プログレッシブ・バックナンバーズ   作:蓼野 狩人

7 / 10
データ:《アルゴ》(06)

私にとってベータテスター時代は人生最高の思い出だ。

ベータテスター抽選会に当選するまでの私の人生は何もいいことなんて無かった。自分が特別だと、頼られる存在だとは思わなかったし、そんな事を考えるのは驕りだとも思っていた。

でも、VRMMOに、SAOに、そしてキリトに会って変わった。

私だって誰かにとっての特別であってもいいじゃないか。

それが『情報屋:鼠のアルゴ』にとってのスタートラインであり新たな物語の始まりだった。

 

そしてそれはデスゲームとなった今でも変わらない。

忘れてしまいたい忌まわしいトラウマはまだ根付いているが……それでも私は私。

誰かの為に情報を集め情報を活かしてプレイヤーを一人でも生かす。これは情報屋のルールですらない。私アルゴの信条だ。

「今は従っておくよディアベル……私の信条とお前の心情は一部分噛み合っているから。でも、もし対立するようなことがあれば私は容赦しない」

アルゴ式の口調ではなく本来の私として一人呟く。

情報屋のネットワークは個々の繋がりこそ薄いものの、現時点において最大の集団。情報屋としてのルールを曲げて上手く噂を流せば、相手がどんなカリスマ性を持っていようが関係なく社会的に抹殺する事が可能だ。

そして、現状において社会的な抹殺がそのまま死に直結する事はまず間違いない。

もちろんこれは最終手段なので、自分を犠牲にする危険を冒してまで実行するつもりは無い。

それにディアベル、アイツはどことなく先がないように思う。もちろん今のまま本性を押し隠し攻略集団のトップに立ち続ける事そのものが危なっかしいが、キリトに対して何か企んでいるように思うのだ。

一旦仕上げにかかっていた攻略本(第一層ボス編)の編集を中止して考える。

……そう言えば、キリトのアニールブレード買取。持ちかけてきた男に金は無さそうだった。

アニールブレードを手に入れようとクエストを受けたものの断念し、その代わりに金でアニールブレードを手に入れようとしていると推測していたのだが。

……金が無さそうな身なりでも実は主武装に特別こだわってその他の武装にお金を掛けていない。もしくは仲間からお金を一時的に借りてアニールブレードを買おうとしている。その線も考えられないでもないが……ひょっとすればアニールブレードを別の目的で買い取ろうとしているかも知れない。

今度また値段を釣り上げにメッセージを送ってくれば、本格的に黒幕の存在――恐らくはディアベル――を考慮しなければならないだろう。

 

私は裏表紙のデザイン設定画面に震える両手で文字を入力する。フォントの色は赤。内容は真面目な調子でテロップのように。

 

【情報はSAOベータテスト時のものです。現行版では変更されている可能性があります】

 

これを見た時のキリトの驚く顔を想像して、この一文で得られる私的なメリットと言えば生でそれを見れる位かと苦笑いする。右手で無意識に額を拭い、自分が冷や汗を流していることに今更気付く。他人の目の前で感情を表に出さないコツは掴めてきたが、どうやら一人の時はそう上手くいかないようだ。

再び苦笑いを浮かべて、また考え事で意識をそらす。

一回目の攻略会議はあと三十分で始まるけど、この攻略本は二回目の攻略会議にタイミングを合わせて販売する予定だ。ディアベルからの話によれば、ボス部屋に辿り着くのは明日の予定らしい。

『元ベータテスターである僕がコッソリ誘導するから、明日まで必死に戦わせれば行ける行ける』

まさにブラックディアベル。社員たる己の仮ギルドメンバーを社畜の如く働かせるつもりらしい。メンバー達が本当に可哀想だ……そのまま連戦させて文字通り使い潰すつもりは無さそうだったが。

保存した攻略本のデータを校正するのは会議の後にしよう。

普段の《鼠のアルゴ》としての服装から地味で目立たないフード付きコートに着替えて、物置部屋を出る。

 

今日の攻略会議、吉と出るか凶と出るか。

それは青髪騎士改め青髪の悪魔が握っている。




今回短めです。
平均2千字でも少なめなのに……。
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