貞夫は空中で目を瞑ってじっとしている。
現在のエネルギーはおおよそ300、ミサイルが直撃した場合、ほぼ負けは確定だろう。
ミサイルは吸い込まれるように、貞夫に向かっていき、直撃した。
爆煙を眺めながら、セシリアは嘲笑する。
「やはり、男なんて、皆……くだらないですわ。私がこんなことで熱くなるなんて……」
もう後1発で勝負は決まる。
セシリアはそう考え、BTを四方から撃てるように配置する。
「これで、終わりですわ。」
セシリアが、そう言い切ろうとした瞬間、ブルー・ティアーズから今まで聞いたことのないような警告音が頭をうつ。
「な、なんですの?この警告音?」
目の前には、[Danger of the largest](最大級の危険)と表示されている。
「ど、どういう事ですの?こんな警告、見たことありませんわ。」
セシリアが狼狽えている間に、爆煙が引く。
観戦していた生徒、教師、セシリア本人でさえ、何が起こっているのかわからなかった……ただ一人の人間を除いて。
目の前にある、真奥貞夫のIS、ラファール・リヴァイヴの形状が、変化していることに……