ヴィヴィオはそれでもお兄さんが好き   作:ペンキ屋

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ども〜


毎度遅くなっております。


ではでは〜よろしくお願いします!


第18話【少女の悲願】

「ハッ!? ……ここ……は? うっ!? ……さ、寒い……それに、あいつはどこに? 」

 

気がつくと、ドス黒く全てが漆黒に包まれた世界……その浜辺にティアナはいた。そこでは全てが黒く、暗く、何より冷え切っていた。

 

山も海も森も……花も、はたまたティアナの真上に広がる空でさえ……全てが漆黒の空間。彼女の体感では死の国といっても表現としては間違っていない。ここにいる存在全てが死んでいるような、そんな空間だった。

 

「これがあのバケモノが創り出した空間なのだとしたら……ぁ……か、考えただけで……悍ましずぎるわよ……早くあいつを見つけ」

【どこに行こうと言うの? ティアナランスター? 】

 

「っ!? ……ぁ……ぃ……」

 

ティアナは突然背後から聞こえた声に驚き振り向くと、その瞬間言葉を失った。そこには鏡の中でしか見えていなかった緑髪の少女が立っていたのだ。しかも、気がつくとティアナは少女に自分の手を掴まれている。ティアナが少女を確認して、少なくても2人の距離は5メートル以上は離れていた。

しかしティアナが恐怖でほんの一回まばたきした瞬間、少女はティアナの目の前に移動し、彼女の手を掴んでいたのだ。

 

「ひっ!? ぃ……いやぁぁあああああああああああああ!? 」

 

自分に触れられている。実体が目の前の怪物にはある。これによりティアナの恐怖はもう限界を超えてしまい、逃げなければいけない状況で腰を抜かしてその場に崩れ落ちる。

 

涙を流し、唇を震わせ……手や足、やがて全身を震わせ始める。そんな彼女をイービルΩは無表情で口元だけ笑みを見せ、ティアナの両手を彼女の胸元へ寄せながら自分の両手で包み込んだ。

 

「ゆる……してぇ……く……ださい………」

【あらあら? どうしたの? そんなに震えて? 私は貴方の手を握ってるだけよ? それにそんな丁寧な懇願なんて貴方らしくもない。それとも……私には生意気な言葉を吐けない? うふふ、可愛いぃ〜? 】

 

「ぁ……ぃゃ……し、死にたく……なぃ……」

 

【だぁ〜め! 貴方をここで殺さないと都合が悪いんだもん。貴方は私を認識してしまった……だから邪魔になる。けどそうね? ただ死ぬのも……貴方は嫌だよね? 】

 

「え? 」

 

【冥土の土産にいい事教えてあ・げ・る】

 

そう言うと少女はティアナの耳元まで顔を近づけ、細々と小さくハッキリした声でティアナに話し始める。だが、その内容を聞くたびに、それを頭が理解していく度にティアナは正気を失いそうな程の感情に支配された。

 

 

 

 

 

 

 

狂気。

 

 

 

 

 

 

何より少女の存在はティアナの理解を完全に超えていた。これから起こすであろう行動、その思考が理解できない。だから彼女は細く流れていた涙を徐々に増やし、いい大人が大粒の涙を流す。泣き喚き、それ聞く度に少女は笑う。満面の笑みをこぼしながら喜びという感情に浸る。

 

 

【人間って面白いの……人はどうして何年、何百年経っても変わらないと思う? その形や考え方。草木を殺し、他の生物を喰らい……自分より何倍も強い存在でさえ、高度な知恵で殺す。ふふ、これはどんなに時が経っても変わらない。人間の強さと残酷さ。どんな生物でさえ、多種族を滅ぼさないと生きていけない。弱い種族が滅びる。私の種族がそうだったようにね? だから……次は貴方達の番】

 

「ぃ……ひぐっ……ぃゃら……」

【私は生きたい。生きて生きて……どんな手を使ってでも生きて生きて、生き続ける。でも……私は今幸せ。アッハハ、わかる? 私がこの数百、数千年で今何が一番の幸せなのか? 私の愛しの宿ぬし様と出会えたからよ? 今まで誰1人としていなかった……純粋に私と同じ願いだけを願った人間は。だから……私にとっては彼の存在はチャンスってわけ。うふふ、あっははは! ……今度は私が滅ぼしてあげる。私達は貴方達人間に滅ぼされたんだから……文句なんてないでしょ? ないよね? そしてね? 私は私の種族を繁栄させるんだぁ〜。でも安心して? その為には彼が必要だから……彼と私のこ・ど・もを作る為にね? 】

 

「う、うわぁぁ……い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁっ……」

 

 

【泣き叫んだってダメよ? ふふ、人類は滅びるけど血は絶えないわ? だって彼がいるもの。私と彼の子供だって立派な……『新人類』と呼べるでしょ? それが例えどんな存在であっても……ね? さて、お喋りが過ぎたわ。そろそろ殺してあげる】

 

少女は笑ってない目で怯えるティアナを見つめながら拳を握り、狂気で口元を緩ませる。ティアナは恐怖でおかしくなりながらも完全に理解した。スカリエッティの言っていた事は現実のそれで、もはや一刻の猶予もない。誰にも悟られずに動き出していた怪物は人知れず力を蓄えていたのだ。

 

人を……人間を滅ぼす為に。

 

 

同種族がいないイービルΩはもはや死に行くしかない。だが、人類という生きる為に必要な共存種でありながら1番の天敵を排除する事で、彼女の目的は果たされる。

彼女の行動目的は生きる事だからだ。しかしそれは何も自分がという意味だけではない。イービルΩという存在がこの世から絶えず生き続ける。

 

種の繁栄。それが彼女の最大にして最後の悲願だった。嫌いになりたくなくても憎い。生きる為に必要な存在であっても許さない。彼女の中で、人類は完全に仇敵になっていた。

 

 

【アンリミッド……リブート】

 

「ぁ……ぅ……おね……がい」

 

【はい? 】

 

イービルΩの右拳が蒼く光り、まるで何かを吸収して渦巻くように段々と大きくなる。そしてそれを見たティアナは少し俯くと、自分を諦め覚悟を決めた。自分にできる最後の命乞いをする為に。

 

【なに? また許してくれとでも言うの? ふふ、愚かね? くどいよ! 貴方は死ぬ! この世からチリも残らない程に】

 

「私だけ……」

 

【は? 自分だけ助けてくれとでも言うの? 興醒め……そこまでつまらない人間だとは思わなかっ】

「殺すなら殺しなさい! でも私だけにして! 私だけで終わらせて!? お願い! 他のみんなには……仲間に手を出さないで!? 」

 

【っ!? ……は……はは……あは! あっはははは!! 】

 

少女を見る真っ直ぐな眼差し。ティアナが恐怖しながらも覚悟を決め、最後の抵抗を見せた。イービルΩはその覚悟を真っ向から受け、思わず笑みをこぼし、堪えきれずに吹き出し笑う。

 

だがそれは決して馬鹿にしてなどではなかった。

 

何故ならイービルΩ……彼女自身、その覚悟を尊重するだけの慈悲は持ち合わせている。彼女が憎むべきは人間であってティアナではない。彼女もそれはよくわかっていた。

 

【は〜あ! ごめんごめん。思わず笑っちゃった。貴方を尊敬するわ! ティアナ・ランスター? ここまで恐怖しながら…最後に仲間の命を願うなんて。……オメガ……】

 

 

「え? 」

 

【オメガ・イービルルゥス・ジェノサイドルーパー……それが私の名前。ティアナ……貴方に敬意を表し、私の名と……せめて痛みを感じさせずに殺してあげるわ! それが私からの唯一できる……優しさ】

 

 

少女はそう言うと、今まで見せたことない程優しい顔をし、蒼く渦巻く右手を再び構え、それをティアナへと振り下ろした。

 

拳が通った大気は死に……風すら起こらない。ティアナはその光を見ているだけで何をしても自分は死ぬのだと悟った。目を閉じ、外の世界にいるであろう仲間の事を考え、もう涙すら流さない。

 

【物理分解……パラドックス・ジェノ・インパクト! 】

 

「みんな……」

【……っ!? え…………】

 

音もなく、また衝撃もない。ティアナはイービルΩの抜けた声と共に目を見開いた。しかし目の前の状況が信じられず、その目から再び涙を流す。

 

恐怖や後悔ではない。喜びと言われればそれもまた違う。

 

それは圧倒的な安堵による涙であった。

 

「ワン……せん……ぱい」

 

「あ? なんだ? お前らしくもない。久々に聞いたよお前の口から先輩だなんて」

 

イービルΩの拳による一撃。でもそれはどこからか現れた青年の左手の中に吸い込まれていた。拳を放った少女は驚いて固まり、青年もティアナに先輩と言われ信じられないような顔をする。

 

【どうやって……隔離した結界から】

 

「あ? 拳で叩き壊したわ、そんなもん。それより……あんま俺の後輩イジメんなよ」

 

【イジメる? ふふ、私は殺そうとしたのよ? それをイジメる? 甘い。甘いよ。そんなんだから……貴方は強くなりきれないんじゃない! 】

 

「確かに俺は強くなんてない。俺の強さなんて、ほとんどお前の力だしな。だがな? 力に溺れて……誰かを殺すよりは……ずっといいと俺は思ってる。お前の事は気に入らないが……感謝はしてるんだぜ? 今まで……多くの命を守れた。助けられた。それはお前の力があったからだ。だから……もうやめてくれ。俺の前で……仲間を傷つけないでくれ」

 

【なら……止めてみればいい。貴方を殺すわけにはいかないけど……思い知らせる事はできる。貴方は愚かなのよ……優しすぎるの。貴方の中にいる私は……貴方の感情をダイレクトに感じ取れる。だからこそ納得できない部分はある……せっかくだから言ってみなさいよ。私が納得してないその感情。私に対する想い! ぶつけてみろぉおお!!! 】

 

 

少女は青年に拳を掴まれたまま体を回転させ、ガードする手段のない青年の右側へと回し蹴りを放った。まるで集束砲を放ったかのような衝撃とそれによる砂埃。青年の姿はそれで消え、ティアナは思わず目を瞑った。

 

ここから……ティアナは思い知った。2人の戦いは自分には決して介入できない。援護もできず、行動するだけで青年の邪魔になる。彼女は今自分の無力さを思い知っていた。

 

「うぐっ!? う、ラァ!! 」

【はは! なにその軽い拳? それで攻撃してるつもりなの? それとも本気で撃ち込んでこれないの? 私に気を使ってくれてるのかな? ナメんな……お前の力なんて私の足元にも及ばない】

 

青年は拳を何度も放った。本気ではなく、ほんの挨拶がわりに。だがイービルΩの力は青年力を優に上回る。実力など鼻から比べる事も愚かしいほどに。

しかし彼女は知らない。青年がどんな覚悟を持っているかを。その覚悟が今青年の中で何を呼び覚ましているかを。

 

「ぐあっ!? 」

 

【あっはは! 貴方は!!まだ『覚醒すら』していない! 私の力を10%も引き出せていない! 4年前も! 今も! それで、どう私を倒そうというのか!! 】

 

「倒す……気などないさ」

【なっ!? がっ、は……】

 

元々勝負にもなっていない2人の戦いは、圧倒的にイービルΩの方が優勢だった。青年は拳を叩き込まれ、撃ち負けていた。しかし刹那、興奮して声を荒げる少女の拳をカウンターするように青年が紙一重でかわし、少女のお腹にその拳を放つ。

痛みより今。考えるより今。イービルΩは驚いた。本来なら決してありえない事。それがイービルΩの目の前で起こっていた。

 

彼女の体にダメージが残る。その皮膚から衝撃が体に通る。こんな当たり前の事自体彼女からすればありえない事であった。

 

 

【私のから……だに……痛み? そんな……馬鹿な……一体なに……っ!? え……んふ……ふふ。そう……ずっと貴方の中にいたのに……全然気づかなかった。ほんっと……運命よ。貴方は……本当に最高。しかたなくなんて……もう言えない。こんなに心を揺さぶられたら……惚れるしかないや。……いいわ! その子は殺さないであげる。今はね? そのかわり教えて? 貴方の『あの感情』の理由を……】

 

「あの感情? 」

 

【私をクソ因子って呼んでた時、貴方が死のうとした時……貴方から感じた私に対する感情】

 

青年が彼女と拳を交え、彼女に喰らわせることが出来たのはたった拳1発。しかし彼女はそれで全てを悟った。青年の可能性と自分との運命的な巡り合わせ。

 

「ああ〜……その……だな。口では散々ボロクソ言ってたが……実はその……あの……だな? はぁ……お、俺は……お前が大好きだ! 」

 

【っ@¥&//!?? 】

 

 

時として言葉はアルカンシェルよりも破壊力がある。彼女はその言葉を直接言われた事で両手で顔を抱えながら自我崩壊を起こした。ぷすぷすと頭が沸騰し、顔を真っ赤にしながら本日最大のキャラ崩壊をし始める。

 

【にゃ、にゃにゃにゃに言ってりゅの!? 】

 

「何って……俺の素直な気持ち」

「ぎゃぁぁああああああああ!? うるしゃい!? 黙りなさい!? もう出てけぇぇぇええええええええ!? 」

 

「おいっ!? 」

「きゃっ!? 」

 

イービルΩが叫んだ直後、2人はこの空間から消えた。その場に彼女1人を残して。だが彼女はまだ顔を赤くしたまま息をらせてその場に座り込む。そして青年はその場にいないが故に彼女の漏らした言葉を聞けず、知る事もなかった。彼女が見つけた運命的な青年の可能性。

 

青年が本来有する筈の……

 

 

彼自身の力の一端を……

 

 

 

【へへ。あんな顔もするんだ。意外とカッコイイかもね。ふふ、素敵。大好き……だって? えへへ! ……にしても〜まさか……彼がレアスキルを持ってたなんて……しかも、私と同じ力。物理干渉能力……パラドックス・シフト…………】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!? ティアナ!? 大丈……へ? 」

「あ、起きた! なかなか起きないから心配したんだよ? ヴィヴィオのお兄……じゃなかった、大好きなお兄たまぁ〜」

 

「な……なな……なんだこれ……なんだこの状況……誰か説明して……」

 

 

漆黒の空間から消え、最初に目を覚ました青年は彼の為に用意された部屋のベッドの上にいた。飛び起き、ティアナは大丈夫なのかと探すが、ティアナはそこにはいない。けど1人でもなかった。そこにいたのは青年だけではなく、何故かリオが寝ている青年を馬乗りにしていた。

 

「リオ……だったか? その……何をしているのか聞いてもいいか? そ、そんな格好して……」

 

「リオね? お兄たまともっと仲良くなりたくてね? 遊びに来たんだよ? ちょっと恥ずかしいけど……お兄たまが喜んでくれるかと思って」

 

 

リオは顔を赤くしながら恥ずかしそうに言葉を続ける。なれない口調と自分の呼称を使いながら、無自覚なコロナの刺客となる為に行動を続けた。寝ていて動けない青年の体に自分の体を滑らせ、青年の顔に自分の顔を近づける。

 

ただリオが変な口調とこのような行動をしただけなら青年もイタズラが過ぎるとお茶目に注意している事だろう。しかし今の状況は青年の思考を完全に停止させていた。何故ならリオの格好はパジャマや制服、普通の私服ではない。

 

純白のスク水に……黒のニーソ、そして猫耳。まるでロリコンが喜ぶ物を片っ端から詰め込んだような恥ずかしい格好をして青年の上に乗っているのだ。

 

「お兄たまぁ? リオとぉ〜もっと〜も〜っと仲良くしてくれる? 」

 

「リオってこんな子じゃなかった気がするんだが……いや……待てよ? 突然言動や行動が変わって? 俺に訳の分からない誘惑をし始める? ……ハッ!? ……まさか……い、いや。憶測だよ。流石に……だよな? 」

 

青年は何となく気づいたが、信じたくないあまり現実逃避をし始め、考えるのをやめた。

 

 

だが……

 

「う、う〜と……ここからどうするんだっけ? 確かコロナの本には〜」

「……」

 

「ん? あれ? どうしたの? お兄たまぁ? 」

 

「くっ……あ、あんニャロめぇぇぇ……クソっ!? またお前かぁぁああああああああ!? コぉぉぉぉぉおおおロぉぉぉぉおおおナぁぁあああああああああああ!? 」

 

 

こうして青年の受難は続く。





もう少しリオのターンは続きますが、ご賞味あれ!


次回もよろしくお願いします。

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