ヴィヴィオはそれでもお兄さんが好き   作:ペンキ屋

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ども〜



ではよろしくお願いします。


第6話【覚醒兆候】

ある日、青年はドアのノック音と共に目を覚ました。最初は1回。少し間をおいて2回。そしてその次からはだんだんと大きくなり、止まることなくひっきりなしに強打し始める。

特にシカトしていたわけではなかったが、寝起きと義足がない事もあり、動きが遅い為中々出れないのだ。

 

「はいはい! ちょっと待ってくれ、今出るって……」

 

青年はまだドアに行けない。でも声はよく通る為、大声で出る意思がある事を伝えた。だがドアノックが止む事はない。いくら言ってもそれをやめない事に腹を立てた青年はドアの前に到着するなりドアを思いっきり開け、大声で怒鳴った。

 

「うるせぇな!! わかったって言ってだろうが!!! 」

 

「遅い! この俺が直々に来てやったんだ、すぐに出ろ! ワン・カナダ」

 

ドアを開け、そこにいたのは現管理局所属の魔導師で青年もよく知る人間だ。金髪に、短いリーゼントにも見えるヤンキーのような髪型の青年。歳は青年と同じだが、青年とは何もかもが根本的に真逆の人間である。

 

「ハイド・プライマー……何しに来た」

 

「ハイドさんだ! 」

 

「同い年のお前にさん付けを強要される筋合いはない。用がないならさっさと消えろ」

「決着をつけよう! 」

 

「は? 」

 

「昔のケリをつけに来た。俺ともう一度戦え、ワン・カナダ! 」

 

青年とハイドの関係は単純明快。昔での落ちこぼれとエリート。青年が落ちこぼれでハイドがエリートという関係だ。ただし、それは魔法がという意味合いだけで単縦な強さという意味ではない。何故なら魔法を失い、管理局で落ちこぼれ称された青年は当時、管理局の魔導師の中で最強を謳っていたハイドを一撃の元に下し、その経歴に傷をつけた。

ただ勘違いしないでほしい。ハイドはだからと言って青年を恨んでいたりするわけではないという事だ。彼は一度負けた事で魔法など強さの基準にはならない事を青年から学んだ。それにより青年を1番のライバルだと認め、時折こうして勝負をしろなどと言ってくるのだが、青年はまともに乗った事はない。

 

「あのさ……昔だったらまだあれだけど。今の現状見ろよ。俺がお前と戦って勝てると思うか? どっちが強いなんて証明したいだけなら間違いなくお前が強い。管理局最強が俺なんかに構うなよ」

 

「フン、相変わらずマイナス思考な男だ。言っておくが、貴様がどんな状態だろうと関係ない。俺の中では今でも局の連中なんかよりお前を買っている。いつまでこんな所で燻ってるつもりだ? いい加減戻ってこい。その為の場所はちゃんと考えてある」

 

「悪いが、管理局に戻る気などない。お前は別だが、魔法を強さの基準にしている組織に俺の居場所なんかないんだよ。昔とは違うんだ。今魔法なしで戦えない俺が、あそこに戻って何ができる? 事務か? にしてもこの腕じゃたかが知れてる。俺はお荷物なんだよ」

 

互いが真っ直ぐに目を合わせその視線をずらさない。ハイドは決着半分、青年を管理局に戻し、自分の部下に引き入れたいと考えていた。武装隊の1つ。そこの部隊長であるハイドは何より青年を買っている。

自分が1番などと考えている部下多いなか、青年のような人間は貴重だったのだ。

 

「ま、今すぐ決めなくていい。気が向いたら、戻ってこい。それで勝負だ! 」

 

「そのまま忘れてろよ。はぁ……じゃ〜このままお前を殴って終わりにしね? 」

 

「馬鹿な事を言うな。この距離でお前の拳より速く動けるわけないだろうが。そうだな? 今日は……ナンパ……でどうだ? 」

 

「お前頭沸いてんのか? 」

 

ハイドは少し変わった人間だ。現に勝負内容も、戦う事だけに限らない。本当なら戦いたいと思っているのだが、彼は青年のハンデを無視してまで戦おうとはしないのだ。

だが、それを差し引いてもナンパなどと言う内容で決着をつけようとするあたり、変わっているとしか思えないのも事実だ。

当然だが、青年はあからさまに嫌な顔をし、ドアを閉めようとするのだが、煽り耐性のない青年はハイドの一言でキレてしまった。

 

「逃げるのか? フフン! それはそうか? ハゲには無理な内容だったか。そうかそうか」

「てめぇ……今なんつった……」

 

「うむ……ハゲには女の子1人口説けないと言ったのだが? 」

「上等だ馬鹿野郎!! ハゲ……ハゲだと!? いい加減にしろよてめぇ!! 髪があるのがそんなに偉いのか!!! いいだろう、望むところだ! 受けてやる!!! 」

 

青年とハイドは場所を移動し、人通りの多い大通りへとやって来た。2人の勝負内容は先に3人デートに誘いOKをもらう事。だた、それより先を深く考えてなかった2人はこの後通報されるだろう危険性を理解してない。

 

「で? 誰にするんだ? 」

 

「うむ、そうだな? 単純に考えて、大人の女性に声をかけると俺の方が有利だ。ハハ! 誰が好き好んでハゲとデートに行きたいと思う? 考えなくてもわかるだろう? 」

 

「ぐっ……わかってるだけに否定できない。だから何なんだよ! 」

 

「ああ、それでだ。ここでの勝負は大人ではなく中等科以下の女の子でどうだ? それなら純粋な勝負ができるだろう? 」

 

青年はハイドの言葉に呆れ、馬鹿を見るような顔でジッと見る。青年のハゲと言う髪のない短所を考えず、純粋に誘う相手が子供の女の子。ましてや思秋期真っ只中の子をイケメンとハゲがナンパをしようと言うのだ。この場はカオスでしかない。いや、それ以前に通報される可能性が高いだろう。

しかしハイドはそんな事微塵も思っていない。

 

「な、なぁ? 俺らそれやったらロリコンだぞ? いいのかよそれで」

 

「ロリコン? 何だその言葉は? まぁ〜いい。早く始めよう! 」

 

「マジかよ…………」

 

 

 

勝負開始。初手はハイド。彼はいきなり通りかかった学生に話かける。

 

 

 

「君! この後お茶でもどうかな? 可愛らしい君と是非、話がしたい」

 

「へ!? わ、私とですか……その……えっと……はい! 喜んで! 」

 

一応言っておくが、こんな行為で簡単に堕ちるのはイケメンに許された特権だ。普通の人間がこれをやっても断られる。イケメンとはそう言う人種なのだ。

故に……早くも中等科の制服を着た女の子を物にしたハイドの後ろでは悲惨なことが起きていた。

 

「あ、ごめん君さ……」

 

「ぷふっ! 見てハゲよ」

「あははっ、本当だ! あの頭でナンパ? 」

「ねぇ〜? 鏡見てからやってほしいよね」

 

青年は1人の女の子に声をかけた。青っぽい瞳で、長い黒髪に右側を少し紐とシュシュで止めた小さなサイドポニーテールの可愛らしい髪型。だが、たまたま通りかかった中等科の3人組は青年を後ろから指差しその頭を見て笑い飛ばす。ましてやよく聞こえる声でそんな事を言っていたのだ。

当たり前だが、それが聞こえた青年のターゲットのした女の子は目を丸くしている青年の肩に手を置くと優しく。どこまでも優しい声と笑顔で一言。優しさの裏に棘のある残酷な言葉を残し。それだけ言って去っていった。

 

 

「すぐそこに……植毛をやってる病院があるので行ってみてはいかがでしょうか? きっと、明日からは笑顔になれますよ? ……それでは」

 

屈託のない無垢な笑顔。まだ穢れのない親切心だけで言った一言は青年を固まらせた。気を使われ、中等科の女の子にすら相手をされない現実。今ここに、背中を介して格差社会が生まれた。エリートと落ちこぼれ。イケメンとハゲ。2人は対照的に絶対に相容れない存在だ。

 

「あれ、ハイドさん? 何してるんですか? 」

 

「ん? 君は高町なのはの所の……ヴィヴィオか。いや、今勝負をしていてな? うむ……どうだ? 今度俺とお茶でも」

「あ〜結構です。私お兄さんLOVEなので……あ! お兄〜さ〜ん! えへへ〜珍しいですねお兄さんと外で会うの。そうだ! このままデート行きましょうよデート! ……って……何で泣いてるの!? 」

 

 

ミシッと……岩が砕けるような音を立て、今度はハイドが固まった。放課後家に帰る途中だったヴィヴィオはハイドの誘いを一蹴すると、視界に入った青年を見つけ、松葉杖をついている腕に抱きついた。しかし本気で泣いている青年の顔を見てヴィヴィオは目を丸くする。

 

「負けた……何故俺じゃなくハゲを……俺の誘いを断ってハゲをデートに……だと……何故だ……何故なんだ…………」

 

ハイドはうなだれた。ヴィヴィオのもたらした笑顔はどんな子に断られるより、OKされるよりも破壊力があり、彼は負けていないのにもかからず敗北を認めてしまった。

 

 

「くっ……ワン・カナダ……」

「あ? 」

 

「今日は俺の負けだ」

「いや、何言ってんだ。俺まだ1人も」

 

「ええい! 黙れ! お前はその子を物にした。ぐっ……許せん! ハゲに負けたなど!!! クソッタレぇぇええええ!!! 」

 

安っぽい悪役のセリフを吐きながら、ハイドはその場から走り去る。だがその場に残された青年は心をさっきの女の子に抉られただけで何も得るものがなかった。

あるのはどこまでも自分に一途だったヴィヴィオだけ。

 

「何しにきたんだよ……あいつ。はぁ……にしてもヴィヴィオ? 」

「え? 何? 」

 

「お前……ほんっと可愛いよな? あのイケメン前にして断るとか……ん? 」

 

この時青年は妹的な意味で、ハイドより自分を取ってくれた事に可愛いと言った。あくまでそういう意味でだ。けど思春期の女の子にはその言葉は刺激が強すぎる。ヴィヴィオは顔を真っ赤にし、妄想に妄想を重ね、手がつけられないほど暴走し始める。

 

「可愛い……可愛い……何何……え? お兄さんが可愛いって言った……こ、これって……つまり……お、お兄さんがついにデレた!? 」

「デレてねー!? 」

 

「ま、まずは!? なにょはママに会ってもらって、しょ、しょれから!? フェイトパパに!? 」

 

「お、おい、落ち着けヴィヴィオ! いつからあの2人は夫婦になったんだ? フェイトなんか性転換してるぞ? つーか、2人とも俺知り合いだし!? 」

 

青年が何を言ってもヴィヴィオは止まらない。どこまでも話が進み、色々ぶっ飛ばして行く。

 

「あ、明日は結婚式で!? 」

「行き過ぎ行き過ぎ!? はえーよ!? 俺置いてどんどん未来行くな!? 落ち着けってーの!? 」

 

「もしも〜し、先〜ぱ〜い? 」

 

「あ゛あ゛っ!! 誰だ!? 今それどころじゃねー……ん……だ? 」

 

2人の世界を壊すように、ある女性が青年に話しかけてきた。テンパリ、誰だか確認しないでガンを飛ばした青年はその女性を見て言葉を失う。

長い青髪に管理局の制服を着た綺麗な女性。

 

「……ギ、ギンガ…………」

 

「はい! 久しぶりですね。後こんにちはヴィヴィオ」

「はひっ! 熟年夫婦でしゅ! 」

 

「だからどこまで進む気だ!? 」

 

暴走しているヴィヴィオはさておき、ギンガを見て顔を引きつらせている青年はギンガに背中を向けるとその場から立ち去ろうとする。というのも彼女は青年の管理局時代の後輩で先輩思いの優しい女の子だ。しかし青年はナカジマ家に対して苦手意識が強い為、彼女の事も当然避けている。

 

「ふふ、どこ行こうとしてるんですか先輩? さっきハゲがナンパしてるって通報があったんです。先輩ですよね? しかも中等科の子に。先輩……ロリコンだったんですね! 」

「ぐはっ!? 」

 

青年は精神的ダメージを受けその場にうなだれた。いかに青年といえどかつて慕われた後輩にロリコンと言われるとダメージがでかく、すぐには復活できない。でもここで逃がしてくれる後輩ではなかった。

 

「ヴィヴィオ、ごめん。お兄さんちょっと貸して? 今から仕事あるのよ。だから先輩に付き合って貰おうかなぁ〜って。無駄な時間取らされたし」

 

「えー。まぁ〜いいや。それじゃ〜ギンガさんまた! お兄さんも! 」

 

「うん! 気をつけてね」

「…………」

 

ギンガはヴィヴィオが帰ると放心状態の青年を引きずりながらどこかへと歩き出す。そしてしばらくは引きずられていた青年だが、そのうち復活し、松葉杖をつきながら自分の足で歩き始めた。

ギンガも久しぶりに青年と話がしたかったらしく、終始笑顔はたやさない。

 

「で? 俺をどこに連れて行く気だ? 俺もう管理局じゃないんだけど? 」

 

「いいじゃないですか。どうせ暇ですよね? 先輩。さっき傷害事件の通報がありまして、その現場に……ああ、ここ……で……す…………」

 

「……おい……これが傷害事件か? ……どう見ても殺人事件だぞこれ…………」

 

大通りを歩き、途中をすぐ曲がった裏通り。ギンガはただの傷害事件として通報を受けた。だが2人の目の前に広がっていたのは傷害事件とは比較にならない血の海。

さらにその真ん中に倒れている真っ二つになった男性と1人の女性が立っていた。長い赤髪のメイドの格好をしたこの場に似合わない女性。そしてその手には大きな鎌形のデバイスが握られていた。

 

「あ、貴方は何者ですか? 何故こんな事を! ……でもひとまず、貴方を殺人事件の現行犯で逮捕します! ブリッツキャリバー! 」

 

《セットアップ! 》

 

「ハァッ! ……っ!? 」

 

犯人捕らえる為、先制攻撃を放ったギンガの拳は確実に犯人をとらえたが、その拳は鎌の棒一本で受け止められた。犯人はその場から一歩たりとも動かず、ピクリとも動いていない。

 

「その程度ですか? ガッカリです! 」

「なん……動かない!? うっ、かはっ!? 」

 

「ギンガ!? 」

 

犯人は空中で何故か静止しているギンガのお腹に拳を叩き込むとギンガを青年の後ろの壁までぶっ飛ばした。ギンガはあまりの威力と衝撃で吐血し、意識はあるものの、その場から動けなくなった。

 

「てめぇっ……いない!? ハッ!? うっ!? あがっ!? あ゛っ……あ……ぁ…………」

 

カランと間の抜けた音がし、ギンガはその方向に目をやる。するとそこには地面に転がった松葉杖と犯人に右手一本で首を掴まれながら上に上げらえている青年の姿だった。

 

「かっ!? ぁ゛……」

「無様ですね? でも何でしょうか? 貴方からはとっても嫌悪感に似た何かを感じます。他の何を放っても殺したくなるような何かを…………」

 

「せん……ぱい……ぁ……ゃめ…………」

 

「フフ、大人しくしていなさい? これ以上は死ぬわよ? 貴方」

「その……目」

 

「はい? 」

 

「ぁ……がっ……その目……イービル因子の……覚醒……兆候……だろ? お前……あ゛っ……何……者……なん……だぁ…………」

 

青年は首を締め上げられ、意識が朦朧とする中、犯人の目を見てそういった。イービル因子には2パターンの兆候がある。1つは自我を失い破壊衝動を抑えられなくなる暴走状態と2つ目は自我を保ちながらその力のみを引き出す覚醒兆候だ。

暴走状態は身体の一部が異常にいい変質し、醜い怪物になる。しかし覚醒兆候は瞳の色が金色に輝き、絶大な魔力を得る。犯人の攻撃が異常なのはその魔力による者だ。

 

「あら? そこまで知ってるの? と言うことは……貴方何か知ってるわよね? だったら話は別だわ」

 

【ぃ……たい】

「うっ!? かっ!? あ゛っ……」

 

「このまま気絶させてDr.のところへ連れて行きましょう! 」

 

【生きたい】

 

「やめ……てぇ……やめて!? 先輩!? 」

 

 

青年は死を意識した瞬間、再び頭に響く声と痛みに襲われた。だが今度は今までと違い、その声の大きさと痛みが今までの比ではない。

 

 

 

 

「うるさいな。そんなに死にたきゃ殺してあげるわ? 」

 

【生きたい生きたい】

 

 

 

 

 

そして……絶えず、連続して聞こえ出す声に反応するように青年の黒い瞳は…………

 

 

 

 

 

 

「はっ、はっ……」

「死にそうね? でも大丈夫よ、今は殺さないから」

 

「うる……せぇ…………」

【生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい…………】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【生きたい】

 

 

 

 

 

 

 

金色に輝いた。

 

 

 




次回もよろしくお願いします。

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