ヴィヴィオはそれでもお兄さんが好き   作:ペンキ屋

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ども〜


今過去編も書いてますが、出来次第投稿します。ただ、この作品の下に章分けて投稿しようか別で投稿しようか悩んでるところではありますね。

まぁ〜そんな事はさておき!


ではではよろしくお願いします。


第2話【ツンデレなお兄さん】

「お兄〜さ〜ん! しばらく来てませんでしたけど、生きてますかぁ〜って死んでるわけないけど。……あれ? いつもならドア開けてくれるんだけどな? お兄〜さ〜ん! お兄〜さ〜ん! ん? 返事がない……寝てるのかな? 」

 

ヴィヴィオが青年の家を飛び出してから1週間。ヴィヴィオは久しぶりにこの部屋を訪れた。そもそもお兄さんにベッタリのヴィヴィオがいつまでもヘソを曲げているわけもない。本当なら暇さえあれば青年に会いたい程の懐きっぷりなのだから。

しかし青年はヴィヴィオがいくらドアの前で声を出しても外へは出てこなかった。こんな事は初めての事でヴィヴィオは首を傾げたまま考える。そしてなんとなくドアノブに手をかけたヴィヴィオはドアに鍵がかかっていない事に気がついた。

 

「開いてる……お兄〜さ〜ん。お邪魔しますよぉ〜……え、何これ…………お、お兄さん!? 」

 

ヴィヴィオはドアを開けてすぐ、その異変に気がついた。玄関に置いてある小さ目の下駄箱が壊れていたのだ。それも古くて壊れたというよりも殴って壊したかのような痕跡。ヴィヴィオは狭いが部屋の中へ駆けていく。するとそこにはグッタリとし、うつ伏せで布団に倒れている青年の姿があった。

いつもならついているはずの義足もその足にはついていない。しかも取ったというよりは根元が折れたかのようで、ヴィヴィオは恐る恐る青年の横へ座るとその体を揺すった。

 

「お兄さん? お兄さん? 」

「うっ、ん? ヴィヴィオ? ……なんだ……勝手に入って来て……どうしたんだ? 」

 

「だってお兄さん出てくれないんだもん。……なんかあったの? 」

 

「……いや、なんもない」

 

「でも義足が」

「なんもないって〜の」

 

青年は何もないと言い続けた。だがヴィヴィオはその時それが100%嘘である事を理解した。うつ伏せで彼女の顔を見ようともしない。ただ左手の拳が強く握りしめられていた。ギリギリと震え、何かに悔しがるようなその姿。ヴィヴィオはそっと……握りしめられる左手に両手を添えると軽く力を入れ、青年の手を包み込む。

 

「なんだよ…………」

「ううん……なんでもない。お兄さんがなんでもないなら、これもなんでもない……でしょ? 」

 

「クソっ……ガキの癖にどうしてこう…………」

 

「えへへ、少し生意気でしたぁ? 」

「いや……サンキュー

 

「え? お、お兄さん今なんて言ったの!? もう一回、もう一回聞かせて!? 」

 

「ふん、誰が言うもんか」

 

青年はこの時暖かい気持ちになっていた。お節介でも自分を慰めようとしているヴィヴィオに青年は感謝する。そして、やっとヴィヴィオの方を見た青年はある事に気づいた。それはヴィヴィオが見せている笑顔。それが少し曇って見えたのだ。

勿論普通の人はそれに気づくことはマズない。いつもヴィヴィオを見ている青年だから気づく事だった。

 

「お前の方こそ、なんかあったんじゃないのか? 話せよ」

 

「え〜自分の事は話さないのに私には話せって言うの? お兄さんそれはずるいんじゃないでしょうか! あてっ!? 」

「ガキがアホな事言ってんな! 別に話したくなきゃいいんだぞ? 」

 

ヴィヴィオは冗談半分で青年にカマをかけるが青年は話そうとはせず、ヴィヴィオの頭を小突くとそっぽを向いた。

 

「嘘嘘!? 話します、聞いて欲しかったんですよ。えへへ〜」

 

ヴィヴィオはいつものように青年の膝を枕に甘えモードに入ると少しトーンの落ちた声で何があったのかを話し出した。自分がある人とスパーリングをして相手を怒らせてしまったと言う内容だ。ヴィヴィオ本人は気にしているようだが、青年はそれを聞き、軽く彼女の頭を叩く。

 

「あいたっ!? もうまた叩いた!? お兄さんもっと優しくしてよ……私女の子なんですよ? 」

「誰がお前なんかに優しくする、か! 」

 

「あべしっ!? 」

 

2人のやり取りはまるでコントだが、今のヴィヴィオにはそれが何より嬉しく感じた。怒るでも慰めるでもない。普通に自分の愚痴を聞いてくれる青年に。

 

 

「まったく、お前は気にしすぎなんだよ。それだって単に相手がお前の全力を見誤ってただけじゃねーかよ」

 

「でも…………」

 

「どうせお前んとこの先生さんはそいつともう一度試合でもできるように何か手を回してんだろ? 」

「え、どうしてわかったの!? 」

 

「お前んとこの先生さんのやりそうな事は分かるっての。だからそん時に……お前の全力、伝えてやればいいだろ? 違うか? 」

 

ヴィヴィオはそう言われ、静かに目を閉じながら頷いた。ヴィヴィオにとってみんなが青年を嫌う気持ちはわからない感情ではない。彼女にとってもその当事者であり、今この状態にならなければ自分はどうなっていたかわからない。確かに嫌われて苦しいのは青年には違いないだろう。しかしその間にいるヴィヴィオはそれと同じぐらい苦しかった。みんなが好きだが、青年と母親達のみぞは深く埋めるのは難しい。ヴィヴィオはそんな関係での板挟みになっている。

 

だが同時にそうなっているからこそ、青年はヴィヴィオに対しては完全に突き放せない。自分なんか放っておけとそこまで強くは言えない。自分が選択した事で起こったこの状況が、他ならぬ自分の所為だと思い込んでいるからだ。

なのは達だけならともかく、関係のないヴィヴィオにまで辛い思いをさせるわけにはいかない。でもそれは仕方がない事で、青年がなのは達との関係を修復しない限りは解決しようもない事だ。

 

「お兄さん……私のお願い……聞いてくれる? 」

 

「やなこった」

「私まだ何も言ってないんですけど? 」

 

 

ヴィヴィオは断った青年にジト目で反撃をし、あざとくも少し涙目を見せる。そうされれば青年が堕ちるのも必然だ。しかもヴィヴィオはそのまま頬を膨らませるというパワープレイを始め、青年は簡単に堕ちた。

 

 

「……たくっ、分かったよそんな目で見るな。い、言ってみろよ」

 

「やた! え、えっと……私とアインハルトさんの試合見に来て……くれませんか? 」

 

「…………」

 

その願いに青年が答える事はなかった。しばらく沈黙が続き、その沈黙に耐えかねたヴィヴィオが少し残念そうな声で、喋り始める。

 

「そうだよね……ダメ……だよね」

 

青年にしてもこの程度の些細な願いは叶えてやりたいと思っているのは通りだ。しかしそうなった場合、確実に会わなければならない人間ができてしまう。ヴィヴィオにストライクアーツを教えている先生でノーヴェ・ナカジマという女性だ。

ヴィヴィオ的には仲良くしてほしい人間の1人なのだが、彼女を含めその家族、ナカジマ家の女性達とは青年は特に仲が悪い。正確に言えばナカジマ家の彼女達の方が青年に対して負い目を感じている為気まずいのだ。

理由は多々あるが、一番大きいのは彼の右腕だろう。直接の関係はないとは言え、4年前の事件でその中心にいた彼女達は青年の失ってしまった物に少なからず罪悪感を抱いているのだ。

 

「あ! お兄さん頭ズレてますよ? 」

「なにっ!? ……おい……どこもズレてないぞ? 」

 

「えへへ、嘘ですよ〜あたっ!? 痛、いたタタタタ!? お兄さん痛い!? 冗談!? 冗談ですから!? 頭グリグリするのやめてぇぇ!? 」

 

「頭の事をなじるなと何度言えばぁぁ! 」

「お兄さんギヴっ!? ギブ!? 痛い痛い!? 」

 

青年は膝に乗せているヴィヴィオの頭、その右側のこめかみを左拳でグリグリと押し付け、膝と挟んで万力攻撃を始めた。実は青年に対して決して言ってはいけない事が1つある。それは青年の頭のついての事だ。彼の頭はズラであり、その下には髪の毛は一本もない。当たり前だがわざと剃っているのではなく、とある理由から青年は髪の毛を失っており、毛根から髪が生えることは2度とない。その為、頭の事を言われるとその煽り耐性は0。すぐにキレるのだ。

今はヴィヴィオだからこれで済んでいるが他の人がこれをやるとタダでは済まない。その証拠にかつて青年の頭を必要以上にいじった事があるどこかの元部隊長は地獄をみた。

 

「あうぅぅっ……痛いよぉ〜。……そんなに怒らなくてもいいのに。私はありのままのお兄さんが好きだよ? 私はズラがない方がカッコいいと思うですが〜」

 

「……う、うるせ! 馬鹿言うな」

 

「む〜お兄さんのツンデレ! 」

「デレてねー! と言うか男のツンデレはどこに需要があるってんだ? 」

 

「はい、は〜い! ここにいま〜す! 」

 

どこまでも純粋に、素直に、真っ直ぐ好意を示すヴィヴィオには青年は決して勝てない。だから青年はすぐにヴィヴィオから顔を背ける事がしばしば。

 

「そう言えばコロナがお兄さんに会いたがってたよ? 」

「げっ!? マジかよ……う〜ん……ヴィヴィオ? 」

 

「はい? なんでしょうか? 」

 

「絶対にここには連れてくるな! 俺は会いたくない! そう伝えとけ」

 

「あはは……そんな事言ったらアパートごとゴライアスで潰しにきそう」

 

「やめろ、冗談に聞こえない」

 

2人の話だけ聞けばコロナと言うヴィヴィオの友人は過激な子に聞こえるが実際そんな事はなく、とても優しくて大人しい女の子だ。しかし青年が絡むとそれは違う。ヴィヴィオと付き合いが深いコロナは自分の趣味が高じて理不尽にも青年の存在を嫌っている為、すぐに青年に対して半殺しまがいの行為を始めるのだ。

だがヴィヴィオにはジャレているようにしか見えない為、未だにコロナの真意には気づいていない。ましてや、コロナの趣味の真の意図を知っているのは他ならない青年だけなのだから。

 

「お兄さん……今日泊まってもいい? お兄さんともっといたいから」

「ダメだ。せめて休みの日にしろ。じゃないと俺が殺される」

 

「う〜ん……もう遅いかな。なのはママにメール送ってしまったので」

 

「なん……だとっ…………ハッ!? き、気の所為か? 外が光ってる気がするんだが……ピンク色に」

 

「お兄さ〜ん、お邪魔しました。私帰るね! また来るから」

「ちょっと待てぇぇぇ!? あれ確実に砲撃しにきただろ!? 」

 

ヴィヴィオは逃げるように青年の部屋を出るとすぐさま走り出した。当然、外で誰が襲撃しにきたか理解している為、光っているベランダの窓を部屋を這いずりながら開ける。するとそこにはバリアジャケットを羽織ったなのはがエクシードモードで砲撃をチャージしていた。青年は一気に真っ青になる。

 

「お、おいなのは? 馬鹿な真似はやめろ? ヴィヴィオの奴なら今帰ったから、な? 」

「ロリコンの言い訳は聞こえないよ。全力全壊なの! 」

 

「ですよねーってアホか!? 誰がロリコンだ!? ……な、なぁ? 一応確認するが……本気か? 」

「死ね! 」

 

「ちょっ、まっ!? ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!? 」

 

瞬間青年の部屋だけ器用に砲撃が直撃するとお風呂場のキノコ以外が半壊した。けど半壊したのは青年の部屋だけで他の住人には被害はない。かのエースオブエースが関係ない人間に被害を及ぼす程彼女の腕は低くはないのだ。

そして現状義足が壊れて逃げる事ができなかった青年は黒焦げになり、部屋で気絶。次の日大家さんに死ぬほど怒られた。当たり前だが修繕費諸々は青年持ちであり、割と少なくなりつつある貯金は痛手というしかないだろう。

 

「はぁ〜全く、義足もまだ新調できてないのに……なんで出かけないといけないのかね? ……仕方ないか。お願いされたもんな」

 

青年はあらかじめ聞いていたヴィヴィオとアインハルトの試合の日、左手で松葉杖をつきながら片手片足で器用に外へ出かけた。もともと筋力は常人以上の為この状態で出かける事はなんの問題もない。ただ問題があるとすれば、この状態では自動販売機で飲み物1つ買う事ができないということだけだ。勿論普通の買い物にしても義足がなければできない。そういう面では今の状態は不自由以外の何物でもないだろう。

 

青年のアパートから人気のない試合の空き地までは距離がある。歩いて1時間。青年は少し早く出てゆっくりとその場所へ向かっていた。そして到着して早々、青年は見知った顔揃いのギャラリーを見つける。バレないよう建物の陰からヴィヴィオがいる事を確認するとそこを定位置に壁にもたれかかりながらその試合を見届ける。

 

「つーかノーヴェのやつだけじゃねーじゃねぇか。これじゃ余計出て行きたくねぇ〜………っ!? 」

 

試合が始まり、ヴィヴィオとアインハルトが大人モードと武装形態へと変わった。しかしそれを見た瞬間、青年の顔色は変わる。見た事のある人間がヴィヴィオと試合をしているからだ

 

「マジか……ヴィヴィオの相手って俺を襲った通り魔じゃねーかよ。けどまぁ……ノーヴェ達いるから心配しなくても大丈夫か。それより、この間はあんな事言っちまったがあいつはヴィヴィオより確実に格上だ。ヴィヴィオで勝てるか? 」

 

青年は独り言のようにそう呟いたが、すぐさま自分の顔をグーで殴る。それも生半可な力ではなく、鼻から鼻血が出るほどだ。青年がなぜこんな事をしたかは、簡単だ。自分の馬鹿さ加減に喝を入れたのだ。

 

何故なら青年は…………

 

 

「俺があいつを信じてやらねーでどうするんだか。絶対あいつの前じゃ言ってやらねーが……頑張れヴィヴィオ。お前なら、絶対気持ち届けられるよ」

 

誰よりヴィヴィオを信じているからだ。

 

こうして役者の揃ったギャラリーの見守る中、ヴィヴィオとアインハルトの試合が始まった。

 

 




次回もよろしくお願いします。

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