プログレッシブ・バックナンバーズ   作:蓼野 狩人

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データ:《アルゴ》(02)

キリトからアニールブレード獲得に関する情報を獲てから、私はあるプレイヤーの情報を入手していた。

 

それは赤いフーデットケープを身につけた剣士の話だ。何でもそのプレイヤーは数本のアイアンレイピアをまとめ買いした後に迷宮区へ行ったまま、帰ってこないのだそうだ。

 

「俺はここでホームレスの真似事をやり始めてからもう何日かしますけど、なんとなく気になりましてねー。名前は知りませんけど、多分あれは女性ですね。歩き方ひとつとっても、疲れた感じなのに凛としていましたしね」

 

そして身を乗り出すと、『技のキレも尋常じゃなかった』という内容を早口にまくし立て始めた。

この世界――SAOに閉じ込められたのは殆どプロゲーマーだ。それも筋金入りの。その内の一人であるC氏(仮名)がそこまで褒め称えるということは、余程の使い手なのだろう。

 

だとすれば、やはり不自然さが際立つ。そこまでの剣士が、まるで安物のレイピアを使い捨てにするように何本も所持してこの第一層でも危険度の高い迷宮区に向かうとは。

 

現実世界ではモデル専属のカメラマンをしていたというCの性別判定は今の所、100%だ。女性プレイヤーの珍しさと相まって、実に興味深い情報だ。

 

「フーン、ナルホド。情報提供ありがとネ、C氏。ほれ三百コル……と見せかけて、割りマシして四百コルだナ」

「おおっ!!こりゃすまねえな、何せ収入源がこの一層じゃ余りにも限られてくるからな……死なないよう稼ぐとなら、尚更な」

 

Cが言う通り、今の所第一層で絶対死なないように稼ぐ方法はほとんど無い。

私のように情報を売り買いするのは一つの手に見えるが、実際に行うプレイヤーはほぼ居ない。それはきっと、この仕事が迷宮区攻略よりも危険な命懸けの仕事だと認識されているからだろう。

 

この世界では極めて簡単に殺人が可能だ。例えばキリトがアニールブレードを入手する際に協力したプレイヤーがとった行動は正しく殺人未遂と言えるだろう。絵面が単にモンスターに襲われるプレイヤーだから認識が曖昧になっているだけで、現実世界に置き換えればサメだらけの海に突き落とされていたのと同じだったのだ。

 

情報屋は人に恨まれやすい。私には正しい情報を正しく売り買いするというポリシーがあるが、情報が全て初めから正しいとは限らないのだ。何度裏付けをとっても正しくなかった情報なんて当たり前に存在する。

 

私はこれが現状において必要不可欠なポジションだと理解している。攻略本も遅れて前線に出てきたプレイヤーにタダで配布する手筈を進めているし、私の存在で何人もの命が救われていると自負している。

 

でも私は逆恨みされて死ぬ自分の姿を想像してしまって、眠れない夜を過ごしている。

 

……余計なことを考えてしまった。取り敢えず、その赤フードの女性プレイヤーを探さなくては。

 

私は赤フードの女性がまだ生きていることを祈りつつ、その人に関する情報を更に仕入れてみることにした。

 

==========

 

Cからの情報を元に赤フードの女性に関する情報を集めていると、鈴の音が響いた。フレンドメッセージだ。

アイコンを右手でクリックして開いてみれば、差出人:キリトとある。

 

ちょっと何かを期待しながら開けると、そこには『トールバーナ北門で落ち合おう』と短い事務連絡のようなメッセージが。

 

もうちょっとこう、何か伝えてはくれないのだろうか……文章が殺風景すぎる。

 

私はため息を吐きつつ、今度は今朝方届いたインスタントメッセージを開く。そこには『キリト氏のアニールブレード買取の件について』から始まる文字の羅列が。

 

今のキリトにどんな交渉を持ちかけた所で、それが愛剣アニールブレードに関する限りは絶対譲ったりしないだろうに。依頼人にも困ったものだ。

 

==========

 

丁度トールバーナの北門に着いて、キリトが『ごめん、待った?』とか言いつつ駆けてきたらどうからかってやろうかと意味もないことを考えていると、転移門の膜に小波が走った。

 

出てきたのがまずキリトだったのは想定内だったが、その後に付いてくる形で転移してきた人物に驚いた。そいつはなんと、ずっと情報を追い求めていた例の人物と特徴の合う赤フードにレイピアを腰に下げた、性別が女性である筈の剣士だったのだ。

 

キリトが出てきたし、こちらからキリトに声を掛けるかこのまま待つか、もしくは赤フードのレイピア使いに接触するか――と迷っていると。

 

キリトが赤フードに何やら声をかけた。

 

私は瞬時に彼の口元を注視する。

 

私のスキルスロットにはまだ『聞き耳』スキルは入っていないが、この世界に来る前から読唇術は得意だった。

 

「会議―――中央広場――午後――」

 

成程、どうやら攻略会議について何か伝えているらしい。

 

攻略会議の言い出しっぺはディアベルなる青髪イケメン騎士気取りだが、私は個人的に彼がどうにも好きになれない。勿論、私独自の情報網で色々知っているからこそだが。アレは恐らく自分の役割を知りつつも、自分の拘りに固執するタイプの人間だ。その与えられた役割は正しく天職なのだが。

 

私はそんな事を考えている間、キリトはその場に立ち尽くして赤フードを見送っていた。ボーッとして物思いに耽っているらしいキリトの様子は何となく癪に障ったので、少しは驚いてくれたらいいなと淡い期待を抱きつつ、

 

「妙な女だよナ」

 

と、声を掛けた。

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