ヴィヴィオはそれでもお兄さんが好き 作:ペンキ屋
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
今年もちんたら投稿しますので、よろしくお願いします!!!
「らんららん〜ららん〜らら〜 ……ん? お! 見て見てイービルくん!? 駄菓子屋!? 駄菓子屋さんがある!? 」
【ダガシ? フー、ダガシッテナンダ? ツヨイノカ? 】
「違うよもう〜。駄菓子っていうのは食べ物。甘い物とか。お菓子だよお菓子! って言っても……イービルくんわからないのか……う〜ん。食べさせてあげたいけど……私お金持ってないし……」
「ドロボー!? 」
「あれ? ……む〜」
なのはと青年が戦っている最中、フーは1人期日までの1ヶ月の間暇つぶしをしていた。
普通にミッドの街を徘徊し、見たことない物を見つけては興味津々で目を輝かせる。そんな時、一件の駄菓子屋をフーは見つけた。昔兄である青年に連れてってもらい、どことなく懐かしさを覚えるフー。
しかしその駄菓子屋で強盗が起きた。お店のおばあさんが慌てて追いかけるが、歳が歳で追いつくわけもない。
「ハンっ、ババぁに追いつかれるわけが……え……」
「小さい子達の憩いの場でなんて事してるのおじさん? 私……そういうの嫌い、だよ!! 」
「ぐあがっ!? 」
ドロボーは突然目の前に現れたフーに驚き、さらにそのまま少しむすっとしたフーに回し蹴りを受け、蹴り飛ばされた。だが問題はここからだった。何故なら蹴り飛ばされたドロボーはその一撃で近くの木に激突し、身体中から血が噴き出す。内臓や骨は破壊され、意識すら残ってはいない。周りから悲鳴に似た叫びが列になってこだまし、フーは周りを見ながらキョトンとしていた。やり過ぎているという自覚はなく、自分が気に入らないからただ蹴り飛ばしたという無邪気な理由。彼女にはもうまともな感性など残ってはないない。欲望のまま、自分のしたい事だけをする。それが今の彼女、無邪気な怪物だった。
「あれ? ちょっと懲らしめただけなのに……おじさん動かなくなっちゃった。脆いな〜」
「お嬢ちゃん、ありがとうね。でもここにいたらいけないよ。早く行きなさい! 」
「え? でも」
「いいから。自業自得とは言え、管理局が来たらタダじゃすまないよ? ほら。後これを持ってお行き。私ができる精一杯のお礼だよ」
「え、えっと……よくわからないけど……うん。おばあちゃんありがとう! ふ、ふふっふ〜」
フーは駄菓子屋のおばあさんの言っている事がよく理解できていなかった。悪い人間を懲らしめて何故自分が悪者にされるのか。しかし、おばあさんに悪意は感じられず、お土産とばかりに駄菓子を袋で貰ったフーは、おばあさんの言う通りに鼻歌を歌いながらその場から離れる。
するとその直後だった、通報を受け、ギンガがそこへやってきた。でもそこにフーはいない。
幸運か不運か。フーの顔を知っているギンガは後一歩の所で今起ころうとしている事態に気づく所だったが、その機会は失われる。何故なら駄菓子屋のおばあさんがフーの事を隠した為である。後唯一真実を知る人間は現場に残された瀕死になった強盗犯1人だけだった。
また、さっきいた場所でどんな騒ぎになっているかもわかっていないフーは、貰った駄菓子を食べながらある物を見つけていた。それはある家の外に置かれていた綺麗に束ねられた読み終えた雑誌。週刊コミックとも言える物だった。
「こふぇ〜なんらろう? 」
口に駄菓子をくわえ、フーはその本を手に取ると、静かに読み始める。しかし急に興奮気味に声を上げ始めるとその本に夢中になり始めた。
「ん〜ん〜お? おおっ!? ふーっふっー……ほふぇ〜」
その場に座りながら前のめりになり、興奮が増すごとに顔を赤く染めながら最後には頭がオーバーヒートしたのかポンっと頭から蒸気が発生したかのように顔をこれ以上ないくらい真っ赤にしながら惚けた。
これは殺し合いしか楽しみを覚えていない彼女が後々救われる一つの分岐点だった。同じ歳くらいの友達もおらず、仲のいい親友もいない。そんな彼女がこの本を見た事は運命に他ならない。ならばそこまで言えるこの本の内容は誰もが知りたくなる所だろう。
だが、あえてその内容はここでは語らない。
代わりに最も分かりやすい物がこの場にはもう一つあるからだ。それはフーがもたれかかっている塀に付けられている表札。
そこに書かれている名を聞けば、このゴミに出されていた本がどんな内容なのか、大方見当がつくだろう。
だからここではあえて、その名だけを……出しておく事で幕引きとする。
その表札に書かれた名は…………
『ティミル』
一方、なのはと青年は砲撃を放ち砕きの意地の張り合いを続けていた。青年がなのはの砲撃を砕いてからはなのはも完全に抑えが効かなくなり、ひっきりなしに砲撃を放ち続ける。
「ディバインバスタぁぁああああああああ!! ディバインバスター! ディバインバスタ! ディバイ……バスタ! ディバスタ! バスタ! バスタバスタバスタ、バスタぁぁぁああああああ!!! 」
《マスター落ち着いてください!? 》
「うっラァ!! ウラっ! ウラウラウラ!!! っておい!? いい加減にしろ!? もうほとんど技名省略してんじゃねーか!? 」
「う、うるさいの! 君なんて一文字だよ! 一文字、これで十分なんだから! ダぁぁあああああああああああ!!! 」
「い゛!? もうただビーム撃ってるだけだそれ!? オっ、るらぁぁあ!!! 」
一見シリアスになっていた場の空気から一転、その場にいたみんなはいつも間にか呆れ果てた目で2人を見ていた。どうしてこうまで噛み合わず、仲違いをするのか。しかも、知らないうちに目的を忘れ、違う戦いになっている。そんな2人をヴィヴィオはどこか安心したような面持ちで見ていた。
まだ望みはある。
(なのはママ……お兄さんが心配なだけなんだ。薄々分かってはいたけど……だったら、仲良くなれる未来だって絶対)
しかしそれが上手く行くほど、なのはと青年の信念は緩いものではない。2人の覚悟は何よりも強い。誰よりも互いを護りたいと思い決別した物同士。
分かり合える。そんな事は断じてなかった。
誰も、2人の心の内にある絶対の信念を知らない。その意味とその覚悟を。
守る為に相手を嫌う。これは生半可な覚悟ではない。青年にしてもなのはにしても根っこは同じでもそれは圧倒的に違う物があった。
誰も知らない。当事者のなのはと青年でさえ、相手の心の内はわからない。だからこそ、2人は現状相容れない。どこまでも平行線ですれ違う。
本当は誰よりも互いを大切に思っているのに。
「はぁはぁ……ちっ! このままじゃラチがあかないな」
「はっ、はぁ、はぁ……ほんっとしつこい! 君はゴキブリの生まれ変わりなんじゃないかな? 」
流石の青年もここまで激しい戦闘になると呼吸が乱れ、息を切らす。いつのまにか、埋まらない筈の差は消え、ほぼ互角と言っていいほどに2人は拮抗し始めていた。ただ、このまま続ければ、間違いなく負けるのは青年あろう。何故ならなのははスタンダードな砲撃以外は使用していない。互角といっても意地になっているだけで、少しトリッキーな戦術を取れば青年を堕とす事くらいわけないからだ。
「もう遊びは終わりだよ。次は……絶対に堕とす」
「あ? っ!? ……ちょっ!? おまっ、たかが1人にどんだけバインドかけてんだ!? ぐっ!? うぐっ!? 」
なのはの目から光が消え、ほんの少しマジになったなのはは青年の両手両足をバインドで固定して、さらにその後チェーンバインドの類でグルグル巻きにし、果てはクリスタルゲージ完全に動きを封じ込めるという力技に出た。
いかに青年の力が強くてもこれは逃れようがない。けど青年はまだ諦めていない。必死にもがき、何とか抜け出そうと悪あがきを始める。
「クソっ、外れねっ!? 」
「無駄だよ……君の力がどこまでかなんて、もう把握してるから。私が闇雲に砲撃を撃ってたとでも思ってた? 甘いよ。だからそれからは抜け出せない。この場に散った魔力も十分……覚悟はいい? 君にはひどい事するようだけど……これで君はもう戦えない。二度と! 」
ギリギリと杖を力強く握りしめ、なのはは集束砲の準備に入った。狙いを青年の左手に定め、外気に大量に散布された魔力が、大きくなのはの元へ集まり始める。
「ちっ……あれくらったら流石にだな……でもかと言ってどうすりゃ」
「スターライトぉぉぉ」
「ダメかっ!? 」
《うるさいなぁ……》
青年がこれ以上ないピンチの時、その声は聞こえた。青年はすぐにその声が何かに気づく。そう、寝ていたアリスだった。彼女は青年となのはの戦闘があまりに激しかったため、無理やり叩き起こされてしまったのだ。しかもその事でかなり御機嫌斜めになっていたアリスは最初に青年と会話をした時とは比べのものにならない程青年に対して攻撃的な悪態をつき始める。
「え……ア、アリス!? おまっ、今頃起きて」
《人が気持ちよく寝てるのに、ドンぱちドンぱちうるさい!! 》
「勝手に寝てたお前が悪いんだろ!? っていうか今そんな事言ってる」
《は? これ以上重要な問題なんかないんですけど? てか空中で砲撃準備してる奴の事言ってるんだったら論外。もう少し頭使ったら? あ、そっか。使える頭ないんだもんね。髪の毛と一緒で。ごめんごめん》
「くっ、相変わらず口の悪いデバイスだな! ふざけんなテメェ!? 見ろよ、どうしろってんだ!? 」
《はぁ〜めんどい……魔力資質解析……逆集束システム……リリ〜ス……はぁ〜超〜だり〜》
「っ!? え……な、何……これ……なっ!? 」
《マスター、集束に干渉されました!? スターライトブレイカーを放つ為の出力が出ません》
ルーテシアの作ったデバイスは彼女の想定していた性能を軽く超え、今目の前で常識を外れた事をし始める。
本来、集束砲撃の準備段階で邪魔はできても、その魔法自体に干渉する事は出来なかった。いや、考えもしなかった事だろう。アリスがやったのはAMFなどの魔法を妨害する行為ではない。
アリスはなのはが集束した魔力。これの回転を逆にした。つまりなのはの元へ集まってくるはずの魔力を逆回転にするシステム干渉でなのはの集めた魔力を自分の元へ集め始め、なのはの集束魔法を完全に無力化したのだ。
「し、集束魔法に干渉って……こんな事できるわけが!? 」
「アリス……お前…………」
《分かった? 今の問題はあいつじゃない。私の眠りを邪魔した事。わかる? いくらハゲでもこれぐらいは理解してよね! すっごく不愉快。ハゲ! バカ! アホマヌケ! 》
「て、てんめぇぇ……いい加減にしろゴラ゛ぁぁぁああああああ!? 」
《うるさい! バーカバーカ! 》
アリスと青年。2人はなのはとの戦闘中と言うことも忘れて互いに口喧嘩を始める。2人はソリが全く合わないようで、その喧嘩はどこまでも止まることがなかった。
「じ、自分の足と喧嘩してる……」
《マスター、あのデバイスは私やバルディッシュのようなデバイスとは異なるようです》
「それってどういう事? 」
《解析の結果、普通のデバイスにない物が組み込まれています。自立型の魔力集束エンジン。おそらく魔力のない彼を考慮しての物だと思われますが、どう言うわけかエンジン内部の集束率がルーテシアの想定していた数値の100倍以上の性能が出ています。とすれば今の事を考慮して、あの子が理論上可能な事は……》
「せ、戦闘中の魔導師が体外へ放出した魔力全てを吸収して無力化できる……それって彼の戦闘スタイルと併用したら完全な魔導師キラーなんじゃ……(ううん。それ以前にあの子の能力は危険だ。もしその情報がテロリストに漏れでもしたら……彼が狙われる)」
なのはは現状の勝負なんかより重大な問題に気づいてしまう。だがそれはなのはだけではない。フェイトや管理局に勤めている誰もがその事を思った事だろう。
偶然生まれたアリス。その存在の危うさに。
ただ本人はそんな事全く気にもしていない。それを所持している青年も。
しかしアリスの性能は開発したルーテシアでさえ把握できないほど飛び抜けて、バグっていた。魔力を吸収して相手の魔法を無力化。これだけならば攻撃力のないアリスは相手の邪魔しかできない。でもそれは間違いだった。なのは達が思い違いをしている攻撃力の無さ。だからこそ仮にテロリストに狙われた場合、抵抗しようのないアリスは青年に守ってもらう他に方法がない。その為彼女達は彼が危険な目にあうのではと感じているのだが、それはアリスの性能を理解していないが為に起こる仕方のない勘違いだった。
何故なら……
「このっ、ぶっ壊すぞお前!!! 」
《は? ハゲが私に勝てるとでも思ってるの? 片手もないのに偉そうにしないでくれない? 私がいないと満足に歩く事もでいないじゃん! ぷっ、ダサ〜。へへっ、バーカバーカ! ハゲ! このハゲハゲ! 》
「こぬっやろぉぉ……」
《もういいや。私眠いから静かにして! 集束魔力放出……》
「もうあったまきた、1発ぶん殴って……は? い゛っ!? ちょっおまっ、何して!? うがっ、あばばばばばばばばっ!? 」
何故なら彼女は、ある条件下では無類の攻防を誇るむしろ攻撃特化のデバイスなのだから。
《私だけの世界》
「あれ……は? えっ!? 」
《マスター退避してください!? 》
アリスが何かを呟いた時、アリスを中心に黒い半円状の空間が大きく拡大し、その瞬間なのはと青年はその空間に呑み込まれる。
そして……青年の意識はブラックアウトした。
次回もよろしくお願いします。