Emilio   作:つな*

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本編のマーモン・風side


番外編
Emilio番外編 1


マーモンside

 

「あれ?新しい顔だね…新人かい?」

 

初めての出会いはお互い全く興味がなかったんだと思う。

 

僕はヴァリアーに入隊し、入隊試験の成績が最上位だったのもあって、入隊日に即幹部入りをした。

まぁ僕にかかればどこも簡単に入れるけど、やっぱりお金のあるとこが一番だよね。

上司であるザンザスという男はただ者ではないと僕の今までの勘がそう言っていて、実際それを裏切ることはなかった。

前線で見たボスの射撃能力もそうだが何といってもあの憤怒の炎が他を逸脱していた。

火力もありながらスピードもある。

正直、今回の仕事先は我ながら運がいいのかもしれない。

少し、意外だった出来事もあったけれど。

それが今僕の目の前にいる男、エミーリオだ。

最初に会ったのは、ボスに報告書を提出する為に執務室へ赴いた時だった。

扉を開けると、シェフの恰好をしながらソファに座っているこの男を目にした。

第一印象はただのお抱えのシェフであり、ボスの要望を聞きに来たのだと思った。

 

「あれ?新しい顔だね…新人かい?」

「僕はマーモン。これでも幹部だよ…君はボスの専属シェフってとこかい?」

「当たり!俺はエミーリオ、まぁ専属シェフって何だっけって思うことはたくさんあるけどなー」

「ふぅん…ボス、これ報告書だよ」

「そこに置いておけ」

「じゃあ俺はもう厨房に戻るぞ」

 

男はそう言って執務室を出て行った。

こんな組織でよく笑う男だ、と思った。

彼の印象が変わるのに、それほど時間はかからなかった。

僕は鼻炎持ちであり、日々これに悩まされていて、一層酷かった時期だった。

ティッシュを使い過ぎて鼻の皮は剥げるし、痛いしで機嫌が酷く悪かった。

そんな時にあの男に声を掛けられた。

 

「君……マーモンだっけ…大丈夫?鼻炎持ちなのか?」

「…君かい…悪いけど今僕すごく機嫌が悪いんだ…声かけないでくれるかい?」

「鼻炎に効くものでも作ろうと思ったけど、お節介だったか…」

「…いや、あるなら作ってほしいね」

 

今まで治ったことなんてなかった僕の鼻炎を少しでも抑えることが出来るならと、淡い期待を持って彼についていった。

彼は冷蔵庫から数種類の食材を取り出し、鍋を使って調理し出していく。

たった数分でそれは出来た。

 

「しょうがをベースにした雑炊で、しそやねぎ、魚は鼻炎によく効くんだ」

「そうなのかい?知らなかったよ…」

 

彼が出してきた雑炊を冷ましてから口に入れると、目を見開いた。

 

「美味しい…」

「うん、良かった良かった」

 

初めて食べる味であり、今まで食べた中で一番美味しいと素直に思った。

先ほどまでの最悪な機嫌も吹き飛び、僕は無我夢中でその料理を口に入れる。

胃に全てが入ると、ようやく一息つく。

ふと気づけば、食べている最中一度も鼻を啜らなかったし、さっきよりも断然に鼻の通りがよくなっていた。

 

「鼻炎はアレルギーや花粉が主な理由だけど、食生活も原因の一つなんだ…ハムやソーセージ、インスタント食品、冷たいものとかは鼻炎を悪化させるんだ」

「知らないで食べていたよ…今後気をつけなきゃね」

「またきつくなったらおいで、作ってあげるから」

「それは助かるね…君の名前、もう一度聞いてもいいかい?」

 

「俺はエミーリオ」

 

それから、僕は彼のもとによく訪れるようになった。

そして色んなことが分かった。

まず、彼はここに来る前に居酒屋をしていたことや、ボスの幼少期からここに勤めていてボスとはそれなりに気の許せる仲であること。

たまにボスが拳骨をされているところを目撃してからは、本部でのヒエラルキーがなんとなく分かった気がした。

エミーリオは度がつくほどのお人好しだ。

困っている者がいれば声をかけて、悩んでいる者がいればさり気なく解決していく。

本当に何でこんな人殺しの集団にいるのか全く分からなかった。

ボスにそれとなく聞いてみた。

 

「ボス」

「あ?」

「エミーリオを何故雇ってるんだい?ハッキリ言ってあの性格じゃ戦力にすらならないよ…」

「……あいつはここがそういう場所だと知らん」

「は?」

 

僕の間抜けな声を鼻で一蹴し、ボスはどこかへ行った。

僕はそれが信じられなくて、エミーリオに際どい言葉を加えて話してみたけれど、彼がそれに反応することはなかった。

なるほど、だからエミーリオはボスに対してなんの躊躇もなく拳をあげるのか。

一般人というカテゴリーに入れたエミーリオへの印象を180度変えたのはそれから一年たった頃だった。

 

「なぁ、マーモン」

「どうしたんだいエミーリオ」

 

いつものように鼻炎が悪くなって、彼のところへ避難していると、エミーリオが少し考え込んだ後僕に話しかけた。

 

「そのおしゃぶり…赤ちゃんの間で流行ってるのか?」

「…え?」

「いや、何かここに勤める前俺居酒屋って言ったじゃん?そこでそのおしゃぶり付けた子よく見かけたからさ」

「な!?」

 

一瞬言葉を失うが、直ぐに僕はエミーリオを問いただした。

 

「何か知っているのか!?エミーリオ!このおしゃぶりのことを!」

「え、え?知ってるっていうか、よく見かけるなーくらいに思ってただけだよ…」

「よく見かける?」

「おう」

 

よく見かけるということは、他のアルコバレーノはこいつの店に一度は訪れたことがあるということなのか?

僕は疑問が尽きず、続けざまにエミーリオに質問した。

 

「エミーリオ…そのおしゃぶりのことを教えてくれないか?」

「いや…これ個人情報だし…うーん」

「か、替わりに僕が君に幻術を教えてあげるよ!」

「幻術?何それ」

 

そういえばエミーリオはマフィアのマの字も知らない一般人であることを思い出す。

 

「マジック…のようなものさ、利便性は遥かにいいよ…保障しよう」

「んー…マジックねぇ、どんなものなんだ?」

「例えば…」

 

そういって僕はエミーリオの前に氷柱を出す。

 

「おおおお、え、ナニコレ」

「これが幻術さ」

「え、すげー…これすげー!マーモンこれ教えてくれよ!」

「ならおしゃぶりのことを僕にも話してくれるかい?」

「ああ!おしゃぶりが全部で何種類とか、同じ色がいくつとか俺が今まで見たやつでいいなら」

「お、同じ色だって!?」

「おう」

 

これは予想以上の収穫かもしれない!

最初は死ぬ気の炎からだと思っていたが、意外にも彼は直ぐに霧の炎を灯すことが出来た。

覚悟が彼にあるかは分からなかったが、それなりに幻術を会得したいと思っていたのだろうか。

それから幻術を教え始めた。

エミーリオに幻術を教えながら僕が思ったことは一つだけ。

エミーリオはセンスの塊だ。

僕が彼に幻術の基礎中の基礎を軽く教えてみると、彼は見事に有幻覚という超難易度の幻術を使って見せた。

ありえない。

本人は僕の指示に従っているだけであるにも関わらず1を教えれば10を実行するという化け物っぷりである。

僕は彼の才能の上限を知りたいが為にさらに高等な幻術を教えた。

結果、やり過ぎたのかもしれない。

僕が彼に高難度の幻術を掛けすぎたせいで、幻術の耐性が付くという無茶苦茶のキチガイっぷりを発揮し、幻術を無効化してしまった。

これには僕も開いた口が塞がらなかった。

本人はそれがどれ程おかしいことであるのか、理解しているようには見えなかったが。

彼に幻術を教えた対価として、アルコバレーノに関する情報を貰った。

 

「俺が知ってるのは、おしゃぶりの色は8種類であることと…君の持ってる藍色のおしゃぶりを見るのは君を含めて3度目だ…本当にそれだけかな」

「8…種類?」

「おう」

 

馬鹿な、アルコバレーノは全員で7人…色も7色のハズ。

いや同じ色を持っている者がいることからして、既に僕の持っている情報は大きく違っている。

これは調べなきゃいけないね。

 

「ありがとう、これは大きな一歩だ」

「そっか、それなら良かったけど」

 

それからもエミーリオとの関係は続いた。

ボスが16歳になるという頃に、エミーリオは退職すると言い出した。

元々契約期間が10年だったこともあり、エミーリオはボスの誕生日の少しあとにヴァリアー本部を去った。

 

 

半年後、ボスがクーデターを画策した。

誰もそれに反対することはなく、クーデターを実行したが敢え無く失敗。

ボスはどこかと知れぬ場所に幽閉されてしまった。

ボスのいないヴァリアー内を見渡すと、隊士達には圧倒的に活気がなかった。

スクアーロはボスが必ず帰ってくると信じて疑っていない様子だったけれど。

そういう僕も、あの男はいつか帰ってくるのではないだろうかと心のどこかで思っていた。

にしてもボスのいないヴァリアーは本当に退屈さ。

ふと誰もいなくなった厨房が目に入る。

 

「君がいれば…少しは違う未来だっただろうね」

 

僕は去る者は追わない主義だ。

 

 

 

でも彼だけは…いてほしかったと思ったよ。

 

 

 

 

 

 

 

風side

 

 

 

「風のように強く、涼やかな心を持ってほしいと付けられた名前よ」

 

 

その時の大層微笑んでいた母の言葉を今でも覚えている。

中国の都市から距離の離れた、山と海に近接している村で私は生まれた。

海からの風、山から下りてくる風とがあり、年中強風のような村で育った。

親は共働きで私は小さい頃、よく隣の居酒屋を営んでいた男性に預けられたいた。

その男性はエミーリオ。

私は小さい頃まで彼を本当の兄だと思っていたし、今でも彼を兄のように慕い続けている。

エミーリオは強く、優しい男であり、笑顔を絶やさぬ男だった。

そんな彼の側で育った私は、いつしか彼を敬い、目標にし始めた。

私が5歳になった頃、武道を嗜んでいた彼に弟子入りを願い出た。

彼は少し迷いながらも私の熱意に折れ、承諾してくれた。

エミーリオは懇切丁寧に一から教えてくれて、私は彼を師として敬うようになった。

 

「殴るだけでも当たり所が悪けりゃ人はあっけなく死ぬ、拳は無闇に人に向けていいもんじゃない」

「泣くな風…犬の寿命は人間より短いし、命あるもんはいつか死ぬ」

 

命の大事さを教わった。

エミーリオがありとあらゆるものを教えてくれた。

ああ、私は恵まれ過ぎただろうか、そうに違いない。

なにせこんなに素晴らしい師であり兄でもある彼と出会えたのだから。

ある日私は武道を極めるために旅に出た。

エミーリオも両親も快く送り出してくれたことは有難かった。

それから武道を極め、今では中国一の武道家という称号を手に入れた。

アルコバレーノの呪いを貰い、体が小さくなってしまっても師の言葉を思いだし、自身を奮い立たせた。

我を忘れずにこれからも今まで通りに修行をしていた。

数年後、エミーリオに会うことが叶わぬまま私は死んでしまった。

原因はノントリニセッテとやらであり、アルコバレーノの私には非常に強い毒であった。

体は蝕まれ、苦しく死んでいく最期であった。

エミーリオに一目でも会い、言葉を交わしたかった。

指一つ動かせぬ体になり、死期がすぐそこまで来ていることを悟ると自然と空を眺めた。

 

 

「エミー……リオ……兄さんっ…」

 

 

私はあなたの言う強き者になれたでしょうか。

 

 

その言葉が彼に届くことはなく、私は瞼を閉じた。

 

 

 

不思議な感覚だ。

死んだはずのこの身が蘇るなどと。

ユニが自身の命と引き換えに私たちを生き返らせてくれたことに感謝した。

だがその反面、一人の幼い少女の命を奪ってしまった事実がただただ悲しかった。

ユニが置いて逝った記憶を受け継いだ。

沢田綱吉の功績に感謝しようと思う前に、声が、久しく聞かぬ声が耳に入った。

 

「…風?」

「エミー…リオ、兄さん」

「お、まえ…風、だよな……」

 

そこにいたのは私の師であるエミーリオだった。

エミーリオは目を見開いてこちらへと駆け寄ってきては、私を抱き上げた。

腕に閉じ込められた私はエミーリオへと目線を固定する。

 

変わって…いない…

馬鹿な

 

あれから既に何年も経っているハズであるにも関わらず、エミーリオは皺ひとつ出来ていなかった。

私の子供のころからの記憶と全く違わぬその様子に、私は疑問が脳裏を埋め尽くす。

向こうも、私の現状に首を傾げていた。

 

「何で赤ちゃんに戻って……え…待って」

 

何度も私の頬を軽く抓っては、両手で私の顔を挟んで凝視してはと、私を確かめるべく忙しなく動いていた。

 

「説明しろよ、風」

 

若干戸惑ってはいるものの、口から放たれる言葉に揺るぎはなかった。

この声のエミーリオには言い訳も、嘘も効かないだろう。

私はすぐさま観念して、すべてを話そうと思った。

 

「過去に戻った時に全て話します…」

「分かった」

 

エミーリオは今日本で店を営んでいるようだった。

彼の店の場所を教えてもらい、エミーリオは過去に帰った。

 

それまでの記憶が過去の私に渡ると、私はエミーリオに会うべく日本へ向かった。

そしてエミーリオの言葉通り彼の店に訪れたが、店の看板には店の都合上閉店と書かれていて、エミーリオは不在であった。

また時間をおいて訪れようと思い、その時は一旦中国へ戻った。

そして二週間ほど経ち、また店に行けばエミーリオはちゃんと店にいた。

 

「エミーリオ」

「風!」

「全てを話しにきました…」

 

私の言葉で何を話すのか悟ったエミーリオは店を閉め、私を店の中に入れた。

 

「それで…何でお前が赤ちゃんになってんだ?」

「…数年前の出来事です――――――」

 

私は全てを話した。

アルコバレーノの呪いにかけられてしまったこと。

不老になってしまったことを。

エミーリオは何を言うでもなく、ただ私の言葉を静かに聞いていた。

全てを話し終えると同時に、ずっと疑問であったことを口にする。

 

「エミーリオ兄さん…あなたは何故今もなお変わっていないのです?」

「やっぱ、そうだよね…うん、あのな風」

「…」

「俺、不老不死なんだ……もう何百年も生きてる」

 

その時私は、エミーリオの辛そうな顔を初めて見たし、自分の言葉を後悔したのも初めてだった。

 

不老不死

 

欲の深いものであるならば追い求めるような破滅しかないであろう無謀な夢。

永遠の生と共に永遠の孤独の象徴。

 

そんな呪いにも等しい不老不死をその身に宿しているのだとエミーリオは告げた。

だけれども、エミーリオはエミーリオだ。

私に武というものを教えてくださった師であり、私を育ててくれた兄であり、目指すべき目標。

恐れ戦く理由はない。

忌避する理由はない。

あるのは尊敬に値する親愛のみ。

 

「そうですか」

「…おう」

「それでもエミーリオはエミーリオです…私の兄さんに変わりありません」

 

目を丸くしているエミーリオが少しおかしく見えて、私が笑うと彼は安堵したように息を吐いた。

そしてふと思い出したように告げた言葉に、今度は私が驚愕した。

 

「そういえば赤色のおしゃぶりって風で3人目…かな?結構見た気がするんだけど」

「なっ!?それは本当ですか!?」

「え?おお、お前が生まれる結構前だな…あと気になったんだけどさ」

「?」

「おしゃぶりの色に透明はないのか?」

「⁉」

 

何故それを、と言おうとしても驚きすぎて声が出なかった。

何せ、透明のおしゃぶりのアルコバレーノはつい最近リボーンからの情報で存在を知ったばかりである。

 

「エミーリオ、その透明のおしゃぶりを持つ赤子を見たことがあるのですか!?」

「ああ、そいつ俺の店の常連さんだし」

 

今度こそ開いた口が塞げなかった。

 

「れ、連絡は取れますか?」

「連絡?ああ、多分今忙しいんじゃないかなー」

 

そういってエミーリオは携帯を取り出し、どこかに電話をかけ出した。

数十秒ほど待っていたが、私にはそれがいつになく遅く感じられた。

 

「あー、やっぱり取らねーな…でもまぁまた近いうちにでも店来ると思うぜ」

 

分かってはいたけれど、私は落胆が隠せずにエミーリオは困ったように笑いながら励ましてくれた。

 

それからすぐに代理戦争が始まった。

私はリボーンやマーモンほど呪いを解くことに執着しておらず、呪いについて少しでも手がかりが得られればと、それくらいの心構えで参加していた。

雲雀恭弥に代理を頼み、承諾してもらう。

そして始まった代理戦争は、予想外の方向へと進行していった。

雲雀恭弥の自主敗退、復讐者の参戦、透明色のおしゃぶりを持つアルコバレーノ、そしてそれらの奇襲など。

既にチーム同士で戦っている場合ではなくなる状況にまで発展していった。

私は沢田綱吉たちの側で護衛をしながら、代理戦争の行方を見守っていた。

だが、エミーリオの説得によるバミューダの自主敗退という誰も予想だにしていない結果で終わった。

私は瞳から涙を零しているエミーリオを見て、胸がツキリと痛んだ。

 

大切な者たちに置いて逝かれる苦しさ

そしてそれを見送ることしか出来ない辛さ

 

孤独であれと呪いにも似た宿命に、私は視線を落とすしか出来なかった。

 

 

そして勝者がリボーンチームとなり、尾道が現れ、それに続きチェッカーフェイスが現れた。

皆殺気立っていたが、チェッカーフェイスの威圧で委縮し出す。

かくいう私も、彼の放った炎圧に当てられ、拳が震える。

チェッカーフェイスがトゥリニセッテの事実を話し、アルコバレーノの世代交代を始めようとした時、沢田綱吉とタルボという人物がトゥリニセッテの自動維持装置を提案した。

バミューダもそれに賛成し、ユニの後押しでチェッカーフェイスが承諾する。

実行するかと思えた時に、チェッカーフェイスが同じ一族のあと一人に同意を求めたいと言い出して、皆一様に警戒しているとチェッカーフェイスは思いもよらぬ人物を指差した。

 

「エミーリオ」

 

その言葉にその場の空気は凍り付く。

エミーリオは記憶喪失であることが分かると同時に、今から過去を思い出させると言い出した。

記憶の共有をするのは4人までと決まり、沢田綱吉、リボーン、ユニ、バミューダが選ばれ、彼らは過去へ精神だけを飛ばした。

急に意識を失った四人に他の者たちが慌てて支え、横にする。

およそ30分ほどした辺りでエミーリオが瞼を開いた。

他の者たちも起き出したものの、沈黙を貫いている。

一体何があったというんだ…

そんな私の疑問も、ユニの記憶の共有化ですぐに消えた。

共有した記憶は惨たらしいものだった。

私は拳を血が滲むほど握りしめた。

こんな過去を思い出した、当のエミーリオは視線を忙しなく動かせていてまるでこちらを警戒しているように見えた。

バミューダの言葉でエミーリオは晴れない表情で店に帰っていくのを、私はただ見ることしか出来なかった。

 

その時、私にはエミーリオの背中が小さく見えた。

 

エミーリオは翌日、姿を眩ませていた。

誰もがショックを隠し切れない様子であり、私も流石に口を開く余裕さえありはしなかった。

だが沢田綱吉の言葉で、皆がエミーリオを探し出し、説得するという道を選んだ。

そんな時にリボーンが私に声を掛けてきた。

 

「おい、風」

「何でしょうか」

「おめーあいつの弟子だろ、あいつの行きそうな場所分かるか?」

「いえ…エミーリオは自分自身のことをあまり他人に語らぬ者でしたから」

「そうか…おめーも無理すんじゃねーぞ」

「ええ、分かっています」

 

皆が各々エミーリオを捜索し出し、その場には私しかいなくなり漸く重い息を吐きだした。

リボーンには見抜かれてしまったかと苦笑した。

私にとってエミーリオは師だが、それ以前に家族でもあった。

だから、彼が私の前から消えてしまったことはかなり堪えたのだ。

ツン、と鼻の奥が熱くなり、少しだけ視界がボヤけだす。

赤子であるこの身になった頃から、どうにも感情制御が難しい。

 

『泣くな風…』

 

鼻を啜り、視線を足元へと落とす。

 

 

「エミーリオ兄さん…」

 

 

 

いつものように頭を撫でてくれるような温かい手はなかった。

 

 

 

 

そろそろ一日が経つという夜中に、エミーリオが見つかった。

海水でびしょ濡れになり、ユニに抱きしめられているエミーリオを見て私はショックのあまり言葉が出てこなかった。

この世に絶望したような瞳をした彼は見るに堪えなかった。

だからこそ、私達が彼を繋ぎ留めなければ。

私はエミーリオの前まで近寄り、彼と目を合わせた。

 

「エミーリオ…あなたは私にとって兄であり、師であり、目指すべき者です」

「風…」

「私はあなたの背中を見て育ち、あなたのような優しい強き者になりたいと思い、あなたを目指してきました」

 

 

 

『エミーリオ、私は強くなりたい……あなたのように』

『俺は強くなんかないよ』

 

 

ならば

私が守りましょう

私が支えましょう

 

 

「だけど今は違います…私はあなたの心の支えとして強くありたい…そう思っています」

 

 

 

ならば私は大切な人を守れるような強き者になりたい。

 

そうありたいのです。

 

 

 




エミーリオ:マーモンによって魔改造されていた。幻術の使いどころはもっぱら店の修理のみである。
マーモン:やらかした。ボスに知られたらぶっ殺されそうなのでお墓に持っていく覚悟である。
ヴァリアー:エミーリオに逆らうべからずが暗黙の了解となっている。一度、レヴィが嫉妬で突撃して夕飯にゲテモノを食わされていた。だが美味しい。
風:偶々視界に入ったお酒の名前から一文字とって名付けられたことを知らない、今後も知らない方が本人の幸せ。
拳:人に向けていいものではない、エミーリオお前もだ。


【挿絵表示】



垣根帝督様からのリクエストです。
もう一つコロネロ視点があったのですが、ぶっちゃけコロネロとエミーリオとの接点が少なすぎて書けませんでした(笑)
他の番外編で出せたら出します。
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