ヴィヴィオはそれでもお兄さんが好き   作:ペンキ屋

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ども〜


遅くなりました。


ではよろしくお願いします


第9話【霧の中の過去】

「イービルΩ……今さら何故その名が出てくるのかね? 穏やかじゃないな。すまないが私は何も」

 

「そんな嘘が通用するとでも? 貴方らしくもない。無限の欲望と言われていた貴方なら、興味本位でも乗ってくるかと思いましたが? 」

 

「……あれは伝説上の生物だ。もうこの世にはいない」

 

「生物? 待って、あれはロストロギアなんじゃ」

 

少し広めの面会室で、スカリエッティは両手を拘束されながら椅子に座り、フェイト達と話をしていた。最初、スカリエッティは知らないそぶりで誤魔化していたが、誤魔化きれないとわかるや渋々喋り始める。

ティアナは終始黙って話を聞いていたが、イービルΩが生物という話題が出た瞬間驚き声を荒げる。だがそれはフェイトも同じで、細菌型といってもロストロギアである認識しかなかった彼女達からすれば全く知らない情報だった。

 

「正確に言えば、あれはロストロギアではない。れっきとした生物だ。だがまぁ……今となっては実在すら危うい代物だが」

 

「ならイービルβとは? あれはどこから」

 

「イービルβはイービルΩの化石DNAから採取し作り出されたただのコピーだ。古代ベルカで名も知らない王がロストロギアとして再現したのがそれというわけだ。しかしどんなに研究し実験を重ねてもそれがオリジナルに届くことはない。何かが決定的に足りないのだ。本物のいない今、100%それを再現するのは私の見解では不可能」

 

 

あれほど研究というものにご執心でそれに対して無理などと言わず、真実を証明するためにどんな手段もいとわないスカリエッティの口から不可能と出たことに2人は言葉を出せなくなった。そしてスカリエッティはさらに続ける。

 

 

「仮に……仮にだ。もしイービルΩと呼ばれる個体が一体でも生存していたのなら…………」

 

フェイトとティアナはそう言いかけたスカリエッティにある1つの想像で、研究したいと言うのだと思っていた。それがスカリエッティという人間で今も変わりないと思っていたためだ。

 

だが2人の想像は全く逆の答えとして裏切られる。

 

 

 

 

 

「躊躇うことなく殺したまえ」

 

「「なっ!? 」」

 

「ハハハ!! 何を驚く? 私がそれを研究したいと言うと思ったのかね? 残念だが……それはない。何故ならあれは……人類の敵だ。例外などなくね」

 

 

告げられた真実は2人を困惑させた。イービルΩが人類の敵ならばそれを宿している青年は人類の敵に他ならない。

 

だからフェイトは思う。

 

あんなおひとよしが人類の敵になり得るだろうかと。

 

 

しかしそう思ったが最後、フェイトは気づいてはいけないことに気づいた。青年が何故自分達との誓いを破ったのか。4年前のもやが少しずつフェイトの頭から消えて晴れていく。

 

 

「嘘……待ってよ……それじゃ……あの時…………」

「フェイトさん? ……あの……っ!? 」

 

かつて自分を殺そうとし、彼女達を裏切った理由と真実が着々とフェイトを焦らせ、小さくも青年への感情が嫌悪から罪悪感へと転換しつつあった。

 

「ハハ、フハハハハ! こいつは面白い! なるほど。分かったよ。あの男か? イービル因子覚醒者として聖王のクローンと戦ったあの男か? そうかそうか! あの男がオリジナルを宿しているのか? 納得だ。それなら君達の行動もあの男の非常識さも納得できる! フフフ、さて……そうとわかれば滑稽だ。ぜひ聞かせてほしい。君達は何を選択するのか。仲間を、あの男を……殺せるかな? 」

「うるさい! 黙れ!? ……そうだったんだ……ワンは……全部わかってて…………」

 

フェイトは頭を抱え、思わず取り乱しながら立ち上がる。彼女はたどり着いたのだ。

 

いくつものピースが合わさり4年前の真実ヘと。

 

青年は自分が力を失った瞬間に分かっていた。正体は分からなくても自分の中にはまだ何かがいる。それは限りなく直感に近いものなのかもしれない。でも青年は確実にそれが分かっていた。仲間を守る為に自分がどうしなければいけないのか。

 

結果から言えばヴィヴィオの所為で青年はそれに失敗したかもしれない。

 

だが青年はもう1つ選択をしていた。その事を誰にも言わず自分が嫌われる事。仲間をイービル因子から遠ざけ、平和という安定を保った。平和という意味では青年は仲間を確実に守る選択を取っていたのだ。

イービル因子を宿した人間が自分1人だけなら自分を始末すれば片がつく。つまり青年が真の意味で孤独になった時、青年は再び死のうと考えている。

 

しかし青年は今も生きている。何故なら青年には今は死ねないたった1つの理由がある。

 

その理由とはヴィヴィオの存在だ。

 

 

 

今青年が生きているのはヴィヴィオがいるから。ヴィヴィオが青年を慕っている為。もしヴィヴィオが青年の側にいなければ青年はとうの昔に死んでいる。

それ程までにヴィヴィオは青年の心に自分という存在を深く焼き付ける事に成功した。勿論ヴィヴィオ自身にその自覚はない。彼女はただ青年が好きなだけなのだから。

 

 

 

「もう……ワンとどう接したらいいのかわからないよ…………」

 

「フェイトさん…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト達がスカリエッティから話を聞いた日から数日。合宿予定日の3日前の事、青年の所にお客が訪れていた。それはヴィヴィオでもコロナでもない。

 

 

「突然の訪問失礼いします。どうしても……面と向かってもう一度」

 

アインハルトだ。

 

 

彼女は青年に知らないと誤魔化されながらも、どうしても初めて出会った頃の行いを謝りたく思い、ヴィヴィオに場所を聞いてやって来た。ただ青年も素直ではない為そう簡単に頭を下げる所まで進まない。

 

「うくっ、……な、何を……するんですか? 」

 

「いや……なんか頭を下げようとしてるから」

 

アインハルトは青年が出てきてからすぐに頭を下げようとしたが、青年がその頭を左手で鷲掴みにし頭を下げる行為を邪魔していた。しばらく状態が膠着し、互いに負けず嫌いなのがさらにその状態を進ませない。

 

「ヴィヴィオさんのお兄様……ち、力……強かったんですね? 」

 

「そりゃ〜左手だけで生活してるからな? その分腕力は集中するだろうよ。にしても……いい加減やめね? 」

 

「い、いえ……謝るまで私は……」

 

「はぁ……ならこうしようか? 謝る代わりに俺のお願い1つ聞いてくれ」

 

青年はアインハルトの頭から手を話しながらそう告げた。彼女も謝る代わり言われては黙って聞くしかなく、むしろ償いができるのであればと喜んでないよも聞かずにそれを受け入れる。

 

「ヴィヴィオさんのお兄様、私は何をすれば? 」

 

「なぁ〜に、簡単な事だ……ちょっと俺の相手をしてくれ」

 

「相……手? それはどう言う…………」

 

彼女は青年の言ってる意図がわからず、少し考え込んでいた。しかしいつの間にか仕度をし、青年は松葉杖をつきながらアインハルトを連れて広い公園までやってきた。

少し距離を開け、アインハルトと青年は向かい合う。

 

 

「何を……なさるおつもりですか? 」

 

「もう分かってんだろ? ちょっと……組手に付き合ってくれ。それとも……1度目負かした相手とは戦えないか? 」

 

「い、いえそうではなくて!? 今の貴方と組手なんて!? ……っ!? 」

 

「なぁ〜アインハルト? ……それは少し……ナメすぎだぞ? 」

「ハッ!? あ…………」

 

アインハルトは突然目の前から消えた青年に驚き、その後後ろから聞こえた声を聞き固まった。

 

「そうだろ? 」

 

確かにアインハルトは青年を1度負かしている。ただそれは青年にその気がなかった為で、いかに青年が力を失っていたとしても青年がアインハルトに遅れを取ることはない。でもアインハルトより強いわけでもない。結果から言えば青年とアインハルトの力はこの時この状況で互角。だから青年はアインハルトに組手を頼んだ。

 

少しでも昔の自分に戻るために。

 

 

「失礼しました! 私は……いえ、私でいいのならヴィヴィオさんのお兄様の相手を努めさせていただきます! 武装形態」

 

「そう来なくちゃ」

 

アインハルトは青年からすぐに距離を取り構えた。さっきまでと違い、大人モードへと変化して青年と向き合い直す。見た目だけなら青年はスキだらけに見える。けどそれは当然で、松葉杖を唯一の支えである左手でしかつけない青年にとって、この状態で構えるのは不可能だからだ。

 

「……スキだらけなのに……どうして…………」

 

視覚では、確実にどこタイミングでアインハルトが打ち込もうと青年に抵抗する行動は起こせないように見える。しかし第三者の目ではなく、当事者……今青年と相対しているアインハルトは違った。

彼女は初めて感じる感覚に戸惑い、一歩を踏み込めないでいた。スキだらけなのに……スキがない。一見矛盾しているようで、これは間違っていない。

もしこれがアインハルトではなく、その辺の格闘家や魔導師ならその緊張に耐えられず青年に対して攻撃を仕掛けているだろう。

 

だから彼女はまだ青年を前にして敗北していない。それが青年と互角であるという何よりの証。

そう、これは目や仕草だけで相手を挑発している青年の技術に他ならないのだ。

 

「いいな。やっぱりお前強いよ。そんじゃ……よろしく! 」

「っ!? 杖を投げ!? ……あ、ぐっ!? ……覇王……」

 

 

青年はアインハルトへ向かい真っ直ぐ突っ込んだ。右足で地面を蹴り、飛ぶようにアインハルトへと向かう。その際拳を作る為にアインハルトの真上に松葉杖を投げ青年は拳を握り込み構える。ただ、これで終わるアインハルトではなく、両手を使いこの拳を受け止めた。

そしてそのままアインハルトは反撃体制に入る。

 

「ん? ……っ!? 」

 

「空破断(仮)」

「がっ!? 」

 

防御に使っていた手から片手を離し、掌底で空中を伝う衝撃波を青年にぶつける。青年はそれを受けると、支える足がない為後ろに簡単に吹き飛んだ。

だが吹き飛ぶ最中空中から落下して来た松葉杖をキャッチし、器用に地面へと着地する。ここまで互いに譲らず、アインハルトは改めて青年が強かったと認識を強くした。

 

そもそもアインハルトが最初の頃青年を襲ったのは偶然であって偶然ではない。格闘の強者を調べる際、青年の名前と写真がたまたま乗っていた為だった。

 

「……ヴィヴィオさんのお兄様。この間の無礼をあたらめてお詫びいたします! 」

 

「おい、それは言わない約束だろ? 」

 

「いえ、お兄様とこうして拳を交え、やはり言わなければ私の気が済みません。そのようなハンデを負っておきながら、真っ直ぐな拳を向けてくださって私は感動しました」

 

「いや……そんな大袈裟な…………」

「私はヴィヴィオさんのお兄様を心から尊敬します! ですので……私の全力の一撃……受けてくださいますか? 」

 

アインハルトは目を輝かせ、青年に期待するように言い放つ。戦いというものに真っ直ぐでどこまでも正直な姿勢。青年は苦手だが嫌いじゃなかった。強くなろうとガムシャラになっている時の自分がアインハルトに重なり、昔の自分を見ているようで、青年は少し笑う。

 

当然だが、こと戦闘において青年は小細工を好まない。故にこの申し出を……青年が受けない理由はなかった。言葉はなく、ただ左手を構える。

 

 

「ありがとうございます! 覇王……」

 

「あの時の技か……フフ、何でもいい。俺が今できるのは、この拳を突き出す事だけだ」

 

2人は構え、少しだけ時間が止まったように動かなくなった。しかしアインハルトが先にその沈黙を破る。駆け出し、青年への間合いを詰めると彼女の出せる全ての力を込め、一撃必殺の拳を青年へと叩き込んだ。

 

「断空拳! 」

 

「オッ、ら゛っあ゛!!! 」

「つっ!? ……ぐっ、まだです!! 」

 

先に仕掛けたのはアインハルトだが、攻撃を行ったのは青年が最初。アインハルトの断空拳を左拳で腕ごとはたき落とす。そうされたアインハルトはバランスを崩し、はたき落とされた地面の方向によろける。だが彼女は踏ん張り、倒れる事なく回転する要領で青年に断空を再度放った。

 

「ハァァッ!! 覇王、断・空・拳!!! 」

「うっ!? ぁ ……ぐあっ!? 」

 

青年の力を流し、その威力を利用しての打ち下ろしによる断空拳。そんな物をまともに受けては青年とて耐えることはできない。故に青年はぶっ飛び、大の字になりながら仰向けで地面に倒れた。

 

悔しさ、惨めさ、青年が何を感じたかはアインハルトにはわからない。ただ、青年は拳を握り、仰向けのまま上に掲げると自ら敗北宣言をした。

 

 

 

「サンキューな。いい拳だった。完全に俺の負けだ。そんで……悪かった。俺は……お前の全力に答えてやれなかったよ」

 

「……いえ。その身体で……そこまでしてくださった事だけでも私は十分です。ありがとうございました。それであの……」

 

 

アインハルトは青年を見下ろしながら少し恥ずかしそうにもじもじすると、青年の思いもよらない事を言いはじめる。

 

「あの! 私を弟子にしていただけませんか!! 」

 

「……は? 何言ってんの……お前……負けたの俺なんだけど? 」

 

青年は困惑しながらアインハルトを見る。しかしその目は本気だ。どこまでも真っ直ぐに穢れがない。その言葉には確かな本気があった。彼女は今青年と拳を交えた事で理解したのだ。青年には拳で戦う為の自分より高い技術があると。

 

「それは結果に過ぎません。貴方はまだ私より遥か上にいる。私はその拳に惚れました。貴方は私の知らない物をまだ持っている。ですからそこまで……私を導いていください! 師匠! 」

「その呼び方やめろ!? 俺はそんな大層な人間じゃねー!? 」

 

「わかりました……」

 

「おう、分かってくれて何よりだ」

「先生! 」

 

「呼び方の問題じゃねぇーよ!? ……たくっ」

 

「あ、待ってください先生!? 先生! 」

 

彼女は、立ち上がり逃げ出そうとする青年を追いながらしつこく新たな呼び名を連呼する。例え拒否されようとアインハルトはもうこの呼び方が気に入ってしまい、やめようとしない。

 

「しつこいぞ!? 何度言っても無理だ! 俺はそんな柄じゃない」

 

「大丈夫です! 分かっています。今先生は私のやる気を試してらっしゃるのでしょ? ですから私を弟子にしてくれるまで、私は諦めません! 」

 

「俺がお前を弟子にする前提!? 話聞いてるのかお前は!? はぁ……いいから帰れって! 」

「いえ、どこまでもお供致します! 弟子たるもの、先生の身の回りのお世話は……あいたっ!? 」

 

青年はどこまでもついて来ようとするアインハルトにゲンコツをお見舞いすると、帰れと再度一喝入れた。そして流石にアインハルトもこれ以上はマズイと感じたのか、渋々ふくれながら青年と別れ、家へと足を運ぶ。

 

ただ青年は知らない。ここで彼女を帰らそうとも、彼女からは逃げられない。

 

 

青年は知らないのだ。

 

 

3日後の合宿に彼女も参加するという事を…………

 

 

 

 




次回もよろしくお願いします。

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