ヴィヴィオはそれでもお兄さんが好き   作:ペンキ屋

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ども〜


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ではよろしくお願いします。


第3話【戻れない過去】

ヴィヴィオとアインハルトが戦ってる最中、青年は1人ヒヤヒヤしていた。アインハルトが強いのもそうだが、青年はヴィヴィオがここまで戦える事を知らなかった為、内心驚きながらもヴィヴィオが怪我をしないか心配していた。

 

「ヴィヴィオ……なかなかやるな。そういえば話しか聞いてないからあいつの戦ってる所初めて見るかもな……っ!? ……おいおい…………」

「両手を上げてこっちを向きなさい! 」

 

「はぁ……たくっ、見ればわかるだろ? 俺松葉杖使ってるんだぜ? 片手もないし、義足もないから左足もない。このままお前の言う通りにしたら転んじまうって……相変わらずのそのSっ気なんとかならないのか? 管理局期待の執務官殿? 」

 

青年がギャラリーの後ろで、建物の影隠れながら見物してた時、後ろからカチャリと何かを突きつけられる音がした。そして続くように聞こえた声で青年は後ろを振り返らなくても誰だかを理解する。

それは管理局の執務官。ティアナ・ランスターだ。デバイスであるクロスミラージュを青年の後頭部に突きつけ、まるで犯人に忠告するような態度を見せる。

 

また青年の方から見ればギャラリーの中にまだ彼女がいるが青年は驚いた様子はない。だがそれは彼女なら気づかれずにできる芸当だろうと知っての事だった。

 

「フェイクシルエットか? て言うか頭に突きつけてる銃おろしてくれませんかね〜? まさか俺が誰だかわからないわけじゃないだろうに」

 

「黙りなさい! どうして貴方がここにいんのよ。誰かがこそこそしてると思えば……よく平然と私達の前に顔出せたわね! 一体どう言うつもり? 」

 

「別に俺が顔見せたわけじゃねーし。お前が俺の方に来たんじゃねーか。それとも何か? 俺はお前らの許可なしにお外を歩いたらいけないのでしょうか? 」

「うっさい!! あんたが悪いんでしょ!? あんたが……ごめんなさい言い過ぎた」

 

ティアナは突然少し俯きながらクロスミラージュを下ろす。彼女は青年を見つけ、冷静さを欠いた。現役の執務官としてはあるまじき態度だが、相手が青年に限っては仕方がない事だろう。

 

「いや、元はと言えば俺が悪いわけだしな。気にするな。俺はただヴィヴィオに……散歩だ散歩! 」

 

「下手な嘘にも程があるわよ……ヴィヴィオって出た時点でなんとなくわかったし。はぁ、もうあんたの顔なんか見たくなかったなぁ〜」

 

青年は未だにティアナの方を見ない。だがティアナには青年の背中が彼の表情の代わりだ。今自分が言った言葉をどう捉え、どう感じているのか。さすが現役執務官ともなれば見知った相手にもカマをかける。実際青年の同僚だった人間のほとんどがティアナのように顔も見たくないと言っているのだが、それは青年が未だに誤解されたままだからだ。誰1人として青年の4年前の真実を知らない。

 

なんの為に、どうして仲間を裏切るような形を取ったのか。ただここで勘違いしないでもらいたいのは裏切ると言う意味は、管理局の仕事上敵に寝返ったという意味ではない。仲間との絆と信頼を裏切ったという意味だ。

 

「悪かったな。俺だって家から出たくなかったさ。誰か見知った顔に会うと……お前のように不愉快にさせる。でも……あの子の事だけは……裏切るべきじゃない。そう思って……さ」

 

「はぁ……もうため息しか出ない。今の言葉それだけで不愉快よ。どうしてあんたは……そんなに自分を蔑むの? 嫌うの? みんなあんたの為にあんなに必死で……それなのにあんたは自分で自分を殺そうとした。それでどんなにヴィヴィオが……なのはさんが傷ついたか。あんただってわからないわけじゃ」

 

「当たり前だ!? それにだからどうした! 俺はあの時誰がどんなに傷つこうが何1つあの時の事を悔いるつもりはない。だってそうだろう? 俺はなんだ? 人か? 人間だと言っていいのか? ゆりかごに放った数発のアルカンシェルでも俺が失ったのは右腕だけだ! この世の誰が俺を人間だと認めようと俺は認めない! 認めるわけにはいかない。お前らは……何も知らないんだ。わかってない。俺が生きてることがどんなに危険なのか。もし……ただ1つ……ただ1つだけ悔いることがあるとすれば……あの時ヴィヴィオに見つかった事だ…………」

 

青年は少し興奮気味に声を荒げる。過去の断片を思い浮かべながら思い出したくない過去を蒸し返す。青年の背中が語る表情はティアナにそれ以上の言葉を許さなかった。かつての自分の先輩。なのは達同様、尊敬してやまない存在。それが今はこうも落ちぶれている。ティアナは見ていられなかった。

静かに目を閉じ。ゆっくりと青年の横を通りみんなのいるギャラリーへ戻ろうとする。

 

しかし次の瞬間、ティアナのいる場所に衝撃と土埃が吹き荒れた。

 

「覇王……」

 

「とっ! あれはマズイな!? 間に合え、よ!! 」

「っ!? ちょっ、きゃっ!? ……ごほっ!? ごほっ!? なんなのよもう。はぁ……まったく……アホみたい。それだけ誰かを想える存在が人間じゃないわけ……ないじゃない…………」

 

衝撃と土埃の正体は青年が右足で思いっきり踏み込んだ為だ。松葉杖で片足もない状態で青年は今使える自分の力を全て注いである方向へロケットのように飛んだ。

それは戦ってるヴィヴィオに後ろ。その建物の前。2人の戦いは青年とティアナが話してる間に先へ先へと進み、決着がつこうとしていたのだ。ヴィヴィオの渾身の拳が受け止められ、代わりにアインハルトの一撃必殺の技がヴィヴィオのお腹へ直撃する。

 

「断空拳!! 」

「かはっ!? 」

 

物理法則からいえばヴィヴィオは後ろへぶっ飛ばされる。本来ならこれで建物に直撃する筈だったが、そのタイミングで青年がヴィヴィオと壁の間にクッション代わりに入り込んだ。松葉杖を放り投げ、唯一空いている片手を使いヴィヴィオを押し戻す。

するとヴィヴィオの衝撃は限りなく0に緩和され、転びはしたものの大人モードの解除だけで一切の外傷はない。

 

しかしむしろ問題なのはクッションとして入り込んだ青年の方だった。ヴィヴィオを押し戻した事でその時に入れた力が更に後ろへかかり、ヴィヴィオが受けた力より強い力で建物に激突、その場は轟音と残骸で包まれた。

 

「い、今のって……お、お兄さん? お兄さん!? 」

 

一瞬の事ながらもヴィヴィオは確実に青年である事に気づき、瓦礫に埋まっている青年の方へ駆け寄った。他のギャラリーも同様に走り出す。

 

「あ〜重い……ヴィヴィオ〜怪我ないか? 」

 

「あはは……今のお兄さんに言われると複雑だよ……でも……ありがとうお兄さん。私のお願い、聞いてくれて」

「あ、あの!? 」

 

青年とヴィヴィオの世界を壊すように、アインハルトが声をかけた。少し顔を赤くし、恥ずかしがるようにヴィヴィオに話しかける。わだかまりが消え、友情が芽生えるそんな会話。

 

でもそんな中青年は忘れられ、瓦礫に潰されたままにされているのだが、なかなかヴィヴィオ達の雰囲気を壊せずに我慢をしている。

 

「こ、この間の事はて、訂正します! 今のは……とってもいい試合でした」

 

「アインハルトさん……はい! 」

 

「ヴィヴィオ〜……水刺したくないんだけど……ゴメンはやく瓦礫なんとかしてくれ……お、重い…………」

「うわぁ!? ごめんお兄さん!? い、今どかすから! 」

 

 

やっと救出された青年はヴィヴィオに松葉杖を取ってもらうと誰とも会話せずせっせとその場を立ち去ろうと動き出す。だがこれだけのギャラリーを前にしてただで逃げられるわけはなかった。初めに青年の足を止めたのは他でもないアインハルト。青年の前に回り込み、青年を無理矢理止める。

 

真っ直ぐに見つめるアインハルトの瞳はこれから何を言おうとするのか青年には明白だったが、黙って聞いていた。

 

「この間は申し訳ありませんでした! 不自由なのを知らないとはいえ、あのような……許されるとは思っておりません。でもせめて、謝罪と義足の弁償を」

 

「はて。君は誰だったかな? 俺は覚えてない。人違いじゃねーの? 」

 

「へ? ……い、いえ、そんな筈は」

「そんじゃな〜」

 

アインハルトは呆然と再び歩き出す青年を見ていた。本気で忘れられているとも思えない、わざとらしい青年の物言いは真面目なアインハルトを混乱させた。

自分に非があるのにどうして何も言ってこない。何故自分を責めない。こう言った拍子抜け。故にアインハルトは呆然と青年を見ているしかない。しかしヴィヴィオがアインハルトに放った一言で青年はダッシュでヴィヴィオ達の前に戻ってきた。

 

「アインハルトさん。あれ、ただの照れ隠しですので大丈夫です。お兄さん優しいから、気にするなってことですよ。素直じゃないから、お兄さん本当にツンデレ」

「待てゴラぁ!? だからデレてねーだろ!? 何度言えばいいんだヴィヴィオ!? 俺はツンデレじゃねー! 男のツンデレに需要はないと何回」

 

「お兄さんの方こそ、何度も言わせないで! 需要ならここにいます! 」

 

ヴィヴィオはそう言いながら自分の胸をポンっと叩く。いつも通りの軽いノリだが、普通に考えればただの告白だ。現にこの場にいる何人かは顔を赤くしてそわそわしている。

特にヴィヴィオの友達のリオは「ヴィヴィオが大人に!? 」っといい青年の存在を初めて認識する。

 

「はは……お〜に〜い〜さ〜ん〜? やっと〜会えましたぁ〜ねぇ? 」

 

「あ? げっ!? ヴィヴィオ、俺帰るわ! とっ!? ぎゃふんっ!? 」

「逃がしませんよ! 私言いましたよね? ヴィヴィオに付きまとうなって? ……ヴィヴィオに男なんていらないんですよ。ヴィヴィオに必要なのは……キャー! 」

 

それは周りの空気が凍った瞬間だった。リオと同じくヴィヴィオの友達のコロナ。彼女は自分を認識し逃げ出そうとした青年の松葉杖を蹴り飛ばすと、バランスを崩した青年にのしかかり、その動きを完全に奪う。ハイライトの消えた青年を蔑むような目は、この場にいる誰が見ても逆らう気を起こせない。

 

「ば、馬鹿!? 俺一応障害者だぞ!? 」

「お兄さんに人権なんかないので大丈夫です。ふふ、すいません……手が滑っちゃいます」

 

「は? お、おい……なんかスースー……ハッ!? 髪!? コロナカツラ返せ!? 何とってんだコラ!? 」

 

「こんなもんいらないでしょ? お兄さんはツルッパゲの方がよく似合います! ま、お兄さんのハゲに需要なんかありませんけど」

 

コロナはどこまでも青年を辱め、しまいには笑い馬鹿にするような言い方で青年の頭をキュッキュッ……っと擦る。普段であれば青年はとっくにブチ切れているのだが、相手が相手なだけにそうはいかない。

 

言ってしまえばコロナは青年唯一の弱点とも言える。ヴィヴィオの一番仲のいい友達。よって下手にキレて傷つけることはできない。ましてや、ヴィヴィオはコロナの真意をまるで理解してないのだから。

 

「本当2人は仲がいいよね」

 

「どこがだ!? これが仲良く見えるなら眼科行けヴィヴィオ! あぶっ!? ん? んっー!? んーっ!? んんんっー!? 」

「あ、すいませんお兄さん。顔……土で埋まったちゃいましたね? ほら、そこで目でも開けたらいいじゃないですか? 眼科……行けますよ? 」

 

丁度運悪くも青年の顔の前は砂山の真ん前。コロナは青年の顔をそこへ押し付けるとグリグリと力を込める。そして流石にやり過ぎだと判断したのかノーヴェがコロナを止めに入った。

 

「ちっ! 」

 

「わ、悪かったなぁ〜コロナも悪気があったわけじゃ」

 

「おい、ノーヴェ。悪気のない奴は松葉杖蹴り飛ばさないし、今って舌打ちしないだろ? たくっ、俺の時だけキャラ変わり過ぎなんだよ。はぁ……嫌われたもんだ」

「え? そんな事はないですよお兄さん。私はお兄さんの事、大っ嫌いですよ! 」

 

「……おかしいな。笑顔でなおかつ大好きと同じトーンで言われると不思議と違和感がない…………」

 

 

 

青年はまったくブレないコロナにため息をつきながらやっと解放され、家へと帰る。

 

だが、それでもタダでは済まないのが青年だった。

 

帰り道、すっかり夜がふけ、暗がりのなかの事だ。公園を通り、ゆっくり松葉杖をつく青年は、ある人物と鉢合わせになった。2人は足を止め、互いを認識する。

 

「……珍しいね。君が外に出てるなんて」

 

「はぁ……なんでこうも会っちまうかね」

 

そう、ここで鉢合わせになったのはなのはだった。彼女も仕事に帰りで、他意はない。

 

青年は出会った事が嫌なわけじゃないが、気まずい雰囲気が苦手な為、少し顔を背ける。しかしそれはなのはも同じだ。

 

「義足は? 」

 

「壊れた。壊された? まぁ〜どっちでもいいが、今はない。仕事帰りなんだろ? さっさと帰れよ。ヴィヴィオの奴が寂しがる」

 

「……君はまだ死にたいと思ってる……のかな? 」

 

なのはは早くその場から去ろうとする青年に複雑な顔を見せながらも少し気に入らないのか、青年が自分の横を通り過ぎた際に振り返らず喋り始める。なのはがどんな顔をしながら話しているかは青年にはわからない。でもそれが何より、誰の言葉より、青年の心には……深く刺さった。

 

「…………」

 

「あの時……ヴィヴィオが君の事を見つけなかったら君は間違いなく死んでた。誰の手でもない君自身の手で。どうして? 君は誰にも何も教えてくれなかった。4年前の事件で、君の中の『イービル因子』は完全に消滅したはずだよ? そうでしょ? だから君が死ぬ理由なんてもう」

「今更……」

 

「今更じゃないよ。君は何も言ってくれない。何も教えてくれない。私達……そんな浅い間柄だったかな? 少なくても2回も同じ部隊の仲間で……私達が教導隊にいた時、君は昔……私に告白してくれたよね」

 

「断ったのはお前だけどな」

 

淡々と、すっかり冷え切った声での会話。今では誰も知ることができない2人の過去。本人達の記憶の中にしかない2人だけの関係。各々が互いにあった気持ち。今ではどこかへおいてきたのではないかというその気持ちは……すでに過去の遺物でしかなくなっていた。

 

戻れそうで戻れない。互いに気持ちがあった頃の過去。まだ仲間と呼んでいた頃の関係に。

 

「君は変わった。初めて君と出会った頃から比べたら、別人だと思える程。4年前なら……この間君に砲撃しに行った時だって、きっと君は私の事怒ってる。何するんだ! って……ううん。そもそも、私の砲撃……着弾する前に相殺できたはずだよ」

 

「アホか。障害者に無理言うな。それに別にこの間の事は怒ってないわけじゃない。おかげで大家さんに怒られるは修理費用かかるは散々だったんだからな」

 

「それは悪いと少しは思ってるよ。でもおさえられないよ。君なら問題ないって……昔の癖が残っちゃってるんだもん。それにヴィヴィオのメール見たら……どうしても許せなくて」

 

「ちなみに……なんて書いてあったんだ? 」

 

「お兄さんと寝て帰ります」

 

「……今度家に来たらグリグリの刑だな」

 

 

青年はそう言うと止まった足を動かし、家へと帰り始める。一方、なのはは何を思ったのか振り返り後ろ姿の青年を見つめる。青年は気づかないが、なのはは寂しそうな瞳で青年をただ見つめていた。過去に残した後悔。それを体現したかのような目の前の青年。1度壊れてしまったが故に伸ばした手は届く事はない。今平和である事がまるで苦痛であるかのように、彼女は唇を噛みしめる。

 

そして……諦めと悔しさを感じながら目を閉じると、なのはは静かに家へと歩き出した。

 

 

 

 




次回もよろしくお願いします。

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