復讐の夜に
最強の嵐に
再来の憤怒に
バミューダside
それは本当に気まぐれであり、偶然だった。
鼻についた甘い香りが気になって、その店に入った。
すると中にいた店主は僕の姿を見ると目を丸くした。
そりゃそうだろう、包帯塗れの赤子がこんな酒場に来ること自体異常だ。
「あー……身分を確認出来るものはありますか?」
「え?」
「えっと、運転免許…いや、保険証?」
僕は店主の言葉に驚いて、無意識に表社会で使用している身分証を出してしまった。
我に返って、何やってるんだと思い身分証を取り返そうとする前に、店主が返してきた。
「おっけー、何か飲む?」
「え…」
「あー、ソフトドリンクもあるにはあるけど…」
店主は僕にメニュー表を渡してきたので、僕はそれに目を通した。
殆どが果実酒であったが、カクテル、蒸留酒、醸造酒もあった。
店長のオススメと書かれていた、果実酒に目が行ってそれを頼んだ。
店長も果実酒を頼んできた赤ん坊に対して何も思うことはないような態度で、ワイングラスに注いでいく。
「ほい、デザートワイン。本当は食後が一番美味しいんだけどね」
「へぇ、原料は?」
「マスカット、フランスから取り寄せたんだ」
一口飲んでみると、甘さが口の中に広がっていき、久々に感動した。
いつもは果実酒なんて飲まずに、ウィスキーばかりだったけれど、これはこれでまた…
それからだった、僕がこの店を訪れるようになったのは。
「ああ、また君か。包帯君」
「君の店のお酒はどれも美味しいからね」
「そりゃ嬉しいや、今日はこの赤ワインはどうかい?いい味してると思うよ」
「じゃあそれを頂くよ」
僕の外見に対して何も問い詰めてこないし、何も気にしないスタンスの彼の接客はとても僕には有難かった。
いつも笑顔で僕の話を聞いてくれる彼を気に入っていた。
またアルコバレーノの被害者が出て、復讐者が一人増えた。
時が過ぎるごとに増えていく復讐者を見ていると、チェッカーフェイスへの憎しみが溢れ出していく。
早くあいつを殺して僕は復讐をやり遂げるんだ。
だけれど復讐を誓って既に百年以上経った今でも、チェッカーフェイスについて居場所が分かることはなかった。
何年も燃え滾る復讐心に知らぬうちに心が摩耗していっていた。
「チェッカーフェイスめ……殺してやる」
「今日は機嫌悪いね」
「また奴の被害者が増えたのだ!こんな呪いなんてっ」
彼は僕の話を本当だとは思っていないのか、それとも詮索をしない主義なのかは知らないけれど、ただ僕の言葉を聞いては相槌を打つだけだった。
でもそれだけでよかった。
ただただ悲鳴を上げたかった。
この怨念を、怨讐を、怨嗟を。
誰か聞き取ってはくれないかと。
まるで乞う様に僕は吐き出した。
彼はただ僕の言葉を聞いているだけで、何かを返してくることはなかった。
でもそれでも、少なからず救われた部分はあったのだろうと思う。
そういえば僕は彼の名前を知らない、と気づいたのは彼の店に通い始めて2年目の頃だった。
「君の名前はなんて言うんだ?店主さん」
「俺か?エミーリオってんだ、そういえばまだ名前教えてなかったか」
アハハと快活に笑う彼が纏う雰囲気は復讐に燃えて摩耗していく心の安らぎにさえなった。
エミーリオは元々イタリア出身のようだ。
いつの日か、彼が僕にプレゼントをくれた。
とても上質な包帯だった。
その布ボロボロだから、肌が荒れるだろう?と言って渡してきた彼に僕は泣きたくなったのだ。
うん十年も生者との交流をしていなかった僕はそれがとても嬉しかった。
それからずっとその包帯を巻くようにした。
その後、別の国に移ることにしたと言って店仕舞いをしてしまったエミーリオに、僕は落胆を隠せなかった。
もう店は開かないのかと聞けば、別の国で開くと言ったので移る国を教えてもらう。
そして彼は近くの国へ移っていった。
数年後、彼の店を見つけて店の中へ入ってみると、彼は入店してきた僕に目を丸くさせながらも笑いながら迎えてくれた。
何年も赤子のままの僕に何も聞かずに、友人の様に接してくれた。
僕を生きている人間として接してくれた。
それから数年経って、僕はようやく彼の異常を分かってしまった。
彼は年を取らないのだ。
ずっと二十歳頃の外見で、老いる気配はないし、幻術でもなかった。
それでも、彼との関係を壊したくなかった僕は終ぞ彼に聞くことはなかった。
でも彼が何故僕を受け入れてくれたのかが分かった。
これからも彼とは良き関係でありたかった。
なのに、ある日彼は姿を消した。
何も僕には教えずに、店は無くなっていた。
世界中を探しても彼を見つけることは出来なかった。
彼に何かあったのだろうか、と心配する日々が続くがどれだけ探しても彼が生きている情報は何一つ出てこなかった。
それから十数年、マフィアの間で真しやかに流れる噂を耳に入れた。
とても酒の美味い店がある。
中国の端っこの小さな村で、他の組織の者もよく出入りしたりしているらしい、と。
マフィアの間では有名で、密会所とまで言われていた。
僕はそれが彼の店なのかもしれないと思い直ぐに中国へ向かった。
すると、彼がいた。
僕は形振り構わず彼に怒鳴った。
「お、包帯君久しぶり~」
「なっ、君!今までどこに行ってた⁉探してたのだぞ!」
「え?あ、ごめんなぁ、ちょっと山籠りしてたんだわ」
「はぁ⁉」
「ほら、自然にある食べ物で何が出来るかとか、何が作れるかとか知りたくてさ」
「今度からはどこか行くなら僕に一言かけてから行ってくれないか⁉」
「え?お、おう……何か心配かけて悪いな」
「全くだ!」
彼は最後まで呑気に謝っていた。
僕も彼の態度と出されたお酒に怒っていたことも直ぐに忘れてしまった。
中国で二十年ほど営んだ後、再びイタリアに戻ると彼は言って、中国を出た。
そしてイタリアで開いた彼の店にも足を運んだ。
彼はやっぱり僕を笑顔で入れてくれた。
それから数年した頃、店を弟子に譲ると言って来た。
「ちょっとな…あるところで専属のシェフとして働いてくる、だから少しの間店は出さない」
「そうか…寂しくなるな」
「ま、10年の契約期間だからな、10年後にまた店を開くさ」
「なるほど、じゃあまた10年後に会おう」
「おお」
それ以来彼を見ていない。
ただ風の噂で、ボンゴレの料理人が規格外な奴で、そいつの作る酒が一級品だと耳にした。
彼はどこに行っても分かりやすい。
「バミューダ」
「ああ、行こうか…イェーガー…」
イェーガーの言葉に、僕は再び掟を破った者達を牢獄に引きずっていく。
牢獄はとても暗く、寒い場所だった。
エミーリオ、君の隣がどれだけ暖かかったのかが分かるよ。
僕には復讐しかない。
復讐しかないんだ……
生に縋りつき、復讐に燃えた僕の本当の姿を見れば君はどんな顔をするんだろうか…
気味悪がるだろうか…
怖がるだろうか…
それともいつも通り受け入れてくれるだろうか…
こんな こんな僕でも
君を友人と言ってもいいだろうか―――――…
鎖の引き摺る音を聞きながら僕はワープゲートを潜った。
風side
物心つく頃には既に彼はいた。
小さかった頃は本当の兄だと思っていたエミーリオ。
「エミーリオ兄さん」
「お、風!今日もおつかいか?偉いな!」
後から両親から聞いたところによると、私の名前は彼がつけてくれたとのこと。
私の地元は風の強い地域で、風のように強く、そして涼やかな心を身に付けてほしいという意味で付けられたらしい。
エミーリオはいつだって私にとって憧れだった。
笑顔で、誰にでも優しく、そして強かった。
私が5歳になった時に、私はエミーリオに弟子入りを願い出た。
最初は渋っていたが、私の真剣さに折れて武道たるものを教えてくれた。
数年の年月が経ち、彼がこれ以上教えることはないと言い出した。
自分の教えられることは教え切った、と彼は言った。
そういった彼に一度も勝てたことなどなかったのに。
私はエミーリオのように強く優しい男になりたかった。
「エミーリオ兄さん」
「ん?」
「私は、もっと力を極めたい……だから中国の各地を回り、色んな武術を学ぼうと思う」
「ほう、いいんじゃないか?お前にはお前の人生があんだ、お前が決めた道をどうこういうつもりはねぇよ」
「だが私はあなたの弟子であることをやめるつもりはありません!」
「弟子って…おま……まぁいいけどさぁ、自分で決めた道に後悔はすんなよ」
「はい!」
「うん、その意気やよし。お前なら最高の武道家になれるだろ」
「はい!ありがとうございます!」
エミーリオは私の背中を押してくれた。
私は必ずあなたに誇れるような男になってみせます、エミーリオ。
あなたの名付けてくれたこの名のように、強く、涼やかな志で、武道を極めて来ます。
今までありがとうございます。
あなたは私の憧れで、目標です。
これまでも、これからも。
どうか健在で…
そして私が実家を出て数年後、エミーリオがイタリアに帰ったという知らせを貰った。
会うことが難しくなったことに寂しさを覚えた。
だが私から彼の元へ行けばいいと思った。
だからもう少しあなたに誇れるような男になってから、会いに行こうと思います。
そんな矢先だった。
アルコバレーノの呪いにかかった自身の体を見下ろした。
小さな手を見ながら絶望さえ感じた。
そんな……
一時これからどうしようかと悩み続けた。
実家に帰ろうにも、この身をどう説明すればいいのか分からなかった。
そんな時にエミーリオの言葉を思い出した。
『エミーリオ、私は強くなりたい……あなたのように』
『俺は強くなんかないよ』
『だがあなたは私よりも強い』
『……あのな風、強さってのは人それぞれだ……』
『…』
『俺の友人には、辛くても悲しくても前に進み続けた男がいた。どれだけ悩もうが最後には前に進み続けた男がいた…』
『その人は強かったのですか?』
『ああ、俺はそいつが強いと思った…立ち止まらずに前に進む奴は強いと思ってる、いや違うな…立ち止まっても最後はちゃんと前に進む奴を俺は強いと思ってるんだ』
『前に…』
『俺の強さとは別に、お前にとっての強さを見つけるのもまた一つの方法ではあるぜ』
懐かし気な顔をしていたエミーリオを今でも覚えている。
私は今こそ前に進むべきなのだろうか。
あなたは言った、後悔はするなと。
後悔しないように沢山悩んでから自分の道は選べと。
だから、まだ私は悩むことにします。
悩んだ末に後悔のないように。
進んだ先で後悔のないように。
親愛なるエミーリオ、私はあなたの言う強い者になれているでしょうか。
ザンザスside
「ザンザス、今日から彼がお前の専属のシェフだ」
「エミーリオだ、よろしくー」
「……」
「ザンザス君ね、了解」
何だこいつ…
最初の印象は気に入らない、だった。
俺は次期ボンゴレボスになる男だぞ…敬意の欠片すら見当たらなそいつに苛つく。
次の日の料理に肉が少なく、野菜が多めに入っていたので食えるか!とそいつに喚き散らした。
だがそいつはあろうことか、俺の言葉を無視して野菜を出して来やがった。
ぶち切れて捨てようとすると、いきなり頭に痛みが走った。
「いっ」
「おい、食べ物を粗末にするな!こちとら苦労して作ってんだぞ」
「うっせぇな!肉出しやがれ!」
「あ?栄養偏るから却下!」
「俺は次期ボスだぞ?んな口聞いてんじゃ…」
「ボスもなにもお前まだガキだろ!このクソガキ!」
そいつはまた俺の頭を殴って来た。
スラム街での取っ組み合い以来の拳は、久々に痛みを思い出した。
反撃しようとしても何故かそいつには当たらずに、結局腹の虫は収まらず部屋に戻った。
翌日もそいつは野菜を多めに出してきた。
「今日は食えよー」
「んなまずいもん食えるか!」
「はあ?お前野菜も食えないのかよ!社会に出たら嫌でも食わなきゃいけねぇんだ!黙って食え!」
「ざけんな、カッ消すぞ!」
「その前にお前の捻くれた好き嫌いをカッ消してやるわ」
それから一週間の死闘の末、俺は折れた。
あいつなんであんなに強ぇんだ…くそっ。
一撃も入らないことに苛つきながらも、出された夕食を不服ながらも残さず食べる。
食べてみて分かったが、あいつの作るサラダは不味くねぇ。
俺が野菜を食べたことを知ると、翌日から肉の量が増えていた。
最初から肉出しとけってんだクソッ
「おい、ハンバーグは嫌だ、ラム肉出せ」
「あ?我儘いってんじゃねぇよ、ジャイアン」
「あ?ジャイアンって何だ」
「調べろ、日本のアニメ文化で調べりゃ一発だわこの野郎」
調べてみた。
ふざけんな!俺がこんな奴と一緒だとでもいうのか!
一度絶対にあいつカッ消してやる!
「カッ消えろ!」
「あっぶね!仕事中だから邪魔すんな!ガキか!」
「うぉっ」
殴ろうとしたら躱されて頭を殴られた。
ある日、あいつに銃をぶっ放したら避けられた上に殴られた。
くっそ、あいつ一体何者だ…普通のシェフは銃弾なんか避けれるわけがねぇ…
また別の日に、あいつが料理中に厨房に入り、あいつの足を思い切り蹴る。
痛がるあいつの顔に満足するのもつかの間、あいつは包丁を置き、俺の足を掴んで来やがった。
「このクソガキ!俺の料理の邪魔をするな!」
「うおおおっ」
俺の足を掴んだまま回転し、遠心力で窓の外に飛ばされる。
殺す気か⁉
二階から投げ飛ばされた俺は、なんとか着地するが、回転させられたことで三半規管が狂って、数分動けず蹲る。
あの野郎、カッ消す!
回復した俺はすぐにそいつの元に行き、背中を蹴り倒す。
「あだっ」
「ざまぁみろ!このカス!」
「だぁもう!懲りねぇガキだな!」
そいつは立ち上がり、俺に手を伸ばすが俺は距離を取り、銃を取り出す。
その瞬間、俺の顔の横を物凄いスピードで何かが通り抜ける。
ダン
と、何かが突き刺さる音とともに、視線をズラすと、壁にナイフが綺麗に刺さっていた。
「人様に銃口を向けるなって教わらなかったのか?ん?」
「てめぇこそナイフ出してんじゃねぇか!」
「お前が銃口向けるからだろ!アホ!」
「んだとこのカス!」
今度は今までの比じゃないほどの重い拳で殴られた。
よろめく俺の顔を両手で挟み、言い放った。
「いいか、厨房はガスを使うところだ、火器類の暴発は危険だ。それとナイフとか包丁もある、アルコール類だって使ってる…だからな今度、厨房で暴れてみろ、この屋敷の天辺から落とすからな」
俺は一瞬だけ背筋に寒気が通り過ぎた。
だがあいつは直ぐに呆れたような顔に戻り俺の頭をぐしゃぐしゃに搔きまわした。
「厨房以外…ていうか仕事外でなら遊んでやるから、厨房には入んなよ…入った分だけ拳骨喰らわすからな」
「ッチ、カスが!」
「口が悪いんだよ」
軽く頭を叩かれた。
何で俺がてめーの言うこと聞かなきゃいけねーんだよ。
その後、俺は何度か厨房に入るが、殴られて意識のない間に自室に運ばれることを数回繰り返し、いつしか厨房には入ることは少なくなった。
それから俺が15歳になった頃に、あいつは誕生日だなんだとケーキを持ってきた。
しかもでけー三段重ねのだ。
思わず天辺の段をそいつの顔に投げつけた。
するとそいつも俺に二段目を投げつけた。
一瞬の間、直ぐにお互い投げつけ合いに発展した。
「う”お”ぉい!どうしたぁ”!」
「うるっせぇ!」
「うるさい!」
「ぶっ」
途中で入って来たカス鮫に最後の段を投げつけて、もう投げるものがないと分かり投げ合いは終了した。
顔についたケーキを拭きながら、少し口に含んだ。
認めたくないが、あいつの作るものは美味ぇ。
他のレストランで出された飯が不味く思えるほどで、あいつのばかり食ってるとそれこそ他のは食べられなくなるんじゃないかとすら思う。
それから一年後、あいつは契約期間が切れてボンゴレからおさらばだ。
っは、清々する。
だがあいつは契約期間を一週間だけ伸ばして、俺にケーキを持ってきた。
くそがっ、早く消えろっての。
出されたケーキは普通のサイズのホールだった。
「んー、お前甘すぎるのあんま好きじゃないから、少し砂糖減らしたから食えると思うぜ」
「ふん、カスが」
「あーあー、最後までその口癖直せなかったかぁ…不良児のまま育っちゃって…おじさん悲しい」
「あ”あ”⁉んぐっ」
俺が口を開いた瞬間に、あいつはケーキをフォークごと突っ込んできた。
一瞬ぶん殴ろうかとすら思ったが、仕方なくそのままケーキを平らげた。
不服だが、こいつの飯は美味かった。
少しだけ施しを与えてやろうと思った。
「おお、全部食ってんじゃん。なになに、俺の飯は美味すぎてこれからが心配だって?」
「カスが!まずかったわ!」
「そうかそうか、美味しかったか、嬉しい限りだぜ」
「てめぇ耳腐ってんのか⁉」
やはり、施しなんぞ与えねぇ!
そいつは一週間後、ボンゴレを去っていった。
去っていく背中を窓から横目で眺めていた。
「エミーリオ……」
あいつが路頭に迷ったら、ボンゴレで雇ってやるくらいの施しは与えてやろうと思った。
それから半年後、俺はクーデターを起こした。
全身が凍っていくのを感じながら何故かあのカスの顔を思い出した。
ズキリ…
殴られていない頭に痛みが過ぎったような気がしたのを最後に、俺の意識は遠ざかっていった。
多分エミーリオがずっといたらザンザスはクーデター起こしていなかったね。
愛の鉄拳制裁があるし(笑)
本当はマーモンside入れようと思ったけど、諦めた。
多分後ほど出すかも。