仮面ライダー 鎧武&オーズfeat.ライダーズ ~暁の鎧~   作:裕ーKI

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第十一話 番外編:武神大戦!20--

 今度の敵はこれまで以上に未知数だった。

 シグレとランマルがこっちの世界――沢芽市に来てから戦った相手といえば、ヘルヘイムの森から呼び出されたインベスや、人間が理性を維持したままその力を得て進化したインベス・レゾン体。そして、レゾン体になるために必要なヘルジュースをこの街にばら撒いている元凶――ネオ・オーバーロード。

 これらの敵に関しては、協力者である桐河羽月や呉島貴虎からの情報である程度の知識を得ている。

 しかし、今回の敵――タイムジャッカーのスウォルツやアナザーライダーという存在については、明らかに情報不足だった。

 とりあえずは未来からやって来た2人の青年、常磐ソウゴと明光院ゲイツから情報を提供してもらいはしたが、しかしそれでも、残念ながら完全に理解する事はできなかった。

 時間を乱す者。奪われた仮面ライダーの歴史。奪った歴史から生まれた歪な仮面ライダー。その怪物ライダーを倒すには、同じ歴史の力が必要だということ。

 何度聴き直しても、やはり十分に理解することはできない。何が何だかさっぱりだった。

 

 

 首を傾げて困惑するシグレとランマル。

 するとそんな2人に「でも大丈夫!」と明るく言って笑ったのは、未来から来た青年の1人、常磐ソウゴだった。

「いろいろ説明して混乱させたうえで悪いんだけど」と、前置きをした上で彼は言った。

 どうやら今のソウゴとゲイツは、先刻散々語った難解なルールを問答無用で無視できる力を既に所持しているらしい。

 そう説明しながら、ソウゴとゲイツはいくつかの特殊な形状のライドウォッチを見せてくれた。

 鎧武・華に類似したアナザーライダーの攻略については、2人の未来のライダーに任せておけば、とりあえずはなんとかなりそうだと、シグレとランマルは納得した。

 ならば最も厄介となるのは、時間を停止させることができるスウォルツの対処だ。

 そして、それとは別にもう1つ、個人的に気掛かりなことがランマルにはあった。それは、あのアナザーライダーが使う力と正体についてだ。

 正体と言っても、奴にとっては二重の意味がある。

 1つはあのアナザーライダーの変身者が、数日前にカメレオンインベス・レゾンとして襲い掛かってきた濡流屋という名の男だということだ。しかしこの件に関しては大した問題ではない。あの男自身の小物染みた実力は既に把握している。寧ろハードルが下がって好都合だと思った。

 問題なのはもう片方の意味についてだ。

 奴のあの赤い鎧武者の姿と、異なる種族の怪人たちを召喚し、使役する能力。あの邪悪な姿とその能力を垣間見て、どうしても思い出してしまうのは、故郷である世界を荒らし尽くし、数多くの仲間の命を奪い去った、今は亡き邪な武神ライダー――武神鎧武の姿だった。

 これはランマルの憶測だが、濡流屋のアナザーライダーとしての力が、武神鎧武と同等のものである可能性がある。そして、ゲイツが言っていたあの言葉を思い出し、ランマルは一抹の不安を覚えた。

 

「タイムジャッカーには、アナザーライダーという怪人を生み出す力がある。アナザーウォッチを使って、そいつ(シグレ)の力を奪ったとしたら――」

 

 あの時、スウォルツが奪ったのは鎧武・華――シグレの力だった。

 赤い鎧武者のアナザーライダーの誕生に、シグレの力を吸収したウォッチが使用されたとしたら、アナザーライダーの姿が鎧武・華に似ているのは当然だと思っていた。しかし、あれがもし鎧武・華……ではなく、武神鎧武のアナザーライダーだとしたら。その力の元の持ち主が、シグレだとしたら。

 連想したくもない嫌な考えがランマルの脳裏を過る。

 断ち切るようにランマルは頭を振り払った。

 余計な事を考えるのは今は止そう。今大事なのは、未知の敵に対抗するための手段を得ることだ。ジオウやゲイツという心強い味方がいるからといって、彼らだけに任せっきりという訳にはいかない。アナザーライダーの狙いは、あくまで私。そして今、この街――沢芽市を守っているのは、私とシグレなのだから。

 

 

 敵は何時何処で何を仕出かすかわからない。敵側の方から動いてくれるのを呑気に待っている訳にはいかない。市内の偵察と敵の捜索は一旦ソウゴとゲイツ、そしてシグレに任せ、ランマルは自分たちなりの対抗手段を相談するために、研究所に帰還し桐河羽月のオフィスを訪れた。

 

「なるほどね。未来からの訪問者、それが監視システムに映った巨影の正体だったのね」

「ああ」

「それで? そんなイレギュラーの相手をするために、新しい力がほしいと?」

「力じゃなくても良い。何か、戦を有利に進める手段、情報があれば、教えてほしい」 

 

 座り心地の良さそうな黒い椅子に背中を預けながら、真っ直ぐと見据える羽月の視線を受け止めるように、ランマルは彼女の大きな机の前に立っていた。

 羽月が事務作業に使っている机の上には、山のように積み重ねられたファイルや書類、絶賛稼働中のデスクトップパソコン、薬液に漬けたヘルヘイムの果実が入ったビーカー、そして、いくつかのロックシードが置かれている。その机上の有様は、かつての上司だった戦極凌馬の研究室の机と瓜二つの光景だった。

 ただ1つ違うことは、羽月の机の上にはそれらに加えて、タバコの吸殻が山盛りに乗った灰皿が置かれていることだろう。おかげで何時来てもこの部屋はタバコの臭いが充満している。しかも今日は、いつもよりも臭いがきつい。恐らく、ランマルが来る直前ギリギリまで煙を吹かせていたのだろう。良く見ると、灰皿の灰の山に刺さった吸殻の1つから、まだ微かに煙が出ている。

 

「戦いを有利に、ねぇ……」

 

 ランマルの要望を聴いた羽月は、僅かに視線を下に向けながら、沈黙して考えた。想定外の敵。唐突な申し出。ランマルの言葉に対する返答。思考の末に導き出した答えは――。

 

「私から今すぐ提供できることと言ったら、これぐらいかしらね」

 

 羽月はそう言いながら、机に置かれていた幾つかのロックシードの中から、3つを選んでランマルの前に並べた。それは2種のロックビークルとクラスAのロックシード。

 

「あと、これも」

 

 さらに引き出しの中から、新たに2つの新種のロックシードを取り出し、机上に置いた。

 ランマルの眼前には、合計5つのロックシードが横一列に並べられた。

 

 L.V-03 ダンデライナー。

 L.V-04 チューリップホッパー。

 L.S-10 スイカロックシード。

 L.S-103 ココナッツロックシード。

 L.S-105 スターフルーツロックシード。

 

「これは?」

「あなたの言う今回の敵、タイムジャッカーにアナザーライダーだっけ? ……残念だけど、今回に限っては、私は完全に役立たずよ」

「……以外だな。まさかお前の口からそんな言葉が出るなんて」

「私が今までしてきたことは、あくまでネオ・オーバーロードが関与することに対してだけ。時間を超越して現れた未知の脅威なんてものには、現時点では全くと言って良いほどノープランなのよ」

「ノープラン? 打つ手なしってこと?」

「そういうことね。プランを立てようにも、そもそもの情報が不確定要素の塊だもの。少なくとも私たちにとっては」

 

 羽月の言い方が、何時になくやる気のないものに聴こえる。その言い方からして、今回の案件に関しては、彼女がそれほど乗り気ではないことがなんとなく理解できた。

 

「科学者を気取るいつものお前なら、こういうことには喜んで飛びつくと思ったんだが? どうやらお気に召さなかったようだな」

「気取るもなにも、私が科学者なのは事実。あなたやシグレ君が使っている装備も、私が造ったんだから」

「そんなことを言ってるんじゃない。頭を使うのが得意なお前が、その不確定要素とやらを前にして、何の行動も起こそうとしないこと。その不自然さがおかしいと言っているんだ、私は」

「あら。少しは私のこと、分かってきたんじゃない。あなたの言うとおり、今回の件は、私たちの目的にとってはあまり都合の良いものじゃない」

 

 羽月の言葉を聞いて、今度はランマルが沈黙した。

 ――羽月の目的か。私の認識が確かなら、それは今の自分とシグレがこの世界でやるべきことと同義のはずだ。沢芽市に広がりつつあるヘルジュースの謎を暴き、人間が理性を維持したまま変貌したインベスが引き起こす事件を食い止めること。そして、ヘルジュースをばら撒いているネオ・オーバーロードの殲滅。それらが羽月の目的であり、私たちの目的だ。そして、その目的の達成が、故郷である武神の世界を守ることにも繋がるはず。以前、武神の世界の洞窟で、ヘルヘイムを名乗る男はそう言っていた。だからこそここまでやってきたんだ。

 

「私たちのやるべきことは、ネオ・オーバーロードから沢芽市を守護すること。それが、タイムジャッカーやアナザーライダーの出現で困難になると、お前はそう言いたいのか?」

「そうね。確かにそう。あなたの答えが正解。でも、それだけでもないでしょ、私と、あなたが目指していることは」

 

 羽月に言われてランマルの脳裏に浮かんだのは、地下に眠る男爵の姿――今は動かない、恩人の姿をした機械人形の冷たい姿だった。

 

「戒斗……」

「そう……。私とあなたには、“魔王”の復活という目的があるでしょ。未知の敵を相手にして、もしあなたとシグレ君に何かあれば、ネオ・オーバーロードの殲滅も含めて、何もかも上手くいかなくなる。私にとってはそっちの方が問題なのよ」

「……ならどうする? タイムジャッカーとアナザーライダーのことは放って置くのか?」

「できればそうしたいところだけど、残念ながらそうもいかないのも事実。何しろ、敵のターゲットはあなたみたいだし。だから今回の戦いでは、あなたは徹頭徹尾、援護に徹してほしいの。シグレ君は力を奪われて戦力外だけど、幸い、未来のライダーの2人なら対抗できるみたいだから。ここに用意したロックシードも、その補助のためのもの。クラスAのロックシードは、ゲネシスとは連動できないけど、ソニックアローには使えるから」

「今後のために、無茶はするなと。そういうことか……」

「ええ。そういうことよ」

 

 どうやら羽月にとっては、“魔王”の目覚めは脅威の対処よりも優先するべきことのようだ。

 

 己の欲の優先。武神の世界では、民の命、領土の死守を第一に考えて生きてきた。自身よりも他者の都合を優先してきたランマルにとっては、なかなか理解し難い思考ではあったが、既に自分も、彼女の船に片足を突っ込んでいる。乗りかかった船。今さら降りることはできない。

 やれやれと溜息をつきながら、ランマルは机に並んだロックシードに手を伸ばした。

 初めて見るタイプの錠前を、物珍しそうに眺めていると、羽月のパソコンから映像の受信を知らせる通知音が聞こえてきた。

 羽月が点滅するアイコンをクリックし、ウィンドウを開くと、そこに映ったのはマスターインテリジェントシステムが捉えた沢芽市内の映像だった。

 羽月は視線を向けながらランマルに告げる。

 

「どうやら、敵が動き出したようね」

 

 

 

 指令を受けて部屋を飛び出していくランマルの後姿を見届け、1人残った羽月は、ポケットから取り出したスマートフォンを見つめながら思考を張り巡らせていた。

 何度も唱えているように、今回の相手は想定外の未知の敵。その戦力も能力も、正確な正体すらも自分たちは把握できてはいない。少なくとも自分たちは。

 そんな奴らが跋扈する戦場にランマルとシグレを送り込むことには、やはり抵抗を拭い去ることはできないでいた。科学者にとって、物事を理解できないこと、分析できないこと、見抜くことができないことは、何より不安なことだ。そんなものを相手に戦闘し、万が一2人を失うようなことがあれば、今後の計画に支障が出るのは間違いない。それだけは避けなければならない。

 ――私の計画には、あの2人が必要だ。

 羽月は意を決するように、スマートフォンに指を滑らせた。ランマルとシグレの生存率を上げるためにも、味方は多いほうが良い。

 

 

 ☆

 

 

 街のとある大通りに黒煙が立ち昇っている。

 通り過ぎようとしていた幾つもの自動車は道筋を失い、ドミノ倒しのようにぶつかり合う。そして、乱雑に停止して、道幅を見る見る狭めていく。

 電柱やガードレールに突っ込んだ車もあれば、対向車線をはみ出た別の車と正面衝突してグシャリと潰れた車もある。それらから噴き出る煙や炎が、ぶつかった衝撃の凄まじさを物語っていた。

 スクラップと化した自動車の持ち主だった運転手たち。たまたま現場に居合わせた周辺の通行人たち。負傷し、戸惑う者たち。悲鳴を上げながら恐怖し、怯える者たち。騒ぎに巻き込まれた一般人たちは、一刻も早くこの場を離れようと、各々が散り散りに逃げていく。

 片道2車線、合計4車線の道路。今この場所は、超人と怪人が激しいデスマッチを繰り広げるリングと化していた。

 バトルはタッグ戦。相手は異世界から呼び出された2体の怪人――火焔大将とクラウンイマジン。その2体を迎え撃つのは、未来からやって来た2人の仮面ライダーたち――ジオウとゲイツだ。

 

 

 敵は何時何処で何を仕出かすかわからない。ランマルの言うとおりだった。

 ランマルを付け狙う敵は、彼女を誘き出すために街中に怪人を解き放って騒動を起こした。召喚された2体の怪人たちは、無差別に人々を襲い、破壊活動を始めた。車が燃え、黒煙が昇る。ビルの壁が崩れ、ガラスが割れる。傷付けられた人々は血を流し、涙を流す。

 街の悲鳴、人の悲鳴を聞きつけ、駆けつけた3人の男たちは、現場の悲惨な状況に戦慄した。常磐ソウゴと明光院ゲイツ、そしてシグレの3人だ。

 彼らはすぐに倒すべき敵を見定め、闘志を燃やした。ソウゴとゲイツは変身ベルトを身につけ、走りながら姿を変えた。変身できないシグレに代わって敵を討つために。

 

 

『ジカンギレード・ケン!』

 

 火焔大将の剣捌きを、ソウゴが変身したジオウのジカンギレード・ケンモードが迎え撃つ。

 上下左右から次々と繰り出される斬撃を、時に受け止め、時に受け流す。そうしながら反撃のチャンスが訪れるのを待ち続ける。そして、何度目かの刀身の衝突の直後に、その時はやって来た。振り上げたジカンギレードに刀を弾かれ、火焔大将の姿勢が大きく崩れた。がら空きになった腹部にキックを打ち込むと、火焔大将は背後によろめいた。

 

『ジカンギレード・ジュウ!』

 

 ジオウはすかさずジカンギレードをジュウモードに切り替え、銃弾を連射。降り注ぐ弾幕に貫かれ、火焔大将はアスファルトの上に倒れ伏した。

 

「次はこれで!」

 

 このまま一気に押し切るべく、流れるような動きでジオウは新たなライドウォッチを取り出し、起動させる。

 

『ディ・ディ・ディ・ディケイド!』

『アーマータイム! カメンライド!(ワオ!)ディケイド! ディケイド! ディーケーイードォ!』

 

 10番目の平成ライダー――仮面ライダーディケイドの力が宿った特殊な形状のライドウォッチをジクウドライバーに装填し、バックルを回転。出現したアーマーを身に纏い、ジオウはディケイドアーマーへと姿を変えた。

 

『ライドヘイセイバー!』

 

 右手に出現した専用剣を握り締め、駆けるジオウ。

 刀を杖にして起き上がった火焔大将は、接近してくるジオウを迎え撃つべく得物を持ち上げ、刃を構える。

 まだまだ戦意を失っていない鎧を纏った魔物の姿。ジオウはそんな相手を全身全霊で打ち破る気構えで突撃を仕掛ける。

 ディケイドの力は他の平成ライダーの力を使う力。そのディケイドの歴史が籠められたライドウォッチから生成された剣――ライドヘイセイバーには、19人の平成ライダーの力が宿っている。剣に付いた時計の針を回せば、剣の中のライダーの力は解き放たれる。ジオウは走る足を止めることなく、時計の針を何周か回した。そして、選ばれたその力は――、

 

『ヘイ! ブレイド!』

 

 選ばれたのは、5人目の平成ライダー――仮面ライダーブレイドの力。ブレイドの主な属性は雷。青い稲妻を纏った刀身が、火焔大将目掛けて振り下ろされる。

 

『ブレイド! デュアルタイムブレーク!』

「うりゃぁあああああ!」

 

 その様はまるで、ブレイドの必殺技の1つ、ライトニングスラッシュのようだった。

 頭上から下に、縦に振り下ろされた渾身の一太刀が、防御の構えを見せた火焔大将の刀を真っ二つに叩き折った。

 斬撃の余波を浴びた火焔大将は、感電しながら地面の上をゴロゴロと転がる。

 ジオウvs火焔大将。戦いの決着の行方はほぼ見えていた。しかし、ジオウはさらなる決めの一手で勝利を確実なものにしようとしていた。

 

「妖怪を祓うには、鬼の力だ!」

『響鬼!』

 

 ジオウが次に選んだのは、大地を清める音の力で戦う鬼の仮面ライダー――仮面ライダー響鬼のライドウォッチだ。

 ライドウォッチの力をアップデートすることができるディケイドライドウォッチに接続し、ディケイドアーマーは更なる変身を遂げた。

 

『ファイナルフォームタイム! ヒ・ヒ・ヒ・ヒビキ!』

 

 全身を包み込んだ赤い炎を振り払うと、仮面がカードのようにシャッフルされて鬼の顔へと切り替わる。アーマーの下から露になった真紅の両手に握られているのは、鬼石が埋め込まれた2本の太鼓の撥。仮面ライダージオウ・ディケイドアーマー響鬼フォームの誕生だ。

 仮面ライダー響鬼の強化形態――響鬼紅の力を身に纏ったジオウは、両手の音撃棒・烈火を、人差し指を軸にクルリと一回転させてから、再度突撃を仕掛けた。

 敵は得物を失い、既に丸腰。成す術を失った火焔大将はオロオロと戸惑うばかりだ。ジオウは烈火の柄頭でディケイドライドウォッチのスイッチを叩いた。

 

『ヒ・ヒ・ヒ・ヒビキ! ファイナルアタックタイムブレーク!』

「必殺! 灼烈真紅の型ぁ!」

 

 正しくは音撃打・灼熱真紅の型。完璧さに欠けるジオウらしく、一文字間違えながらも、技の再現は何とか合格ラインを踏んでいた。すれ違いざまに、火焔大将の胸に2本の撥を叩き込んだ。刹那に音撃鼓・火炎鼓を模した炎が浮かび上がり、火焔大将の肉体は火柱に包まれ、木屑となって爆散した。

 ジオウはもう一度、両手の烈火をクルリと回してから、ホッと一息安堵した。傍らで戦っている相方の勝負も、そろそろ決着が着きそうだ。

 

 

 

 道化師のような姿をしたイマジン――クラウンイマジンの相手するゲイツは、そのトリッキーな動きに対抗するために、同じくトリッキーな動きを可能にさせるゲームのライダー――仮面ライダーゲンムを模したアーマーを身に纏って戦闘を繰り広げていた。

 仮面ライダーゲイツ・ゲンムアーマー。自称神の力を持つ黒きライダーの姿を借りて、道化師怪人の攻撃を迎え撃つ。

 クラウンイマジンは、カラフルな袖口から飛び出した小柄な鎌を、狂気に満ちた動きで振り回す。

 

「ウヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 その狂ったような不気味な笑い声とデタラメな攻撃は、ゲイツの心を掻き乱し、ペースを崩すには十分過ぎる程。それほどまでに、癇に障る相手だった。

 

「厄介な奴だ……! 俺は貴様のように訳のわからない奴が一番嫌いなんだ!」

 

 敵の鎌の攻撃は、何とか捌き続けられたが、苛立ちは既に我慢のピークを過ぎていた。ゲイツは一旦距離を取ろうと、背後に大きくジャンプした。すると、着地予定地点の場所に、唐突に巨大な紫の土管が出現した。ピコピコというゲーム音と光の点滅を繰り返す土管の口の中に吸い込まれたゲイツは、次の瞬間、空中に出現した別の土管から姿を現した。現れたと同時に、ゲイツはその手に生成した車輪型のエネルギー弾を投擲し、クラウンイマジンにHITさせた。

 倒れこむクラウンイマジンを尻目に、アスファルトの上に降りてようやく呼吸を整えたゲイツは、今度は戦況を自分のペースに持ち込むべく、別形態に姿を変えた。

 

『ドライブ!』

『アーマータイム! ドライブ! ドラァーイブ!』

 

 車の力で事件を解決する熱血刑事のライダー――仮面ライダードライブを模したアーマーを身に纏い、今度は仮面ライダーゲイツ・ドライブアーマーへとチェンジ。その特性はスーパーカーの如く、スピードに特化した戦闘スタイル。アクセルを踏み込み、急発進した車のように、あっという間に敵の懐に飛び込んだゲイツは、その勢いを乗せたまま敵のボディに強力なパンチを叩き込んだ。

 体勢を立て直す間もなく、背後に吹き飛ぶクラウンイマジン。

 立て続けに、ゲイツは両腕に装備された巨大なシフトカー――シフトスピードスピードを射出。それと同時に、両肩から本家のドライブが使用するものと同等の、様々な形状のタイヤを連続発射。次から次へと襲い来る四方八方からの攻撃に、クラウンイマジンは確実に追い詰められていた。

 

「これ以上鬱陶しいのはお断りなんでな! これでケリをつけさせてもらうぞ!」

『電王!』

 

 そう言ってゲイツが取り出したのは、電王ライドウォッチ。イマジン相手には最も効果的な、仮面ライダー電王の歴史が籠められたライドウォッチだ。

 割れた桃の仮面が特徴的な電王・ソードフォームの顔が刻まれたライドウォッチを、斧型の専用武器ジカンザックスのスロットに装填。

 

『フィニッシュターイム! デンオウ! ザックリカッティング!』

 

 続けて、ジクウドライバーにセットされたライドウォッチのスイッチを押し込む。

 

『フィニッシュターイム! ドライブ!』

「いくぞ! これが俺の――」

『――ヒッサツタイムバースト!』

 

 電王とドライブ。電車と車。時間を守るクライマックスな戦士と市民を守る刑事の戦士。2つのライダーの力を重ね合わせ、ゲイツは走り出す。

 時の電車デンライナー・ゴウカを模したオーラエネルギーを纏いながら、レールの上を滑る新幹線のように突撃。さらにスピンする車のように全身を高速回転させ、すれ違いざまにクラウンイマジンの胴体を一閃し切り裂いた。

 

「ヴヒャァアアアアア……」

 

 そのスピードを前に、回避行動を取る暇もなく、あっけなく直撃を許したクラウンイマジンは、甲高い悲鳴を上げながらゲイツの背後で爆発した。

 立ち昇る爆炎を振り返ることもなく、ゲイツは静かに斧を下ろした。

 

 

 

 2人の未来のライダーの手により、2体の怪人は片付けられた。しかし、試合終了のゴングが鳴る気配は訪れそうにはなかった。

 勝利に一安心するジオウとゲイツを余所に、シグレの視線は頭上に向き、とある一点を射抜くように凝視していた。

 

「待ってください、皆さん! 敵はまだ……そこにいます!」

 

 険しい表情で呼びかけるシグレの声に促され、ジオウとゲイツもまた、シグレが見つめるビルの屋上に視線を向けた。

 カタカナとひらがなの文字の形をした複眼に映りこんだ、シグレの言う敵――それは街を破壊し、人々を襲った先程の2体の怪人をこの世界に呼び出した元凶。ソウゴとゲイツ、そしてシグレが探し回っていた標的そのものだった。

 シグレから奪った力を得て、ランマルを付け狙うアナザーライダー――アナザー武神鎧武。

 

「わァお! 凄い凄い! 2人とも強いなァ~! ……それに引き換え、ぼくに力を取られた君は、なァんにも役に立たない、ただの野次馬Aだよねェ~!」

 

 文字通り、高みの見物を決め込んでいた赤い鎧武者の怪人は、配下であるはずの火焔大将とクラウンイマジンが倒されたことにも、ましてや自分の姿を発見されたことにすら、微塵も動揺することはなかった。それどころか、今の戦いをただ見守ることしかできなかったシグレのことを、明らかに馬鹿にした様子で見下ろしている。誰が見ても癇に障る態度だった。

 

「なんだアイツ! 随分と頭にくる奴だな!」

「ああいうあからさまなの、王様になっても我慢できないかも!」

 

 言われたシグレよりも先に苛立ちを感じたゲイツとジオウは、既に武器を構えて迎え撃つ準備を終えていた。寧ろ、相手が来なければ、自分たちから仕掛ける勢いだ。

 ところが、肝心のシグレは冷静だった。

 

「別に良いさ! 何を言われたって僕は気にしない! でもそんなことより、どうして何の関係もない人たちを襲わせたりしたんだ!」

 

 冷静ではあったが、その声には静かな怒りが確かに込められていた。

 

「どうしてって、そりゃあぼくの推しをここに誘き出すために決まってるでしょォ~! わかる? 君たちじゃなくってェ“あの子”ね! そもそもぼく、野郎には一切興味無いし!」

「あの子って……ラン姉のことか」

「そうだよォ~! 彼女に来てもらうつもりでこれだけ暴れさせたのにィ、よりによってお呼びじゃない君たちが来るんだもんなァ~! ホント、空気呼んでほしいよねッ!」

「貴様、さっきから何を言っている! 言葉の意味がさっぱりわからん!」

 

 アナザー武神鎧武のふざけた態度に、痺れを切らしたゲイツが屋上に向かって大きく叫んだ。話を聴けば聴くほど苛立ちは募る一方だ。

 

「つまりさ! 君たち全員邪魔なんだってことォ! 未来のライダーだか異世界の戦士だか知らないけど、3人まとめて死んじゃいなよォ!」

 

 そう言い放ったアナザー武神鎧武は、手にした木の枯れ枝を弓状に変化させ、邪悪なオーラを纏った1本の矢を発射した。空中で3本に分裂したドス黒い矢は、ジオウとゲイツ、そしてシグレ目掛けて真っ直ぐと飛んでいく。

 

「くるぞ! 避けろ!」

 

 戦場慣れしているゲイツの咄嗟の叫びを合図に、3人は一斉に回避行動に移った。

 アスファルトの上を横転し、直撃を逃れる。変身しているジオウとゲイツは勿論、生身の姿であるシグレもまた戦場慣れしている者の1人。この程度のことなら朝飯前だ。

 するとアナザー武神鎧武は大剣を振り上げ、屋上を飛び降りた。落下のスピードを乗せた一太刀が3人に迫る。

 敵の刀身が地面を叩き割るよりも先に、3人は距離を取り、衝撃が届かない安全地帯へと逃れた。

 

「いくよ、ゲイツ!」

『ジオウ! Ⅱ!』

 

 体勢を立て直したジオウは、黒と銀の特殊な形状のライドウォッチを2つに分離させ、ジクウドライバーに装填した。

 

『ライダータイム! カメンライダァー! ライダァー! ジオウ・ジオウ・ジオウ! Ⅱ!』

 

 バックルを回転させ、ジオウは更なる進化形態――仮面ライダージオウⅡへと姿を変えた。

 ジオウⅡはソウゴ自身が持つ相反する2つの想い――善と悪、光と闇、その両方を共に抱え、受け入れたことで発現した力。と、同時に、未来の姿であるオーマジオウの片鱗を示す魔王の力でもある。時計の針を模した専用剣サイキョーギレードを手に、ジオウⅡは大地を駆ける。

 

「抜け駆けは許さんぞ! ジオウ!」

『ゲイツリバイブ! 剛烈!』

 

 ゲイツもまた、ジオウに遅れを取ってなるものかと砂時計型のライドウォッチを取り出し、起動させた。

 それは3人の未来の仮面ライダーの力が1つに合わさり誕生したゲイツリバイブライドウォッチ。魔王に打ち勝ち、魔王の存在する未来を断ち切る可能性を秘めた救世主の力。

 

『ライダータイム! リ・バ・イ・ブ剛烈ゥ! 剛烈ッ!』

 

 ゲイツリバイブライドウォッチを装填したジクウドライバーを回転させ、ゲイツは攻撃力と防御力に特化した形態――ゲイツリバイブ剛烈へと姿を変えた。

 ジオウⅡとゲイツリバイブ剛烈は、アナザー武神鎧武を前後から同時攻撃。挟み撃ちを仕掛ける。リズムを合わせるように、交互に繰り出される2人の攻撃。サイキョーギレード、そして、ゲイツリバイブ剛烈の丸鋸型の武器――ジカンジャックロー・のこモードによる斬撃だ。

 アナザー武神鎧武は対抗しようと大剣を振るうが、少し先の時間を予測できる未来予知の能力を持つジオウⅡにはあっさりと回避され、圧倒的防御力を備えたゲイツリバイブ剛烈には、その強靭な胸部アーマーに軽く撥ね返されてしまう。その上、一撃一撃がどうしても大振りになってしまう大剣では隙ができやすく、そこを的確に狙った反撃を受ける一方だった。

 

「ちょ、ちょっと待ち……! ボカボカボカボカ一方的に……。しかも2対1とか……ちょっと卑怯じゃない!?」

 

 ジオウⅡとゲイツリバイブ剛烈の連携攻撃に、とうとう耐え切れなくなったのか、アナザー武神鎧武が掌を前に出してタイムを求めた。しかし、そんな要望がまかり通るはずもなく、

 

「卑怯だと? 笑わせるな! お前にそんなことを言う資格があるのか?」

「悪いけど、先に手を出したのはそっちなんだ! だからこっちも全力でいかせてもらうよ!」

 

 ジオウⅡもゲイツリバイブ剛烈も、攻撃の手を緩めるつもりは一切なかった。それどころか、2人が同時に放った渾身の斬撃が、アナザー武神鎧武を宙に向かって吹き飛ばした。

 突き上げられるように舞い上がり、そしてすぐに落下してアスファルトの上に叩きつけられたアナザー武神鎧武は、ゼエゼエと息を切らしながらも何とか立ち上がる。

 

「う……うぅ……。あんたら、容赦ないねェ~……。ぼく、こういう暴力行為は素人なんだけどなァ~……」

「フン! 今さらお前の都合など知るか! これは遊びじゃないんだ! お前も一度剣を握った以上、最後まで誇りを持って戦ってみたらどうなんだ!」

「俺たちは何時だって真剣だよ! だから手加減はしないし、ここであんたを倒して、その力を取り返す!」

 

 ジリジリと詰め寄りながら、ジオウⅡとゲイツリバイブ剛烈は、この戦いにケリをつけるための最後の一撃を放とうとしていた。しかし、それを眼前にしながらも、アナザー武神鎧武はほくそ笑んだ。追い詰められているというのに、戦いに負けたつもりなどないと言わんばかりに。

 

「あ~そう……。せっかく引き下がるチャンスをあげたのにィ~。ならこの後どうなっても、君たちに後悔する権利はないということだよねェ!」

「なに? 何を言っている?」

「見せてあげるよォ! ぼくの力の真骨頂を!」

 

 アナザー武神鎧武は再び大剣を振り上げた。そして、全身の力を込めて振り下ろした次の瞬間、刀身に空間を切り裂かれたかのように、強大なクラックが口を開いた。それはランマルとシグレが元いた世界――武神の世界に繋がるクラックだ。裂け目の奥には、既に無数の虫型の怪人達が待機していた。アナザー武神鎧武の意思を読み取ってか、無数の虫型の怪人達は一斉に進行を開始し、次々とこの沢芽市に足を踏み入れていく。

 

「ちょっとぉー! なんかいっぱい出てきたんだけどぉー!」

「なんだ……こいつらは……」

「……これは多分、僕達の世界にいた奴らです! 僕達の敵。武神鎧武軍に属していた怪人達……」

 

 戦いを見守っていたシグレの言葉通り、クラックから現れた大量の怪人達の全ては、かつては武神鎧武の配下だったものだ。ついさっき、ジオウとゲイツが倒した火焔大将とクラウンイマジンも含めて。

 今回、アナザー武神鎧武が呼び出したのは3種類。そのどれもが虫を模した怪人ばかりだった。

 

 アリのような黒い姿をした超越生命体――アントロード フォルミカ・ペデス。

 白いゴキブリに似たジョーカーの下僕――アルビローチ。

 蚊の特性を持つワーム――キュレックスワーム。

 

 アントロードとアルビローチはそれぞれ20体ずつ、合計40体の集団。それらを率いるように、1体のキュレックスワームが先頭を陣取っている。

 

「どうだい? これだけの数が相手だ! 君たちに勝ち目なんてないよねェ! さあお前たち、こいつら全員皆殺しだよォ!」

 

 アナザー武神鎧武の命令を合図に、40体+1の虫型の怪人達は一斉に攻撃を開始した。黒と白、2種類の怪人達が入り乱れながらジオウⅡとゲイツリバイブ剛烈、そして生身の姿であるシグレに襲い掛かっていく。

 

「偉そうなことを言っていたわりには、結局数に頼るだけか! 浅はかだな!」

 

 ゲイツリバイブ剛烈は、頑丈な胸部アーマーで四方八方から来る攻撃を受け止めながらも、ジカンジャックロー・のこモードを振るって確実に敵を蹴散らしていく。

 

「でもこの状況……、俺たちはともかく、変身できないシグレがヤバイかも!」

 

 ジオウⅡは戦法を二刀流に変えて、隙間無く敵意を向けてくるアントロードとアルビローチを斬り伏せながら、無防備なシグレの元へと駆けつけようとしていた。

 圧倒的な数だ。武器も無く、変身もできないシグレがこの状況の中ではもっとも危険なのは明白だった。

 ゲイツリバイブ剛烈もそれはわかっていて、なんとか道を切り開こうと躍起になっていた。しかし、突然一際大きな衝撃がゲイツリバイブ剛烈の背中を叩いた。ほとんどダメージは無かったが、アントロードやアルビローチが繰り出す攻撃よりも威力が強く、その身体がグラリと傾いた。

 

「くっ! なんだ急に……」

 

 姿は見えないが、何者かがアントロードやアルビローチの間を搔い潜りながら、つつくような攻撃を繰り返してくる。

 黒と白の攻撃を相手にしながら、同時に見えない攻撃の対処にも追われるゲイツリバイブ剛烈の異変に気づいたジオウⅡは、咄嗟に自らの特殊能力を発動した。

 魔王の姿に片足を突っ込んだジオウⅡの特殊能力、それは先の時間を見通す未来予知の力。数秒後、数分後の出来事を観測し、結果を書き換えることができる。

 その力で“ライダー”の文字の複眼が捉えたのは、現実とは異なる時間流の中に身を置き、背後から巨大な針を突き刺そうとしている蚊型の怪人の姿だった。

 

「ワームか! ゲイツ! 後ろだ!」

 

 ジオウⅡの叫びに、ゲイツリバイブ剛烈は反射的に応えた。振り向きざまに、キュレックスワームの一撃を掌で受け止めたのだ。

 

「なるほど、クロックアップか! ジオウ! コイツは俺に任せろ! お前は(シグレ)の元へ向かえ!」

 

 超加速の攻撃――クロックアップを駆使するワームとの戦い方なら、アナザーカブトの事件で既に心得ている。ゲイツリバイブ剛烈は、ジクウドライバーにセットされた砂時計をクルリと反転させ、その形態をパワー重視の姿からスピード重視の姿へと変化させた。

 

『スピードタイム! リバイリバイリバイ! リバイリバイリバイ! リバイブ疾風ゥ! 疾風ッ!』

 

 オレンジ色の胸部アーマーが両翼のように左右に展開。青色を基調とした姿――ゲイツリバイブ疾風がキュレックスワームのクロックアップに挑む。

 

 

 

 

『キング! ギリギリスラァッシュ!』

「うりゃぁあああああああああ!!」

 

 ジオウⅡが握る2本の剣、ジカンギレードとサイキョーギレードを合体させた大剣――サイキョージカンギレードから放出される巨大な光の刃の一撃が、ジオウⅡの周囲にいた半数以上のアントロードとアルビローチをあっけなく消滅させた。いくら数が多くても、1体1体の実力は大した脅威ではなかった。

 障害が減り、視野が開けた。残った敵の襲撃に注意を払いながら辺りを見回し、シグレの姿を捜す。と、その時、周りの敵の数が減って、雑音も多少静かになったのか、少し離れた所からバイクのエンジン音とタイヤの擦れる音、そして何かを突き飛ばす衝突音がはっきりと聞こえてきた。

 武器も無く、変身もできないシグレだったが、それでも戦を放棄するつもりは毛頭なかった。残された手段、バイク型ロックビークルを武器として駆り、敵の撃破に貢献していたのだ。

 シグレはバイク型ロックビークル――バトルパンジーをスピンさせながら後輪で数体のアルビローチを蹴散らすと、今度は真っ直ぐと走り出し、元凶であるアナザー武神鎧武を目掛けて突進を仕掛ける。途中、コントロールパネルを操作して、機体から2発のホーミングミサイルと直線に伸びるレーザー砲を一斉発射させ、敵の足止めを試みるが。

 

「残念! いくら喧嘩が苦手なぼくでも、君1人程度の攻撃なんか、痛くも痒くもないんだよねェ~!」

 

 余裕を見せ付けるように佇むアナザー武神鎧武は、大剣の一振りでミサイルもレーザー砲もあっさりと掻き消してしまった。

 

「そォら! お返しだよォ!」

 

 続けて刀身を上から下に振り下ろし、斬撃を飛ばした。三日月状のエネルギー刃は、走行するバイクの手前で着弾し爆発。その爆風でバトルパンジーはバランスを崩し、シートの上から投げ出されたシグレはアスファルトに叩きつけられ、無人となったバトルパンジーも地面に擦れながら横たわってしまった。

 放たれた斬撃が直撃しなかったのはわざとだった。アナザー武神鎧武の余裕の表れ、もしくは脆弱だと決め付けたシグレを弄び、愉しんでいるのか。砂埃に塗れて倒れ伏したシグレの姿を眺めながら、アナザー武神鎧武は両腕を広げてゲラゲラと笑う。

 下品な笑い声が辺りに響き渡る。しかし、シグレはやはり冷静だった。癇に障るその声に憤りの表情を見せることも、怒声を返すこともしなかった。まるで聞こえていないかのように無表情を貫いていたが、闘志は心の中で確かに燃え続けていた。その証拠に、黒く光る瞳は血塗られた鎧武者をずっと見据えたままだ。

 腕を立て、膝を上げ、再び立ち上がったシグレはもう一度走り出した。バイクは失った。だから今度は自分の足で駆ける。眼前に横たわるバトルパンジーから植物の葉を模した刀――リーフブレードを引き抜き、地面を蹴る。両手で構えた緑の刀身が、渾身の力で大きく振り下ろされた。

 刹那に響いたのは、刃と刃がぶつかり合う激しい金属音。シグレの一撃は、アナザー武神鎧武の大剣にあっさりと受け止められた。

 

「ふっふぅ~ん! バカじゃなぁ~い? その刀ってライダーの武器だろォ? 変身もせずに使いこなせる訳ないじゃ~ん!」

 

 刀身の奥で、アナザー武神鎧武がほくそ笑む。

 鍔迫り合いに持ち込んだが、相手は曲がりなりにも仮面ライダーの力を持った怪人。生身の姿で押し切れる可能性は皆無に等しかった。しかし、

 

「いや、そうでもないよ……。こう見えても僕、刀を扱うのが得意だから!」

 

 そう言って、今度はシグレがほくそ笑んだ。

 腕力の差で押し返される前に、自ら後退して距離を取ったシグレは、すぐにリーフブレードを両手で構え直し、再度地面を蹴った。一気に前進し、さっきと同じように渾身の力で緑の刃を大きく振り下ろす。

 

「なんだい! 同じ攻撃じゃないかァ! ワンパターンな奴ゥ!」

 

 相変わらず余裕の姿勢を崩さないアナザー武神鎧武は、先刻と同様に簡単に防御して見せて、シグレの鼻っ柱をへし折ってやろうと、大剣を胸の前へと運んだ。ところが、

 

「うぎゃぁあああああ……!?」

 

 次の瞬間、アナザー武神鎧武の身に起きたのは、息が詰まるほどの激痛だった。

 思わず大剣を足元に落とし、悶えながら両膝を地面に付けるアナザー武神鎧武。その腹には、斬撃を受けたような巨大な切り傷ができていた。

 

「な、なんで……? お前、今何をした!?」

 

 腹の傷を両手で押さえながら、顔を上げたアナザー武神鎧武の異形の目に飛び込んできたのは、既に刀を振り終えたシグレの姿。

 紫電一閃。まさにそれは一瞬の出来事だった。渾身の力を込めて振り下ろされたリーフブレードの一撃は、アナザー武神鎧武の大剣に防がれる直前に軌道を変え、死角に入り込み腹を切り裂いた。

 その一連の動きは、宛ら剣道のフェイントのよう。面と見せかけて胴へ。ただし、その刃のスピードは尋常ではなく、油断していたとはいえ、アナザー武神鎧武に微塵も悟られることはなかった。

 本来、リーフブレードはアーマードライダーの姿で使用することが前提の武器。シグレはそれを生身で振るった上に、怪人の目を欺く速度の一太刀を実現させたのだ。

 

「……何って、なんでもないよ! ただ、僕なりの根性を見せただけ……かな。一瞬、両腕が千切れるかと思ったけど……」

「格好つけんなよ、ムカつくゥ~……。でもなんでだ……? たった一撃受けただけなのに、なんでこんなに痛いんだよォ~……?」

 

 膝を付いたままのアナザー武神鎧武は、依然立ち上がることができないでいた。それほどまでに強力な、衝撃的なダメージを受けていた。たった一太刀の攻撃で。

 そして、そのたった一太刀の攻撃は、アナザー武神鎧武自身の目の届かないところにまで食い込んでいた。

 アナザー武神鎧武の体内で活動するアナザーウォッチ。濡流屋に武神鎧武の力を与えている黒い時計型のアイテムに、一筋の亀裂が走った。

 

「そうか! あのアナザーライダーのウォッチは、シグレから生み出されたもの! だから本来の力の持ち主のシグレの攻撃が一番効果あるんだ!」

 

 アナザーライダーは同じライダーの力でしか倒せない。思わぬところで、アナザーライダー打倒のルールが適用されたことに、ジオウⅡは納得するように頷いた。が、

 

「……あれ? でも、シグレは今はライダーじゃないよね? どうして? ……ん~、まあいいか!」

 

 こうしている間にも、敵は襲ってくる。

 新たな疑問に首を傾げつつも、ジオウⅡはサイキョージカンギレードで、寄って来るアントロードとアルビローチを薙ぎ倒していく。

 

 

 

 濡流屋の体内にあるアナザーウォッチに宿っているのは、シグレのライダーの力だけではなかった。かつて、武神の世界に戦乱を巻き起こし、破壊の限りを尽くした邪な武神ライダーの意識もまた、その中に……。覚醒を始めた赤き邪心は、アナザーウォッチの亀裂から溢れ出ようとしていた。

 

「ぐっ!? ……うぅ……なんだ、これ……意識がァ……遠……ノ……ク……」

 

 腹の傷の痛みとは別に、突然、強烈な頭痛に襲われたアナザー武神鎧武が、頭を抱えて苦しみだした。

 肉体の主である濡流屋の意識が、アナザーウォッチから解放された邪心に飲み込まれ、食い尽くされていく。肉体の内側――正確には心に一方的な浸食を受け、濡流屋の精神も魂も人格も、その肉体から完全に消え失せた。

 そして、空っぽになった肉体を仮初の器と決めた邪心に支配され、アナザー武神鎧武は再び動き出した。

 

「……フ……フフフ……フハハハハ! 驚いたぞ! まさかこうして再び、現世に蘇ることができるとはな!」

 

 アナザー武神鎧武の口から発せられた笑い声、その肉声は、明らかに濡流屋とは別人だった。今までの濡流屋の陰湿な若い声ではない。周囲の者に圧倒的なプレッシャーを与えるほどの威圧感を感じさせる、野太い男の声。それこそが、真の武神鎧武の声そのものだった。

 アナザー武神鎧武改め、アナザー武神鎧武・真は、眼前のシグレに刃先を向ける。

 

「先程の貴様の一撃。それにより、我は再び目覚めた! 今度は我の番だ! 我が一太刀で、貴様を真の姿に解放してやろうぞ!」

「何を言ってるんだ、お前……!?」

「さあ構えろ! いくぞっ!」

 

 戸惑うシグレを余所に、アナザー武神鎧武・真は両手で大剣を握り締めた。腰を下げ、肉体から溢れ出る力を両足の神経に集中させる。2人の間に一瞬の沈黙が流れた次の瞬間、アナザー武神鎧武・真は地面を蹴った。

 シグレが瞬きをする間もなく、アナザー武神鎧武・真はシグレの懐に飛び込んでいた。

 

「まずいっ!?」

 

 得意の反射神経を以ってしても、相手の動きを完全に見切ることはできなかった。ギリギリだった。無理やりな姿勢を押し通して、なんとかリーフブレードで防御の構えを取ったが、無茶な動きのせいで身体中の筋肉や骨が悲鳴を上げるのを感じた。

 アナザー武神鎧武・真の大剣が一閃するタイミングと、シグレが防御するタイミングはほとんど同時、いや、僅かの差でアナザー武神鎧武・真の刃の方が速かった。

 直撃は間逃れたものの、斬撃がかすったシグレの左肩からは血飛沫が飛び散った。その上、大剣を受け止めたリーフブレードは、その衝撃に耐え切れず、真っ二つに叩き折られてしまった。全身を支えるバランスを取る暇も無かったから、敵の一撃の勢いに押されて背後に吹っ飛び、尻餅までつく始末だ。自分の身体まで真っ二つにならなかったのが、せめてもの救いだろう。

 

「シグレ、大丈夫!? ……あのアナザーライダー、雰囲気も動きも急に変わった……!?」

 

 少し離れた所でアントロードとアルビローチの撃破を続けるジオウⅡが、シグレの危機に叫んだ。同時に、アナザー武神鎧武の異変にも違和感を感じた。

 

「どうした? 我が一太刀、その身で受けきって見せろ! さすれば互いの存在は拮抗し、我らはもう一度完全なる武神の姿として1つになれるというのに!」

「完全な武神の姿って……。お前、あの濡流屋って男じゃないのか……?」

「なんだ、まだわからんのか? この肉体の元の主の魂は既に食い尽くした。今、この身に宿っているのは、我らが魂の片割れ。さあ、再び魂を完全なものとし、今度こそ天下取りを成し遂げようではないか!」

「天下取り……。そうか、ラン姉から聞いてるよ。どうしてこんなことになっているのかは知らないけど、お前、僕たちの世界にいた、武神鎧武だな!」

「そうだ! そして貴様こそが、我と同一の存在にして半身の魂ではないか!」

「僕が……お前の半身?」

 

 アナザー武神鎧武・真の言葉を耳にした途端、シグレは自分の頭の中が真っ白になっていくのを実感した。

 ――魂の片割れ? 同一? 半身? 急に変貌した口調で、こいつは突然何を言い出しているのか。そもそも本当に、こいつが自分達の故郷である武神の世界にかつて存在したという、あの武神鎧武本人なのか? 検証しようにも、生憎、かつての武神鎧武についての記憶は持ち合わせていない。僕の頭の中には、ラン姉と出会う以前の記憶が存在しないのだから。

 思考が混乱し、意識が戦いから逸れてしまった。隙だらけのシグレに向かって、アナザー武神鎧武・真は再び大剣を構えた。

 

「もう一度いくぞ! この一撃で、真の存在に覚醒するのだ!」

 

 巨大な刀身は振り下ろされ、三日月状のエネルギー刃が放たれた。

 ハッとなったシグレがそれに気づくも、敵の攻撃は猛スピードで接近してくる。尻餅をついたままの体勢では、回避するにはどうしても間に合わない。

 

「まずい! シグレ!」

 

 ジオウⅡが救助に向かおうとするが、数体のアントロードとアルビローチに道を阻まれる。高速移動能力を持たないジオウⅡの姿では、行く手を塞ぐアントロードとアルビローチの始末と同時に、シグレの救助を行なうのは至難の業だった。

 最悪、時間を巻き戻すか? もしくは、速く動けるリバイブ疾風のゲイツなら救い出せるだろうが、この状況に気づいていない様子だと、どうやら向こうはまだ決着がついていないようだ。

 成す術がなく、今まさにアナザー武神鎧武・真の一撃がシグレに直撃する瞬間だった。するとその時――。

 

 

 

『チェリー! プラムエナジー・スカァーッシュ!』

 

 上空から超スピードで駆けつけた1人の赤き鎧の女戦士が、シグレの傍に舞い降りた。

 女戦士は左手に握り締めた弓型の武器に、丸い木の実が描かれた錠前を装填し、弓のトリガーを引き絞った。

 

『ココナッツチャージ!』

 

 次の瞬間、シグレと女戦士はココナッツの実を模したドーム状の光のバリアに覆われた。

 アナザー武神鎧武・真が放ったエネルギー刃は、シグレの身に届くことなく、バリアに防がれ砕け散った。

 

「光の防御壁か……。攻撃を防ぐには最適だな。……無事か? シグレ」

「ラン姉!」

 

 肩越しに振り向いた女戦士の見慣れた背中――アーマードライダーマリカver.2。最も信頼し尊敬しているランマルの到着に、シグレは安堵するように思わず叫んだ。

 

「遅くなってすまなかったな。お前のほうは大丈夫か?」

「僕は大丈夫。ラン姉のおかげで助かったよ」

「そうか。……それで、戦況は?」

 

 シグレの無事を確認し、鎧の中でホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、マリカver.2――ランマルは、すぐさま気持ちをいつもの武将モードへと切り替えた。戦の流れを把握し、見極め、指揮を取り、勝利へと導く。武神の世界で武将の座を引き継いでからずっと行なってきたこと。戦場が武神の世界からこの沢芽市に移ってからも、それは変わらない。戦いの度に抱く、心構えだ。

 

「敵の大将は僕らの目の前! 奴が繰り出したおよそ40の戦力は、ソウゴ君とゲイツ君が殲滅中だよ!」

「なるほど、未来のライダーというのもなかなか優秀じゃないか! お前もよく持ちこたえた。私が加われば、勝率はこちらが上という訳だ!」

「待って、ラン姉! それが……」

「どうした?」

「今のアイツ、あのアナザーライダーは、もう前とは別人なんだ……」

「別人? どういうことだ?」

「なんて説明すればいいのかわかんないんだけど……、今の奴は、僕たちの世界にいた武神鎧武そのものなんだ!」

「武神鎧武……だと……!?」

 

 シグレの思わぬ発言を聴いた途端、マリカver.2――ランマルは、自分の頭の中と心の中に、様々な思考と感情が一気に押し寄せてくるのを感じた。

 武神鎧武。本来、武神の世界に存在し、その世界の日本各地を護る武将に仕える立場でありながら、その仕えるべき主を拒み、役割を放棄し、己の欲望に溺れて我が身一つで天下取りを目指した逸れ者。その身勝手な行動により、数多くの兵士や民が犠牲となった。

 ランマルが所属していた武神オーズ軍も例外ではなく、大勢の同胞と共に、頭目であるノブナガの命をも奪われた。

 当時のランマルは、ノブナガに仕える家臣だった。ランマルにとって、武神鎧武はまさに因縁の相手、主の仇。そんな奴がどういう因果か、今目の前に立っている。本来の肉体の持ち主がどうとか、シグレの力がどうとか、ましてや奴が今ここに存在する理由や羽月の忠告すらも、もうこの際どうでもよかった。数々の約束や疑念や信頼を押しのけて、この瞬間、彼女にとっての最優先事項に上り詰めたのは、“復讐”という言葉だった。

 赤い仮面に隠れてシグレには見えなかっただろう。瞳孔が開いた視線が標的を捉えると同時に、一方の手は既に、ゲネシスドライバーのレバーを力任せに押し込んでいた。

 

『チェリー! プラムエナジー・スカァーッシュ!』

 

 刹那の突風を残して、マリカver.2はシグレの前から走り去った。

 シグレが自分の傍から彼女が消え失せていることに気づいた頃には、2つの刃の衝突はとっくに始まっていた。

 マリカver.2のソニックアローとアナザー武神鎧武・真の大剣。刃と刃が激しく押し合う、鍔迫り合いだ。

 

「悪いな、羽月……! 援護に徹するのは無理そうだ……!」

 

 出撃前に忠告してくれた羽月に対する謝罪を口にしつつも、殺意は最早抑え切れそうにない。怒りのままに、憎しみのままに、マリカver.2は戦いにのめり込んでいく。

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