ルイズさまは、お妃さま!?   作:双月の意思

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遥か宇宙、マール星レピトルボルグ王家は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールをお妃に迎えるための使者をハルケギニアに送った。
ワンダユウは、大使としてトリステインとマール星を行き来し、
チンプイは、ルイズの使い魔兼お世話役として、トリステインに残った。
ワンダユウ「チンプ~イ!頼んだぞ~!」

お待たせしました。フーケ戦~フリッグの舞踏会までです。



エレオノールさま、頑張る

 四人はロングビルを案内役に、早速出発した。

 馬車と言っても、屋根なしの荷車のような馬車である。襲われた時に、すぐに外に飛び出せる方が良いという事で、このような馬車になったのだ。

 一同が目的地に向かっていると、キュルケが黙々と手綱を握る彼女に話しかけた。

「ミス・ロングビル、手綱なんて付き人にやらせれば良いじゃないですか」

 キュルケの言葉に、ロングビルはにっこりと笑った。

「良いのです。わたくしは貴族の名を無くした者ですから」

 それを聞いて、キュルケは思わずきょとんとした表情を浮かべた。

「だって、あなたはオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」

「ええ。でも、オスマン氏は貴族や平民だという事に、あまり拘らないお方です」

「差支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」

「よしなさい、ミス・ツェルプストー」

  コルベールがキュルケを窘めた。

キュルケは、ため息をつくと、今度はルイズの方を向いて言った。

「ったく・・・、あんたがカッコつけたおかげで、とばっちりよ。何が悲しくって泥棒退治なんか・・・」

 ルイズはキュルケをじろりと睨んだ。

「とばっちり?あんたが自分で志願したんじゃないの」

「だってそれは・・」

 そこまで言うと、本当に言っていいのかという目でこちらを見つめるエレオノールと目が合った。ルイズに悪戯しようとしたとなれば、マール星が黙っていない。

「ぐっ!な、何でもいいじゃない!と、とにかく、エレオノールお姉さまに感謝しなさいよね!あたしが協力するのはお姉さまに頼まれたからよ」

「エレ姉さまが?キュルケ、あんた、いつ姉さまと知り合いになったのよ?」

 意外そうな顔でエレオノールの方を向くと、

「・・まっ、色々あるのよ、ちびルイズ。とにかく、あんたもお妃候補なんだから、級友は大事にしなさい。ご先祖様同士の確執にわたし達まで付き合うことはないわよ」

 エレオノールはそう言うと、優しくルイズとキュルケの頭を撫でた。すると、二人とも顔が赤くなった。

「そ、そうね、エレ姉さま。こ、今回だけは感謝するわ。キュルケ」

「そ、そう。感謝しなさい。せいぜい、怪我しないことね。ルイズ」

 キュルケは、半ば強引に参加するはめになったが、妹思いのエレオノールの優しさに触れ、自分もずいぶん久しぶりに年上の女性に頭を撫でられたので、自分にも姉が出来たみたいで温かい気持ちになっていた。

 タバサは相変わらず本を読んでいる。チンプイは丸くなってルイズの膝で寝ていた。

 

 やがて馬車は深い森に入った。鬱蒼とした森が金木以外の恐怖をあおる。昼間だというのに薄暗く、気味が悪い。今にも何か出そうな雰囲気である。

「ここから先は、徒歩で行きましょう」

 ロングビルがそう言うと、全員が馬車から降りた。

 森を通る道から、小道が続いている。一行は開けた場所に出た。森の中の空き地といった風情で、広さはおよそ魔法学院の中庭ぐらいだ。真ん中には、確かに廃屋があった。元は木こり部屋だったのだろうか。隣には、朽ち果てた炭焼き用らしき窯と、壁板が外れた物置が並んでいる。

 七人は小屋の中から見えないように、森の茂みに身を隠したまま廃屋を見つめた。

「わたくしの聞いた情報だと、フーケが指定したのはあの小屋のようです」

 ミス・ロングビルが廃屋を指差して言った。人が住んでいる気配はまったく無い。フーケは本当にあの中にいるのだろうか?

「では、フーケのご要望通り僕とチンプイ君で行きましょう。皆さんは外で隠れていて下さい。大丈夫、チンプイ君は僕が守りますよ、ミス・ヴァリエール」

 コルベールが言った。ルイズとエレオノールはいつになく真剣なコルベールの表情に頷いた。

 フーケがいたとしても心配はない。小屋の中にゴーレムを造り出すほどの土は無いからだ。外に出ない限り、得意の土ゴーレムは使えないだろう。

 フーケが外に出た所を魔法で一気に攻撃する。土ゴーレムを造り出す暇を与えずに、集中砲火でフーケを沈めるというわけだ。

 コルベールとチンプイが小屋の中に入る。小屋の中は一部屋しかないようだった。部屋の真ん中には埃の積もったテーブルと、転がった椅子、そして崩れた暖炉も見える。テーブルの上には酒瓶が転がっており、部屋の隅には薪が積み上げられていた。やはり、元は炭焼き小屋だったらしい。

 そして、薪の隣には木でできた大きな箱がある。

 そこには、こう書かれていた。

『ようこそ、交渉人のお二方 ジャン・コルベールの博識とチンプイのガンダールヴの力で”破壊の杖”の使い方を解明されたし 土くれのフーケ』

そこにあったのは、地球の武器『M72ロケットランチャー』だったのだが、杖っぽくないので、一瞬、それが偽物ではないかとコルベールは疑ったが、しばらく考えて、しまったという表情で手で顔を覆った。

「どうしたの?コルベール先生」

 チンプイが尋ねた。

「フーケは我々に”破壊の杖”の使い方を調べさせるつもりで、あの書置きを残したらしい」

「えっ?ぼく、ハルケギニアの武器の使い方なんて分かんないよ?」

「いや・・、君は分かるはずだ。君の使い魔の印は、ありとあらゆる『武器』を使いこなしたという伝説の使い魔『ガンダールヴ』の印だからね。・・でも、これを知っていて、巨大ゴーレムが現れて・・。しまった!」

 なるほど、だからいつもより科法が強いのかと、チンプイはひとりごちた。『科法』は、言わば道具のようなものなので、『ガンダールヴ』のルーンは”武器”と認識したらしい。

 そう考えて納得したところで、チンプイはコルベールの慌てように気が付いた。

「どうしたの?」

「フーケはミス・ロングビルだ。巨大ゴーレムなら宝物庫を壊せるかもと彼女に僕が言った翌日に襲撃されたから間違いない!皆が危ない!戻るぞ!チンプイ君!」

「分かった」

と、チンプイが答えた直後。

「きゃあああああああっ!!」

 突然、ルイズの悲鳴が響き渡り、ばこぉーんといい音を立てて、小屋の屋根が吹き飛んだ。

 屋根が無くなったおかげで、空がよく見えた。そして青空をバックに、巨大なフーケの土ゴーレムの姿があった。

「ゴーレム!」

 キュルケが叫んだ直後、タバサが真っ先に反応した。

 自分の身長よりも大きな杖を振り、呪文を唱える。巨大な竜巻が舞いあがり、ゴーレムに直撃した。

 だが、ゴーレムはまったくビクともしていない。タバサに続くかのようにキュルケが胸に差した杖を引き抜き、呪文を詠唱する。杖から炎が伸びてゴーレムを包み込むが、やはりゴーレムはまったく意に介していなかった。

「無理よこんなの!」

「退却」

 タバサが呟く。キュルケとタバサは一目散に逃げ出し始めるが、ルイズの姿が見えない。

 彼女はゴーレムの背後に立っていた。ルイズはルーンを呟き、ゴーレムに杖を振りかざす。すると巨大なゴーレムの表面で、何かが弾けた。恐らくルイズの魔法だろう。その爆発でルイズに気付いたのか、ゴーレムが振り向いた。小屋の入り口に立っていたチンプイは、二十メイルほど離れたルイズに向かって叫んだ。

「ルイズちゃん、逃げて!!」

 が、ルイズは唇を噛み締めながら、

「いやよ!! あいつを捕まえれば、誰ももうわたしをゼロのルイズなんて呼ばないでしょ!」

 彼女の目は、真剣そのものだった。ゴーレムは近くに立ったルイズをやっつけようか、逃げ出したキュルケ達を追うか、迷っているように首を傾げた。

「もう、誰もそんな風に呼んでないじゃない!」

「それは、ワンダユウが呼ぶなって言ったからよ。どうせ、皆心の中で思ってバカにしてるんだわ。わたしにだって、ささやかだけどプライドってもんがあるのよ。ここで逃げたら、ゼロのルイズだから逃げたって思われるわ!」

「誰も思わないよ!いいから逃げて!」

「わたしは貴族よ! 魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ」

 そう言いながら、ルイズは強く杖を握りしめた。

「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」

 ゴーレムはやはりルイズを先に叩きのめす事にしたらしい。ゴーレムの巨大な足が持ち上がり、ルイズを踏みつぶそうとする。ルイズは魔法を詠唱し、杖を振った。

 だが、やはりゴーレムにはまったく通用しない。ゴーレムの胸が小さく爆発したが、それだけだ。ゴーレムはびくともせず、わずかに土がこぼれただけだ。

 ルイズの視界に、ゴーレムの足が広がった。ルイズは思わず目をつぶった。

 その刹那、科法『バリヤー』を身に纏ったチンプイがデルフリンガーで受け止めた。ガキンッとぶつかり合う強烈な衝撃音が響き渡った。

 しかし、しばらくしてピキッという音とともに、『バリヤー』は破られた。

「”アース・ウォール”!」

 エレオノールが土の壁を発生させて二人が踏みつぶされるのを防いだ。

「姉さま!わたしの邪魔をしないでよ! あたしは自分の力で・・」

 そう言いかけたが、ぱっしぃーん、と乾いた音がルイズの言葉を遮った。

 エレオノールが、ルイズの頬に一発、平手打ちをしたのだ。

「いい加減にしなさい!あんたのプライドが何よ!あんたの軽はずみな行動で、わたし達がどれだけ迷惑ををしていると思ってるの!」

 見ると、ルイズ達を守るべく、皆戻って必死にゴーレムの足止めをしていた。

「あんたが学院の連中を見返してやりたいって言うのは分かるわよ。でもね、死んじゃったら終わりなのよ!母さま達を悲しませないで頂戴!」

「で、でも!エレ姉さま!わたし、このままじゃ臆病者って後ろ指をさされるわ!」

 すると、エレオノールは優しくルイズの頭を撫でた後、ルイズをギュッと抱きしめた。

「言いたいやつには言わせておきなさい。ルイズ、忘れないで。世界中が後ろ指をさしたって、敵になったって・・。わたしはちびルイズの味方よ。勿論、母さま達やチンプイ君、ワンダユウさん、それにルルロフ殿下もね」

 ルイズはゆっくりと顔を上げた。その時、辺りを強い地響きが襲っていた。

「取り敢えず、フーケを探しましょう」

 エレオノールはキッと真剣な表情になって言った。

「でも、フーケがどこにいるかなんて・・」

「フーケはロングビルさんだって、コルベール先生が言ってたよ」

「何ですって?」

 ルイズが目を大きく見開いた。そういえば、辺りを偵察してきますと言って森の中に消えたまま、ミス・ロングビルは姿を見せていない。

「そう・・。チンプイ君、科法でフーケを探せる?」

「うん。探せるよ」

「じゃあ、見つけたら合図して。フーケの杖を奪えば、無力化できるわ」

 エレオノールはチンプイにそう言うと、コルベール達に向かって叫んだ。

「コルベール先生!あのゴーレムを転ばせて!逃げるわよ!」

 エレオノールはフーケに聞かれていることも計算に入れて、フーケの油断を誘うために敢えてコルベール達にそう言ったのだった。

「そうだな・・。『破壊の杖』、使い方が分かったとしても使うわけにはいかん!ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ、先に逃げなさい!」

「でも、先生はどうなさるんです?」

「僕はこいつを足止めする。逃走経路を確保してきてくれたまえ」

「分かりましたわ」

 タバサが自分の使い魔に呼びかけ、早く来るように指示した。

「ウル・カーノ・ジエーラ・ティール・ギョーフ」

 コルベールが詠唱すると、その華奢な身体に似合わぬ巨大な炎の蛇が躍り出てフーケのゴーレムの巨大な足を燃やし尽くした。

 

「科法『探知スター』、チンプイ! 見つけたよ。エレオノールさん」

 チンプイが科法でフーケを見つけ、エレオノールに合図した。

「”ブレッド”!」

 エレオノールが詠唱すると、土礫が隠れていたフーケに襲い掛かった。

 ちょうどコルベールの魔法に驚き、気を取られていたフーケは杖をはじかれてしまい、自身も土礫が当たって地面に崩れ落ちた。

「フーケを捕まえて、『破壊の杖』は取り戻したわよ。学院に帰りましょう」

 キュルケ達は顔を見合わせると、歓声を上げながらエレオノールに駆け寄った。

 

 フーケを捕まえた後、ルイズ達は学院に戻り、学院長室にてオスマンに報告をした。

「ふむ・・。ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな・・。美人だったので、なんの疑いもせず秘書に採用してしまった」

「一体、どこで採用されたんですか?」

 コルベールが尋ねた。

「街の居酒屋じゃ。私は客で、彼女は給仕をしておったのだが、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな」

「で?」

 コルベールが促すと、オスマンは照れたように告白した。

「おほん。それでも怒らないので、秘書にならないかと、言ってしまった」

「何で?」

 コルベールが本当に理解できないという口調で尋ねた。

「カァーッ!」

 オスマンは目をむいて怒鳴った。とても年寄りとは思えない迫力である。それからオスマンはこほんと咳をして、真顔になった。

「おまけに魔法も使えるというもんでな」

「死んだ方が良いのでは?」

 エレオノールが、虫を見るような目でオスマンを見ると、ぼそりと本音を呟いた。オスマンは軽く咳払いをすると、エレオノールに向き直り重々しい口調で言った。

「今思えば、あれも魔法学院に潜り込むためのフーケの手じゃったに違いない。居酒屋でくつろぐわたしの前に何度もやってきて、愛想よく酒を勧める。魔法学院学院長は男前で痺れます、などと何度も媚を売り売り言いおって・・。終いにゃ尻を撫でても怒らない。惚れてる? とか思うじゃろ? なあ? ねえ?」

 コルベールは、それを聞いてはっとした表情を浮かべた。フーケに、物理攻撃に弱いという宝物庫の壁の弱点を教えてしまったのは彼なのである。コルベールはその一件はこの場では黙っておこうと思いつつ、オスマンに話を合わせた。

「そ、そうですな! 美人はただそれだけで、いけない魔法使いですな!」

「その通りじゃ! 君は上手い事を言うな! コルベール君!」

 ルイズとエレオノール、そしてキュルケとタバサの四人は呆れたて、そんな二人の様子を見つめていた。

 周囲の冷たい視線に気付き、オスマンは照れたように咳払いをすると、厳しい顔つきをしてみせた。

「さてと、君達はよくぞフーケを捕まえ、『破壊の杖』を取り返してきた」

「君達の『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。と言ってもミス・タバサはすでにシュヴァリエの爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」

 ルイズ達の顔が、ぱっと輝いた。

「本当ですか?」

 キュルケが驚いた声で尋ねると、

「本当じゃ。良いのじゃ、君達はそのぐらいの事をしたんじゃから」

 オスマンがそう言うのを聞いてから、ルイズは横のチンプイをちらりと見てオスマンに尋ねる。

「オールド・オスマン。チンプイには?」

「残念ながら、彼は貴族ではない。また、マール星のことは知られると色々面倒なのでな。まだ伏せておるんじゃよ。チンプイ君には、わしのポケットマネーからお金を出そう」

 オスマンは『科法』のことを言っているのだろうと、ルイズは思った。”烈風”カリンを圧倒したワンダユウと王室のボンクラ貴族たちがうまく交渉できるか疑問だ。ルイズ達家族は平気でも、その他のハルケギニア人はその限りではない。下手にワンダユウを怒らせるわけにはいかないのだ。

「ありがとう、オスマンじいさん」

 チンプイはニコッと笑って言った。チンプイはまだ子供なので、ハルケギニアの地位などに興味はなかったが、お金がもらえると分かり、何を買おうかなとウキウキしていた。

「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り、『破壊の杖』も戻って来たし、予定通り執り行う」

 それを聞いて、キュルケの顔がぱっと輝いた。

「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました!」

「今日の舞踏会の主役は君達じゃ。用意をしてきたまえ。精々、着飾るのじゃぞ」

 一同は礼をすると、学院長室を後にした。

 

 ルイズの部屋で、ルイズとエレオノールが舞踏会の準備をしようとしたその時、

パン!パン!パンパカパカパンパーン

という音とともに、ルイズとエレオノールに大量の紙ふぶきと紙テープが降りかかった。

「おめでとうございまーす!!」

 ワンダユウが突然現れて言った。

「ワンダユウ!あんた、今までどこにいたのよ!」

 ルイズは怒鳴った。無理もない。フーケがチンプイを『破壊の杖』を返す交渉人として選んだので、学院は護衛隊を編成したが、ワンダユウ一人いればもっと楽にフーケを捕まえることが出来たからだ。

 すると、ワンダユウは申し訳なさそうな顔をして言った。

「申し訳ございません。わたくし、マール星に帰っておりまして、先ほど、科法『遠隔通信』でチンプイの報告を受けて初めて知ったのです。まさか、チンプイがこのような事件に巻き込まれているとは・・。ルイズさまとエレオノールさまを危険に晒してしまい申し訳ございませんでした」

「エンカクツウシンって何よ?」

 ルイズが尋ねた。

「はい。遠い所にいても連絡を瞬時にとることができる科法でございます。『テレポート』のように移動しなくともその場にいながらお互いの顔を見て会話ができるというものでございます」

「『テレポート』すればいいじゃない」

 ルイズが言うと、チンプイが口を挟んできた。

「気軽に言わないでよ。いくらワンダユウじいさんでもマール星とハルケギニアの間を『テレポート』するのは無理だよ。・・・それに、すっごく体力使うから、ぼくはまだ『テレポート』は自由に使えないんだ。使えてもせいぜい一日一回だけだよ」

「チンプイの言う通りでございます。あと、ルイズさまとエレオノールさまに言っておきたいことがございます」

「改まって何よ?」

「カリーヌさま達にお会いした時にも申し上げましたが・・・我々、マール星レピトルボルグ王家は、トリステインを含めたハルケギニアに対してはには一切干渉しないという方針でございます。

今回は、チンプイが事件に巻き込まれ、ルイズさまとエレオノールさまにもご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。

ですが、ご自分から厄介事に関わらないようにして頂きたいのです。ルイズさま達ご家族の安全がマール星にとっては、このハルケギニアでは最優先事項なのです。また、外交問題になるので、トリステインを含むハルケギニアの国同士の厄介事・・・特に戦争に発展するようなことにはマール星は一切干渉しないという方針なのです。・・・万が一、トリステインが国家存亡の危機になってしまったら、ルイズさま達ご家族だけ、マール星に避難して頂きたく存じます。

勿論、その際には、ルルロフ殿下の婚約とは関係ありませんのでご安心を。ルルロフ殿下はそのようなことで婚約をせまられるようなケチなお方ではないのです」

 ワンダユウはそう言うと、頭を深く下げた。

「伝統あるトリステインが危なくなるなんて!そんな縁起でもないこと言わないで!あり得ないわよ!」

 ルイズは癇癪を起した。しかし、エレオノールが窘めた。

「やめなさい、ちび!万が一ってワンダユウさんも言ってるでしょ!まあ、そんなことあって欲しくないけど・・その時は、マール星のお世話になりましょう。 ところで、ちびルイズ、厄介事に首を突っ込まないってワンダユウさんに約束してあげなさい。ワンダユウさんは、あなたの身を案じてくれているのよ?わたしも厄介事には首を突っ込まないって約束するわ。ほら、ルイズはどうなの?」

 エレオノールに促されてルイズは渋々ながら約束した。

「分かったわ。約束する。でも、友達を助けたくてそういうことになりそうだったら協力してくれる?ワンダユウ?」

「勿論でございます。そうならないことを願っておりますが、その際には真っ先にチンプイの科法『遠隔通信』でご連絡くださいますようお願い申し上げます。・・・ただし、国家間の問題になるようなことに首を突っ込むのだけはおやめください」

 ワンダユウは念を押す。

「分かったわ。約束する。 ところで、ワンダユウ、あんた何しに来たの?」

 ルイズが尋ねると、ワンダユウは「おお!そうでした!」と言って、

パンパカパカパンパーン

という音とともに、再びルイズとエレオノールに大量の紙ふぶきと紙テープが降りかかった。

「おめでとうございます!ルイズさまとエレオノールさまの今回のご活躍を王宮に報告したところ、わがレピトルボルグ王室会議は、ルイズさまとエレオノールさまに対し・・・、『公爵』の称号を贈ることに決定いたしました!!」

「「『公爵』ですって!?」」

 ルイズとエレオノールの声が重なった。

「はい。これが、その印の勲章であります」

 ワンダユウが、見たこともない立派な勲章を二人に差し出した。二人とも、『公爵』と言われて両親に並んだようで嬉しそうだ。

「それから・・」

「まだ何かあるの?」

 ルイズが尋ねると・・

パンパカパカパンパーン

という音とともに、今度はエレオノールにだけ大量の紙ふぶきと紙テープが降りかかった。

「あのねえ!!やたらにめでたがらないんで欲しいんだけど」

 エレオノールは文句を言った。

「いえ、今日は特におめでたいのです。エレオノールさまは公爵夫人となられた訳です。聞けば、まだご結婚なされていないそうで、カリーヌさまもヴァリエール公爵もご心配なさっておりました。そこで!差し出がましいこととは思いますが、エレオノールさまが公爵夫人となられた記念に、マール星全面協力のもと、エレオノールさまの結婚相手の候補者を探すことが決定いたしました!」

「えっ・・」

 突然のことでエレオノールは理解が追い付いていない。

「わたくしどもには、王室典範でご婚約前に王族はお顔を見せることが出来ない決まりとなっております。その制約の中で候補者を選ぶのです。今までわたくしどもが縁結びのお手伝いさせて頂いた王族の方々は、一目見て運命を感じるほどの出会いを皆感じておいでで、今もお幸せそうに暮らしております。わたくしどもは、相性の良い相手を探すことに関しては、何千年もの経験に基づいたプロ中のプロです。勿論、最終的にお選びになるのはエレオノールさまご自身ですのでご安心を。エレオノールさま、いかがでしょう?」

 ワンダユウの言葉に、ルイズは賛同した。

「エレ姉さま、協力してもらいましょうよ!わたし、姉さまに幸せになって欲しいもの」

「そ、そうね。ルイズがお妃候補なのに、わたしだけ結婚しないのは寂しいわね。じゃあ、お願いできるかしら?」

 エレオノールはつい先日も、バーガンディ伯爵と婚約していたが、その性格が仇となり伯爵から「もう限界」といわれ、婚約を破棄されたばかりだ。両親には結婚をしなさいと言われていたし、妹に先を越されるかもしれないので、ダメもとでお願いすることにしたのだった。

「はい、お任せください。 ところで、今日は舞踏会があるそうですね。ルイズさまと エレオノールさまに合ったお召し物をこちらで用意してもよろしいでしょうか?」

 

 ワンダユウの提案にルイズとエレオノールがOKすると、しばらくしてパンダのような生き物が現れた。

「こちら、宇宙的ファッションデザイナー、デブラ・ムー先生です。ムー先生はルイズさまとエレオノールさまのご婚礼のためのドレスなどのデザインもお願いすることになると思います」

 ワンダユウがそう言って、ムーを紹介した。一見気難しそうな感じだが、仕草などが可愛らしく愛嬌があった。

 ムーは、ルイズとエレオノールを色々な角度からじろじろと見て言った。

「フム、フム、フム・・・。合格です!!ハルケギニア人のためのデザインは予習はしてきましたが、初めてで気が進まなかったのだが。お会いして、芸術的インスピレーションがフツフツと沸いてきました!!今後は、ルイズさまとエレオノールさまのお召し物全てをデザインして差し上げましょう」

 ルイズとエレオノールは、公爵の称号を得て機嫌が良かったので、OKした。

ルイズとエレオノールの寸法をワンダユウとチンプイが手伝って測り終えると、

「では・・。芸術は・・・」

 ムーは、右手に様々な生地、左手にはさみを持つと、サッと構えた。

「ルイズさま、エレオノールさま、危険です。こちらへ」

 ワンダユウは二人の背中を押して部屋の外へ避難させた。

「危険?何が危険なのよ?」

 ルイズはキョトンとして尋ねた。

「今に分かります。 なるべく爆発しないで欲しいなあ・・・・」

 ワンダユウが呟いた。

「爆発?まさか、ちびルイズじゃあるまいし・・」

 エレオノールが言いかけると、

ドカン ドカン ドカン ドカン 

 大きな音がしたので、四人がそ~っと部屋を覗くと、部屋のものは一切被害は出ていないが、ムーが、自分の体から空気の塊のようなものをいくつも出しながら叫んでいた。

「芸術は爆発だ!!」

 

 しばらくすると、ムーは四人を部屋に呼び入れた。

「フウ~・・・。わが才能のすべてをかたむけた傑作の数々が完成した」

 ムーは、汗を大量に流して疲れていたが、ワンダユウに完成した衣装を渡すと、満足そうにマール星に帰って行った。

「では、お召し替えを。せっかくなので、これを使いましょう。『瞬間着がえカーテン』にございます」

 ワンダユウが、そう言って透明な布をルイズとエレオノールの頭の上にかざしてそのまま下ろすと・・不思議なことにルイズとエレオノールの体を通り抜け、服は素敵なパーティードレスに変わっていた。

 ルイズは、長い桃色がかった髪をバレッタにまとめ、ホワイトのパーティドレスに身を包んでいた。肘までの白い手袋がルイズの高貴さをいやになるぐらい演出し、胸元の開いたドレスが作りの小さい顔を、宝石のように輝かせている。

 エレオノールはルイズとデザインはお揃いだが、彼女の金髪を引き立たせる色違いのブルーのドレスだった。

 ブリミル教のもと衣装が国によって大きな変化が無かったので、ハルケギニアでのムーの衣装は奇抜すぎるものとはならなかったのだった。

「悪くないわね」

 ルイズは自分の衣装を見て言った。

 エレオノールは衣装を着て少し歩いてくると言って、嬉しそうに出て行った。

 

「ワンダユウ、今日はありがとう。わたし達に『公爵』の称号を贈ってくれたり、エレ姉さまの結婚に協力してくれたり・・こんな素敵な衣装まで」

 ルイズは珍しく素直に感謝した。

「なんと、勿体無いお言葉!気に入って頂けてわたくしも嬉しく存じます。 ところで、ルイズさまは歌うことがご趣味と伺っております。この舞踏会で、サプライズでご披露なさってはいかがですか?ムー先生には、エレオノールさまにも内緒で衣装もご用意しておりますが」

 ワンダユウが言うと、ルイズは一瞬嬉しそうな顔をしたが、申し訳ないという面持ちで言った。

「お気持ちはありがたいんだけど・・。皆が言うのよ。顔色悪くして、お願いだから歌わないでくれって・・。わたしの歌を家族の皆も音痴だと・・」

 すると、チンプイとワンダユウは顔を見合わせキョトンとした。ワンダユウは言葉を続ける。

「その音痴がいいんです!正確な歌などいくらでも電気的に合成できます。しかし・・これを微妙に外して歌うことは人間にしかできません。いかにも人間らしい人間の歌!!いま求められているのがそれなのです!!・・それに、ルイズさまの歌っているお姿を国民に公開したところ、国民からアルバムを出して欲しいという熱烈な要望を多数頂きました!是非、ルイズさまに歌の収録にご協力頂きたいのですが」

「わ、わたしの歌を、いつマール星の国民に公開したの!? また、勝手なことして・・。でも、人気って本当? あと、アルバムとかシュウロクって何よ?」

 ルイズは本来、気位とプライドは非常に高い上、短気で気難しく癇癪持ちという厄介極まりない性格をしているが、今日は散々持ち上げられたので、気分が良く、それが何なのか分かったら協力してもいいと思っていた。

「はい、申し訳ございません。ルイズさまとお会いする前のことでございます。ルイズさまの日常を拝見して・・ルイズさまの歌に感動したので、感動のあまり・・・本当に申し訳ございませんでした。

そうそう、アルバムと収録についてでしたね。

アルバムとは、ルイズさまの歌っているお姿をディスクに収めたもののことです。これがあれば、何度もルイズさまの歌っているお姿をルイズさまが一々歌わなくても観ることできるのです。

収録とは、ルイズさまの歌っているお姿をディスクに収めることです。アルバムは一度収録すれば、大量に複製できるので、国民も皆楽しめるという訳です。どうでしょう?ご協力頂けますか?」

 ルイズは、自分の歌に感動してくれたと知って、乗り気になっていた。

「いいわ。今日は気分がいいから、特別に許してあげる。じゃあ、シュウロクっていうの、舞踏会が始まる前にさっさとやるわよ」

「はい!ありがとうございます」

 ワンダユウは深々と頭を下げた。

 

 しばらくして、今度はライオンのような生き物が現れた。今度はムーとは対照的に、ニコニコ笑っており、親しみやすそうな感じだ。

「こちらは、マール・ロコムビア社というレコード会社の製作部長、ムジエル氏」

 チンプイが紹介した。

「はじめまして。ルイズさま。百二十年もこの業界で生き抜いたわたくしが自信を持って申し上げます!!ルイズさまこそ、百年にひとりのビッグアーチストでございます。早速、収録に取り掛かりましょう!」

 ムジエルはそう言うと、三人を魔法学院の裏で宙に浮かぶ『けいたいスタジオ』へと案内した。

 ルイズは、羽根を頭と背中に付けたデザインの衣装に『瞬間着がえカーテン』で着替えた。アーチストという言葉は分からなったが、百年にひとりと言われてルイズもその気になってきた。

「自由にのびのびとお歌い下さい。どうぞ!!」

 ムジエルの合図で、ルイズは歌い始めた。

「ウィ アー ザ コスモス、ウィ アー ザ コスモス♬」

歌っている途中で「わたしも結構のるわね」と心の中でひとりごちた。

「わたしの耳に狂いはなかった。このマッタリした音程の外れ具合」

 ムジエルが言った。ムジエルもチンプイもワンダユウもうっとりして聞き入っている。

「ノッタリしたリズム感・・・。う~~む、なんとも言えん!!」

 ムジエルは感動のあまり涙している。

 ルイズが歌い終わると、三人は感動の涙を流しながら駆け寄ってきた。

「心をうたれました!!」

 ムジエルが言った。

「ほんと!?」

 ルイズも嬉しそうだ。

 ムジエルは、嬉しそうにして帰って行った。

 

 アルヴィーズの食堂の上の階が大きなホールになっており、舞踏会はそこで行われていた。

 中では着飾った生徒や教師達が豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談している。

 チンプイは、シエスタが作った『ラーミエン』に舌鼓を打っていた。

 ホールの中では、キュルケがたくさんの男に囲まれて笑っている。

 黒いパーティドレスを着たタバサは、一生懸命にテーブルの上の料理と格闘していた。

 エレオノールも素敵なパーティードレスに身を包み、教師たちと歓談していた。

 それぞれに、パーティを満喫しているようだ。

 門に控えた呼び出しの衛士がルイズの到着を告げた。

「ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール公爵夫人のおな~り~!」

 先ほどの歌の衣装に身を包んだルイズが現れた。

 その様子を見た楽士達が、小さく流れるように音楽を奏で始めた。

「今日は、わたしから、サプライズがあります。マール星の使者のチンプイとワンダユウがどうしてもわたしの歌を聞きたいそうなので・・・、恥ずかしいですが、心を込めて精一杯歌わせて頂きます」

 そう言うと、ルイズはお辞儀をした。

「や、やめて、ルイズ・・」

「よしなさい、ちびルイズ・・」

 キュルケとエレオノールが真っ青になって止めようとしたが・・遅かった。ルイズはすでに歌い始めてしまったのだ。その歌声に、マール星人は聞き惚れていたようだが、ルイズの歌はハルケギニア人にとってはその歌を聞いた者の体調は直ちに悪化するほどひどいものであり、その威力はどこかのガキ大将並であった。

「ホゲ~~♬」

 こんな感じである。

「素晴らしい・・」

 ワンダユウはルイズの歌に感動して、またも涙した。

「こりゃ、ルイズちゃんの歌で、音楽業界に空前の大ブームが来るよ!!」

 チンプイも嬉しそうにして聞き入っていた。

 その横で、その場にいたハルケギニア人は次々に倒れ、根性で演奏していた楽士も倒れたのだが、マール星の『けいたいスタジオ』から持ってきたレコードがかかっていたので、ルイズがそれに気が付くことはなかった。

 ワンダユウとチンプイが感動して聞き入っている様子に気を良くしたルイズは、倒れたハルケギニア人に気付くことなく歌い続け、ルイズの歌は夜更けまで続いたそうだ。

 

 翌朝、ワンダユウは感動して何度もルイズにお礼を言い、マール星に帰って行った。

 魔法学院では、朝食の時間になっても、ルイズとチンプイ以外はなぜか誰も出てこなかった。

「昨日、みんなはしゃぎ過ぎたんじゃない?」

「そうね。でも、今日は虚無の曜日じゃないのに、皆、羽目を外し過ぎよ」

 皆、体調不良になり出てこられなかったのだが、その原因がルイズの歌にあることに二人が気付くことはなかった。

 

 そんな様子を眺めていたデルフが、こっそりと呟いた。

「おでれーた!こんな破壊力のある歌があるのか!ほんと、おでれーた!」

 




デルフは、剣なので、ルイズの歌でどうにかなることはありませんでした。(笑)
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