静寂な空間に、遠くから聞こえてくる、シャワーの音が鮮明に聞こえてくる。
普段なら、そっちのけなのだろうけれど。今は違った。
「何回目…か、何か、勘違いをしているかもしれないね」
「…勘違いって…何ですか?」
「大方、僕が、この夏を何回もやり直しているとでも思っているのかい?」
そう、俺はそう思っていた。『真核幽遠動炎腫』の副作用それは、『記憶の喪失』、記憶を失うと言う行為にそんな現実離れした、人生のやり直し、いや、それは聞こえが良く聞こえてしまうかもしれないな。
ある、一定時間のループ。それが可能なのか。結論から言えば不可能。
だから俺も、可能性の範囲として0,1%にも満たないと言う、結果に至った。
「でも、不可能じゃなかった…最近、そんな記事を見つけたんですよ、一人の被検体の話を」
「まぁ、仮にさ、その話が本当であれ嘘であれ、僕は残念ながら、達也君が思っている程の様なことはしてないかな、憶測だけで物は言う物じゃないかもね」
「納得がいかないですよ」
なぜか、引き下がれなかった。
自分の考えを否定されたから?
いや、違う。ここで引いたら何かもっと恐ろしい事になると思ったから。これは、ただの感だ。
「と、言われてもね、違うものは違うわけだし…」
困惑する表情の羽織さん。
ループの話がなかったにしろ、この人はそれ位の事をなにか隠している気がする。
「そうだね、その話は、多分達也君の勘違いだと思うけど…それだと多分納得してくれないのだろう」
「…………」
返す言葉もない。
「じゃぁ、一つだけ質問してもいいかい?」
「はい、構いません」
机に置いてある、コーヒーを一口、口に運び、俺に質問を投げかけてくる。
「今、君の向かいに居る、僕は、本当の僕と言えるかな?」
「それは?どういうことですか?」
俺の、頭の中には疑問しか浮かばなかった。
と、言うよりかは、その言葉の意味を理解できなかった。
なんの観点から、この人は、言っているのだろうか。それとも、言葉のまま意味を受け取っていいのだろうか。
言葉に詰まっている、俺の姿を見てからなのか、羽織さんは言葉をかけてくれた。
「難しく、考えなくていいよ、達也君が素直に思った事を教えて欲しいな」
少し、考えた後に、言葉を発する。
「俺の目の前に、居るのは、本当の羽織さんだとは、思いますよ、ただ、何が本物で何が偽者か、何に定義するかで意味は変わってくるかもしれませんが」
「うん、そうだね。それで、いいと思う、この質問にさ意味なんてないんだよ」
「じゃ、じゃ…」
と、言いかけたところで。
「達哉ーー!!お風呂でたよー!」
髪も乾かさず、俺の元へと駆け寄ってくる。
お風呂を出たばかりというのもあって、莉音からは甘くとてもいい香りがしてくる。そういえば、最近、入浴剤変えたんだった、と思い出す。
「こら、髪乾かしてきなさい」
あっ…と言わんばかりに、洗面台のほうへ駆けっていく。
そういえば、羽織さんとは話の途中になってしまった。羽織さんの方に顔を向けると、ニヤニヤと笑顔を浮かべていた。
しょうがない、これに関してはまた、今度か……。茶化されたような、誤魔化されたような気は、気がきではないけど。
◇◆
駅に着いた俺たちは、改札の音と電車や人の音に包まれていた。
それにしても、少し、肌寒い気もする、夏の朝にしては、涼しく、夏も後半だということが体を通して分かる。
もう、夏も終わるのか。
「じゃぁ、達哉君、本当にありがとう、泊めてくれて」
「あぁ、いや。全然」
「歯切れが悪いね」
「そりゃ……」
寝不足といううのも、あるかもしれないが。
どうも、やはり、モヤモヤする。まぁ、羽織さんの連絡先はあることだし、夜辺りにでも連絡しよう。
「バイバイ!結ちゃん!」
「うん、またね」
二人の乗る電車が到着したらしく、軽く挨拶を済ませ、改札前で二人を見送った。
「さて、これからどうする?今日は、日曜日だし、どこか行く?」
「そうだ……、あ、私、急用を思い出した!!達哉は先、帰ってて!!」
「お、おい……」
急に、走り出してし行ってしまう莉音、急にどうしたんだ?と言うか一人で大丈夫か……。心配が、勝ってしまうが、最近の雑誌かインターネットの情報で見た事があるが、『束縛が~』なんとか見たいな、俺って、もしかして結構、利音を縛っている部分があるのかもしれないな、彼女が故、状態が状態な事をも加味しての、心配でもあるのだけれども。
一応、連絡はできるし、夕食までに帰ってくるように連絡だけは入れておくか。
現時刻は9:20日付は8/27 天気/晴れのうち曇り
◆◆
白く長引く髪の毛、鳥のような短い耳と尻尾、宝石のような輝いている瞳。
その瞳の奥には吸い込まれるような物があった。
「有馬……紫折…」
何を、考えているか分からない。
何をしたいのか分からない。
そんな、歪さが滲み出ている彼女。
『有馬 紫折』は私の目の前に居た。
偶然、必然、なんて、分からないけど……。
「あぁ、西雪 莉音…いや、違うか?」
「……なんで、ここにいるの」
紫折は眉を寄せて少し考える仕草をする。
数秒の後。
「私は、ここに居てはいけないの?」
「昔から、屁理屈ばかり…変わらないのね」
先ほどまで、晴れていた太陽に雲がかかり始める、天気予報では晴れのうち曇り。とはいっていたけれど、少し雨が降りそうな雰囲気を見せていた。
「貴方も相変わらず、そうね『星海 結』」
「え…?」
紫折の目の先には、先ほどまで一緒にいた。
「結…ちゃん……」