働くIS魔王様   作:サダーオ

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勇者、魔王城に乗り込む

「魔王サタン、なぜあなたがIS学園に通いながらマグロナルドでバイトしているの?」

 

 

勇者エミリア、かつて魔王サタンをエンテ・イスラから撤退させた最強の勇者。

その凄まじい眼光に、貞夫は内心冷や汗をかく。

 

 

「勇者エミリア……お前こそなぜここにいる!?」

 

 

「あなた達を追って、ゲートに飛び込んだの……あなたを、倒すために……」

 

 

「待てエミリア!話せばわかる!」

 

 

貞夫の説得も虚しく、エミリアは肩から下げたポーチから果物ナイフを取り出す。

 

 

「問答無用……覚悟、魔王!」

 

 

貞夫は、言い得ぬ違和感を感じる。

勇者エミリアの得物、現在手に握られているそれは、確かに果物ナイフだ。

魔王サタンを追い詰めた伝説の剣、聖剣ベターハーフではない、果物ナイフ。

勇者に果物ナイフ、その組み合わせが、異様なまでの違和感を貞夫に与えていた。

貞夫は、その違和感を率直に伝えようとする。

 

 

「おい、エミリア……」

 

 

「黙れ、貴様と話をするつもりはない。」

 

 

「いや、そのナイフ……そこの100均で売ってるナイフじゃないか?」

 

 

一瞬の沈黙、貞夫が指さした先には、ロースン100円という100円均一の店があった。

 

 

「んなっ、そ……それが何よ?」

 

 

「お前、聖剣はどうした?」

 

 

貞夫の言葉にエミリアが狼狽える。

 

 

「そ、そんな事……あなたには関係ないわ。」

 

 

エミリアの動揺と言動から、貞夫は自身も陥っている状況と同じなのだと気付く。

 

 

「もしかして、聖法気を失ったんじゃないのか?もしくは、無駄使いできないとか?」

 

 

「それは、あなたも同じでしょ!?エンテ・イスラの時とは比べものにならないほど、脆弱な魔力しか感じられないわ。」

 

 

「まぁ、そりゃそうだけど……」

 

 

貞夫の言葉に体勢を立て直すエミリア、彼女の纏う空気が変わる。

 

 

「聖剣など無くとも、魔力を失い、学生アルバイトとして生活している魔王など恐るるに足らず……覚悟!」

 

 

ナイフを構え、一気に距離を詰めるエミリア。

しかし、偶然近くを通った警官に見つかり、痴話喧嘩と勘違いした警官は、交番に二人を連れていき、説教を受けてしまった。

警官の勘違いに、勇者はしばらく不機嫌な表情で、交番を出た後も、時折不機嫌な顔で貞夫を睨みつけるなど、貞夫の心労は募っていくばかりであった。

帰りが遅くなり、学食が閉まっている事に気付いた貞夫は、芦屋にメシを頼むとの旨をメールで伝える。

そして、いつの間にか二人で、IS学園行きのモノレールに乗っているところであった。

 

 

「今日はこのくらいにしといてあげるわ。」

 

 

「あ?」

 

 

「でも次はないわよ?あなたの居場所は分かっているんだから、明日から枕を高くして寝れるとは思わないことね!」

 

 

「勇者の言うセリフじゃねぇな……ってかお前、この前のクラス代表決定戦の時、観客席にいなかったか?」

 

 

「えぇ、いたわよ……それが何か?」

 

 

「いや、まさか……まさかねぇー!ありえないっつうかどこのB級シナリオだっつうか……」

 

 

「何が言いたいの?はっきり言いなさいよ、気持ち悪いわね。」

 

 

「んじゃ単刀直入に聞くぞ?お前、IS学園に入るのか?」

 

 

「えぇ、入るわよ?ちなみにまだ入学はしてないけど、今は職員宿舎の空いている部屋を1つ貸してもらってるわ。」

 

 

エミリアの言葉に貞夫の思考が停止する。

自分を殺しに来た勇者が、自分と同じ学校に通うなど、信じたくもない事実であった。

 

 

「まっじっでっすっか!?いやいやいや、お前勇者だろ?なんで勇者が学生になるんだよ!オカシイだろ!?」

 

 

「それを言うならあなただってそうでしょ魔王!一体どこの世界に勇者に敗北して、逃げ延びた世界でアルバイト学生として生活する魔王がいるのよ!」

 

 

「ちょ、事実をねじ曲げないでくれますぅ?!お、俺別にお前に負けたわけじゃねぇし!一旦エンテ・イスラ預けただけだし!」

 

 

「何子供みたいな言い訳してるのよ!いいわよ?!今すぐここで決着つけてもいいのよ!?」

 

 

勇者が激昂し、コブシに力を入れる。

しかし、そんな勇者の態度に、貞夫はいきなり冷静さを取り戻した。

 

 

「いや、やめとく。」

 

 

「ちょ、なんでよ!?まさか……怖気づいたってわけ?魔王ともあろうものが?」

 

 

エミリアの挑発に、貞夫はあくまでも冷静に言葉を返す中、丁度モノレールの扉が開いたので、貞夫は小走りで走り去っていく。

 

 

「悪い、芦屋に飯作ってもらってたんだ。早く帰らねえと飯が冷めちまう。じゃぁな!」

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ魔王!!」

 

 

そんなエミリアの言葉を無視し、貞夫は学園の敷地に消えていった。

戦意を削がれたエミリアは、とぼとぼと自分の部屋に戻るのであった。

 

 

芦屋の部屋に着いた貞夫が最初に目撃したのは、目の前で土下座をしている芦屋の姿であった。

 

 

「ちょ、芦屋……どうしたんだ?」

 

 

「誠に申し訳ありません魔王様!」

 

 

「い、いや……そこまで謝られていると、こっちが申し訳ない気分になってくるから、とりあえず顔を上げて理由を言ってくれ。」

 

 

「はい……実は、先程魔王様からのメールで、食事の用意をしていたのですが、食材が些か足りず……」

 

 

「足りず?」

 

 

「納豆と白米、それと牛乳しかなかったもので……」

 

 

「いや、白米と納豆あればそれでいいよ。こんな状況だ……贅沢なんて言えないしな。」

 

 

「いえ……少しでも凝ったものを思いまして……混ぜました。」

 

 

「そりゃまた、すごい冒険をしたな……」

 

 

リビングに通され、テーブルの上には、禍々しい物体が鎮座していた。

 

 

「た、食べたくなければ、私が食べますので……」

 

 

「み、見た目は悪くないんじゃないか?」

 

 

そう言っている貞夫ではあるが、顔には食べたくないと言う文字がクッキリと浮かび上がっている。

しかし、芦屋に悪いと思ったのか、おもむろに納豆牛乳漬けを口に放り込む。

 

 

「ムグムグ……」

 

 

「どうですか、魔王様?」

 

 

「……意外と美味い……かも。」

 

 

「んなっ!?本当ですか魔王様!!」

 

 

「あぁ、本当に美味いよ。」

 

 

貞夫の言葉に安心したのか、芦屋が胸を撫で下ろす。

その時、ドアがノックされた。

 

 

「誰だろう?山田さんかな?」

 

 

「いえ、山田さんは先程までこの部屋にいましたから……忘れ物ですかね?」

 

 

「……炸裂しろよ……」

 

 

芦屋の言葉に、貞夫は小さいながらも最大級の呪詛を言い放つ。

小声だったのか、聞こえなかったアルシエルが玄関に向かう。

 

 

「はぁーい、どちらさまですか?」

 

 

芦屋がドアノブに手をかけようとしたとき、ノックしていた主の声が聞こえる。

 

 

「どちらさまとはご丁寧な挨拶いたみいるわね、悪魔大元帥アルシエル……まさか忘れたわけじゃないでしょうね?勇者エミリアの名を……」

 

 

エミリアの声に、驚いた貞夫の口内に残っていた物が吐き出される。

芦屋は、宿敵の来訪を予期していなかったのか、目に見えて動揺する。

 

 

「ゆ、勇者エミリアだと!?」

 

 

「さぁ、このドアを開けなさい!大人しく成敗されるこ……」

 

 

エミリアの言葉を聞いた瞬間、芦屋はドアの鍵をロックし、チェーンをまでロックした。

ドアが施錠される音に、エミリアから驚きの声が聞こえる。

 

 

「魔王様!勇者です!勇者が現れました!」アッ、コラナニドアニカギカケテルノ!?

 

 

「あ、あぁ……わかってる。」ネェ!チョット、アケナサイヨ!

 

 

「ひょっとしてご存知だったんですか?」マオウモイルノネ!カンネンシテコノドアヲアケナサイ!

 

 

「あぁ~黙ってて悪かったんだけど、今日会ったんだ……バイトの帰りに、警察に痴話喧嘩と間違われた。」チョット!ホラ!ハヤク……ケヤブルワヨ!イイノ?ケルヨ!?イイノ?!

 

 

貞夫の言葉に、扉が壊れそうなほどの衝撃を受け、エミリアの怒声が響く。

 

 

「私の人生最大の屈辱よ!魔王とカップルと思われるなんて!!」

 

 

「そのようなこと、どうしてお知らせ下さらなかったのですか?」アケナサイヨハヤク!アケナサイッテバ!

 

 

「いや、別に実害ないかなと思って、それにあいつも俺達と同じで聖法気使えないみたいだったし。」イイノ?ダスワヨ?レイノアレダスワヨイイノ!?

 

 

「勇者もまた、この世界では天の力を補充する術を持たないということ、つまりゲートを制御する力がないと……」グスッ……アケナサイヨォ~ネェ……アケテヨォ~

 

 

「おい、入れてやれ……」

 

 

芦屋が扉を開けると、目を真っ赤に腫らした勇者が部屋に入ってくる。

部屋に通されると、床を掃除している貞夫が目に入った。

 

 

「何よっこの普通の部屋……質素すぎるのよ。それにあんたは何を馬鹿な事をしているの?」

 

 

「おーおーひでぇ言われようだ。俺は今、拭きやすいフローリングの床を拭いているんだよ。」

 

 

「魔王城は機能性を重視するのだ!」

 

 

「機能性が聞いて呆れるわよ!それにその寂しい夕食……」

 

 

「芦屋は凄いんだぞ!何も無いところから、魔法のように飯を作る!」

 

 

「お褒めに預かり光栄でございます……魔王様。」

 

 

「うむ。」

 

 

「ばっかじゃないの!?魔王が牛乳と納豆だけの夕食なんて!」

 

 

「悪いかよ……これでも美味いんだぞ。」

 

 

「悪いわよ!こんなくたびれた奴を殺すために世界を渡ったの?……最低よ!これなら一人でも、私のほうがまだいい生活してるわよ!」

 

 

「お前仲間いないのか?」

 

 

「うっさいわね!」

 

 

そう言ってエミリアがティッシュ箱を投げつけてくる。

当たりはしなかったが、床に直撃したティッシュ箱は見るも無残な姿となった。

しかし、エミリアは気にすること無く、部屋のすみに座る。

 

 

「本当は、大神官が一緒に来るはずだったのよ……貴方を倒したら一緒に帰るはずだったのに……私一人こっちに来ちゃったの……」

 

 

「そりゃ気の毒に……」

 

 

「あなたに同情なんかされたくないのよ!」

 

 

「我々を追って迷子とは、ただの二重遭難ではないか?」

 

 

芦屋の言葉にエミリアが言葉に詰まる。

 

 

「まぁ、さっさと帰る方法を見つけることだな、俺たちはお前に見つかったからって引っ越す余裕もない。だからしばらくはこの場所に住んでる。この魔王城から、俺の新たな世界征服事業を始める!」

 

 

「アルバイト学生のあなたにそんな事できるの?」

 

 

「俺がただ安穏とアルバイト学生生活を送っていると思ったら大間違いだ。俺は日本を征服するつもりでいる!」

 

 

その言葉に、エミリアの眼光が鋭くなる。

 

 

「っふ、マグロナルドにはな!アルバイトが正社員になれるシステムがあるんだ!……ふふふ、いいかエミリア!俺はこの世界で正社員になってみせる!そして金と社会的地位を積み重ね、多くの人間を跪かせる実力者になり、再びエンテ・イスラに攻め込むんだ!」

 

 

貞夫の演説が終わり、芦屋の拍手が部屋に鳴り響く。

 

 

「……馬鹿馬鹿しい。」

 

 

「っふ、俺の崇高な志を人間ごときが理解できるとは思っていない。」

 

 

「多分、十二分に理解していると思います……」

 

 

エミリアは呆れた顔をし、おもむろに立ち上がった。

 

 

「なんかどうでも良くなっちゃった。帰る……明日も用事あるし、でも勘違いしないでよね。残った力を使えば、あなたを殺すことなんていつでもできるんだから……」

 

 

「じゃあ、なんでやらねぇんだよ?」

 

 

「力を使い切ると、エンテ・イスラに帰れなくなるからよ。だから、帰還の目処がつくまでは、命はとらないであげる。それと……日本での私の名前は遊佐恵美よ……間違えないで。」

 

 

そう言って玄関に向かい扉を開ける恵美、ふと思い出したのか、最後の捨て台詞を吐き捨てる。

 

 

「それにしても、貞夫って何よ?今時の若者の名前じゃないわね!!」

 

 

その言葉を聞き、部屋に残った二人が固まる。

少しして貞夫のコブシが強く握られる。

 

 

「日本全国の貞夫さんに謝れ!!!」

 

 

震える貞夫から最大級の雄叫びがIS学園中に反響したという。

そして、それから数分後、芦屋の部屋に一人の来訪者が現れる。

 

 

「こんな時間まで騒いでいるとは、貴様らには常識も叩き込まないといけないようだな?」

 

 

竹刀を持った千冬の来訪によって、貞夫と芦屋はマナーについて5時間ほど説教を食らったのであった。

 







会話のみで余り進まず申し訳ないです。
個人的に無人機とルシフェルを同じタイミングでしたいのですが、その構成に未だに時間がかかってます。
数話ほど先の話なんですが、自身の構成の甘さに驚愕している今日この頃です。
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