財団は艦娘を収容しました   作:ジェリコ

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6話 戦闘と予感

 20██年██月██日、SCP-████-Aが現れてから実に2ヶ月と█日。おそらく現状を打破するための第一歩となる実験が行われる。実験は以下の流れだ。

 

第一段階

吾妻島よりSCP-████-B-1 吹雪を乗せた財団所属の輸送艦[SCPS ちた]と各種観測機材を搭載した観測艦[SCPS れぶん]、護衛の戦闘艦[SCPS あそ] [SCPS みはら][SCPS みの][SCPS ちくご]の艦隊を出港させる。この際、事前にカバーストーリー[海上自衛隊による哨戒]を一般に発表する。

なお、吹雪を船に乗せた理由は一般人の目に触れられるのを極力防ぐためである。

 

第二段階

艦隊を房総半島の先端沖合いまで航行させ、吹雪を輸送艦の後部ウェルドックより発進させる。発進時より吹雪の動向は観測される。

 

第三段階

吹雪自ら索敵し付近に頻繁に出現するSCP-████-A-1 駆逐イ級を発見次第、戦闘行動に移行する。

 

 

第四段階

吹雪が対象を無力化した時点で実験は終了。吹雪を収容する。実験が追加されない場合、帰港する。吹雪の攻撃が対象に効かない、または、吹雪が重大な損傷を負った場合、実験を即時中止し吹雪を収容した後、撤退する。

吹雪が重大な損傷を負った場合でも駆逐イ級に対して効果があると認められれば後日第二次実験を行う。

 

 実験の主任として██博士が、また、特別にエージェント広瀬が参加することとなっている。

 

 

 

  早朝4時、まだ太陽は見えないが明るくなり始める頃、誰にも見送られることなく艦隊は出港した。吹雪は前日に船に入り英気を養うため睡眠中である。

 

 

 

 深海棲艦が現れる以前の東京湾は船で溢れかえっていたものの、今はごく近海で漁をする漁船ほどしか見かけない。少し前まで日本国内のみ輸送するコンテナ船なども少ないながら行き交っていたが、燃料を節約するためだろう。港でただ浮かんでいるだけになってしまっている。

 

 そんな光景を広瀬は船上から眺めていた。

 果たしてこの光景が今後も続くのか、緩やかに以前のように活気あふれる海になるのか。

 

 それは誰にもわからない……

 オブジェクトの存在を考えなければという馬鹿げた仮定だが。

 

 

 

 物思いにふけっているうちに実験開始時刻が刻々と近づいてきた。

 緊張と興奮に高鳴る胸を抑えながら、広瀬は待機室へと歩いていった。

 

 

 房総半島沖合い10km、この距離は羅針盤やGPSがギリギリ動作する最大距離だ。艦隊はここで停止し実験は第三段階へと移行する。

 

 すでに出撃の準備を終えた吹雪はウェルドック前で財団職員とともに最終確認を行っていた。

 

「このヘッドセットというのはすごいですね! 打電しなくても直接会話ができるなんて!」

「だが、それが破損した場合などは事前に伝えた周波数、暗号でモールス信号を打つように。他に質問は?」

「うーん 特にありません」

「そうか。…………実験開始まであと5分だ。ウェルドック内に入りたまえ。注水を開始する」

「はい!」

 

 

《あー あー マイクテスト、マイクテスト。聞こえてますか?》

《はい、聞こえています。その声、広瀬さんですか?》

《ああそうだ。こちらからも確認するが、準備はできたか?》

《はい! 大丈夫です!》

《ならいい。今回はあくまで実験だ。駆逐イ級を1体無力化したら帰還するように。では、健闘を祈る》

 

 実験開始の合図が出る。

 

「駆逐艦吹雪、出撃します!」

 

 その声とともに吹雪は輸送艦より発進していった。

 

 

 観測艦 [SCPS れぶん] 観測室

 

「SCP-████-B-1、発進確認しました。現在、カメラ、通信装置、ビーコン発信装置、その他の観測機器、すべて順調に稼働しています」

「こちらからも観測用UAV(無人航空機)を発進させろ。上空からも戦闘の様子を撮影する」

「了解。もしUAVでSCP-████-Aを発見した場合、SCP-████-B-1に報告はしますか?」

「いや、それはするな。今回の実験では対象がどのようにやつらを発見するかも調査する。こちらから教えては実験にならんよ」

「分かりました」

 

 

 

 発進から10分後、吹雪は羅針盤妖精の指示に従って海を航行していた。

 天気も良く、波もほとんど無い。いたって穏やかな状態の海である。しかし、今は違う。

 

《!! 水平線に目視で敵艦を発見しました! 距離およそ5000m! これより戦闘に入ります!》

《了解》

 

 吹雪は速度を上げ、距離をどんどん詰めていく。敵もこちらに気づいたようで砲を発射し始めた。

 そんな砲撃を吹雪は急加減速、急旋回で軽々と避ける。そして距離3000mで吹雪も砲撃を開始した。

 

《いっけぇ!》

 

 吹雪の砲撃は初弾は外れた。だが、2発目は駆逐イ級に直撃した。

 普通の人類の攻撃では目標に1発当たっただけではほぼ損傷を与えることはできない。

 しかし、カメラが映し出した映像にはまだ戦闘力は十分あるものの、黒い外装の一部がへこみ、速度が少し落ちている駆逐イ級が映っていた。

 

「着弾時に微弱なヒューム値の変動を確認しました。かなり特殊な数値です」

「やはりな、これでSCP-████-Bの攻撃はSCP-████-Aに有効ということが証明されたわけだ。このことが分かっただけでも大きな収穫だ。最後まで記録を続けるように」

「了解しました」

 

 

《魚雷、打ちます! 当たってぇー!》

 

 双方の距離が2000mになったころ、吹雪は魚雷を発射し、後退を始めた。そこに追撃をかけた駆逐イ級は自ら魚雷の射線に入りこみ大きな水柱を立てる。

 

 水柱が消えると、そこには元から何もなかったのではないかと思うほど綺麗な海面が広がっていた。

 

 

「目標の消失を確認しました!」

「よし! SCP-███-B-1 吹雪に帰投するよう連絡しろ」

「はい」

 

 

 その後、何事もなく吹雪は艦隊に帰還した。ウェルドックには出発の時より多い財団職員、エージェント広瀬と██博士が待っていた。財団職員の一部は拍手している。

 

吹雪「えっと、とりあえずありがとうございます」

広瀬「なに、謙遜することはない。君はそれだけのことをやってのけたんだ」

██博士「そうだ。これでS…… 深海棲艦の脅威に打ち勝つ力を我々は手に入れたということになる。この意味は大きいぞ」

吹雪「そんな、私はただ、自分の使命を全うしただけです」

広瀬「まあ、正式な決定はまた後程になるが、君は我が[財団]の部隊の一員となることがほぼほぼ確定したわけだ。これからもよろしく頼むぞ」

吹雪「はい! こちらこそどうぞよろしくお願いいたします!」

 

 

██博士「さて、早速で悪いが君には補給した後にまたすぐに出てもらう。君にも疲労の概念はあると思うが、どれくらいまでなら堪えられるかの実験をすることになったからな」

吹雪「え……? お手柔らかにお願いします……」

 

██博士(君がオブジェクトだとわかっているが心が痛む。いくらオブジェクトとはいえ、この年頃の少女に戦いを任せ、更には実験台に近いこと…… いやそのままか をさせるのだからな……今度、カウンセリングを受けに行くか……)

 

 

 その後、4回出撃と補給を繰り返し行いその回数に比例して攻撃の命中率や回避率が下がることが確認された。

 吹雪は4回目の出撃で被弾し、5回目で大破状態となり撤退する。

 大破状態での撤退は護衛の戦闘艦による援護もあって成功し、輸送艦に収容。艦隊は帰港する針路をとった。

 

 

 港へ帰る途中、艦内で広瀬は吹雪の部屋にノックをしていた。

 

「広瀬だ。入っていいか?」

「はい。どうぞ」

「様子はどうだ……って聞くまでもないか」

「いえ、確かに痛むところはありますけど大丈夫です」

「そうか。それにしても体は丈夫なんだな。あれだけ艤装と服がぼろぼろなのにほんの僅かな傷しかない」

「まあ、艦娘ですからね。当たり前です」

「それを言われたら何も言えないな。それで本題だ。我々財団の最高評議会が君を財団直轄の部隊として運用することを正式に決定した。それによって君が要求したことのほぼ全てを我々は承認する。詳しいことはまだ決まっていないが、一応君に知らせておくべきだと判断されたのでこうして伝えに来たという訳だ」

「分かりました。ありがとうございます」

「そしてだ、まだ実験していないから分からないが艦娘を出現させる方法、建造と言ったか? それを世界各地にある財団の施設で行いたい。その方法を早急に提出せよとのことだ。さすがに今日は無理だから明日までにまとめておいて欲しいのだが……」

「……多分それは無理ですよ。建造するためには妖精さんに指示を出せる艦娘がいないと出来ないからです。そもそもその設備を造るのにも妖精さんの協力が必要なので、私みたいに突然艦娘が現れるか、地道に日本から制海権を取り戻していくかの二択しか現状取れないと思います」

「…………考えてみればそうか。前者はまた発生するかどうか分からないからな……かといって後者も時間がかかりすぎる……。すまない、このことは早急に報告する必要がある。今日は疲れただろう。ゆっくり休むといい」

「はい。ありがとうございます。お力になれずすみません」

「君が謝ることはない。では」

 

 次に広瀬は██博士のところへ向かい、このことを報告した。

 

「…………とのことです」

「そうか……本部や他の支部はあまりいい顔をしないだろうな……」

「なんとかしてこちらで建造したSCP-████-Bを送る方法はないでしょうか?」

「今のところ潜水艦を使うのが最も可能性が高そうだったが、ロシア軍の潜水艦がSCP-████-Aに沈められたという情報が入ってきている。そもそも奴らは海の底で発生していると考えられているからな。潜水艦はダメだ。ロケットなら可能かもしれないが、カバーストーリーやSCP-████-Bが乗る区画の設計、そもそもロケット自体新しく設計する必要があるな。それにロケットも撃墜されない保証はない。問題が山ほどあるよ。通常の乗り物は現実的ではないな」

「なら空間移動、転移系のオブジェクトやAnomalousアイテムなどを使用するのはどうですか?」

「試してみる価値はありそうだがSCP-████-Bは厳密にはヒトでは無い。どのような影響が出るのか分からんよ。実験するにしてもある程度数が揃ってからになるだろうな」

「結局打つ手なしですか……」

「こればかりは仕方あるまい。すぐに決めれることではないからな。もうしばらくは他の地域には我慢してもらうしかないだろう。このことは私からサイト管理者と日本支部理事に伝えておこう。報告、感謝する」

「はっ」

 

 

「ああそうだ。広瀬君、帰港したら君は横須賀の吾妻島に新設されることとなった特殊サイト-81██"鎮守府"のサイト管理者、提督となることが決まっているからよろしく」

「えっ………………冗談じゃないですよね?」

「本当のことだ。まあ頑張りたまえ」

「…………」

 

 

 艦隊は横須賀へと向かう。新たな希望と波乱の予感をのせて。




今回は戦闘とその後のゴタゴタ回でした。

Anomalousアイテムというのはオブジェクトほどではないですが、何らかの異常性を持っているアイテムのことです。
日本支部で収容しているアイテムへのリンクを貼っておきます。

Anomalousアイテム一覧-JP 作成:合同
http://ja.scp-wiki.net/log-of-anomalous-items-jp

お知らせ

私事ながら現在リアルが忙しくなりつつあり、10月頃まで投稿がかなり遅れ、場合によっては2ヶ月に1回、最悪投稿できないかもしれません。
ようやく軌道に乗り始めたこの作品ですが、投稿が遅くなることをご了承ください。
皆様が忘れたころに戻ってくると思いますのでお待ちいただけると幸いです。
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