ヴィヴィオはそれでもお兄さんが好き   作:ペンキ屋

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ども〜

ではよろしくお願いします!


第8話【黒幕】

青年が退院した日の翌日。ヴィヴィオはコロナやリオ達といつも通りトレーニングをしていた。ただその帰り3人が着替えをしている時、偶然にもコロナのカバンから一冊の本が飛び出た事である事件が起こってしまう。

 

その本の題名は、ニートはヤンデレ好きである。……これだ。一体どこに重要があって何の為にコロナがこれを買ったのかは謎であるが、これを……ヴィヴィオが偶然手に取ってしまい、中身を興味半分でペラペラ読み始める。当の本人であるコロナは着替え中で気づいておらず、ヴィヴィオが半分くらいページをめくったところでやっとこれに気づいた。

 

「へ……ちょっ!? だめぇぇええええええ!? 」

「うわっ!? ……コ、コロナ? 」

 

「よ……読んだ? 読んだ……よね? 」

 

「え、えっと……ちょっとだけ」

 

「い、いやぁぁああああああああああ!? 忘れてぇぇぇえええ!? お願いぃぃぃいいい!? 」

 

コロナはもう全速力だった。荷物を持ち、そこから逃げるように去っていく。そして残された2人は唖然とその後ろ姿を見ていた。一体どんな内容だったのか気になるリオはヴィヴィオに尋ねる。しかしヴィヴィオは何かを考えるような顔をし、ただ、ただ一言。

 

 

「えっと……やってみようと思う内容だった」

 

 

「へ……ヴィ、ヴィヴィオ? 」

 

 

それだけを言い残してリオを置いてそこから去る。1人残されたリオはさっきよりも唖然とし、目を丸くして立ち尽くした。

 

一方ヴィヴィオは家には帰らずにまっすぐある場所へ向かった。その場所とは当たり前の如く青年のアパート。一回、二回と軽くノックし、青年が出てくるのを待つ。

 

「はいよ、誰だぁ〜? って……ヴィヴィオか。……うっ……お、お前……どうした? 」

 

「え? 何がですか? いつも通りですよ? 」

 

「そ、そっか……ならいいけど」

 

青年は出てヴィヴィオの姿を見るなりたじろいだ。雰囲気が違うのである。青年には見せたことのない含みのある笑みに、目はハイライトが消えたように深く沈んでいる。だからいつも青年が接しているヴィヴィオとはあまりにもかけ離れていた。

ヴィヴィオの変わりように嫌な予感を感じた青年はある行動に出るが、それが青年の不安をさらに掻き立てる。

 

「あ、あのな? 俺今忙しくて、今日は帰ってくれ……っ!? 」

 

いつもは見られない光景で少し遠慮気味に言いながら青年はドアを閉めようとするが、さながらホラー映画のようにガシっと扉に手がかかりそれを止められる。これには流石の青年もビビっていた。

 

「え? どうして? 忙しいなんて……あるわけないよ。 だってお兄さんニートだし。……それとも……私に見られたらマズイ物でもあるの? 」

 

「……い、いや……ないけどさ(え……何? 怖いんだけど…………)」

 

「じゃ……入ってもいいよね? 」

 

「……ど、どうぞ」

 

 

青年に許可をもらったヴィヴィオはさっきまでとは違ってすぐニッコリとし青年の部屋へと入っていく。だが青年は内心怖くてしかたがなかった。最初にヴィヴィオがテーブルの前に座り、青年が遅れてその横に腰掛ける。そんな状況でもヴィヴィオは曇りのない笑顔で青年は安心しつつも少し気が抜けないでいた。

 

 

「そういえばお兄さん義足そろそろ作らないの? ないと不便なんでしょ? 」

 

「ん? まぁ〜そうなんだけど。あいつに会うのが……なぁ? 別の業者に頼むと高いし。けどなぁ…………」

 

「そっか……はやてさんとリインさんがくれたんだよねあの義足。あ! それじゃルールーは? 」

 

「ルールー? ルーテシアの事か? 」

 

ヴィヴィオはあからさまに会いたくない顔をしている青年に気を使い別の提案を始めた。別の世界で母親と2人で暮らしている友人で青年とも関わりが深いわけじゃなく普通の関係だ。

 

「うん! 頼めば作ってくれると思うよ? それに丁度合宿いく予定だから丁度いいよ。お兄さんも一緒に行こ? 」

 

「……ヴィヴィオ? それってお前のママさんとか結構いっぱい来る奴じゃ……」

「あ……う、うん……そうだね」

 

青年はせっかくのヴィヴィオの誘いだがそれには行けるわけないと一点張り。最近あったフェイトならともかくなのはやティアナ達と会うのは青年にとって気まずい以外の何物でもなかった。しかし少し残念そうなヴィヴィオ見た瞬間、青年は思い出す。自分が何を誓い。何を守ると眠っているヴィヴィオに言ったのかを。

1度力を失った青年はその身に宿る力をまともに制御できなくなっていた。この間の戦闘ではたまたま上手く力が戻っただけ。だから今の青年は自らの意思であの力を引き出すことができない。もし仮にそれを可能にできるとすれば、自分自身ともう一度向き合う必要がある。よって、合宿にいく世界。そこの敷地なら十分な鍛錬になると考えたのだ。

 

昔の感覚を取り戻すにはこのチャンスを置いて他にはない。青年は決意を固め、ヴィヴィオの肩に手を置くと、素直にお願いした。青年には滅多にない。誠意のこもった言葉で。

 

「ヴィヴィオ……頼む。やっぱり連れてってくれ。なのは達には直接会った時に俺から謝る。だから、頼む」

 

「謝る必要はないと思うけど……うん! わかった。ルールーには私が連絡しておくから、合宿までには義足できてると思うよ」

 

「ああ、サンキューな」

 

少なくても青年は自分の中の因縁と決着をつけるまでは前を向くと決めた。ヴィヴィオもその姿勢が伝わっているのかすごく嬉しそうで、ここまでいい雰囲気を保っていたのだが、ここにきて突然ヴィヴィオのチャレンジ精神が暴走を始めた。

 

全てはコロナのあの本を見たが故に起きた偶然。決して悪意はなく。本を真に受けて青年に好かれたいと思うヴィヴィオの素直な心が生んだちょっとした悲劇である。

 

「お兄さん? ちょっと聞きたいんだけど……これって……コロナのだよね? 」

 

「なんっ……」

 

青年は言葉に詰まる。どうすれば言い逃れができるのか。考えても考えても考えても浮かない。何故ならヴィヴィオの手にある1つの布。それは何を隠そうコロナの下着に他ならない。

 

「このパンツ……ここの絵が少しゴライアスに似てるからって、コロナが気に入ってる奴だからよく覚えてる。どうして……ここにそれがあるの? 」

 

「それはその……」

「コロナ……ここに来たの? いつ? 私知らないよ? コロナがここに来てるの?」

 

ヴィヴィオは再び目からハイライトを消し、青年の両肩を掴みながら迫り押し倒す。そんなヴィヴィオが少し怖い為、青年は何も言えずに黙っていた。少し顔を逸らすように逃げるがヴィヴィオは両手で青年の顔を無理矢理自分に向けそれをさせない。ジッと光のない目が怯える青年の目を射抜き、ヴィヴィオの顔が近づいていく。

 

「……お、おい……」

「お兄さん……コロナと……」

 

「ま、待て!? 違う!? あいつが勝手に来て泊まっていっただけで!? ……しまっ!? 」

 

青年は動揺するあまり墓穴を掘った。言わなくてもいい事をヴィヴィオにバラし、左手で急いで自分の口を塞ぐがもう遅かった。

ヴィヴィオはゆっくり青年から離れ、玄関の側にある台所へ行くとそこから包丁を取り出し、青年の前まで戻ってくる。青年はもうどうすればいいのかわからずに慌てふためくしかない。自分の喉元に包丁を向け、相変わらず光のない目で青年を見ながら言葉を続ける。

 

「お兄さん……私の事どうでもいいんだ? コロナの方がいいんだ……やっぱり2人は仲良しさんだったんだね……だったら……」

 

包丁の刃先が青年に向けられ、こんな事になるとは思ってもいなかった青年は王道とも呼べるあるセリフを頭に浮かべた。

 

「お、おおお落ち着けヴィヴィオ!? な? な? 取り敢えずその物騒な物、置こうか? た、頼むから! お前の事は大事だと思ってる。ほ、本当だ! 」

 

この昼ドラのような血みどろの惨劇が起きる一歩手前の状況で、ヴィヴィオがコロナの本を半分までしか読んでいないことが幸いした。ヴィヴィオはその先のセリフを知らずに勘違いしたのだ。勿論このまま惨劇を起こす気はヴィヴィオにはない。ただこうすれば青年が喜ぶかなとありえない事を思いやっていただけ。

 

そして……

 

 

ヴィヴィオの芝居は終わる。

 

 

「だったら!? お兄さんを殺して私は帰る!!! 」

「ちょっ、それただの殺人だから!? 」

 

「え? ……違うの? あれ? こんな感じじゃなかったかな? 」

 

「うん……ヴィヴィオ。俺意味わかんないから説明してくれ」

 

カオスな状況が生まれ、青年はジト目で急に元に戻ったヴィヴィオに説明を求めた。ヴィヴィオはそれに素直に応じ、丁寧に説明していく。

 

つまり、青年がニートである為にヤンデレと呼ばれる属性持ちの女の子が好きなのではないか。ヴィヴィオはそう思ってしまったのだ。原因はそんなピンポイントな本を持ち歩いているコロナであるのだが、青年はそれよりも今のが芝居である事にホッと胸をなでおろすと、ヴィヴィオを左手で力強く抱き寄せさらに力を加えた。

 

「お、お兄さん!? ちょっと!? 何これ!? 急に恥ずかしいよ!? 」

 

「これっきりにしてくれ。さっきのは怖かった…………」

「……そうなの? 」

 

「ああ……もう勘弁んだ」

 

「お兄さんでも死ぬの怖い? あたっ!? 」

 

青年は的外れな事を言ったヴィヴィオの頭を叩くとヴィヴィオの耳元で彼女にしか聞こえない声である事を言った。今まで聞いたこともない。デレッデレな青年の想いを

 

「お前が……いなくなるのが怖いんだ…………」

 

「ぁ……へ!? しょ、しょしょしょ、しょうなんら…………」

 

ヴィヴィオは真っ赤になり、ろれつも回らなくなった。やってしまった事に後悔もしたが、同時にやって良かったとも感じた。青年が自分をどう思っているのか。それが聞けた事で少しばかり満足感をヴィヴィオは覚える。

目を閉じ、この幸せな温もりに包まれヴィヴィオはもう一段階積極的になった。青年の抱きしめる力強さに合わせるように彼女も青年背中に手を回したのだ。

 

「お兄さん……今日泊まってもいい? 」

 

「ダメだ! 」

 

「やっぱり…………」

 

 

青年はいい雰囲気なのを構わずそのお願いを一蹴りした。大事に思っていても、小学生のヴィヴィオに対しては妹止まりで、青年にはその気はないのだ。

だがヴィヴィオもそれは分かっている為、変にむくれたりはしない。何故ならヴィヴィオには確たる決意があるのだから。

 

 

「えへへ。今は……妹でもいいけど。そのうち絶対、私の事しか考えられないほど好きにさせてあげるね! 」

 

「ガキのくせに……アホか! 」

「あたっ!? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃……場所は変わって、フェイトと青年が訪れた廃病院。そこではフェイトに手伝いを頼まれたティアナが調査に入っていた。鑑識により、死体の山はもうないが、まだ何か残されている可能性を考え、ティアナは地下深くへと虱潰しに調べる。するとティアナしかいないはずの場所で、声が響き渡った。聞いたことのある男の声。ティアナは嫌な予感を感じながらも気配を殺しながらゆっくりその声のする部屋の前までやってくる。

 

【Dr.、例の件は失敗です。申し訳ありません、オリジナルを捕獲するに至りませんでした】

 

「よいよい。あれは泳がせておけばいいのだ。そのうち自分から飛び込んでくる。それよりも……聖王のクローンはどうなっているのかね? この実験には彼女の血が必要不可欠。いつでも捕獲できるようにはしておきなさい」

 

【わかりました。準備を怠らず、確実に捕獲できるようには準備しておきます】

 

ティアナは今、目と鼻の先で通信をしている男を見たことがあった。Dr.ベルン。4年前のJS事件で死んだはずの凶悪犯。スカリエッティと行動を共にし、イービル因子について研究していた人物だ。

ティアナはクロスミラージュを構えながらベルンを逮捕しようとタイミングを計り、ただひたすら通信が終わるのを待った。

 

「私の方も目的は済んだ。これからアジトに戻る。ただ……ネズミを1匹巻かなきゃいけない。少し遅れるが、気にしなくてよい」

「っ!? 両手を上げて大人しくしなさい! Dr.ベルン、貴方を逮捕します! 」

 

【かしこまりました。ご武運を! 】

 

Dr.ベルンはティアナがいる事に気づいていた。よってティアナは逃げられる前に行動を起こす。デバイスを敵に向け警告を促すが、ベルンは背を向けたまま余裕な態度で話を始めた。

 

「ティアナ・ランスター。フフ、見違えたな? はやり4年の歳月は人を成長させる。実に素晴らしい」

「黙りなさい! まさか生きていたなんて。目的何? 今更」

 

「話は聞いていただろう? 私の興味は今もイービル因子ただそれだけ。あの忌々しい男を捕まえ、その全てを調べるまでは私の好奇心はおさまらん!! 」

 

「またあんたはそんな目的であの子やあいつを巻き込もうとしているの? ふざけないで! あいつはもう力を失ったの! これ以上あんた達に手を出される理由はないわ!! 」

 

ティアナは声を荒げる。今でこそ関係の悪い青年だが、それでも彼が被害者である事は彼女自身理解している。本人が嫌いなのとそれとでは彼女の中で別だった。ヴィヴィオも含め、4年前に目の前の男によって人生を壊されたのは間違いない事実。仮に再び2人を巻き込もうと言うのであれば、ティアナを含め、なのは達、大勢の管理局員が黙ってないだろう。

しかしベルンは笑い、ティアナをコケにした。決して誰にも媚びず屈しない。狂気の探求者の異名はダテではないのだ。

 

「ハハハ! ティアナ・ランスター? 君は何か勘違いをしていないかね? あの男が力を失っただと? それはありえない。何故ならあの男は現代に残されたイービル因子と呼ばれる歴史の特異点。歴史の再現。あの男こそ、唯一のイービル因子……いや。イービルΩ……その唯一無二の適合者なのだからね!! 」

 

「イービルΩ……ですって? 」

 

「そうだ! 君達はまだ知らんだろう? 君達が見た私の実験体はイービルΩのいわばコピー体。イービルβ。よく似ているが全く違うものだ。……届かないのだよオリジナルに。あれは歴史の宝だ。あれだけの力を人の身におさめて正常なことが不思議でならない。βとΩ、その違いはなんなのか。私は知りたい! 知りたいのだ!! 」

 

鼻に付く高笑いはティアナをイラつかせ、煽る。それでも油断はしていないティアナだが、少しばかり感情が高まった瞬間をベルンは見逃さなかった。

 

「もう口を開くな!! もういい! 大人しく……っ!? から……だが…………」

 

「フフ。3分だけ大人しくしていなさい。少しでも私の話に付き合ってくれたご褒美だ。今回は殺さずに見逃してあげよう」

 

「動……け……ない…………」

「イービルβの最高到達点。魔力による時間操作。その力の一端だよ。例えオリジナルに届かなくても優秀な因子である事に変わりはない。これだけはオリジナルにもできないからね。それに……君達のような普通の魔導師が、イービルβの完成系とも言うべき私に勝てるなどと思わない事だ。ハハ、ハハハハハ! フハハハハ! 」

 

 

「くっ……っ、ちくっ……しょう…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、ティアナ達は黒幕が誰であるかを理解し、狙いが何であるかも敵に教えられる形で理解した。

 

そして……悔しがるティアナはこの後動けるようになってすぐある人物との面会許可を願い出る。フェイトも同意の元、一緒にある刑務所へとやってきた。

 

 

そこでDr.ベルンの次にイービル因子に詳しいただ1人の犯罪者に会うために。

 

 

 

 

 

 

「フフ、これはこれは。私に何か御用かな? 2人とも」

 

 

「ジェイル・スカリエッティ……執務官、フェイト・T・ハラオウンとして貴方に聞きたいことがあります! 」

 

「君が? 私に? フフ、それは実に興味深いね? なんだろうか? 」

 

 

「イービルΩ……これについて貴方は何か知ってるはずです」

 

 

フェイトは単刀直入にこの話題を出した。

 

 

しかし………

 

 

次の瞬間……フェイト達が見た事ない程スカリエッティは動揺し、その顔色が変わった。

 

 

 

 




次回もよろしくお願いします。

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