ヴィヴィオはそれでもお兄さんが好き   作:ペンキ屋

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ども〜

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第5話【声】

青年が何かに連れていかれて30分。フェイトはバリアジャケットを羽織り、青年をさらった何かを後を追いかけ、探し回っていた。破壊音と雄叫びが絶えず聞こえ、その度にフェイトの不安は高まっていく。

昔ならいざ知らず、今の青年は普通の人間となんら変わりない。攻撃されれば怪我をし、急所を抉られれば死ぬ。当たり前だが、それが昔の青年と今の青年の違い。

 

「バルディッシュ、音の方向とワンの反応は! 」

 

《ここから下に20メートルです》

 

「また離された……早く助けないとワンが…………」

 

《サー、急いだ方が。今の彼にアレと対等に戦える力があるとは思えません》

 

「分かってる。わかってるんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃青年は緑色の怪物に捕獲されながら下へ下へと連れていかれていた。決して殺さず、傷つけることもない。まるで何か目的があるかのように、丁重に青年は怪物に運ばれる。

そして広い場所へ出たところで怪物は止まり、右手で握りしめていた青年を手荒に放り投げた。

 

「ぐあっ!? ……いっつ……ずいぶん強引だな? 俺になんか用か? 」

 

 

青年は投げられ、壁に背中を打ち付けた。だがすぐに怪物の方を見ると特に焦る様子もなく、おちゃらけた事を言い始める。

 

 

【ガァルルルル】

 

「もう話も通用しないほど侵食が進んでるみたいだな」

 

威嚇するように唸り、怪物は壁にもたれかかる青年を睨みつける。しかし今の青年に恐怖はない。怖がる事などない。何故なら青年の目の前にいるのは他ならない自分と同種の存在だからだ。もはや人類と呼ぶのは難しい。一歩間違えればこの怪物のようになる。青年は自分の成れの果てでも見るかのように哀れな目で怪物を見ていた。

いっそこうなれば、誰かが殺してくれたのだろうか。そんな事を考え、その場から逃げようともせずに怪物との睨み合いが続く。

 

「お前……俺から何か感じるんだろう? でなきゃわざわざピンポイントで俺の事襲いに来ないもんな? 何せお前らは自分の同類には容赦がない。何が許せないのかは俺にはわからないが、殺したくてたまらないみたいだからな。俺を殺しに来たか? フフ、こんな最後も確かに悪くない。俺にふさわしいと思う……だけど……さ。今死ぬとあの子に怒られるんだ。……お前には関係ないと思う。だが……今の俺はお前に同情はしてもお前に殺されてやるつもりは……ない! 」

 

【フグルル! ガァルルルル! ガァァアアアアアアアアアアア!!! 】

 

青年の言葉が怪物には伝わっていない。しかし怪物はそれがまるで伝わっているかのように憤慨し、大きな拳を振り上げ、青年に襲いかかった。

 

「バーカ! 後ろぐらい気にしろ」

 

【ガフ? 】

「バルディッシュ!! 」

 

《ザンバーフォーム! 》

「ワンから離れろ!!! 」

 

勝負は一瞬だった。青年を探し回っていたフェイトが怪物に追いつき、バルディッシュを変形させ一本の剣にすると後ろから怪物を一刀両断する。

怪物も元は人間の為か体は柔らかく、トドメを刺すのはさほど難しくない。

そして終始余裕をかましていた青年はフェイトが来たことに安堵し、目をとじた。

 

【ガボッ、ウガァァアアアアアアアアァァァァ…………】

「ワン!? 大丈夫ワン!? 」

 

「大丈夫大丈夫。流石〜現役の執務官は動きがいいな。お見事お見事」

 

「はぁ……もう、少しバカにしてるでしょ? 」

 

フェイトは肩を貸しながら疲れ切っている青年を見て呆れる。何に呆れているかといえば、自分が全く信用されていないと言うのに他人は信用しているからだ。一方的にフェイトは必ずここへ来るだろうと信じて疑わなかった。でもそんないつも通り何も変わらない青年を見ていたフェイトは、青年に対して心の持ち方を少し変えた。

すぐに全ての信頼は戻らないが、今死のうとしなかった青年に対してなら、もう一度……少しづつ預けてもいい。絆と信頼。その初めの一歩のだけも。そう思いなおした瞬間だった。

 

「ワン、夕御飯美味しいもの食べさせてあげよっか? 私の奢りで」

 

「なんだそりゃ……なんか裏でもあるのか? 」

「う〜ん……今日のごめんなさいとお礼って事で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃病院での騒動があった夜。フェイトに夕御飯をご馳走になった青年はフェイトに送ってもらいやっと家へと帰宅した。だが青年が鍵穴に鍵を入れドアノブに手をかけた瞬間、青年はドアノブを回そうとした手を止める。違和感があった為だ。

 

「あい……てる? えっと……この部屋の合鍵ないはずなんだけど…………」

 

青年は困惑した。この一本以外の鍵は存在しない。あまりにも古いアパートは大家さんですら合鍵を持っていない。つまり開いていることはありえない為だ。仮に鍵の閉め忘れだったとすれば青年はなんとも思わない。しかし今日の場合は行くときヴィヴィオがしっかり鍵を閉めてくれた為、間違いなく鍵はしまっていた。

また、それに合わせてもう1つ決定的にありえないことが1つ。不思議に思った青年が顔を上げると家の電気がついていたのだ。

 

「マジで誰かいるのか? 」

 

ゆっくりドアノブを回す青年。音を立てず、さらにゆっくりドアを開けると青年は中へ入った。

 

そして……リビングへ入った所で青年は驚愕して固まった。

 

「なん……だこれ!? 」

 

リビングにあったのは小さなテーブルに並べらえたご飯。決して豪華ではないありきたりな物だが、そんな料理がテーブルいっぱいに並べられていた。

 

「誰が……というか……誰もいないし」

「お兄さん! 」

 

「えっ、ちょっ!? ……ててっ……ちょっ……ま、待て……お、お前……どうして……」

 

青年はどこに隠れていたのか後ろから小さな子に抱きつかれ、その場に押し倒された。さらにはその子を見て開いた口が塞がらない。それは青年のよく知る人物どころかヴィヴィオの友達。

さらには青年を酷く毛嫌いしている女の子。

 

コロナである。

 

「どうしてって……分かってますよね? 遊びに来ちゃいました! 」

 

「いやいやおかしいだろ!? 」

「何がですか? やっと、やっとこうやって2人っきりでいられる時間ができたんだよ? だから私……今日はデレデレです! 」

 

「デレデレって……じゃーいつものは? 」

 

「ツンです! 」

「ちょっと待てー!? お前あれをツンデレのツンですとか言わないよな!? もしそうなら正気を疑うぞ!? 」

 

青年は馬乗りのされたまま顔を赤くしてニヤけているコロナに本気で焦っていた。キャラ崩壊の瞬間である。青年は本気でコロナには嫌われていると思っていた。下手をすればいつか殺されるんじゃないと思っていたほど。

しかし実際コロナの心情的には全くの逆である。そもそもヴィヴィオと一緒にいて、たまに青年と関わる機会のあるコロナは最初の頃、ヴィヴィオと同じぐらい青年に優しくされる事もしばしば。つまりはコロナは青年に対して嫌いどころか全く逆の好意を抱いていた。

ただ、ヴィヴィオが青年の事を好きな事は知っている為、普段はそれを表に出さない。親友第1。自分はおまけでいいのだ。けど良い思いをしたいのも少女の願望。よって今宵、とうとうこのような行動に出た。

 

「待て待て、待ってくれ! お前、前に女の子同士がどうのこうの言って俺が嫌いだって言ってたじゃねーかよ。今でも言ってる意味がよくわかんないんだけど……」

 

「え? そんなの周りからお兄さん嫌いだって思わせる口実に決まってるじゃないですか。ヴィヴィオに私がお兄さん好きなんて思われると困るんです。 だってヴィヴィオ……可愛いから泣いて欲しくないんだもん! それに今アンハルトさんと良い感じだし。2人のイチャイチャ見てると……キャーって! キャーって、キャーってキャーってキャーってキャーってキャーってキャーってキャーってキャーって!! なるんですよ!!??? ハァ、ハァ、ハァハァ………」

 

「……アレだな? お前特殊過ぎるな……俺ついていけないよ」

 

一体何の話をしていたのか、それを忘れるぐらいコロナは1人で自分の世界に引きこもり始めた。青年の上にいる事を忘れ、自分の趣味を青年に熱弁し始め、青年はどう反応したら良いかわからずに困り果てていた。

 

「ヴィヴィ×アイがですね! すごくて! アイ×ヴィヴィじゃダメなんです! ヴィヴィ×アイが、えへへ〜あ! 勿論、ヴィヴィ×リオなんかも悪くはないですよ!? 」

 

「そ、そうなんだーすごいねー……ダメだ全然わかんね」

 

「そうなんですよ! あとあと!? ヴィ×ヴィコロなんて定番だと思いません? 幼馴染なんてぇ〜私凄いお得な属性持ちなんですよぉ〜!! 」

 

「どうしよう……何言ってるのかわかんない上に話が終わらない…………」

「それでそれで!? あ……へへ、すいません楽しくてつい」

 

しばらく話し続け、1時間が過ぎよう頃。我に返ったコロナはやっと話を切り上げた。でもいまだに彼女は青年の上から下りようとしない。それどころか座っている体勢から滑るように青年の胸元へ顔を滑らせると、そのまま目を閉じくつろぎ始める。青年としてはもうダメだと諦めていた。

 

「そろそろ退かね? 」

 

「私重いですか? 」

 

「いや、そういうわけじゃないけど……むしろ軽いし。でもさ……朝までこの格好のままか? 流石にだろ」

 

「う〜ん。そうですね。お料理冷めちゃいますし」

 

コロナは納得して青年の上から退くとテーブルの横へ移動し、笑顔で青年を見る。対してそうやって見られる青年は視線を逸らすとある話題へと話を切り出した。

 

それがとんでもない地雷だとも気づかずに…………

 

 

「これコロナが作ったのか? すごく美味しそうなんだが……俺夕御飯食べて来たんだよ」

 

「え? 私じゃありませんよ? お兄さんが作ったんじゃないんですか? 箸だって1人分だし」

 

「は、え? ……え…………」

 

「え? 」

 

その瞬間2人は顔を見合わせ沈黙する。ジッと料理を見つめ、この得体の知れない誰かが作った物を見る。

 

「コ、コロナ? そう言えばお前どうやってここに入った? 」

 

「え、えっと……開いてました」

 

「…………」

 

青年は思う。生活できると今まで何も思わなかったが、明らかに異常事態であると。

開いていたドアの鍵。テーブルに並べられた料理。コロナではない。一体誰が作ったかもわからない。青年は4年間住んでいたこのアパートにこの時初めて恐怖を抱いた。

誰がやったかはわからないが、目的がよめない。状況的には青年にいいことしか起こってない筈なのだが、不明な点が多すぎてそれは恐怖でしかないかった。

 

「俺……ストーカーされてる? 」

「え!? ……ま、まさかそんなわけないですよ。お兄さんみたいなハゲに需要なんて私とヴィヴィオしぃい゛て゛て゛て゛て゛!? お兄さんいだい゛っ!? グリグリしないで!? 」

 

「ハゲ言うなこのクソガキぃぃ! 」

 

「い゛い゛っ、ひやぁぁぁあああああああああああああんっ!? 」

 

その日、コロナの悲鳴と共にその日の日付は終わりを迎えた。結局泊まるつもりでいたコロナは帰らず、青年の布団で隣に眠り、熟睡。終始幸せな顔をしていたが、青年はコロナに抱きつかれている事と謎の料理が気になって一睡もできないでいた。

 

「ハハ……ぜぇ〜んぶ捨てようと思って覚悟決めたのに。こいつもヴィヴィオの奴も、中々俺を孤独にしてくれねぇんだよな。その方が……楽でいいのに……よぉ…………。もう見たくねんだ。ヴィヴィオのあんな顔。あの子の俺に対してしたあんな顔……まったく、ヴィヴィオの奴とんでもねぇ〜首輪かけやがって……4年前の足枷だよ。これじゃ……死ねないだろうが…………」

 

 

青年は言葉に出した。しかし、誰も聞いていない。横のいるコロナでさえ。青年の本心は誰にも聞こえていない。まるで独り言のように、青年は布団の中で唇を噛みしめる。背中のコロナの温もりが何よりヴィヴィオからいつも貰うそれと同等で。自分に対しての好意だと自覚すると、4年前のヴィヴィオの顔が青年の心を罪悪感に染め上げる。

 

仲間の信頼を裏切り、青年はいつでも死ぬ事は出来た。だが、かつて青年を止めたヴィヴィオが見せた顔は青年に死ぬ事を躊躇させていた。自分が死んだら2度と目の前の子に笑顔が戻らない。自分如きの死が、永遠に目の前の女の子の笑顔を奪ってしまう。それを……青年はどんな事があっても許せなかった。ヴィヴィオが自分を慕ってくれるうちは絶対に死ねない。ヴィヴィオの前でそれだけはもう2度と出来ない。

 

それが……4年前、青年がまだ幼かったヴィヴィオとした約束であるが為に。

 

 

【生きたい】

「うっ!? ぐっ……ま、また……またこの、声……なんだってんだ!? どこだ一体どこで聞いたんだ…………」

 

青年は目を閉じ、頭を抱え、頭に響く声によって起きる痛みを我慢しながら自分の内側からする声に怯えていた。聞いたことがあるが、どこでかはわからない。

いつその声が止むのか。青年は眠りにつくまでずっとその声を聞いていた。

 

ただただ………

 

 

「あ……あの時だ……空港火災の時。1度、聞いた気がする。なんなんだよ……俺の中にいるこいつは……クソ因子なんだろ? お前は俺に何をさせたいんだ……お前は……一体誰だ? 」

 

 

【生きたい】

 

 

同じ言葉を。

 

 

 




次回もよろしくお願いします。

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