原初の大空に
原初の霧に
ジョットside
俺には昔から親しい友人がいる。
いや親友と言ってもいいほど、俺はあいつに心を開いていた。
まぁあいつが俺をどう思っているかは分からないが、親友だと思ってくれていたら嬉しい。
そいつの名前はエミーリオ。
俺がまだ12歳の頃に出会って、当時あいつは21歳だった。
よく俺の遊び相手にもなってくれた奴だった。
俺が20歳の時に自警団を作ろうと思い、エミーリオに相談しようとした。
「え?自警団?お前になら作れると思うよ、にしてもやっと治安が改善されるのかぁ」
さも当然のように俺が自警団を作れると思っているあいつの態度に悩んでいた俺が馬鹿見たく思えた。
俺は相棒のGと共に自警団を作ることにした。
だが最初の頃は、資金を集めたり、守護者を集めたりでとても苦労していた。
エミーリオの酒場で飲むのが唯一の楽しみだった時期すらあった。
まぁ今でもあいつの出す飯は美味いがな。
ある日、Gと共に自警団の名前を考えていた。
色々最近は忙しすぎて徹夜が続いていたのもあったし、そんな疲れていた時にエミーリオがスープを作って持ってきてくれたのはとても有難かった。
そのスープを飲んでいたら、ふと味が気になった。
「エミーリオ、これは何を使ったんだ?とても美味しいが」
「ああ、それはボンゴレだよ…とれたてを使ったから美味しいんじゃねぇの?」
「そうか……また作ってくれ、気に入った」
「そうかいそうかい」
俺はボンゴレを思い浮かべる。
すると目の間のGが呟く。
「二枚貝……なぁ、これから自警団でイタリアを守りながらこの組織を代々受け継いでいけるように、ボンゴレにしないか?ほら、二枚貝って重なってるってことだろ?」
「ふむ、いいかもしれないな」
「よし、じゃあボンゴレで」
「ちょ、ちょっと待て」
Gと俺の会話にエミーリオが入ってくる。
「どうしたエミーリオ」
「いやそんな単純でいいのか、お前ら…」
「ああ、単純なくらいが丁度いい」
何故エミーリオが苦い顔をしていたのかは分からなかったが、自警団の名前はボンゴレになった。
その後ボンゴレが出来て、俺はGやD、ランポウ、ナックルを酒場に連れて行ってはエミーリオを紹介していった。
エミーリオも仲良くなっていたので俺はある提案をエミーリオに出した。
「エミーリオ」
「ん?どうした?」
「ボンゴレに入らないか?」
「え?無理」
即断られて、一瞬動揺したがもう一度ゆっくり問う。
「ボンゴレに入って専属料理人になってくれ、頼む」
「ええ?」
「お前の飯は美味いし、他の奴等もお前を気に入ってる…是非来てほしい」
「えー……あー……悪い、俺はこの店を空けるつもりはないんだ…アハハ」
「そうか、だがもう少し考えてみてくれ」
その日から他の守護者らが押しかけていくことは想像に難しくはなかった。
だがエミーリオも粘っているようで、仕方なく今回は諦めた。
ボンゴレの名前が広まっていくと同時に、エミーリオにコザァートを紹介した。
コザァートもエミーリオを気に入り、直ぐに仲良くなったので俺は微笑ましかった。
後日、コザァ―トのことをシナモン君と呼んで本人のツボに入ったらしく、爆笑していたのは今でも覚えている。
少しすると名前が広まったせいで、ボンゴレを目の敵にする犯罪組織やマフィア組織が出てきた。
そしてその処理に追われていて疲弊していた日々に、酒を飲んで少しだけ気を休めたくなった。
だからエミーリオの酒屋へ行くと、エミーリオは直ぐに俺の疲れた様子に気付いたらしく心配してくれた。
「おいおい、どうしたんだ?お前…んな死にそうな面しやがって」
「ふっ、これでもGにも気付かれなかったんだけどな」
「あっそ、で、何かあったのか?」
「少し…敵が多くてな」
「なんか忙しそうだなぁ…ほら飲め、秘蔵の酒だから言い触らすなよ」
「ああ、ありがとう」
深くは聞いてこない辺りが、俺にはとても楽で、ついエミーリオには本音を漏らしてしまう。
「…疲れた……」
「……」
エミーリオは何も言わず、俺の頭をゆっくりと撫でてくれた。
昔からエミーリオは誰かが落ち込んでいると取り合えず頭を撫でる癖があるのを知っている。
だけど何故かエミーリオの手は落ち着く。
俺は今までの疲労が耐えきれず、目の前がボヤケていく。
何とか泣くことは耐えたけど、エミーリオは苦笑してタオルを俺の目元に投げつけてきた。
俺は少し心が軽くなった。
まだ頑張れるよな…
その後少しだけ酒を飲んで帰ろうとしたら、エミーリオが真剣みを帯びた声で俺に言い放った。
「暫く○○区域の××には行くなよ」
俺は理由を聞こうとしたが、その前にエミーリオは店を閉めてしまった。
エミーリオが教えた場所は、今度資金調達で取引のある場所だったからだ。
俺は、考え込み、その取引を行かずに様子見していると、それが罠であったことがGから聞かされた。
ボンゴレを敵視していたマフィアと組んでいたらしい、そいつらはあの場所に多くの人員を潜ませていたのだ。
Gは俺の超直感を頼もしいと言っていたが、違う。
これはエミーリオが忠告してくれなければ俺は行っていただろう。
何故エミーリオがこのことを知っていたのかは分からないけれど、恐らく酒屋をやっているから情報が集まるのだろうなとその時は思っていた。
エレナが亡くなった。
俺は守ることが出来ず、自責の念に襲われた。
だがその前に、Dが気掛かりだった。
あれから意気消沈気味のDが見るに堪えなくて、励まそうかとも思ったがどうやらエミーリオの所へ夜な夜な行ってるらしい。
エミーリオに聞いてみたところ、もう少し時間が必要だと言われた。
Dもエミーリオには心を開いていたから、Dのことはエミーリオに任せることにした。
ようやくDが落ち着いて、元の彼に戻ったと思った矢先だった。
Dがコザァートの殺害を計画していた。
俺はそれを先回りする為にD以外の守護者に言い伝えた。
頭の中は何故の二文字がぐるぐると駆け巡っていて、一度整理しようとエミーリオの元へ行くことにした。
「なぁエミーリオ……俺はどうすれば…」
初めて見せる弱音だったのかもしれない。
エミーリオはグラスを拭く手を止め、ただ無言で俺を見つめていた。
「お前は…その親友を助けたいんだろ?」
「ああ…」
「ならまず助けてからだ。それから考えろ…命があればいくらだって考えることは出来る」
心行くままに進め、とエミーリオはそれだけ言うと再びグラスを拭き始める。
「あ……ああ、お前の所へ来てよかった…行ってくる」
頭の中がスッキリして、俺はDを掻い潜りコザァートを救うよう守護者に伝えた。
結果、コザァートは救えた。
だけれど、コザァ―トはこれからも自身を死んだことにするために無人島に身を隠すことを選んだ。
俺は反対したが、コザァートの決意は固く、俺も最終的にはそれを認めた。
だが後になって、それが正しかったのか分からなくなった。
いっそのことDを追放すれば全てが収まるとすら思った。
ぐちゃぐちゃになりそうな思考の中、無意識にエミーリオの酒屋の前にいた。
エミーリオは俺の顔を見ると、店の中へ入れて扉を閉めて鍵を掛ける。
すると、椅子に座らされ、酒を飲まされた。
気が付くと、俺は泣いていた。
何を言ったかあまり覚えていなかったけれど、コザァートのことを言ったような気がする。
ただ悲しくて、遣る瀬無くて、自身の無力さに打ちひしがれることしか出来なくて。
他に道はあったんじゃないかとだけ思い続けていた。
エミーリオに渡されたタオルで目を押さえながら、胸の内を吐き続けた。
「一体どこからこうなってしまったんだ……何故……」
「人間の本心なんか本当に理解出来るやつなんてこの世にはいねぇ…不和はどこにでもあるもんだ、気にするな」
「だけど、だけど………俺が無力なばかりに…」
「いやお前は頑張ってるし、無力じゃぁねぇだろ。むしろお前は頑張り過ぎだアホ」
「他に道があったかもしれなかった……やっぱり認めるべきじゃなかった……」
「ジョット」
エミーリオの凛とした声がやけに胸に入って来た。
「苦しくても悲しくても前見て歩け、後悔したまま歩くな、後悔のないように生きろ」
いつものように俺の頭を撫でながら快活に笑う。
「悩め悩め青年、悩み続けて出した答えに、反省はしても後悔はすんなよ」
俺は本当に恵まれていたと思う。
いつだって俺の心を支えてくれる人が周りに沢山いるのだから。
「……ああ…分かった…」
多分今までで一番情けない声だったけれど、今までで一番重たい言葉だった。
「ありがとうエミーリオ」
「気にすんなって、今度は他の奴等も呼んでこいよー」
背中をぽんぽんと軽く叩いてくるエミーリオに自然と微笑みながら手をあげて別れた。
それから数年後、俺はボンゴレボスの座を退いて、日本に帰化しようとしていた。
既に後継者は見つけていた。
これ以上内部での争いは望むところでもないし、これからは後の時代に意思を継いでいって欲しかった。
既に俺が引っ張っていく時代は終わった。
自身の立ち上げた組織を去ることに悔いはない。
悩み続けて出した答えに悔いなどない。
帰化する直前に、エミーリオに共に日本へ行かないかと誘ってみたけど案の定断られた。
「日本で奥さん作って大往生しろよー!」
酒場の入り口から送り出すときに、エミーリオは大声で、笑顔で、俺に向かってそう言った。
お前と言葉を交わすのはこれで最後だろう
お前の顔を見るのはこれで最後だろう
ありがとうエミーリオ
俺の親友でいてくれてありがとう
「またな、ジョット!」
その言葉に、一瞬だけイタリアを去ることを後悔しそうになった
D・スペードside
最初の印象は優男だった。
本人はこれで30手前だと聞いたときは、まさか、と疑うほど若作りだった。
プリーモの褒めるだけあってとても料理は美味で、貴族の出である私でさえ褒めるべきものがあった。
エミーリオは様々な種類の料理を出すことでも人気を得ていたらしく、地元の者からは好かれていた。
かくいう私も彼の人間性に惹かれていった。
よく私の髪形を弄るが、本人曰く使命感だそうで、毎度殴っているにも関わらず弄り続ける根性は称賛に値する。
エミーリオの言葉には不思議な力があった。
プリーモのようなカリスマではないが、何故か心の中に落ちてくるような言葉を投げかけてくれる人だった。
「おいナッポー、これ食べてみてくれ」
「ヌフフ、ナッポーではありません」
頭を殴るが、負けずに新作を私の口に放り込むエミーリオに呆れながらも、新作の味を吟味する。
「ふむ、もう少し塩気が欲しいですね…あとオリーブオイルが強すぎるのでは?」
「やっぱそうかぁ…おっけ、オリーブオイルは少し減らす」
「ですがここまで味に拘る者もいないでしょうに」
「完璧主義なんだよ俺は」
毎度エミーリオから与えられている新作の食品で、最近は昼を開けてしまうことが多く不規則な食習慣になりそうだ。
だが、エレナと共に入る時はよくおしゃれな酒を出したりとエレナを楽しませてくれているので無下にも出来なかった。
「そういえばナッポー、お前もしかしてエレナ好きなのか?」
「ぶっ」
エミーリオの言葉に飲んでいたワインを盛大に吹き出し、そんな様子の私にエミーリオが何か納得したような表情をしていた。
「あなたには関係ないでしょう」
「なるほど、まだ告白してないのか」
「エミーリオ!」
「アッハッハ、頑張れよ~」
応援してくるのか茶化してくるのか分からない態度で言うエミーリオに顔が引き攣る。
悪い気はしなかった。
エレナのような女性が来るときの為にと、小奇麗にリフォームしたことで、女性にも人気の出始めた酒場に以前よりもエレナを連れてくることが増えた。
ボンゴレの勢力拡大で、プリーモと揉めはしていたもののこの酒場でのひと時は私にとって安らぎだった。
あの時が来るまでは。
プリーモが平和路線に切り替え、戦力を減らした直後、手薄になった縄張りで私たちを狙っていた敵対勢力に襲撃を受けた。
「く…罠か……!エレナ!」
「デイ…モン……私はもう…ダメ…」
「あなたは弱きものの為に…ボンゴレと共に…D…あなたなら出来るわ…」
「エレナ!エレナ!」
私はエレナを失った。
途方に暮れた日々だった。
ボンゴレを強くすることを誓いはしたものの、エレナを失った悲しみは大き過ぎた。
エレナとよくいった酒場に顔を出して酒でこの虚無感を忘れようとしていた。
毎日、毎日、誰も客が来なくなった時間帯に来ては、エミーリオは店仕舞いして中に入れてくれた。
そして酒ばかり飲んでいた私に時折、リゾットのような胃に優しいものを出してきては私を心配してくれていた。
その優しさが今では冷え切った心に沁み渡るように胸が苦しくなった。
胸の内をただただ吐き出したくて、何も知らないであろうエミーリオに喚き散らしていた。
「何がボンゴレだっ、私は愛した女性一人救えやしなかった!」
「エレナ……エレナ…お前の愛したボンゴレを……弱者を守るボンゴレを強くしてみせる…」
「私が創ってみせる!名を聞いただけで震えあがるほどのボンゴレを‼」
涙と共に悲痛に塗れた私の叫びに、悲鳴に、エミーリオはただただ何も言わずに聞いていた。
漸く酒が抜けてきて、店を出ようとした時にエミーリオに背中を軽く叩かれた。
「強いボンゴレ作るんだろ?頑張れよ!応援してるぜ!」
その言葉にどれほど救われたか。
ああ、創ってみせる。
私は、私はっ!
最強のボンゴレを!
その日漸く私はエレナの死から立ち直り、大きな目的の為に次の一歩を踏み出した。
私には背中を押してくれる者がいる。
エレナ!見ていてくれ!
それから私の顔色が良くなったことに安心したのか、エミーリオが弄ってくるようになった。
「あーやっと立ち直ったか、静かなナッポーなんてただのナッポーだぜ」
「誰がナッポーですか、沈めますよ?」
「どこにとは聞かないから!怖い発言やめろって!あ、それとこれ南国から取り寄せたナッポー。よかったな同族がいたぜ!」
「ヌフフ、ふ!」
「ナッポーーーーー!」
エミーリオの持ってきた南国の果実を炎で木っ端微塵にしてやり、酒を煽る。
その後、シモン・コザァートを始末出来て満足になった私は、そのままプリーモをボンゴレから追放する段階へ移った。
プリーモの小さな抵抗の中、水面下での計画は緩やかに進んでいき漸くプリーモがボスの座を退くことになった。
ああ!この日を待ちわびていた!
Gがそのまま守護者を続けるのは少し予想外だったが、まぁいい。
このままセコンドが勢力を拡大してくれればボンゴレはさらに強くなる!
気分が高揚していた私はエミーリオの酒場へ足を向けた。
「あれま、機嫌いいね、何かあったの?」
「少し職場でいいことがあったんですよ」
「そっかぁ、何かお前が笑うと悪人面だなぁ」
「ふざけてないでワイン持ってきなさい」
「はいはい、赤?」
「何でもいいですよ」
「そ」
「にしてもあなたはいつまでこんな店を営むつもりなんですか?ボンゴレで雇うことも出来ると言っているのに…」
「えーだけどさー…俺はこんなこじんまりした場所が性に合ってんだよ」
「あなた確かそろそろ35でしょう?早く相手見つけないといけないのでは?」
「い、痛いところ突くなよ!俺の魅力に気付いてくれる女がいないだけだっての」
「他力本願ですか」
「あー自分探しの旅にでも行こうかなー」
「あなたなら数週間で戻ってきそうですね」
「えー」
今となっては私からすればこうやって気の置けない友人は彼しかいなかった。
何も知らないエミーリオだからこそ、警戒せずに気楽に話すことが出来た。
軽いやり取りをするのはエミーリオくらいだった。
だがそれも直ぐに終わりが来た。
「あ、ナッポー!」
「ナッポーではありません」
いつもの挨拶のように私はエミーリオの頭を殴る。
「あ、そうそう、俺明後日イタリア出ていく予定なんだー」
「は?」
誰が?彼が?どうして?
「いやー自分探しの旅っつーか、料理の幅広げたいから、色んな国回ってみることにしたわ」
「そう…ですか……でも何故今になって?」
「いやな、ここにずっと居続けるも良かったんだけど、やっぱり自分から動かないとなー…ほら他力本願な男じゃ女も寄ってこないだろー」
「…」
軽く言い放つ彼を見て、私は戸惑った。
エレナを失くし、友人をも失うのではないかと忌避してしまった。
それから彼がイタリアを出るまで引き留めようとしたがどれも彼を引き留めるだけの言葉にはならなかった。
「別に、イタリアでも出来るのでは?」
「本場の方が断然いいだろ?」
「………」
何も言えなくなり、どうやって引き留めようかと考えていた時にエミーリオが呟く。
「強くて頼もしいボンゴレ作るんだろ?」
「え、ぁ……はい」
「ならそんなボンゴレが出来上がったらさ、呼んでくれよ」
「…」
「お前のいるボンゴレなら安心してイタリアに戻ってこれるだろうからさ」
笑顔で言い放つ彼を引き留められず、彼はイタリアを出て行った。
去り際の彼の言葉が私の中でずっと消えることはなかった。
「待っていて下さい、エレナ、エミーリオ……私がボンゴレを…最強のボンゴレを…」
誰もが平伏すボンゴレを創ってみせます。
その数年後、エミーリオの旅だった国が大規模のテロで多くの犠牲者を出したと報道され、エミーリオとの音信が途絶えた。
DのSAN値が………。
やっべー、まだメインの小説終わらせてないのに、こっち書きたくなってしょうがない…
ただの出来心だったんだよぉ…