十五夜大和と血まみれアリス   作:白ノ瞑想

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下らない日常にさよならをー1ー~ー2ー

ー1ー

 溢れた水は盆に戻らない。

 振り抜かれた剣も、生き残る為の代償も、自らの罪も、無かったことには出来ないのだ。

 

ー2ー

「いったー………。弟にたいして何の手心も加えないとか………どうなってんだ燗姉は」

 十五夜大和は、夕禅町の誇る古武術の道場、『十五夜流本家』の中庭で盛大極まりないため息をついた。名字の方が『もちづき』なのに、道場のほうは『じゅうごや』というのはどうなのか。もっとも、他人からしてみれば、小学生が政治に向けるものと同程度の感心しかないだろうが。

「燗姉の脳ミソは筋肉でできてんのか……?」

そうぼやいた後、まぁ、聞かれていれば僕は即死コースだな、と考えて、おや何だかフラグを立ててしまった気がするぞと、立ち上g

「ほー、面白い事を言うなぁだいくんは」

即死コースへとコースチェンジ。貴方の明日は潰えました。

 ギリギリと油を差し忘れたブリキの様に首だけを後ろへと向けたその視線の先には、十五夜流十七代目師範、十五夜燗那が、美人が多い事で有名な北幸大学でも五本の指に入るといわれるその美貌を、より一層引き立てる笑顔でそこに立っていた。……目は、笑っていない。

「いや、その、燗姉、これは」

「お姉さん言い訳は聞きたくないかなー」

 ミリ…………

 どんな反射神経をしているのやら、4mという距離を音も立てずに、逃げようとしていた僕に瞬撃のアイアンクローとは。白い道着に紺袴、なるほどこれが連邦の白いあk

メシャ……

「それ以上は言っちゃだめだよね」

「ちょっと待って、何で心読めてんの!?」

 2013:4:20(土):AM5:21、だいくんこと十五夜大和の頭蓋が悲鳴をあげた瞬間であった。

 

「もうっ燗ちゃんやり過ぎだよ!」

「あははー、ごめんごめん。だいくんが可愛いもんでつい、ね?」

 可愛いもんでつい、で殺人未遂とかどこのサディストだ。

 大和は朝の鍛練で傷付いた身体、もとい朝の殺人未遂事件で傷付いた身体を引きずり、十五夜家のリビングへと朝食を食べに来ていた。ちなみに、この十五夜家は、古武術を教えている割には、かなり近代的な内装である。そして広い。

 今は、家族4人で朝食を頂いている訳だが、そこに両親の姿は無い。2人共亡くなった。5年前に亡くなった父親と違い、大和を産んですぐに亡くなった母親の顔を、大和は覚えていない。

「2人ともさ、ボクはもう少し静かに食べた方がいいとおもうけどなー、だいくんが可愛いのはわかるけどね」

 そこですっと爆弾発言を投下したのは、道場のすぐ隣で自営業のパン屋を営んでいる宵姉こと十五夜宵架だ。

 現在、十五夜家は、長女の宵架(23)と次女の燗那(20)に三女の明日乃(19)、そして長男の大和(14)の四人家族だ。

 長女のパン屋と次女の道場、この夕禅町の2大名物のおかげで、日々の生活には困っていない。大和の性活は非常に困っているが。

 何しろ、3人とも重度のブラコンだからだ。一人だけ大きく歳の離れた大和は、可愛いもの好きの現代女子のハートにドストライクだったようだ。

 せめて暴力は控えて欲しいよなぁ、と大和が作りおきしていたポテトサラダを口に放り込む。ううむ、我ながら中々旨い。パンしか作れなかったり、そもそも料理自体がNGだったりする姉達の代わりに長年三食料理し続けて来たのだ。これはもうそこいらの中2には出せない深みだ。ちなみに、掃除洗濯も僕が引き受……………主夫か僕は…………。

 それ以前に歳上で美人の服を洗濯している等ということがクラスメイトに知られた時のことを考えていない大和だった。十五夜家の3人は町内でも有名な美人姉妹なのだ。その弟がこんなに眼が鋭いのもあれだが。

「あれ、燗姉に宵姉、そろそろ仕事なんじゃないのか」

 朝食を食べ終え、テレビのニュースで時刻を確認した大和がそう呟く、

「うちの道場、今長期休業だから」

「初耳だなおい」

「ボクの店は、従業員is only meだから」

「なおのこと働け」

 大和の冷たい氷の様な対応に社会人と大学生はうぐ、と声をもらした。

「うう、私はただ可愛い弟と寝技の特訓がしたいだけなのに、ベッドの上で」

「捕まるわ」

「ボクはだいくんの頭を一日中撫でていたいだけなのに、膝の上に座らせて」

「あんたはパン生地でも撫でとけ」

『はい………………』

 軽く一蹴された2人を見て、これはもしやと、頼れる高校3年生の明日乃が身を乗り出した。

「じゃあじゃあ!? 今日はお姉ちゃんと2人きりでお医者さんごk」

「ああそうそう、僕今日部活動で一日いないからな」

「…………………Really?」

「ん、それじゃあいってきますっとお」

 ぎしぎしと実に不快な音を立てる身体に鞭を打ってリビングを出た。

 ………………今のは少し酷かっただろうか、後で謝っ

「そんなぁ、それなら私にはもうだいくんの洗濯物をスーハーするくらいしかやることが無いじゃないか………」

 前言撤回。しばくぞ貴様。

 そうして大和はきりきりと痛む胃を抑えつつ登校するのだった。

 …………………胃痛薬買って来なきゃな。


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