ヴィヴィオはそれでもお兄さんが好き   作:ペンキ屋

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ども〜


ではよろしくお願いします!


第4話【異変の前兆】

「にゃぁぁぁあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!? ギヴっ、ギブギブ!? お兄さんもう許してぇぇええええええ!? 」

 

「誰が許すか! お前はママさんになんてメール送るんだ! 」

 

青年となのはが鉢合わせになってから3日、ヴィヴィオはいつも通り青年の家に遊びに来た。だが青年にメールの内容がバレた事でヴィヴィオは絶賛グリグリの刑を執行中。青年は一切の容赦をしない。

 

「うぅ〜いだいぃ……しくしく……お兄さんの優しさが欲しいよぉ〜」

「お前にやる優しさなんてない! さっさと帰れ」

 

「むーっ! お兄さんは私にもっと優しくするべきだと思います! 」

「お前はどの口がそ・ん・な・こ・とを!! 」

 

「いにゃぁぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!? 」

 

青年のグリグリの刑執行から1時間。ヴィヴィオはやっと解放され、涙目になりながら右のこめかみを押さえる。しかしヴィヴィオは懲りずに座ってそっぽを向いている青年に後ろから抱きつくとだだ甘モードになりながら甘え始めた。

 

まるで猫のように青年の背中に顔を擦り付ける。ヴィヴィオは2人きりなのをいい事にやりたい放題甘えが止まらない。何故ならこの場を邪魔する人間は存在しないのだから。

 

「お兄〜さぁ〜ん」

 

「あ? 」

 

「えへへ。呼んだだけぇ〜」

 

「はぁ……ヴィヴィオ暑いから離れろって。あまりじゃれつくな」

「ダメ、このまま。このままがいいのぉ〜」

 

「はぁ……ま、悪くないけどさ」

 

青年の貴重な素直な言葉は貴重だが、今幸せになり過ぎてヴィヴィオには聞こえていない。すっかり顔を緩ませ、大きな青年の背中に夢中なのだ。そして、いかに青年にその気がないとはいえ、こんなに好意を直接ぶつけられると照れくさかった。その為、なのはに言われたロリコンという言葉がフラッシュバックする。

 

両手で頭を抱え、違う違うと否定しながら何も起きない時間が過ぎる。

 

 

するとそんな時だった。青年の部屋をコンコンっと誰かがノックする音。ヴィヴィオは邪魔をされ、怪訝な顔を見せる。だが仕方ないと立ち上がり、義足のない青年の代わりにドアを開けた。

 

「あれ……ヴィヴィオ? 来てたんだ。ワンいるかな? 」

 

「フェイトママ? どうしたの? お兄さんならいるけど」

 

ドアを開け、顔を覗かせたのは執務官服を来たフェイト。彼女はヴィヴィオのもう1人の母親がわり。そしてなのはの親友だ。

 

 

「ワン、ちょっと手伝って欲しいんだけどいいかな? 」

「おかえりください」

 

「え、えっと……執務官として、ちょっと協力してもらいたんだ。別に危ない事とかじゃないから捜査に協力」

「今すぐ、迅速に、速やかにおかえりください」

 

「……うっ、グスっ」

「はい? おい!? 」

 

「あ〜あ、なーかせた。お兄さん酷い〜最低〜なのはママに言いつけちゃうよぉ〜」

「よせ!? フェイト泣かせなたなんてあいつに言ってみろマジでこの間の砲撃の比じゃないぞ!? ……あーもう! 分かった、分かったよ…………」

 

フェイトはチラリとヴィヴィオの方を見る。するとヴィヴィオはフェイトに向かいウィンクをし、舌を半分出して片手で小さく2人でハイタッチ。察しのいいヴィヴィオは青年が断れない状況を見事に演出して見せた。

当然その事実に気づかない青年は床にうなだれ残念そうに落ち込む。

 

そして比較的温厚で優しいフェイトは青年に対してもそこまで毛嫌いといった態度は見せない。内心どう思っていようが、取り敢えず普通に接していた。ただ、青年に呆れた事は事実な為、用のある時以外は決して青年に関わろうとしない。

 

「元気……みたいだね。よかった」

 

「そうだな。お前んところの娘さんが来なくなったらもっと元気になるかもな」

 

「冗談でもそんな事言うもんじゃないよ? 実際……誰より感謝してるくせに」

 

「……分かってるよ。少なくてもあいつの前じゃ絶対言わないから安心しろ。と言うか感謝なんかしてないし! 」

 

フェイトは青年を車に乗せとある場所へと向かった。ヴィヴィオは連れていけない為家に帰ったが、青年は終始帰りたそうな顔をやめない。車の中でも外ばかりを眺め、フェイトの顔を見ようともしなかった。

 

2人が向かったのはミッドの外れにある病院の廃墟。何故こんな所に連れてこれたのか青年は疑問に思ったが、フェイトが危なくないと言っていたのでその言葉は信用し、松葉杖をつきながらフェイトの後をついていく。

しばらく歩き、廃墟の地下におりたとき、その光景は広がっていた。

 

「おい……危なくないんじゃなかったのか? 」

 

「うん、大丈夫。もう誰もいないから。痕跡はあってもここには誰もいない。私がワンを連れて来た意味……分かったでしょ? 」

 

「……冗談じゃ済まないぞ……これ…………」

 

青年が見たのは何十何百はあろうかと言う死体の山。ただ普通の死体ではなく、所々に人間のそれとは思えない形をした部位が存在していた。それぞれが特徴的で、同じ形がない。

 

「それでどう? 間違いないと思う? 本当なら鑑識に先に回さなきゃいけないんだけど、どうしてもこの状況1度ワンに見てもらって意見が聞きたかったんだ」

 

「……言いたくないが、間違いない。俺と……同類さんだ」

 

「そっか……でもその言い方は私嫌だな。この死体とワンは全然違うでしょ? 」

「中にある物が同じなら同類だろうよ。それにしても……これはどう言うわけだ? 4年前にあれはゆりかごと一緒に全部消し飛んだ筈だぜ? どうして実験できる『因子』がまだ存在するんだよ。おかしいだろ」

 

4年前、ジェイル・スカリエッティによる大規模な事件は、ある人間とある存在が加わった事で急速に厄介さを増した。それがDr. ベルンとイービル因子と呼ばれる細菌型ロストロギアだ。

これは媒体となる人間に取り付き、その魔力を爆発的に増大させる。だがその代償に宿主は自我を殺され、周りを破壊し、最後には存在ごと消滅する非常に危険な物。

青年達は4年前の事件でこの細菌を全てアルカンシェルによって全て消しとばしたつもりだった。しかし彼らの見たものはそのイービル因子によって感染した人間の死体のため、まだその元凶が存在する事を肯定してしまっていた。

 

「ワン、イービル因子はもう貴方の中にはない。だから同類なんて言うのはやめて! 」

 

「本当にそう思うか? 」

 

「え…………」

 

「あのクソ因子がまだこの世に残っているなら、俺がこれ以上この事を隠し続ける意味はない。……この際だ……ハッキリ言っておく。俺の中の悪魔はまだ……生きている」

 

青年はフェイトを真っ直ぐ見ながらそう告白した。最初フェイトは青年が何を言っているのかわからなかった。いや、認めたくなかったのだ。もし今の話が本当の事だとすれば、過去の青年の行いが全て納得のいく形で繋がってしまう。

何故仲間の信頼を裏切ってまで青年が1人死のうとしたのか。その行動全てが今の一言で繋がってしまったのだ。

 

「どうして……何も教えてくれなかったの? ううん、違う、どうして? ワンはあの時、力の全てを失ってた。検査してもイービル因子は検出されなかった。なのにどうしてワンにはそんな事が分かるの? 」

 

「聞こえるんだよ……吐息が。今も尚……こいつは俺の中で眠ってる」

 

「……嘘だよ。そんな事……信じられるわけない。だって今のワンに……私を納得させるほどの信頼は……ない」

 

彼女の重い言葉は軽はずみで言っている事ではない。信じる事がどれだけ愚かで、大変な事か。単純に信じる。それはフェイトが青年に対してするにはあまりにも青年に対する信頼は欠如していた。彼女からしてみれば信じられるものなら信じてあげたい。だが4年前の出来事がそれを妨げる。

何故なら青年は仲間と呼んだ全ての人の信頼を失っているのだから。

 

「別に信じろとは言わない。今更これを告げたところでフェイト達にはあの日の言い訳にしか聞こえなからな。……俺の事はどうでもいい。この状況、ここで何をしていたのか突き止めないと取り返しのつかないことになるぞ? 」

 

「分かってる。けど……信じる信じないは別にして今の話、みんなに話して」

「断る」

 

「は? い、いや何言って」

 

「お前が今言ったんだフェイト。俺には今の話を信じて貰えるだけの信頼はない。それは当然だ。だから言ったところで何も変わらない。むしろ……フェイトすら信用できない人間の言葉を……一体誰が信じてくれると思う? 大体思った通りではあったが……正直な話……いや、もういい」

 

青年はゆっくり階段の方へ歩き出す。フェイトはそんな青年の背中を見ていた。やるせない気持ちがフェイトを襲う。今の青年の言葉をどうしてもフェイトは信じられなかった。元々人を信用しやすいと自覚しているフェイトがここまで思っている現状、自分以外の誰が青年の言葉を真に受けるのか。彼女が今の話を信じられない気持ちは他の誰に対しても当てはまる。でもフェイトはそれでも話すべきだと青年に話し始めた。

説得するように青年に問いかける。青年の足の速度に合わせ、何度も諦めない。

 

「今の話を聞いているのと聞いていないとじゃこれからの感じ方も全然」

「フェイト……他の誰かって誰に話す? みんなって誰だ? なのはか? ヴィータ達か? それとも……ヴィヴィオか? ……どっちにしてもこの事件に無関係なあいつらを巻き込むのは気がひける。俺だって深く関わる気は無いし、後はフェイト達の仕事だ。俺はお前の捜査に協力する意味で今の話をした。俺はいつだってあのクソ因子が消えるんだったら……喜んでモルモットになる。だから話したんだ。……頼むから、ヴィヴィオをこれ以上あのクソ因子絡みの事に巻き込むな」

 

フェイトはその瞬間足を止めた。この話を執務官……守秘義務のある捜査員以外にしたとすれば、必ず回り回ってなのはの元へ話が入る。それは間違いない。となれば、ヴィヴィオにその話がいかない保証もない。どんなに頑張って隠蔽しようとも一緒に暮らしている以上綻びが出ればそれまでだからだ。ましてや、ヴィヴィオがこの話を聞いた場合、自分から危険な場所へ飛び込む可能性が高い。フェイトは胸のうちに今の話を押し留めるしかなかった。例えその話が嘘だとしても真実だとしても。

 

 

「モルモットって……ワン! 」

 

「なんだよ。大声出して」

【……たぃ】

 

 

「そんな言い方……そんな言い方酷い。どうしてそうなの? ワンはどうして自分を大事にできないの!? それは……私達はワンの事信用できなくなったよ? でもワンに死んで欲しいなんて思った事一度だって!? ……え? 」

「フェイト、ちょっと待て! ……何かおかしい」

 

階段を上る途中、青年は少し興奮し出したフェイトを壁に寄りかかりながら片手で止めた。フェイトは言われてることが理解できなかったが、青年の顔を見た途端、身構えて辺りを警戒する。青年の今している顔はフェイトのよく知る戦闘モードの時の青年。彼がこの顔を見せるのは本当にマズイ時のみで、その為フェイトは今の状況を一瞬で察した。

 

「バルディッシュ、この建物に他の人間は? 」

《いません。サー達のみです》

 

「ワン、バルディッシュはそう言ってるけど」

「静かにしろ、何かいる」

 

【ぃ……たぃ】

 

「何かって……」

 

《Mr.ワン、何かの思い過ごしでは? サーチの結果この建物に人間の反応など》

 

「ああ、人間はな。……下にあった死体……思い過ごしならいいが……さっきからなんか……うっ!? 」

「ワン? ねぇちょっとどうしたの? 」

 

【生きたい】

 

突然、青年は頭を痛がり唯一の片手で頭を押さえた。当然フェイトは青年を心配するが、冷や汗の量を見るに彼の状態がおかしい事がすぐに分かった。

一方青年は頭の中に響くおかしな声に頭を揺らされていた。脳を駆け巡る子供のような高い声。まるで女の子のようにも聞こえる声は絶えず1つの単語を囁く。

 

「なん……だ……この声……ど、どこかで……あ゛っ、ぐっ!? 」

【生きたい】

 

「ワンしっかりして!? 一体何を言ってるの? 」

 

【生きたい】

「やめろ!? 喋るな!? あぐっ!? うあぁぁぁっ」

 

「ワン……もう少しだけ我慢してワン。今病院に連れて行くから! 私につかまっ、え…………」

 

フェイトは様子のおかしい青年に肩を貸そうとした。しかしその瞬間、フェイトは青年に片手で突き飛ばされ下に落ちるような形で階段に背中を見せる。何故自分は落とされた。フェイトはスローモーションのように感じるこの浮遊感の中でそう考えていた。いくら信用してないと言っても青年はそんな事をする人間じゃない。だが自分は落とされた。

 

「……フェイト……にげ」

【グゴガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! 】

 

自分が階段に転ぶ瞬間、フェイトは雄叫びと共に青年のいる場所の壁を突き破って来た何かを見た。おぞましい、出来損ないの緑色の怪物。体長は3メートルはあろう巨体で、人一人分くらいの巨大な右手は青年を掴みとると反対側の壁を突き破りどこかへと移動する。

 

「あ……嘘……ワン!? ワーーーーーーーン!? 」

 

 

 

故にフェイトは何故自分が突き飛ばされたのか全てが終わった後に知った。

 

 




次回もよろしくお願いします。

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