一夏VSセシリア戦も終わり、寮に帰る最中の四人、貞夫と一夏が凹み、千穂と箒はそれをフォローしていた。
「だ、大丈夫ですよ真奥さん……相手は代表候補生ですし、あと一歩まで行けたんですから!」
「そ、そうだぞ。一夏もあと一歩だったじゃないか、運が悪かったんだ二人とも。」
一夏もセシリアとの戦いに敗れた。
貞夫と同様、あと少しという所だったらしいが、生憎貞夫は更衣室で一人反省会をしていて一夏の試合を見ていなかった。
「それにしたってさ……ちーちゃん、流石にBT本体に当たって負けたって……俺は自分が情けなくなるよ……」
貞夫とセシリアの戦いの最後、セシリアに突撃した貞夫に待っていたものは、力なく落下するBTであった。
貞夫は自身の速度を抑えられずに、BT兵器が頭に直撃した。
その結果、残り僅かなシールドエネルギーが消失、セシリアの勝利となったのだ。
その時の観客席からは、歓声どころか、誰一人として声を上げなかった。
ピットに戻った貞夫に待っていたのは、真耶と千冬による追い打ちの言葉であった。
「ま、まぁ……稀によくあることですよ?相手は代表候補生ですし、負けるのは……ッププ。」
「面白い試合ではあったぞ。後、お前のISが変化したことに関して、明日の放課後、生徒指導室に来るように。」
真耶から慰めを受けるが、笑うのを我慢しているのか声が震えている。
千冬はやはり、変化したISについて言及してきた。
貞夫は、わかりましたの一言だけを伝え、ピットを後にした。
その時の気持ちを思い出し、貞夫は更に頭をかかえる。
千穂に励まされつつ寮に戻っている途中、後ろから声をかけられ、貞夫が振り向くと、そこには用務員姿の芦屋が立っていた。
「芦屋か、どうしたんだこんなところで?」
「今、中庭にあるベンチの修繕中で、足りない材料を取りに行く途中なのです。……それより魔王様、先程の試合拝見させてもらいましたが……あれは、わざと負けたんですよね?」
「え、なんで芦屋が知ってるんだ?アリーナにいなかったよな?」
「えぇ、学園長と一緒に、この端末を使って、中庭で拝見させてもらってました。」
そう言って、芦屋はA4用紙程度の大きさのタブレット端末を取り出す。
今は電源が切れているのか、その画面は真っ暗なままだ。
「そんなもんで見てたのか?!」
「えぇ、学園長が言うには、アリーナでの試合は、学園で登録されているタブレット端末で見ることが出来るみたいですよ。」
「え?じゃあ、俺の戦いとかは皆に見られていたと?学園の皆に!?」
「授業を受けている生徒達は見ていないかもしれませんが、一部の人間は見ているんじゃないでしょうか?」
「あ、あの痴態を……これから俺はゴッツンコ王子とか呼ばれるんだー!」
そう言って、貞夫は走って寮に戻ってしまった。
残った一夏と箒、千穂は取り残された感に苛まれながら、目の前の青年に質問をする。
「あ、あの……用務員の方ですよね?真奥さんとはどういった関係なんですか?」
「私は……魔王様の親戚です。言わば保護者のようなものですね。」
「へぇ~、あの……真奥さんって昔はどんな人だったんですか?」
千穂の質問に考え込む芦屋。
「そうですね……凛々しくもあり尊大で、かつ優しい心を持った。王の中の王と言った感じの人でしょうか?」
「王って、王様のことなのか?箒はどう思う?貞夫って王様っぽく見えるか?」
「どこにでもいるごく一般的な男性に見えるが……」
一夏と箒の返答に、芦屋は額に青筋をたてながら、自身の主人の良いところを語り始める。
芦屋が語って10分が経ち、ふと自身の仕事のことを思い出したのか、芦屋は一夏と箒を開放し、自分の持ち場へと戻っていった。
その間、千穂は貞夫の王様姿を妄想していたのであった。
その日の夜、セシリア・オルコットはシャワーを浴びながら、今日の出来事を振り返っていた。
「真奥貞夫……私が勝ったはずなのに……なんなのでしょう、この気持ちは……織斑一夏には対しては、こんな気持ちになりませんのに……真奥貞夫……」
年頃の少女に、密かな思いが芽生えたのでした。
翌日のIS実習時間、専用機持ちがISの基本的な動きを実践することとなった。
千冬の命令によって、空へ上がる貞夫や一夏、セシリアの三人は空中で旋回行動を取ることとなった。
一夏は昨日の戦闘ではうまく飛べてたらしいのだが、なぜか今は飛んでいるというかどちらかというと浮いているだけでも精一杯のようだ。
「あれ、昨日はうまく飛んでたのに……なんでうまく飛べないんだ?」
「一夏さん、イメージは所詮イメージですわ。自分のやりやすい方法を模索するほうが建設的ですわ。」
「そうだぞ一夏、男子やってやれないことはないんだから、お前だって出来る。」
「そういう貞夫はなんでそんなにうまく飛べるんだ?起動時間なんて俺と大して変わらないだろ?」
「それはあれだ……気合?」
貞夫は元の世界にいた頃、縦横無尽に空を飛んでいたので、空を飛ぶ感覚は覚えているのだ。
そんな貞夫の言葉に、一夏は首を傾げる。
「気合は十分あるんだけどな……何がいけないんだろう?」
「自分の目の前に速く動く奴、例えばセシリアを思い浮かべて、それを追いかける形で飛んでみたらいいんじゃないか?」
「貞夫さんの仰る方法は、初心者には分かりやすいですわね。」
「そうか?絶対適当に言ってるぞ貞夫は……」
「いいえ、貞夫さんはどうでもいいことは言わない御方ですわ。そうですわよね……貞夫さん?」
「あ、あぁ……一夏でも分かりやすい言い方に直しただけだ。それで一回やってみろ。」
貞夫は、なぜかセシリアの自分に対する評価が高くなっていることに疑問を感じる。
どこか優しく感じる視線は、とても背中がムズムズするものだった。
貞夫が身震いをしていると、千冬から急降下と完全停止を実行しろとの指示が飛んで来る。
セシリアはお先に失礼いたしますわと言い、華麗な急降下からの完全停止をやってのけた。
イメージ練習でもしているのか、目を瞑ったままブツブツ言っている一夏に、貞夫が視線を向ける。
「一夏、先に行くか?」
「……いや、いいこと思いついたから先に行ってくれ。」
「お、おう……無茶はすんなよ?」
「任せろ、完璧な作戦だ!」
一夏の言葉に首を傾げながらも、貞夫は急降下を実施する。
地面が急速に迫ってき、頃合いを見計らって、ブレーキをかけようとした。
しかし、後ろからの凄まじい衝撃と共に、貞夫が隕石の如くグラウンドに着弾する。
直径約10m程のクレーターの真ん中に、貞夫と一夏が折り重なって倒れている。
「真奥さん!大丈夫ですか!?」
「さ、貞夫さん!大丈夫ですの!?」
「一夏、大丈夫か!?」
千穂やセシリア、箒が貞夫達に近づき、二人を起こす。
貞夫は口の中に砂が入ったのか、ペッペッと吐き出し、一夏の胸ぐらを掴む。
「てっめ一夏!なんで猪みたいに突進してきたんだよ!?」
貞夫の言葉に、一夏は照れながらも応える。
「い、いやさぁ……さっき貞夫が言ってた飛ぶ方法をイメージしようとしたんだけどさ、無理だったから、貞夫本人で試そうかなって……?」
「アホかお前は!あれは飛ぶ方法であって、急降下する方法じゃねぇよバカ!しかもブレーキかけないとか、お前は猪の生まれ変わりか!?」
「いや~ははっ、ごめん!」
一夏の謝罪に、渋々許しを与える貞夫、クレーター周辺に集まった生徒の中から、千冬が出てきて指示を出す。
「はぁ~……これで実践は終わりだ。そろそろチャイムが鳴る……授業もこれで終わるが、織斑と真奥はグラウンドの穴を埋めておけ。」
「え、ちょ……一夏はともかく、俺は被害者だと思いますが、その辺りどう思われますか織斑先生!」
「喧嘩両成敗だ。」
「え?」
「両成敗だ。」
「……はい。」
その後、憂さを晴らす様に貞夫はグラウンドの穴を埋めていったという。
学校も終わり、千穂と共にバイトへ向かう貞夫、バイトに入れる時間は決して多くはないが、その接客態度と仕事の速さから、店長である木崎にも認められているエース的存在になっている。
休憩室で身だしなみを整え、鏡に向かって満面の笑みをこぼす。
「よっしゃ!今週はブラックペッパーポテトのキャンペーン売上1位を賭けた大事な1週間、笑顔で売って売って売りまくるぞ!」
「真奥さん、穴を埋めたわりには、すごい元気ですね。」
「当たり前だよちーちゃん!この店舗はお客の入りも良いって、木崎さんも言ってたから、今回のキャンペーン売上1位だって夢じゃない!」
「そんなに一生懸命になれる真奥さん、凄いと思います!私も負けずに働かないといけませんね!」
「そういえばちーちゃんって、なんで働いてるの?親からの仕送りとかあるんじゃないの?」
「それはありますけど、自分の欲しい物ぐらいは自分で貯めたお金で買いたいんです。」
「へぇー、若いのにえらいなちーちゃんは……よし、今日も頑張っていくか!」
エイ・エイ・オーと気合を入れる二人、バイト開始から3時間経過した頃に、ハプニングに襲われる。
千穂がスキルを発動し、床が芋で染まる。
千穂が掃除をしている傍らで、貞夫もまたハプニングに襲われていた。
揚げたはずのポテトが揚がっておらず、機械の故障に気付く貞夫。
「……どどどどどど、どうしよぉ!?え、マニュアルに無い!こんなのってないよ!プラックペッパーだけに故障!?」
売上1位が遠のいてゆき、窮地に立たされ壊れ始める貞夫。
「……つ、使うか……魔力……」
周りには接客している他の従業員、芋を必死に拾ってこっちに気づいていない千穂。
貞夫は己の右腕に魔力を込めようとする。
しかしその瞬間、木崎が貞夫の肩に触れる。
「どうした?」
「えっ、いや……機械の故障らしくて……」
「あら、このタイミングでか……仕方ない、業者を呼ぶからポテトはもういいぞ。」
そう言い終えると、木崎は裏に引っ込んでいった。
バイトを終え、休憩室でぐったりしている貞夫と千穂。
「ブ、ブラ……ブラックペ……」
「またポテト畑が……うぅ……」
それぞれ失敗に頭を抱える。
そんな中、休憩室のドアを開け、木崎が顔を出す。
「今日もおつかれぇっ、って二人ともどしたの?げっそりしてるよ?」
「「いぇ、お気遣いなく……」」
「まぁいいや、二人とも時間だし上がっていいよ。まーくんはちょっと事務所に来てね。」
木崎の言葉に嫌な予感がしつつも席を立つ貞夫、ドアノブに手をかけた辺りで千穂に呼び止められる。
「真奥さん、表で待っときますね。」
「いや、長くなるかもしれなから、先に帰ってて……」
「……わかりました。」
かくして、事務室に着いた貞夫だったが、木崎の口から出た言葉は、貞夫がA級クルーに昇進したぞというものだった。
不安を抱えていた貞夫は、私服に着替え、外に出て、数分してから思わぬ吉報にテンションが爆発した。
「いやぁっほぉー!A級クルーだぞ芦屋!時給アップだ!」
年甲斐もなく突っ走る貞夫だが、いきなり声をかけられ、声の主を確認する。
その人物の髪は赤い長髪、目は少しだけつり上がっている。
いつぞやの、IS学園への道のりを教えた女性であった。
「あれ?君、IS学園のアリーナにいたよね?ちゃんと行けて良かったよ。」
テンションの高さが未だ続いているのか、笑顔で話しかける貞夫。
しかし、女性の顔は少しばかり強ばっている。
「アリーナの時、変身したIS、あの時はまだ確信を持てなかった。容貌も違うし、何よりあの存在がそんな事しているはずがないと思ったから。」
「ん?どうしたんだ?何か気に触ることでも……」
「あれから貴方を監視していたわ。マグロナルド前のカフェであなたの事を今日一日見ていたけど、貴方……魔力を使おうとしたわね?」
「え?魔力って、え?ちょ、待てよなんでお前がそんなこと……まさかお前……ゆ……」
「なんで貴方がIS学園で生徒をしながら、マグロナルドでバイトしているの!?魔王サタン!!」
「勇者エミリア!?なんでお前がここに!?」
こうして、因縁の二人は相見えた。