プログレッシブ・バックナンバーズ   作:蓼野 狩人

9 / 10
データ:《アルゴ》(08)

私は「第一回ボス攻略会議」から去った後、今までにまとめた情報の再校生を始めた。チェックを終えると直ぐにディアベル宛に転送。今の所(いい意味でも悪い意味でも)信用して情報を渡せるのはディアベルだけだったのでチェック役に抜擢した訳なのだが、ディアベルの奴はあろう事か自分たちのパーティーで攻略を進める際にそれらの情報を活用して、ボス部屋の扉までかつてないスピードでマッピングしてしまった。ブラックな手腕でメンバーをブラックに働かせた事もあるだろうが、流石にそれだけでは足りない。新鮮な情報も必要だ。主にキリトとかキリトとかキリトとかにその点を怪しまれないか冷や汗ものだったが、こっそり様子を見てもバレた様子はなかった。恐らくはプレイヤーの士気が会議で上がったお陰だと勘違いしているらしい。本人に本当の仲間達とパーティー戦闘をした事が無いからこその勘違いと思われる(マンガやラノベの世界じゃあるまいし、気力はそこまで万能ではない)。そしてそこまで心が読み取れるほど磨かれた自分のストーキング能力の優秀さに呆れるやら感謝するやら、だ。これが現実世界なら近隣の住民に目撃されて即逮捕だ。スキル「隠密」って素晴らしい。

 

そしてディアベルが確認して連絡してきた情報をチェック。ボスの名前は《イルファング・ザ・コボルドロード》、取り巻きの《ルインコボルド・センチネル》は三匹で武装に変化は見られない。ボスの武装も然りだ。

 

「まぁ、今の所は情報に差異が無くて幸いだヨ」

 

アルゴのオネーサン口調(仮)で一人呟く。ディアベルが「第二回ボス攻略会議」を開く直前に委託販売した、例の赤文字テロップモドキ入りの第一層ボス攻略用の冊子の内容に誤差は生じていないはずだ。

アレは青髪の嫌味な悪魔にされたとは言え、正式な依頼の元で作ったモノなので職人としてのプライドが詰まっているのだ。ベータテスト時との微妙な差異であるならまだマシだが、これが記憶違いとかでのミスだったら墓穴を掘って自分からダイブしてもいい位の心地である。

特別気合を入れて作った冊子なので、ボスの名前からオススメソードスキルまでみっちりと書き込んでしまった。初めて読んだ奴らに引かれていないか心配だ。

 

そして目の前を見る。そこには重そうな漆黒の片手剣を背中に掛けた剣士の姿。丁度《アルゴの攻略本》を閉じて当たりを見回している所だ。

その顔を見て、我ながら少し狂ってるかも、なんて考えながらちょっと悦に入ってみる。この顔を眺める事だけが報酬なので、報酬分はこのままハイド状態で眺めさせて貰う事にした。キリトの直感はベータテスト時代から鋭いものがあるが、こうやって本人の想定外のところでハイドすればまず気付かれない。

 

しかし、このままでは次に取り掛かる仕事に支障が出るのも事実。こっそりとキリトの後ろから去ろうと振り返って、

 

「……攻め込んだな……」

 

その小さなつぶやきにまた振り返る。

 

その幼い感じがほんの僅かに残る、それでも大人びたように感じる憂えた表情に私の心が揺れた。キリトを心配させるのは本当に申し訳ないが、それでもこの仕事は完遂させなければ。

決意を新たにしてどうでもいいディアベルの声を背に、私は広場を離れていった。

 

~・~・~・~

 

「オイオイ、ディアベルさん。これはどうした事だい?え?」

 

私はドスを効かせた声を出しつつ青髪の頭を踏みにじる。

 

「何でキリトが、あのフェンサーと、二人で、パーティーを、組んで、いるのかな?」

 

言葉を区切るごとに踵で背中を蹴りつける。土下座したディアベルは冷や汗をダラダラと流しつつ渾身の土下座で私の猛攻を耐えていた。もちろんディアベルは被虐嗜好ではない。その点はある方面からの情報で調査済みだ。ディアベルへの罰が御褒美になってしまえば今の土下座からの踏みにじり行為の意味が無くなってしまう。これはディアベルへの罰であると同時に私への御褒美である。

 

「あ、い、いえその……あの二人はボッチ気質が強すぎたといいますか……」

 

フルフル震えながら言い訳する青髪。そのツムジ辺りを爪先でジリジリと削る。

 

「その、ボッチにはボッチ同士で空気が合うというか?そんな感じでしたねあの二人がパーティーを組んだ理由」

 

言い訳するディアベルにも飽きたので私の足元から解放してやる。地面に正しく正座したディアベルに私は優しく、優しく問いかける。

 

「ねえ、ディアベル。私はあなたの仕事を請け負った。そうよね?そしてお金だけであなたは報酬を支払った訳でもない。そうよね?そして、今」

 

一度言葉を区切り、ディアベルの顔を指さす。

 

「あなたは私に恩を返すべきだったのに……目に見えない形の報酬を支払うべきだったのに、あなたは余計なミスを犯した。あなたは私の恩を仇で返した訳。ね?」

 

「……」

 

ディアベルの冷や汗を瓶詰めしたら、若い女の子達に人気のヒット商品になるかもね。大量生産?楽勝!これだけ汗をかいてくれればディアベルファンに1ヶ月百本のペースで売っても間に合うだろう。

 

「さあ、ディアベル?言い訳は締め切ってあげるから私のお仕置きを妨害しない事。いいね?」

 

頷かなければ更に酷い目に遭わされる。

動物的な本能あるいはベータテスターとして培ったプレイヤーとしての勘でそう悟ったディアベルは首を縦に振った。

 

その五分後、謎のバグ現象で首から下が地面に埋まってピクリとも動かないディアベルと、何らかの良くないイベントがキリトの泊まっている民家で起こると直感して走り去るアルゴの姿があった。

 

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