「それで何の話だったかナ?」
すっかり怖気づいて地面に正座するイケメン似非青髪騎士を睨みつける。
これは凄いな、何というか、コイツを痛めつけると少し楽しかった。ひょっとしてコレがアレだろうか。加虐シュミと言うヤツだろうか。
これ以上すると癖になりそうだったので、以後は本当に自重しようと思う。あまり怯えられると今後の関係に支障が出るし。
「……アッパーの効き具合が本当にヤバイな。ベータテスター時代に1度直に殴られた事があるが、痛覚の再現がよりリアルになっているとは……。モンスターからダメージを与えられる時の痛覚はそれほど変わりないのに、オノレ茅場晶彦……」
何やらブツブツ呟いている青髪。もう一発殴ろうよ!楽しいんでしょ!ねぇ!と叫びつつ暴れる己の右手と無言で闘っていると、何とか立ち直った青髪……じゃなくてディアベルは要件の続きを話し始めた。
真っ直ぐこちらの目を見る青い目に、嫌な予感がする。
その口が、ゆっくりと動く。
「僕からの提案は、君の出版している攻略本に『ベータテスター時の情報である』旨を明記する事だ」
「オイ」
頭の中が急激に冷えた。
あの頃の記憶が次から次に蘇り、感情が仮想のアバターを超え現実の心臓に殺到する。
次の動きは先程までのふざけたアッパーに比べれば段違いの鋭さだっただろう。
右手のクローをソードスキル予備動作の段階に構え、左手でディアベルの利き手を抑え反撃を封じにかかる。
しかしその動きはディアベルの動きに対応される。左手がディアベルの右手に到達する前に剣が鞘走り、白銀の剣先がクローの先端とかち合う。これではソードスキルの発動が阻害され、完全な発動は難しいだろう。
見てから動いたのでは敏捷値極の動作に間に合うはずもないので、予測した上での行動だろう。私がディアベルの目をもう一度見つめ直すと、ディアベルの目は既に捕食者のそれだった。
双方共にPvPに慣れているとはいえ、技量は一目同然。
完全に後の先を取ったディアベルが口を切る。
「短気になったねアルゴさん。先に手を出してくるなんて、情報屋失格じゃないのかい?」
「――それは、お前が」
「素の口調になっているみたいだね。もっと気をつけた方がいいよ。もしも君が僕と同じく本当の自分をさらけ出したくないのならね。……でも、本当の意味で先に手を出したのは僕の方だ。素直に謝らせてもらうよ」
「――――」
私はクローを付けた右手を引き、左手も下げた。
それに応じてディアベルも剣を仕舞い、その場から一歩下がった。
我ながら自分の単純さに呆れてしまう。本当の意味で悪いのは自分の筈なのに、こうして他人に少し嫌な話題に触れられただけで激昂してしまう。
深呼吸をしてから、しっかり前を向く。
ディアベルに正面から向き合う。
「――オレっちのポリシーを知っているんダロ?」
「もちろん。君の情報を売り買いする上で決めているであろう数々のルールの中で、最も現状に即しているようで実は私情で決めているだけのポリシー」
ディアベルはその名の通り、優しいようで薄ら寒い悪魔の微笑みを浮かべる。
「『ベータテスターに関する情報は売り買いしない』事――」
思わず右手のクローが予備動作に入りそうになる。起動すれば確実にディアベルの防御が薄い喉元に到達するであろう、射程距離の短い代わりにダメージの比較的高いソードスキル。それを発動しかける。
しかし目の前の悪魔が嗤いながら剣を一閃し、カウンターのソードスキルで相殺される未来が明確に見えている。見えてしまっている。
私は歯を食いしばりながら再度右手を引く。
「また抑えてくれたようで嬉しいよ」
「一応言っておくけどナ、お前も充分素が出ていると思うゾ」
「君には素を見せても構わないと思っているさ。だって同類だろ?」
「同族嫌悪って言葉の意味がよく理解出来たヨ」
「僕は随分前から理解していたんだけどな」
悪魔と鼠の言葉の応酬が続く。
傍から見れば実に滑稽でおぞましいだろう。
ただ、アイツには見られたくない。
「キリト、だろう?」
背筋が凍る。
「キリトは僕もよく知っている。キリトは僕の、いやベータテスターの片手剣士全員の憧れだった。盾を持たず、右手に片手剣一つでPvPの上位者として君臨し数々のクエストをクリア。当時の最高到達階層である第十層まで登り詰めたプレイヤーの一人となった」
悪魔の様だった微笑みに、僅かばかりの憧憬が交じる。
「彼の功績は“鼠”のアルゴと並んで讃えられた。アルゴの功績がベータテスター全員に情報を行き渡らせた事なら、キリトの功績は全てのプレイヤーに夢を与えた事だ」
しかし、その悪魔の顔に憎しみが湧き出る。
「彼は俺たちベータテスターに夢を抱かせてしまったんだ!それが彼の犯した罪だ。俺たちは彼に憧れて、彼より強くなりたいと願いこの死のゲームにログインしてしまった。彼はその事を全く知らず!のうのうとゲーム攻略を進めているんだ!」
ポリゴンで作られた空に向かって叫ぶ、翼も尻尾もない人間の悪魔。
その身勝手なれ哀しみは誰にも理解されない。
「でも、彼に復讐したい訳じゃない。彼はこのデスゲームに置ける唯一にして最大の希望だ。彼ならきっと攻略出来るだろう。そう思わされる何かが、彼の剣技に宿っている」
ゆっくりと上に向いていた顔を正面に戻し、再び悪魔は微笑む。
「だからこそ、今だ。タイミング的に今しかない。君が僕の支持に従ってくれれば、不測の事態が起きた場合に必ずや彼は僕の望み通りに動いてくれる。彼が希望を自分で繋いでくれる」
従ってくれるね?
私はそれ以後の彼の説明を聞いて、何故その行動がキリトの存在に繋がっていくのか理解した。
そして、悪魔の契約書に口頭でサイン。臆病な鼠である私は、悪魔に安穏と過ごしていた巣から追い出されて、自分のトラウマと向き合う覚悟を決めた。
お気に入り5件突破!!!!
イェーイ!!
という訳で本日二回目の更新。
この調子ならUAも今日中に500超えそうだぜ!!
喜んでから気づいたけど、志が低いな……。
これからもマイペースかつ地味に投稿していきます。
感想くれたら、つまらない返事でもちゃんと返すよ!!(チラッ)
誤字報告とか設定ミス指摘とか、大歓迎だよ!!(チラッ)
以上、ウザい作者の後書きでした