雨。
先程の小雨が嘘かの様に大雨に変わる。
辺りには、人など居らず、道路を走る車の音だけ耳に残る。
服が、雨に濡れる。
自分のコンプレックスでもある、耳が、尻尾が走る風によってあらわになる。
関係ない。
そんなの、今の私にとって関係ない。
間違い、勘違いだったらそれでいい、
嫌な空気が私を逆撫でする。
「莉音ちゃん…!!!」
◆
どれくらい走ったのかも、
どのくらい時間が経ったのかも分からない。
自分が思うほど、走ってもないし、時間が経っていないのかもしれない。
無我夢中で走っていたのだから、なんの根拠も無いまま、ただひたすら。
「はぁっ…はっぁ…」
息が切れる程、辺りは私の見知らぬ場所まで来ていた。
来た道を戻る、と言うのは無理みたい。
呼吸を整えつつ、歩き出す。雨は一向に止もうとはしない。
何の前触れもなかった…とは絶対言えない。
私が、気づかなかっただけで、彼女は悩んでいたのかもしれない。
いや、悩んでいたのだろう。
あの時、あの時も、思い出せば心当たりが無いとも言えない。
なんで、なんで…。
「気づいてあげられなかったんだろう」
そんな気持ちが込み上げてくる。
次第には段々と涙が零れ始める。
歩いていた足も自然と止まる。
大雨の中、空を見上げる、自分の涙。
落ちてくる雨が、その涙を掻き消す。
…ふと気がつく、上を見上げていた顔を少し横にやる。
目に入る、廃墟ビルの屋上には、微かに見覚えのあるシルェット。
自分と同じ、黒色のセーラー服。
頭には可愛らしい耳の生えた…。
「莉…音!!」
気づいた後は速かった、すぐさま廃墟ビルに入る。途中、立ち入り禁止と書かれたビニールテープがあったがそんなのお構いなしに、腐りかかって、今にも崩れ落ちそうな階段を駆け上がっていった。
ビルの屋上に通ずる、ドアを思いっきり開け屋外へと飛び出る。
「莉音…!!」
やはり、というべきか屋上に居たのは。
「結…ちゃん…」
いつもとは違う、明るくて私の知っている彼女ではなかった。
古びた柵の向こうにいた彼女は私に問いかける。
「なんで、きたの?」
今にも泣きそうなそんな表情。
雨の雫で、本当は泣いていたのかもしれない。
「そんなの、聞かなくたって分かるでしょ!…友達だからに決まってるでしょ!」
目を少し大きく見開くと透かさず笑みを浮かべる。
「ありがとう…でも大丈夫だよ」
「大丈夫って…そんな訳…」
そんな訳あるはずがない。
「でも、少しだけ結ちゃんにも話聞いてもらおうかな?」
柵を一旦またぎ、柵に体を預けるように寄りかかる。
「私達の扱いって、世間一般だと無碍に扱われがちだけど、中には優しくしてくれる人たちもいるよね」
「…そうね、確かに私も。周りの視線や周囲の言動にとても嫌な気持ちを抱くことは多いよ」
実際にそのストレスは計り知れないほどに、人によってなのかもしれないが、私は特に敏感に感じていたかもしれない。
「私もそう…でも次第に段々耐え切れなくなった、すべてが嫌になった、なにもかもどうでも良くなった、いつの間にか私は自分を偽るように接してた、それは結ちゃんも例外じゃ…ない…」
…やはり、というべきなのか彼女は相当、いや、言葉に出来ないほどに塞ぎこんでいた、感情を殺してまで、友達のはずの私にまで、いや、友達だと思っていたのはもしかしたら、私がただそう思っていただけなのかもしれない。
「そうしていると、心が少しは楽に。押し潰されそうにならないで済む、辛くならなくていいし、泣きそうにならないし……でも、でもね、もうそれも限界がきたみたい、もう何をしても、なにをするも辛いの…」
「だから、居なくなるっていうの?」
「…うん。そうだよ、結ちゃんとクレープも食べれたしね、まぁ、最後にわがままを言うならせめて、私の気持ちを理解してくれて、一緒に色んな所に行ってくれる人に合いたかった…かな」
「今からでも…遅く…ッ!!」
時間にして数秒、一瞬の出来事だった。
莉音の寄りかかっていた柵は、元からさびていたせいか、寄りかかっていた力に耐え切れず、後ろへ落ちていく、それろ同時に、柵に体を預けていた莉音の体も無気力にビルの下へと落ちようとしていた。
私は、すぐに体を動かし莉音の方へと駆けていく。
ただ、アニメやドラマ見たいな奇跡なんてなく、間に合わない、そんなのそうだ、これはフィクションなんかじゃないのだから。
すぐに下から鈍い音が聞こえると同時に柵が地面に叩きつけられて柵が砕け散る。
ただ、ただ立ちすくむしか無かった。
頭が真っ白のままなにも機能しなかった。
柵の先に伸ばした手は虚しくも空を切るだけだった。
口がパクパク動くが言葉は発せない。
そこから先は、私も断片的しか覚えていなかった。
廃ビルに鳴り響くサイレン、虫のように集まってくる人。
雨は、降り止む事なく、次第に強くなっていった。
◆◆
利音が落下した後、私は意識を無くした。
「あっ…」
手、足首、頭には包帯がしてあった。
私も、知らぬ間にそこ等中を怪我していたらしい。
なんとも情けないのだろうか、こんな醜態を晒しておいて、たった一人の友達さえ救えないのだから。
「やぁ、お目覚めのようだね」
一人の男性が近づいてくる。
髪の毛はボサボサ、本当にお医者さんなのか疑うくらいの身だしなみ。
ネームプレートには、『有馬』とだけ書かれていた。
「まぁまぁ、無理に話そう、なんてしなくても大丈夫だよ、状況はなーーんとなく分かるし、君のお友達も無事?って言ったら間違いかもしれないけど、大事はないよ」
「!?」
「分かりやすいねー、君、まんま顔に出てるよ」
「ぶ、じな、の?」
まだ、起きたばかりで声が出ないのか、それともほかの何かなのか分からないが、声が思うように出せない。
「うん。まぁ、さっきも言ったけどね、100%ではないからね」
「よかっ、た」
私は。先ほど起きたにも関わらず、安心したのか。
意識を失った。
「あらら、また、気を失っちゃったか、まぁ、しょうがないよね。風は引いてるし、怪我から感染症も患ってるし、どっちかというとあの子より、君の方が重症なんだから」
窓から風が少し吹き、机に置いてある書類が飛ばされる。
「あーあー、窓、開けっ放しだった」
一つの紙を見つめ、ポツリと口にする。
「こんな事、人生で二回、経験する事になるとは思わなかったよ、ね…夏花君…」