Emilio   作:つな*

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エミーリオは思われる。

好意とソレは

似て非なる ものなのだ


Emilio番外編 6

────side

 

 

 

「いらっしゃい」

 

店に入って直ぐに耳に入った男の人の声は、何故か私の耳にすんなりと入っていった。

ヨーロッパ系統の人かしら?

彼の見てまず最初に目が行ったところは日本人離れしている容姿だった。

店の内装もどこかヨーロッパって雰囲気だ。

私は友達と遊びに行く予定だったのだが、友達が急な熱が出たらしく遊びは中止になった。

時間が余ってしまい、暇な時間を潰そうとしていたらこの店が視界の端に入った。

おしゃれな店の内装に悪かった機嫌も良くなって、メニューを注文していた。

メニューは色んな国の料理があり、私は目を輝かせた。

私は、母がイタリア人、父が日本人のハーフだ。

だからイタリアの料理が目に入って、それが母が偶に作るものだと気付くと直ぐにそれを頼んだ。

待っている時間店を見渡していて一つ、気になることがあった。

ここの客…顔面偏差値高い。

カウンター席に座ってる男性も、白髪なのが気になるけど結構イケメンだし、あっちにいる人も、あの男の子も…私と同年代の子かな…すごくイケメンだなぁ。

客を眺めていると、店員さんが料理を運んできた。

出てきた料理は今まで食べた中で一番美味しかった。

めっちゃいい店見つけちゃったなーと思って、店を携帯で検索してみると、地元ではそこそこ有名な繁盛している店であることを知った。

先ほどの男性が一人で切り盛りしているという要領の良さ。

ルックスも結構いいし、恋人とか絶対いるだろうなぁ…あ、これオリーブオイルかけたらめっちゃ美味しい。

私は友達との遊びが中止になって落ち込んでいた気分なんて吹っ飛んで夢中になって料理を味わっていた。

お腹も満たされ、心も満足したところでそろそろ会計して帰ろうかなと思い、伝票を持ってレジの方へ行く。

今度友達も誘って来ようと決意し、会計を済ませる。

 

「ご馳走様でした、美味しかったです」

「ありがとうございます、またお越しください」

 

その日は上機嫌で家に帰っていった。

そして私は夢を見た。

店の男性とお喋りをしている夢だ。

結構いい雰囲気を出して、お互い笑い合っていた。

朝起きても夢の内容はハッキリと覚えていて、私は胸を鷲掴みされたように苦しくなった。

も、もしかして…こ、恋?

そりゃルックス良し、収入良し、むしろダメなところがないけれど!

私ったら惚れやす過ぎでしょ。

男性はもっと吟味して選ぶべきだ。

あーでもなぁ…今度話しかけてみようかしら。

あんな条件のいい男性が恋人無しって絶対ないだろうし。

一週間後、週末の開店直後に私は胸を躍らせて、店に訪れた。

一番目の客らしく、他にお客さんがいなかったので、今がチャンスだと思い切って聞いてみた。

 

「あ、あの!」

「え、あ、はい?注文ですか?」

「いえ、あの…ちょっと聞きたいことが!」

「…?」

「か、彼女…いますか?」

「恋人?生憎俺は可哀そうな男でね、いないですよ」

「か、可哀そうだなんて!すっごいモテそうなのに!?」

「アハハ、そう言ってくれると嬉しいよ」

「名前…」

「え?」

「名前聞いてもいいですか?」

「あ、俺はエミーリオです」

「あの、私―────です」

「あれ?ハーフですか?」

「そうなんですよ、イタリアと日本のハーフです」

「なるほど、だから名前がイタリアっぽかったんですね」

「はい、あ、あと敬語は要らないですよ」

「ん?そう?ならお言葉に甘えるよ」

「あの、エミーリオさんの料理とっても美味しいです…ファンになってもいいですか!?」

「えー嬉しいこと言ってくれるなぁ…アハハ」

 

まさか彼女がいないとは…内心ガッツポーズしながら距離を詰めていく。

出来れば携帯の番号が欲しい。

何気ない会話をしていると、他のお客さんも来て独り占め出来なくなったので今日はもう帰ろうかなと思った。

会計を済ませて、その日はスキップをしたくなるほどテンションが高いまま帰っていった。

 

 

 

お互い見つめ合っていた。

ゆっくりと距離を縮めていく。

 

『────―…』

『エミーリオ…』

 

「ハッ!」

 

彼の手が私の頬に届こうとした時に、私は目が覚めた。

 

「…………ああああああああ」

 

何とも言えぬ恥ずかしさにベッドの上を転げまわる。

勢い余ってベッドから転げ落ちて、頭を強くぶつけて痛みに悶えていると時計が視界に入る。

 

「やばっ、遅刻!」

 

私は直ぐに制服に着替えて学校へ向かった。

 

「ねぇあんた最近、よく上の空じゃない」

「え?」

「まさか恋でもしたの?」

「はい!?」

 

友達の何気ない一言に予想以上に反応してしまい、友達も目を丸くした。

 

「え、マジ?誰よ!?吐くまで逃がさないわよ!」

「ま、待って!違うから!」

「嘘はいけないわ!さぁ!吐け!」

 

友達の脅迫まがいの尋問に屈しず、私は恋心を守り抜いた。

だって相手は社会人だなんて……言えるわけないじゃない。

相手からしたら高校生の私なんてきっと迷惑だわ。

まぁだからって諦める気はさらさらないんだけど!

あと1年で卒業だし、卒業したら告白すればいいだけよね。

自己解決した私は数日後、再びあの店に訪れた。

 

「あ、―────ちゃん!いらっしゃい」

「あ、ひ、久しぶりです!」

「こっちのカウンター席でいい?」

「は、はい!」

 

私は出来るだけ開店直後に行くようにしている。

なんせ二人だけの時間で、彼を独り占め出来るのだから。

 

「学校はどうだい?」

「アハハ、まあまあです……」

 

彼の声を聞いているだけで胸が飛び上がり、心臓が飛び出て来そうなほど緊張する。

あ、そうだ彼の電話番号聞かなきゃ。

 

「あ、あの…」

「どうした?」

「えっと…その…………携帯番号…とか、交換…できたりしないかなー…って、アハハ…ハ」

「え、いいよ、待ってね今持ってくるから」

「え」

 

死ぬほど緊張して聞いた割にはあっけなく了承してくれた彼に私は、一瞬何て言ったのか分からなかったけれど、彼が携帯を取りに行っている間で漸く状況を理解した。

 

「持ってきたよ、赤外線でいい…って顔赤いけどどうしたの?」

「だだだ大丈夫です!ちょ、ちょっと熱いだけです!」

「あ、クーラーの温度下げようか」

 

これって、え、え、これ脈あり?

だって普通お客さんに番号なんか渡さないよね?ね?

うわわわわわ、ヤバイ、今まで以上に緊張してきた。

 

「はい、これ登録しといてね」

「は、い……」

 

その後の記憶は結構朧気だった。

部屋の中で携帯の画面を見て顔がニヤける。

 

「えへ…えへへへ」

 

好きな男性の携帯番号を貰って浮かれてた私に、イタリアに行っていた母が帰ってくる音がした。

 

「―────!悪いけどこれ片付けるの手伝ってくれる?」

「はーい!」

 

一緒に母の荷物を片付けていると、お土産用の袋から淡いピンク色の花が出てきた。

 

「あ、母さん、この花綺麗!イタリアから?」

「知らないわよ、多分紛れ込んだだけね…花道歩いたからかしら」

「じゃあ貰っていい?」

「いいわよ、別に」

 

明日エミーリオさんに渡してあげよう。

私はその綺麗な花をラッピングして、机の上に置き、その花を眺めながら眠りについた。

 

 

 

 

『私はあなたのこと、好きよ』

『ああ、俺もだ』

 

数秒見つめあい、私たちは思わず笑いだす。

 

『あはは、少し、恥ずかしいわ』

『そうか?』

 

顔中に血が集まってくような感覚になりながら、両手で頬を包み込む。

 

 

 

「あああああああああああああ!」

 

心の雄叫びが漏れ出して、私は目を覚ました。

一瞬の静寂、状況を理解して夢だと気づく。

 

「うっそでしょぉぉおおおお!なんなら最後まで見せてよぉぉぉおおおお!」

 

ベッドの上で何度も転げる私を嘲笑うかのように、目覚まし時計が鳴り出した。

溜息を吐きながら、熱い顔を冷まそうと洗面台まで向かう。

今日は学校も休みだ。

朝から行ってエミーリオさんに花を渡して少しでもいいから喋ろう。

初めてここまで誰かに入れ込んだなぁと思いながらも、彼への熱は冷めることを知らなかった。

 

「エミーリオさん!おはよう」

「ああ、―────ちゃん、おはよう…いつも朝に来るね」

「昼は用事あって」

「そっか」

「あの、これ母がイタリアから摘んできた花なんですけど……綺麗だから少し貰ってきたんです」

「あー…どっかで見たことある奴だ…どこにあったっけなぁ」

「あの、とっても綺麗なんで…その、えっと……」

「…?」

「エミーリオさんにあげます!」

 

数本のラッピングされた花をエミーリオさんへ向けると、彼は少し目を丸くさせて受け取ってくれた。

 

「え?いいの…?」

「はい!」

「そっか、ありがとう」

 

そういってふわりと笑うエミーリオさんの笑顔に私は頭の中が一瞬真っ白になった。

 

「えっと……ごめんなさい、花の名前とか分かんないんですけど、その……あまりに綺麗だったから…」

 

あなたの笑顔が、とは言えなくて…私は口を噤む。

 

「いやいや、嬉しいよ…花なんて貰ったのはいつぶりかなぁ、飾っておくね」

 

そういって花を嬉しそうに眺めていた彼に、私は嬉しすぎて泣きたくなった。

あ、ヤバイ、ちょっと待って…

胸がきゅうっと絞られたように苦しくなる。

 

「え、どうしたの」

「あ、いえ、大丈夫です…何でも……」

 

彼の困惑している声が聞こえて、私は焦って目に溜まる涙を乾かそうとしたけれど、努力も虚しく私の瞳から涙が零れ落ちた。

嬉しすぎて泣いちゃいました、なんて言えなくて両手で顔を隠す。

目の前の彼は慌ててるような困ってるような雰囲気で、私も焦って涙を拭く。

 

「大丈夫か?」

「は、はい…ごめんなさい、いきなり泣いちゃって」

「いや、いいけど…困ったことがあったら誰かに相談しなよ」

 

優しすぎだろ…やばい、カッコいい。

エミーリオさんが私の頭に手を置いて撫でてくれた。

私はエミーリオさんの体温に興奮しすぎて、胸がはち切れんばかりに痛かった。

 

「…ねぇ―────ちゃん」

「は、はい!」

「俺…君とどっかで会ったことないっけ…?」

「え?いや、ないと…思います…」

 

なにこれ口説かれてんの?それとも本当にどっかであったことあるのかな?

 

「イタリアの方に数年いましたけど…エミーリオさんの出身ってどこですか?」

「イタリア…なら多分あっちで会ったことあるかもね」

「ああ、なるほど…」

 

やばい、これ本気で運命の可能性ある?あるんじゃね?コレ

だめだ一度思うと、本当に思い込みそう。

 

「ああああああの!用事思い出したんで、ちょっと帰りますね!」

「え、あ、うん」

 

これ以上ここにいれば私の心臓がもたない!

私は店を出て、ただふらふらと目的もなく歩いてた。

 

「あー……エミーリオ……さん…」

 

ああ、心臓が痛い。

恋ってここまで苦しいものなのか…

数時間も町をぶらぶらしていたら顔の熱も冷めて、私はもう一度店に行こうか悩んでいた。

もうお客さんも入ってる時間帯だからお喋りは出来ないだろうし…

やっぱり違う日に朝一で行こうかな、うん。

 

「よし、来週の日曜日にまたエミーリオさんに会いに行きますか!」

 

私は声に出して意気込んだ。

 

 

 

 

「そんな日、二度と来ないよ」

 

 

鈍い衝撃が私を襲った。

いきなりのソレに私は呆気に取られて、体勢が崩れ膝から地面に倒れこむ。

地面についている右腕で体重を支えながら、私は今起こった出来事が分からず起き上がろうとする。

一瞬遅れて、腹部に激痛が走った。

 

「ぅぐっ……?あ…?」

 

何がどうなってるのか理解できず、痛みに呻きながらお腹を覗き見ると私は自分の目を疑った。

そこには真っ赤になったお腹が見えたからだ。

 

「な、…んで……?げっほ…」

 

息をするのさえ苦しくて、痛くて、私の体は恐怖で動けなかった。

 

「君、―――――だろう……エミーリオに近づく害虫め」

「……っ…」

 

痛みで口すら開けられなくて、後ろから聞こえてくる声に恐怖した。

死にたくない 死にたくない 死にたくない

 

「直ぐには死なせないよ…少しづつ殺してあげよう」

「ぁ…だれ、か………たすけっ……」

 

必死に振り絞った声すら掠れていて、私は絶望の淵に落とされる。

目からは涙が零れ落ちて、左手で宙を搔きむしる。

痛い痛い痛い痛い痛い

いきなり首に鎖のようなものが巻き付き、引き摺られていく。

 

「いやっ、嫌ぁあああああああ!」

 

恐怖で震えあがる体で精一杯叫ぶが、痛みと恐怖で意識が遠ざかっていった。

死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない!

引き摺られる身体と共に、私の意識も闇に引き摺られていった。

 

 

 

 

次に意識が戻ったのは病室だった。

すぐ隣にはお母さんが眠っていて、私は自分のいる場所が病室だと理解するまでに数分を要した。

申し訳ないと思いながらお母さんを起こすと、お母さんは泣きながら私を抱きしめた。

何度も私の名前を呼びながら、私はぼんやりと病室の窓の外を眺めていた。

お母さんの話だと、私は一週間も前に事故でお腹に穴が開いちゃったらしい。

手術は成功したけれど、意識が中々戻らない私にお父さんもお母さんも心配していたらしくて、私は申し訳なく思った。

でも私には事故にあった時の記憶はない。

というよりも事故にあう数週間ほどの記憶がない。

記憶のない間はふわふわとして曖昧だったけれど、なんとなく何かに夢中だった気がした。

 

「お母さん……」

「どうしたの?お腹の傷が痛むの?」

「ううん、違うの……」

 

何も分からない…何も覚えていない

 

 

「胸が………苦しいの……」

 

目から零れる涙の理由さえも分からずに、私はずっと窓の外を眺めていた。

 

「ごめ…なさい……」

 

私はただ何かに恐怖し、震えていた。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさいっ」

 

 

 

何に謝ってるかなんて私には分からず、溢れる涙と共に零れだした言葉が病室の中に木霊す。

 

 

『私はあなたのこと、好きよ』

『ああ、俺もだ』

 

朧気で掠れた記憶の中で、とても優しい声がして胸が一層苦しくなった。

悲しくて…怖くて…涙が止まらなかった。

 

胸が……苦しいよ……

 

 

 

『あなたは変わらずそのままでいて、エミーリオ…』

 

 

『ああ、君もそのままでいてくれ、エリアーデ』

 

 

「ごめんなさ…い」

 

 

『さよなら、エミーリオ』

 

 

 

 

「………胸が……苦しいよっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

それは罪悪感だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バミューダside

 

 

エミーリオに惚れた女性を見つけた時は、あまり気にしていなかった。

今までだってエミーリオに好意を抱く女性を見てきたが、想いを告げずに去って行くばかりだったから今回もそうだと思っていた。

エミーリオ自身全くその気がなさそうだったし。

女性はエミーリオにぐいぐいと詰め寄っていたが、エミーリオが何も気にしていない様子だったので僕は若干眉を顰めるだけに留まっていた。

 

「この前ファンが出来てさ、すっげー嬉しかったんだよなー」

「何を言ってるのだ、僕は百年前から君の料理のファンだ」

「アハハ、こいつめー」

 

 

女性は週末になると朝一に店に来ては、エミーリオとお喋りをして帰っていた。

明らかにエミーリオに気があるとしか思えないのに、当の本人は全く気付いてすらいない様子だった。

別にエミーリオに恋人が出来ること自体に反感があるわけではない。

だがそう長くないこともしっているから、別れる時が心配ではあった。

エミーリオの店には一通り監視カメラを設置してはいるが、音は聞こえないので彼らの会話までは把握していなかった。

あの女性の身分を調べている頃だった。

女性がエミーリオに何かを渡しているのを監視カメラ越しで見ていた。

流石に花を貰えばエミーリオも彼女の気持ちに気付くのではと思っていたが、エミーリオが気付く気配はなかった。

少し時間が経った頃、僕は維持装置の様子と牢獄の様子を見回って再び監視カメラの方を覗いた。

見ている途中で、イェーガー君に頼んでいた、最近エミーリオの周りをうろついている女性の身辺調査の結果が届いた。

僕はそれを見て目を細める。

 

「…ただの偶然か…?」

 

そこにはエリアーデ、と記されていて、いつかの記憶を思い出す。

エミーリオを殺してくれた女の名前に眉を顰めながら経歴を読んでいると監視カメラの方に動きがあり、そちらに視線を移した。

そこには六道骸が店に入ってくるところで、僕は舌打ちしながらそのまま見ていると、違和感を覚えた。

エミーリオが厨房から出てこない。

料理している音で気付いていないのか?

最初はそう思っていてそのまま眺めていたけれど、画面上の六道骸もいつまで経っても出てこないエミーリオに首を傾げて厨房の中を覗く体勢を取っていた。

そして次の瞬間、六道骸が厨房の中へ走っていった。

僕はそれを見て、直ぐに異常事態だと分かりワープでエミーリオの店に駆け付けた。

 

「エミーリオ!」

「バミューダ!?」

 

エミーリオの名前を呼びながら店の中へ入っていくと、六道骸が僕の方へ視線を向けた。

その様子は焦っていて、彼の足元にはエミーリオが蹲って倒れていた。

 

「エミーリオ!何があったんだ!?」

「彼を動かさないで下さい、恐らく毒です」

「毒だと!?」

「嘔吐に呼吸困難…内傷の回復が遅いので僕の幻術でどうにか紛らわしています、あなたは毒の元でも調べなさい」

 

エミーリオの背中は震え、苦しそうに呼吸していて言葉を発する余裕さえ見られなかった。

顔からは苦しさからか、脂汗が噴き出していて、見ているだけでこっちまで苦しくなった。

六道骸の言葉に若干イラついたが、喰いついている暇などなく、僕は部屋を見渡す。

何が原因だったのか分からず、エミーリオをもう一度観察していると彼の指先に丸い点があった。

 

「……何だ…コレは…血…?」

 

まるで棘のような小さな鋭い先端に刺さったような、ほんの僅かな傷痕があった。

針…?いや包丁でもない…待て、エミーリオは少し前まで何をしていた……

すると幻術でエミーリオの回復を補助していた六道骸がぽつりと零した言葉が耳に入った。

 

「……葉の棘…」

「何?」

「机の上の花瓶に飾られている花…前に来た時にはなかった……いつのものですか」

「え…あれ、は…さっき…」

 

僕の中で一つの花の名前が浮かんだ。

 

「……カルミア…」

 

カルミアの葉の部分に含まれるグラヤノトキシンIという毒物は呼吸困難や嘔吐を引き起こし、最悪死に至るものだ。

あれは…あの女がエミーリオ刺し殺そうと刃物に塗りつけた毒……

最近エミーリオの周りをうろついていた女の名前……

 

「ぅ、ごほっ…ぉえ……」

「エミーリオ!」

 

エミーリオが苦しそうに嘔吐し、腕が痙攣し始める。

それを見た僕は何かが自分の中でプツリと千切れる音を聞いた。

あの女だ…あの女が…エミーリオを………

僕はエミーリオを六道骸に任せて、すぐさまワープで女の居場所を探し出した。

我武者羅に探して数十分たった頃に、あの女の後ろ姿を土手の方で見つけた。

あの女は手を空へ伸ばし、生き生きとした表情で言い放った。

 

「よし、来週の日曜日にまたエミーリオさんに会いに行きますか!」

 

怒りが沸々と腹の底で煮えたぎる反面、頭は冷水を掛けられたように冷め切っていた。

どうやって殺してくれようかと、それだけで一杯だった。

 

「そんな日、二度と来ないよ」

 

その言葉と共に、僕は女の腹に風穴を開けた。

 

「ぅぐっ……?あ…?」

 

女は呆気にとられ、地面に倒れる。

 

「な、…んで……?げっほ…」

「君、エリアーデだろう……エミーリオに近づく害虫め」

「……っ…」

 

その女の瞳は恐怖に濡れ、僕はそれを冷めた目で見下していた。

ああ、早くその汚い生命を捻り潰したいくらいだよ…でも

 

「直ぐには死なせないよ…少しづつ殺してあげよう」

「ぁ…だれ、か………たすけっ……」

 

女の助けを求める声は小さく誰にも届きはせず、必死にもがくソレの首に鎖を巻き付けてワープホールへと引き摺って行く。

何年も、何十年も、何百年も、あの牢獄に閉じ込めてやる。

自殺もさせない、させてたまるか。

死んだ方がマシだと思わせて嬲り続けてやる。

 

「いやっ、嫌ぁあああああああ!」

 

女は悲鳴をあげながら徐々に黒いワープホールの中に引きずり込まれていく。

 

「やめろバミューダ!」

 

女は気絶し、あと少しというところで名前を呼ばれる。

僕はそこへ視線を移せば、そこには沢田綱吉がいた。

近くには誰もおらず、本当に偶然近くを歩いていただけのようだった。

 

「何してんだよ!今すぐその女の人を離せ!」

「彼女はエリアーデだぞ」

「!?」

「ああ、エミーリオを殺したあの女だ……殺されて当たり前のことをした女だ」

「何言って…」

「六道骸の言葉を借りるならば輪廻転生…か」

 

沢田綱吉が僕の言葉に目を丸くした。

 

「こいつは転生してもなお、エミーリオを殺そうと…強い毒性を持ったカルミアの花をエミーリオに送ったのだ」

「なっ」

「許せるものか、この女を許してなるものか…死を望むほどの報いを受けて然るべきだ」

「や、やめろ!エミーリオさんの意思を聞かずに勝手に…」

「エミーリオは許すだろうね」

「!」

「許して何になる!?こいつのように転生しても変わらぬ害虫さえいるのだぞ!罰するべきではないか!」

「お前がすることは罰することなんかじゃない…ただの仇討ちだろ」

「そういわれても構わないさ…こいつには然るべき死を送ってやる」

「ダメだ、それは俺が許さない……その人が本当に意図的にしたのかも分からないうちに決めつけることは許さない」

「それだから貴様は甘いのだ!」

「バミューダ…エミーリオさんが本当に仇討ちを望んでいると思うのか…?」

「…何を分かったような」

「分からない、だけどお前も分からない…誰にもあの人の考えは分からない」

「…」

「エミーリオさんに判断を委ねるべきだ…バミューダ」

「それであいつが殺すと言えば…?」

「反対はしない…だけど、エミーリオさんの答えなんて分かってないようで皆分かり切ってるじゃないか…」

「っは……ふざけたことを……」

 

僕は女を沢田綱吉の方へ投げつける。

殺したくて仕方のない今、あの女を視界に入れることすら耐えられなかった。

 

「僕は、友の復讐すら出来ないのか…?」

 

ポツリと呟いた言葉は酷く弱弱しかった。

 

「エミーリオさん…今どうしてるんだ」

「店で六道骸の幻術で補助されながら回復している」

「そうか…ならお前も戻った方がいいだろ…エミーリオさんの隣にいてあげろよ」

「貴様に言われなくともそうする…」

 

沢田綱吉に背を向けて僕は直ぐにエミーリオの元へ戻った。

店に戻るとエミーリオは普通に動けるほど回復していた。

 

「あ、バミューダ!さっきは驚かせてごめんな」

「エミーリオ…」

「もう大分回復したぜ…まぁ疲れたから今日はもう店開かねーけど」

「そうするべきだ…早く横になって休んだ方がいい」

 

先ほどの脂汗で髪が頬にへばりついた彼を見ていると、いくら回復したからといって気が抜けるものではなかった。

 

「骸君から聞いたんだけど、これの葉の部分に毒があるんだってね」

 

そういってエミーリオが取り出したのはカルミアの花弁だった。

 

「今回は少量だったからあんくらいだったけど、大量だと普通死んじゃうんだってさ…あぶねー」

「エミーリオ…」

「ん?」

「あの女…殺すべきだ」

「女…?」

「エリアーデという最近君の周りをうろついていた女だ、あの女がお前に渡したものだろう」

 

エミーリオは彼女の名前を聞いても何も反応しておらず、600年前のあの女とは別人だと思っているのだろう。

だが、僕の言葉に後ろの方で休んでいた六道骸は顔を歪めた。

 

「多分彼女知らなかったんじゃねーの?」

「そんなハズは」

「だってさ、すっげー笑顔でこれくれたんだぜ?」

 

そういって目を細めて花弁を眺めているエミーリオに、彼女は君を殺したあの女の生まれ変わりかもしれない、とは言えなかった。

 

「俺とっても嬉しかったんだよなぁ…だってすっげー綺麗じゃん、この花」

 

エミーリオが花を眺めながら微笑む姿を見ていると、僕は唇を嚙み締めて拳を血が出るほど握りしめた。

 

「今度彼女が来たら、あの花危ないって教えなきゃな…」

「とっても綺麗な花なのになー」

「今度いつくるか分かんないけど、とってもいい子でね」

 

聞くに堪えなかった。

何も知らぬエミーリオの言葉が、あまりにも健気で、あまりにも残酷で、あまりにも……悲しかった。

これでは…何も…出来ないじゃないか……

 

「バミューダ…?何で泣いてるんだ?」

 

 

君は充分に傷付いた

 

君は充分に悲しんだ

 

君は充分に苦しんだ

 

 

だから今度は僕が君の悲しみを背負おう

 

 

「バミューダ…?」

 

 

 

だから君は何も知らず…笑っていてくれ

 

 

エミーリオ…

 

 

 

 

僕はみっともなく泣きながら、友の傷痕を隠し通した

 

 

 

 

 

 

後日、沢田綱吉の方にあの女のことを聞けば、彼女の記憶はエミーリオに出合った日から全てを消したと言っていた。

エミーリオは彼女が訪れないことに首を傾げていたが、僕はそれでいいと思った。

 

 

「エリアーデちゃん、全然来ないなぁ…」

 

それでいいのだ…

 

 

「とってもいい子だったのに」

 

 

 

エミーリオの言葉に、応える者は誰もいなかった。

 

 

 




ラブコメだと思った?ラブコメだと思った?
残念!SAN値直葬ものでした!
ねぇどんな気持ち?
ねぇどんな気持ち??(^ω^三^ω^)

エリアーデ:転生体。記憶なし。エミーリオに恋()をしてセコムによって殺されかけた。悪気はない。
エミーリオ:好意に全く気付いていないし多分これからも気付かない。毒に関してはあんま気にしてない。ただ今度エリアーデに会った時に注意しておこうと思っていた程度。600年前のあの事件をまるっきりサッパリ忘れていた為、エリアーデの名前を聞いても何も思わなかった。
バミューダ:SAN値直葬からのエリアーデ絶対殺すマン一歩手前までなったが、なんとか押し留まってセルフSAN値減少。安心安定のセコム。
骸:エミーリオの苦しむ姿を間近で長時間見てたので結構SAN値がヤバかった人。
沢田綱吉:偶然セコムによる害虫駆除という名の制裁に鉢合わせした人。内心穏やかではないもののエリアーデを救助。


何だろう…すっごい副産物です。
全然違う内容のリクエスト考えていたら、脱線しまくってこれに収束した副産物。
にしてもお盆ってほんと忙しいデスネー。
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