ヴィヴィオはそれでもお兄さんが好き   作:ペンキ屋

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ども〜


遅くなってごめんなさい!


ではよろしくお願いします!


第10話【壊れた平和】

合宿の前日、青年はある場所を訪れていた。それはなのは達の友人であり同僚達。そして何よりかつての親友がいる八神家の道場。その浜辺。

 

「ん? 珍しいな。お前がここに来るとは」

 

「ああ、ザフィーラ突然悪いな。それで〜ヴィータ……いないか? 」

 

青年が用があるのはかつて一番仲が良かったヴィータという女性。背が小さく、子供に見られがちだが年齢にしてみるとそんな事は全くない。

 

「今日は来ておらん。仮にいたとしても……ヴィータはお前には会いたくないと私は思う」

 

「……ま、そうだろうな……邪魔……したな」

 

青年はバツの悪そうな顔をしながらザフィーラと呼ぶ男に背を向ける。松葉杖をつきながらゆっくりと帰ろうとするが、それをザフィーラが止めた。

 

「待て」

 

「…………」

 

背を向けた青年はその呼び止めに応じるがそのまま後ろを振り向かない。もっとハッキリ言えば振り向けない。何故ならこの時、ザフィーラは少し怒っていた。青年はそれを理解しつつ、話だけは聞くつもりで足を止めている。

同じ拳闘を生業としていた2人は4年前までそこそこ仲が良かった。さらに話に出ているヴィータという女性は青年のかつての親友でなのは達の中で青年と1番付き合いの長い人間だった。

 

だが当然のごとく今の青年との仲は壊れている。全ては青年自身が蒔いたタネ。

 

「ヴィータに何の用だ? 」

 

「……ちょっと頼みがあってな。あいつじゃなきゃ……頼めない事だったからさ」

 

「私はお前とヴィータの間に割って入る気はさらさらない。だが、家族を傷つけると言うのであれば話は別だ。私の言ってる意味がわかるか? 」

 

「……そうだな。もう来ないさ」

 

 

青年は短く切って答えると再び歩き出した。そんな青年の背中をザフィーラは腕を組みながら見つめる。自分の欲しかった答えはそれじゃないと言わんばかりに、ザフィーラは青年を睨んだ。

 

「師匠終わりました! て……あれ? あの人……どなたなんですか? 師匠の知り合い……ですか? なんだか崩れて消えてしまいそうな顔をしてましたね」

 

「ミウラ……そうだな。あの男は私の知る人間で……誰よりも強く。誰よりも脆い男だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザフィーラが最後に何を言ったのか知る由もない青年はとぼとぼ足を進め、何も考えずに歩いていた。別に家に帰るわけでもなく、決して希望のあるとは言えない目で青年は歩く。

 

するとそんな青年の肩をある人間がトントン……っと叩く。誰かと思い振り向けばそれはフェイトだった。私服で買い物にでもいって来た様子のフェイトは少し緊張気味になりながらも青年に言葉をかける。

 

「ワン、こ……こんな所でどうしたの? 」

 

「いや、なんでもない。……なんか言いたそうだな? 」

 

フェイトはギクっとし、言葉を震わしながら話し出す。フェイトが青年に聞きたい事などそうあるものではない。あるとすればあの事しかないのだ。

 

「ワン……その……4年前ワンが死のうとしたのんむっ!? 」

 

彼女がその先を言うことはなかった。何故ならその前に青年がフェイトの口を左手で塞いだ為。青年は察した。フェイトの様子といいかけた言葉、その情報でフェイトが何を知ったのかを。

 

「フェイト、忘れろ。それはお前の勘違いだ」

 

「んっ、んっ!? ぷはっ!? ……勘違いじゃない!! 自分で言ってたくせに今更何言ってるの! ワン、お願いだから全部教えて!? 話して!? 」

 

「ぐっ!? お、おい……」

 

フェイトは自分の口を塞いでいた手を外し、近くの木へ青年を軽く押しながら背中を叩きつけ逃げられないように押さえつけ始めた。一度こうなると、フェイトも引かないし青年もそれが分かっている為抵抗をやめる。

 

「どうしてなの? 理由があったならどうしてなのはにあんな事言ったの? あの後なのは……すっごく泣いたんだ。私見た事なかった。あんなに泣いたなのは。……ワン? 私はもう知っちゃったからワンのこと嫌わないし、ワンから目をそらす事もできない。でも……どうすればいいのかわからないんだ……わ゛だしは……ワンに何をしてあげたら゛……」

 

青年は涙を流している彼女を見て固まってしまった。自分は愚かなミスを犯したと。少なくても廃病院でフェイトにあの情報を教えるべきじゃなかったとこの時青年は後悔していた。

嫌われているのだからこれ以上フェイトが悲しむことはない。どんな情報を知った所で悲しむはずはない。

 

 

そんな事はないと分かっていたはずなのに。

 

 

青年は守れていたと感じている平和が壊れたと自覚した。ヴィヴィオが幸せ。だからその周りも幸せ。しかしこの状況は違う。日常は壊れた。

 

青年は拳を握りこむ。彼女達の平和を壊した事が青年は許せない。故にその平和を壊した人間に怒りを感じていた。何よりその壊した人間の中の1人に自分が入っていると言う事に、やるせない怒りを覚える。

 

この怒りをぶつける敵はこの前のメイド、その裏で動いている人間。

 

 

そして……

 

 

 

この状況を作り出した自分自身。

 

 

青年とはそういう人間だった。拳を振るう事でしか何かを守る事はできない。どんな事でも自分が絡んだ時点でそれは他人から外れる。自分自身を中心として敵以外を被害者として見てしまう病的思考。

 

青年の精神はとうに磨り減っているのだ。

 

 

「どうして嫌ったなら嫌ったままでいられないんだ……」

 

「え? 」

 

「そんなんだから……巻き込みたくないんだ。優しすぎんだよ」

 

「ワン……きゃっ!? ……ワン!? ……あ」

 

ポロリと出た言葉は本音だった。青年はフェイトを軽く後ろへ押し飛ばし、自分から離れさせ、帰ろうと動き出す。普段ならここで引き止めて無理矢理でも話を切り出すフェイトだが、一瞬見せた青年の笑み。それを見てそれ以上声をかける事ができない。

 

実に6、7年ぶりにフェイトが見た心からの青年の笑みは、フェイトにとっては希望そのものだった。

 

「もういいだろ。俺は帰る。明日もあるしな」

 

 

ゆっくりと青年は消えていく。フェイトはただその背を見ているだけ。だが彼女の目には力が宿っていた。覚悟が決まり、いつもの力強いフェイトへと戻る。

 

「それこっちのセリフ。そんなんだから……ほっとけないんだ。昔も今もワンは変わってない。やっぱり君は……私が誇っていい私の『一番弟子』だったんだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青年がフェイトとわかれて数時間。日は既に落ち、辺りは暗闇に包まれる。しかし青年は帰らずに公園のベンチに腰掛け、ボーッと目の前の噴水を眺めていた。

これから自分がやろうとしているのは自分自身の誓いを粉々に砕く事。覚悟はある。でも枷が大きすぎて青年は最後の一歩を躊躇していた。自分の左手を見て、開いたり閉じたりしながらその後の結果を想像する。

 

青年にとって力を取り戻すという事は危険なギャンブルをする事と変わらない。昔のように完全に制御できるとは限らないのだ。

 

 

「何迷ってんだ俺は……決めたんだろ? 守るって」

【そうだよ。迷う必要なんかない】

 

「っ!? 」

 

【驚く必要もない。これは貴方が生を求め始めている証拠。そして……私が生きている証】

 

青年は顔を上げそこにいる人間を見て声にならないほど驚き、目を大きく見開く。何故なら今、青年の目の前にいるのはあの夢の中で見た緑色の髪をした少女なのだから。

 

「な……なん」

【驚く必要なんかないと言った。今私が見えているのは私の力が戻りつつある証。だから怖がる必要はない。全部受け入れて楽になりなよ。それで……一緒に生を謳歌しようぉ? 】

 

 

首を少し傾げた少女は両手で青年の顔をガッチリ捕まえながらそう言った。得体の知れない、幻覚かそうでないかも今の青年には区別がつかない。

 

触られている感覚は確かに感じているが、その声がふわふわとしていて現実味を感じさせない。青年は自分の状況に困惑と恐怖を感じた。

 

「お前は……い、一体なんなんだ……どうして俺だったんだ…………」

 

【んふ。どうして? そうだなぁー? 言ってしまえば偶然だけど。取り憑いてみたら相性がズバ抜けて良かったからってだけ。だって最初は魔力の多い人を宿主に選ぶし、本当なら貴方とは出会えなかった】

 

「やはり狙いはなのはだったわけか……」

【そ! あそこにいた人間で、1番綺麗で膨大な魔力を持っていたのは……貴方が昔好きだった彼女。キッカケとしては十分でしょ? うふふ】

 

 

初めて自分の中の怪物と話をし、それがまともな会話になっている事に青年はもはや驚く事もなかった。姿形は人間のそれ。しかし青年はどうしても人としてみる事は出来ないでいる。その少女の目に映る確かな怒りと狂気を感じ、青年は冷や汗を流し始める。

 

「お前は人間を嫌っている。人に怒っている。どうしてなんだ? お前が取り憑いてから俺は感情が不安定になる事がしばしばあった。まるで内面から塗りつぶすような底知れぬ怒り。あれは気のせいなんかじゃない」

 

【……まぁ〜宿主として感じないわけないよね。こうして宿主と話をしている事は長く生きてるけど私ですら初めてだから。いいよぉ〜? 教えてあげる。私あなたの事結構好きだし。……それで〜人間に怒ってるって言うのは本当かな。嫌いって言うのは違うけど。だってそうでしょ? 好き勝手に暴れて勘違いして、その先に私達を滅ぼそうとした。私達はただ生きていたいだけなのに。それにね? 私達の事化け物みたいに言うけど……私は貴方達と何も違わないんだよ? 】

 

「どう言う意味だ? 」

 

青年は少女の話を聞くたび、どんどんわけがわからなくなる。自分が知っている事とあまりにも食い違っているからだ。

青年はイービル因子について無限書庫の責任者でもあるユーノ・スクライアの協力のもとそれに関して他の人間よりは詳しいはずだった。だがそれと少女の話はあまりにも違った。

 

時よりある昔話は異形の者を敵視しそれが人間に被害を出しているなどと伝えられている事が多い。しかしごく稀に人間こそが残酷にして傲慢。異形の者、異質な者を排除する化け物として伝えられている物がある。青年が聞いている今の話はまさにこれだった。

 

【私達が何をしたのかな? それは私達は貴方達に寄生させてもらわないと長く生きていけない。私達の命の源は魔力だから。それを摂取し続けないと死んでしまう。でも私達は人間を殺したことなんてない】

 

「馬鹿な……現に4年前大勢の人間が」

 

【言ったはずだよね? あんな紛い物と一緒にしないでって。それにあれは貴方達が創り出したんだよ? 勝手に創って勝手に人を殺させて……私達の所為にするのはやめてよ。 私には……最後の誇りがある。私の種族最後の生き残りとしての誇りが! 」

 

「お前は…………」

 

少女はその瞬間笑った。まるで青年を心の底から信頼しているように。親友、恋人、将来永劫パートナーとして生きていけるそう信じて疑わないようなその笑顔は青年をさらに迷わせた。

 

 

自分の認識が正しいのか……間違っているかと言う2つで。

 

 

そして……少女は段々と薄くなり始め崩れるように青年の目の前から消え始めた。

 

 

【いずれ……貴方は必ず私を受け入れ、求める。力が欲しくて。でもそれは当然の見返り。それが貴方と私との契約。……あ! そうそう、力を取り戻すのは急いだ方がいい。貴方の敵はあのメイドの女でもその裏で動いてる人間でもない。あんな雑魚気にする必要もない】

 

【何? ……ま、待て、何を言ってるんだ!? 」

 

ふわふわと薄れていく少女の姿と声。青年は聞き逃せない言葉を聞き少女に手を伸ばす。

 

【貴方の前に本当の意味で立ち塞がるのは昔も今も貴方の……っ!? 】

 

「なっ!? 」

 

少女が確信に触れようとした瞬間、消えかけの少女に高濃度の魔力スフィアが放たれた。実体はない為直撃はしないが消えかけだった少女はそれで完全に消え、小さな粒子となって消え去る。

 

【もう遅かったみたい】

 

「み〜つっけた」

 

「……ぉ……ぃ……嘘……だ…………」

 

 

突如現れた少女は紫がかった肩まで伸びたストレートの髪。ただ、ファッションではなく所々色が変色したかのように、その綺麗な髪は白髪になっている。

青年は目の前の現実が受け入れられず後退るような動きをするが椅子に座っている為逃げる事ができない。だがそうしているうちに少女は青年の目の前まで来てしまった。背は140〜150の間ぐらいの小柄な体型。歳はアインハルトより少し上ぐらいに見える少女。

 

「な、なんで……ぃ……きてるんだ……だって……だってお前は……お、俺が………俺が…………」

 

 

普段よっぽどの事がない限り顔色一つ変えない青年がこれほど動揺したのは過去2回目。でもそれは当然だった。過去は変えられない。どんな事をしたとしても犯した過去は変えることなどできはしない。

 

 

「はぁ〜やっと会えたぁ〜」

 

「来るな……なんで……なんでおまっ!? がっ……ぁ……ぁ…………」

 

 

少女は青年の首を小さな両手で締め上げ、笑みを浮かべながらその力を強くしていく。青年は抵抗しようと少女の手に左手をかけたが、抵抗しようにも少女の腕に見合わない力に唯一の左手をダラリと下に落とし、意識を持っていかれる寸前まで追い込まれた。

 

 

「フ……フー…………」

「ん? なぁ〜に? お・に・い・ちゃ・ん? 」

 

「やめ、やめて……くれぇ……フー」

 

「嫌だよ。私は4年間我慢したんだよ? 早く遊んでくれないと。私の中のイービル君がうずうずしちゃっておさまんないの! だから……殺し合いましょう? お兄ちゃん? ンフ、ハハ、アッハハハハハハハハハ!!! 」

 

「うっ!? かがっ!? 」

 

少女は手加減していたと言わんばかりにその手にさっきとは比べ物にならない程の力を加えた。するとミシッと首から出てはいけない音が聞こえ始める。

 

「ぐがっ!? あ゛あ゛っ!? う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!?? 」

 

青年の断末魔のような悲鳴は公園中に響き渡る。しかし青年は抵抗できない。いや、しなかった。できるわけもない。2度も目の前の少女を殺すことなど青年にはできなかったのだ。

 

何故なら目の前の少女こそ、4年前……青年自身の手で殺した筈の青年の実の妹なのだから。

 

 

 




次回もよろしくお願いします。

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