仮面ライダー 鎧武&オーズfeat.ライダーズ ~暁の鎧~ 作:裕ーKI
なので前作ありきの設定になりますが、時系列などは全て原作基準になっており、「鎧武本編」「戦国MOVIE大合戦」「MOVIE大戦フルスロットル」「Vシネマ仮面ライダーナックル」「小説版鎧武」の後日談だと思ってご覧になって頂けると幸いです。
これは交差する物語。
これから語られるのは二つの世界の物語であり、一つの世界観の物語である。
かつて語られた、二つの物語の延長線上に位置しているこの物語は、想像の世界の続きでもある。
一年間の物語と大戦の物語、そして終幕の先の更なる先の物語。
可能性の物語であり、狭間の物語。
欲望の種は大きな混沌の中で果実を実らせる。
物語の時計の針を動かすのは観察者であり、物語を導くのは通りすがりの者達。
鍵と金貨の物語は交互に語られ、いずれ一つのうねりを見せるだろう。
その未来は、今はまだ先のこと……。
☆
渇ききった大地の上を爆音が轟く。
砂煙を巻き上げながら、3台のマシンが目的地を目指して真っ直ぐと走り続けていた。
凹凸の激しい道無き道を物ともせずに駆るのは、どれも常識を超越したスーパーマシン。
1台は黒とマゼンタのボディカラーのビッグスクーター――マシンディケイダー。
もう1台は黒い馬の形を模したオフロード型バイク――マシンゴーストライカー。
そして最後の1台は特殊なタイヤを装備した赤いスーパーカー――トライドロン。
これらは全て、この世界を守護する戦士――武神ライダー達の愛馬であり、今こうしてマシンを操っているのも紛うことなき3人の武神ライダーである。
マシンディケイダーを操る武神ディケイドは、この面子の中では1番先輩であり、戦闘経験も豊富だ。
生真面目にシートベルトをしっかりと締めてトライドロンを運転する武神ドライブとマシンゴーストライカーに跨る武神ゴースト、この2人は最近武神ライダーの仲間入りを果たした新米戦士である。
この世界は本来の歴史とは異なる時間が流れる孤立した異世界。
“ある人物”は「可能性と可能性が交差する世界」「幻みたいなもの」と例えた。
かつてこの世界は、争いの渦中にあった。
天下統一を目指す全国の武将達が、それぞれの軍を率いて土地を広げるための陣取り合戦を繰り広げていた。
常に毎日、何処かの領土と何処かの領土、軍と軍がぶつかり合い、戦が絶える日は無かった。
世はまさには戦国時代であり、その戦の中心にいたのが、各武将に仕える守護者――武神ライダーだ。
戦の結末は武神ライダー同士の戦いに委ねられていたと言っても過言ではなく、それほどまでに武神ライダーの力は強力だった。
しかしある時、武将に仕えようとしない1人の異端者が現れた。
配下である大勢の怪人共を引き連れて戦場に混乱を巻き起こした武神ライダー――武神鎧武である。
戦乱に一石を投じた武神鎧武は、天下を我が物にするために他の武神ライダー達の力を奪い、国を守護する神木の力さえも手に入れた。
強大なパワーを得た武神鎧武を前に、多く命が失われることとなった。
国の民は絶望し、戦士達も己の無力さに唇を噛み締めた。
そんな中、空間に生まれた裂け目を通じて別世界の武神ライダーがこの異世界に迷い込んだ。
“仮面ライダー”と呼ばれる6人の別世界の武神ライダー達。
彼らの活躍により武神鎧武は滅び、同時に長い間枯渇していた国にも雨が戻り、これを機に領土を奪い合っていた武将達の戦も終焉を迎えた。
争いを止めた全国の武将達は互いに手を取り合うことを決めた。
全ての領土に平等な平和をもたらす為の同盟が結ばれたのだ。
こうしてある意味、最高の形で天下統一が成された。
平和を手に入れた全国の武将達が次に行ったことは現状維持だった。
武神鎧武亡き後も、残党である怪人達が各地でのさばっている。
全国の武将達はそいつらを殲滅するために、武神ライダー達を中心に実働部隊を組織した。
全国各地を守護していた14人の武神ライダーに、武神鎧武亡き後、新たに出現した2人の若き守護者――武神ドライブと武神ゴーストを加え、さらには全国のそれぞれの軍から引き抜かれた指折りの戦士達で脇を固めた強力な戦闘集団。
武将達の指揮の下、手早く不穏分子を排除する事を使命とする彼らの手により、武神鎧武軍の残党が引き起こす各地の騒動は瞬く間に鎮圧されていった。
そんなある日、武神鎧武が生前に根城にしていた洞窟の位置が特定された。
武将達の会議によりすぐさま制圧することが決定したが、各領土の防衛を疎かにする訳にはいかないと踏んだ武将達の判断により、選抜された少数精鋭で敵地に乗り込むことになった。
武神ライダーからは武神ディケイドを筆頭に、守護者としてはまだ日が浅い武神ドライブと武神ゴーストが選ばれ、人間の戦士からは二人の男女が選ばれた。
「まだ見えてこない。だいぶ近づいてるはずなんだけど……」
武神ドライブが運転するトライドロンの助手席で一人の女戦士が呟いた。
戦闘用にアレンジされた紫の和服に身を包んだ女性――ランマルである。
ランマルは武神オーズ軍の今は亡き武将――ノブナガに仕えていた女戦士だった。
武神鎧武との戦いの中で主を失ったランマルは、その後、持ち前の決断力と行動力を買われて武神オーズ軍の2代目武将の座に着いた。
しかし、元々戦士として育てられていた彼女にとって、武将という立場は何処か窮屈だったようで、今も尚、軍を引っ張る身でありながらも一人の戦士として誰よりも前線に赴き続けている。
「……本当にこっちの方角なんでしょうか?」
マシンディケイダーの後部シートに跨りながら、横に顔をヒョコッと出して前方を見つめるのは、小柄な体格の少年――シグレだった。
シグレは中性的な顔つきが特徴の少年で、年齢も16歳と若い。
身寄りも無く、孤独だったところをランマルに拾われ、以降は彼女を姉のように慕っている。
ランマルから戦闘技術を教えられたシグレはメキメキと腕を上げていき、瞬く間に戦いの才能を開花させていった。
戦士になってからまだ半年しか経っていないものの、今では立派な戦力要員として、武神ライダーや他の先輩戦士と肩を並べている。
今回の根城の制圧作戦の参加も、ランマルにその腕を見込まれての推薦だった。
3台のマシンはひたすら走り続けた。
荒野を抜け、海岸線へと入り、暫くは海との並走が続く。
コンクリート状の大きめの橋に差し掛かった時、事態は急変した。
突如出現した5体の怪人達が、3台のマシンの行く手に立ち塞がったのだ。
「ちっ!」
武神ディケイドは舌打ちしながらマシンディケイダーを急停止させた。
ほぼ同じタイミングでトライドロンとマシンゴーストライカーも停まる。
3台のマシンが停止したのは、ほとんど橋のど真ん中だった。
横幅もそれほど広くはないので、Uターンするにも手間が掛かるが。
「どうやら俺達を通すつもりは無いようだぜ、あいつらは……」
3人の武神ライダーと2人の戦士は、マシンからゆっくりと降りると5体の怪人と相対した。
道を塞ぐように佇む5体の怪人達は、その姿も種族も皆バラバラだった。
グロンギ――メ・ガリマ・バ。
オルフェノク――トードスツールオルフェノク。
人造アンデッド――改造実験体トライアルD。
魔化魍の親――乱れ童子。
イマジン――ホエールイマジン。
どの怪人も殺気立った視線を向けてくる。
しかし、3人の武神ライダーも2人の戦士も、その殺気に臆することなど決して無い。
来た道を引き返すつもりなど、彼らは端から考えてはいない。
障害として襲い掛かってくる敵がいるならば、ただひたすら迎え撃ち、斬り斃すのみ。
戦う準備はとっくにできている。
ランマルは腰のホルスターから2丁の拳銃を引き抜き、シグレもまた腰に備えられた刀に手を掛ける。
開戦の時は来た。
3人の武神ライダーと2人の戦士は一斉に駆け出した。
敵は5体。武神鎧武軍の残党達だ。
3人の武神ライダーと2人の戦士が走り出すのとほぼ同時に、5体の怪人達も一斉に前進を開始した。
両手に2丁の拳銃を構えたランマルは、銃口を敵に向けながら走る。
「バババゴンバザ! ゾンバボゾギグデ、キリゴオギデグレス!」
鋭い切れ味を持つ大鎌を手にした女怪人――メ・ガリマ・バが地面を蹴って跳躍し、ランマル目掛けて斬りかかった。
その一撃をすかさず回避したランマルは、敵に接近されすぎないように拳銃を発砲しながら一定の距離を保ち続けた。
迂闊に近づけば、一瞬にしてあの大鎌の餌食になってしまう。
ランマルは引き金を引きながら、敵の攻略法を探る。
「はあっ!」
クジラの特徴を持った怪人――ホエールイマジンに向けて、シグレは刀を振り下ろした。
動きの鈍いホエールイマジンは、防御する間もなくその一刀をまともに喰らう。
「い~た~い~な~」
しかし、口調までもが鈍いホエールイマジンのリアクションを見ていると、攻撃が効いているのかどうかも判断が難しい。
2撃目を仕掛けてやろうかと考えていると、突然ホエールイマジンが手に持った槍を突き立ててきた。
その攻撃の一瞬に見せた動きは、先ほどのゆっくりとしたモーションからは想像できないほどに速く、シグレは慌てて攻撃を刀で弾いた。
ランマルとシグレ、2人のサポートに向かおうと駆け出す武神ドライブと武神ゴーストだが、今度はトードスツールオルフェノクと乱れ童子が攻撃を仕掛けてきた。
武神ドライブと武神ゴーストはすぐさま足を止めて2体の攻撃を受け止める。
トードスツールオルフェノクの棍棒による一撃を、武神ドライブは掌で払いのけ、乱れ童子の空中からの奇襲を、武神ゴーストは自らも空中浮遊して妨害する。
橋の上に着地した武神ゴーストと乱れ童子は、今度は剣によるチャンバラを繰り広げる。
トードスツールオルフェノクの攻撃を回避しながら、武神ドライブは左腕のブレスレット――シフトブレスにシフトカーと呼ばれるミニカー型のサポートメカを装填した。
『タイヤコウカァーン!! マッシィーブモンスタァー!!』
マッシブモンスターのシフトカーを発動させた武神ドライブの胸部に、トライドロンから形成され飛んできた紫色の顔のついたタイヤが装着される。
同時に両手には怪物の頭部を模した緑色の牙型の武器――モンスターが装備された。
武神ドライブは特殊な能力を持った“タイヤ”をその身体に装着、使い分けることで様々な力を発揮することができる。
「いくぜ!」
モンスターを豪快に振り回した連続攻撃により、トードスツールオルフェノクは徐々に追い込まれていく。
武神ライダーになってからまだ日が浅い武神ドライブと武神ゴースト、そしてランマルとシグレの様子を気にしながら、武神ディケイドは人造アンデッド・改造実験体トライアルDの相手をしていた。
トライアルDが腕から伸ばす触手のようなコードを、武神ディケイドは専用剣ライドブッカー・ソードモードで見事なまでに蹴散らしていく。
全ての攻撃を防がれ、怯むトライアルD。
その隙に武神ディケイドはライドブッカーからカードを1枚取り出し、腰に装着されたベルト――ディケイドライバーのバックルに装填した。
『カメンライド・リュウキ!!』
電子音声が鳴り、同時に武神ディケイドの姿が赤き龍戦士へと変わる。
武神ディケイドは他の武神ライダーの姿を借りることができる特別な戦士であり、今変身したのは龍の力を駆使して戦う武神龍騎の姿である。
武神ディケイド(龍騎)は柳葉刀ドラグセイバーを手に、トライアルDを一気に攻めていく。
「シャァアー!」
獣のように襲い掛かってくる乱れ童子の猛攻に、武神ゴーストは自らの得物――ガンガンセイバーを弾き飛ばされてしまう。
「しまったっ!」
装備を失い、丸腰になってしまった武神ゴースト。
チャンスだと言わんばかりに、乱れ童子が両手に持った二振りの刀を振り下ろす。
しかし、刃が標的を傷つけることは無かった。
乱れ童子が刀を下ろしきった時、そこに武神ゴーストの姿は無かった。
刃が当たる直前、武神ゴーストの姿がスッとその場から消え失せたのだ。
「ウゥ…ウァ……?」
何が起こったのか理解できず、乱れ童子が辺りを見回していると、何者かの手がそっと乱れ童子の肩に触れた。
突然背後に気配を感じた乱れ童子は、振り向きながら刀を振り上げる。
が、そこには誰もおらず、刃は虚空を切っただけだった。
首を傾げながら視線を正面に戻す乱れ童子。
ところが戻した瞬間、視界一杯に広がったのは武神ゴーストのオレンジ色のマスクだった。
いつの間にか目と鼻の先まで接近していた武神ゴーストに、乱れ童子は思わず驚愕する。
「はっ!」
その隙に、武神ゴーストは乱れ童子の腹に拳を叩き込み、さらに大きく蹴り上げて乱れ童子を吹っ飛ばした。
「やるな、武神ゴースト! “亡霊”の名は伊達じゃないってことか!」
“ゴースト”の名に恥じぬ戦いっぷりを見せる武神ゴーストの姿に、武神ディケイド(龍騎)は感心を覚えた。
「良いことを教えてやる! そいつには“音の力”が良く響くぜ!」
「音の力?」
武神ディケイド(龍騎)の咄嗟のアドバイスに一瞬戸惑う武神ゴーストだったが、すぐにその意味を理解した。
「そういう事か! ベートーベン!」
武神ゴーストは眼球型のアイテムを取り出した。
それは“眼魂”と呼ばれる英雄の魂が込められた物体で、使用することで英雄の能力を借りる事ができる。
武神ゴーストはベートーベンの眼魂をゴーストドライバーに装填し、右側面のレバーを押し込んだ。
『カイガン! ベートーベン! 曲名! 運命! ジャジャジャジャーン!』
出現したベートーベンの魂――パーカーゴーストを身に纏い、武神ゴーストはベートーベン魂へと姿を変えた。
音楽の力を自由自在に操ることができる武神ゴースト・ベートーベン魂は、指揮者の様にリズミカルに手を動かし、パーカーについたピアノの鍵盤から発せられる音を音符エネルギーに変換し、乱れ童子へとぶつける。
「ウギャアァァ……!」
音撃に弱い魔化魍と同じ特性を持つ乱れ童子にとって、ベートーベン魂の音符エネルギーは効果的だった。
攻撃を受けた乱れ童子は悶え苦しみながら地面に倒れ伏す。
「今だ!」
武神ゴーストは一気に方を付けるべく、もう一度ゴーストドライバーのレバーを押し込んだ。
『ダイカイガン! ベートーベン! オメガドライブ!』
地面を蹴って大きくジャンプした武神ゴーストは、右足を前に突き出し急降下する。
「はぁあああー!!」
音符エネルギーを足先に纏った必殺の飛び蹴りが、よろめきながらも立ち上がろうとする乱れ童子のボディに直撃する。
足先が命中した瞬間、乱れ童子の体内に大量の音符エネルギーが流れ込む。
途端に乱れ童子の肉体は崩壊を起こし、爆発四散し木屑となって消滅した。
他の武神ライダー達も、武神ゴーストが乱れ童子を撃破したこの流れに乗り、次々と怪人達を葬り去っていく。
『タイヤコウカァーン!! マックスフレア!!』
『ヒッサァーツ!! フルスロットル!! フレア!!』
燃え盛る炎のタイヤを装着し、炎の属性を身につけた武神ドライブが、トードスツールオルフェノク目掛けて空中から必殺キックを叩き込む。
真っ赤な炎を纏った武神ドライブの足が、トードスツールオルフェノクの胸を貫いた。
「ぐわぁああああー……!」
刹那、トードスツールオルフェノクの身体は灰となって崩れ落ちる。
『アタックライド・ストライクベント!!』
武神ディケイド(龍騎)は右手に龍の頭部を模した武器――ドラグクローを装着。
「はぁあああ……はあっ!」
腰を低くして構え、次の瞬間、勢い良くドラグクローを前面に突き出した。
同時に龍の口から高温の炎が放射され、トライアルDの不気味な身体を焼き尽くしていく。
「ワ、ワタシハ……ウァアアアアア……」
トライアルDは機械的な断末魔を上げながら、炎の中で消滅した。
3体の怪人が倒れ、残る敵はガリマとホエールイマジンの2体。
ランマルもシグレも戦い慣れているとはいえ、相手が超人的な力を持った怪人達ではやはり分が悪く、手こずるのもやむを得ない状況だった。
しかしそこへ、トライアルDを撃破した武神ディケイド(龍騎)が加勢に入る。
敵の背後に回りこんだ武神ディケイド(龍騎)は、すかさずガリマとホエールイマジンの懐に拳を打ち込み、続けて回し蹴りで2体との距離を大きく離した。
「あいつらの相手は俺がする。武神ドライブ、武神ゴースト、お前達は2人を連れて先に進め!」
武神ディケイド(龍騎)は遅れて駆け寄ってきた武神ドライブと武神ゴーストに向かって言い放つ。
「武神ディケイド、しかしあんた1人を残して先に行く訳には……」
「心配するな。あいつら程度なら俺1人で十分だ。それに……1人の方が断然動きやすいからな」
「……わかった。ここは任せる。しかし無茶だけはするなよ」
少し考えた挙句、武神ドライブは武神ディケイド(龍騎)の提案を承諾した。
「いいのか?」
不安そうに武神ゴーストが尋ねる。
「大丈夫。武神ディケイドは強い。それより彼の言うとおり、俺達は急いで先へ進もう。ランマルとシグレもそれで良いだろ?」
「うん」
「勿論だ! 我々はいつまでもこんな所で足止めを喰らっている訳にはいかない。モタモタしていれば、さらに敵が増えるかもしれない。そうなる前に、一刻も早く敵の根城を制圧しなければ!」
「よし! じゃあ急いで向かおう! 武神ディケイド、後は頼むぞ!」
こうして武神ドライブと武神ゴースト、そしてランマルとシグレはこの場を武神ディケイドに託し、急いで敵の本拠地へ向かうことにした。
ランマルは武神ドライブのトライドロン、シグレは武神ゴーストのマシンゴーストライカーの後部シートに乗り込んだ。
2台のマシンは急発進して橋の続きを進んでいく。
「ザレヒオリビガギザギバギ!」
行かせてはなるものかと言わんばかりに、走り去ろうとする2台のマシンの後姿を、ガリマとホエールイマジンが追いかける。
「逃がすか!」
その様子を見ていた武神ディケイド(龍騎)が、ライドブッカーから1枚のカードを取り出し、ディケイドライバーに投げ入れる。
『アタックライド・アドベント!!』
その瞬間、上空に真っ赤な龍――ドラグレッダーが現れ、トライドロンとマシンゴーストライカーを追跡しようとするガリマとホエールイマジンに強烈な体当たりを仕掛けた。
2体の怪人が宙を舞っている間に、トライドロンとマシンゴーストライカーは橋を渡りきり、やがてその姿も遠ざかって行った。
「お前らの相手はこっちだ!」
武神龍騎の姿が解除され、元の姿に戻った武神ディケイドは、ライドブッカー・ソードモードを手に走り出す。
ドラグレッダーに吹き飛ばされたガリマとホエールイマジンも体勢を立て直すと、それぞれ武器を握り締め、向かって来る武神ディケイドを迎え撃つ。
「お~ま~え~じゃ~ま~!」
「ヨベギバボオゾ……。ラズザキガラバラギラズギデジャス!」
トライドロンとマシンゴーストライカーの追跡を妨害されたガリマとホエールイマジンは、憤怒した様子で武神ディケイドに襲い掛かる。
ガリマの大鎌とホエールイマジンの槍、2つの刃が武神ディケイドに迫る。
武神ディケイドはライドブッカー・ソードモードを巧みに操り、大鎌と槍の攻撃を弾いていく。
『アタックライド・ブラスト!!』
咄嗟にカードをディケイドライバーに装填し、ライドブッカーをガンモードに変形させる。
銃形態となったライドブッカーの銃口をホエールイマジンに向け、躊躇無くトリガーを引く。
「あのねぇ!?」
残像の様に分身して増えた銃口から、威力が強化された光弾が連続で発射され、ホエールイマジンを背後に大きく吹き飛ばした。
武神ディケイドとホエールイマジンとの間に距離が生まれる。
しかし今度はガリマの一撃が武神ディケイドの背中を切り裂いた。
「ぐわっ!?」
死角からの攻撃に武神ディケイドはよろめき、思わず膝を付いてしまう。
「いってぇな!」
背後に佇むガリマの姿をキッと睨みつけた武神ディケイドは、姿勢を低くしたまま1枚のカードをドライバーに差し込んだ。
『アタックライド・スラッシュ!!』
ライドブッカーを再びソードモードに切り替えると、振り向き様に刀身を振り上げた。
不意をつかれたガリマは成す術無くその斬撃を浴び、たまらず後退する。
武神ディケイドはその隙に立ち上がると、両手で柄を握り締め、力を込めて上から下に刃を振り下ろした。
慌てて大鎌で防御を試みたガリマだったが、カードの効果で切れ味が増したライドブッカー・ソードモードの一撃により、大鎌は真っ二つに叩き折られた。
「バ、バンザオ……!?」
予想外の展開に動揺するガリマ。
その間に武神ディケイドは止めのカードをドライバーに装填する。
『ファイナルアタックライド・ディディディディケイド!!』
ラップ調の電子音声が鳴るのと同時に、武神ディケイドの眼前に10枚のカード状のエネルギーフィールドが出現。
地面を蹴って跳躍した武神ディケイドは、飛び蹴りの体勢でカード型エネルギーを通過していく。
「はぁああああー!!」
エネルギーが集中した右足を力強く前に突き出した武神ディケイドは、渾身の力を込めてガリマの胸を蹴り飛ばした。
「ギャァアアアアアー……」
背後に大きく吹き飛んだガリマの身体は、地面の上に叩きつけられた瞬間、悲鳴と共に爆発した。
着地した姿勢のまま、爆炎に目を向ける武神ディケイド。
しかし次の瞬間、突然飛魚の様に空中に飛び跳ねたホエールイマジンが、死角から武神ディケイドに体当たりした。
油断した武神ディケイドは身体に組み付いたホエールイマジン諸共橋の上を飛び出し、真下に広がる海の中へと落ちていった。
無数の気泡に囲まれながら、見る見るうちに海底に沈んでいく武神ディケイドとホエールイマジン。
水面から差し込んでいた陽の光が少しずつ遠ざかっていく。
武神ディケイドの身体にしがみ付いたまま、ホエールイマジンは鰭の様な手で武神ディケイドの顔面を何度も殴っていく。
このまま深海まで引きずり込み、水圧で武神ディケイドを押し潰してやろうと、ホエールイマジンは考えていた。
クジラの特徴を持つホエールイマジンにとって海中はテリトリーのようなもの。
このままでは本当に海の藻屑となってしまう。
さすがに焦りを感じた武神ディケイドは、早急にこの事態を打破するために、辛うじて動くその手でカードを取り出し、ディケイドライバーに装填した。
『フォームライド・キバ・バッシャー!!』
次の瞬間、武神ディケイドの身体が吸血鬼や蝙蝠を連想させる西洋の戦士――武神キバのものへと変化し、さらに胸部アーマーと右腕が無数の鎖に包まれて魚人の様な形態にチェンジした。
武神ディケイド(キバ・バッシャーフォーム)。
水中戦を得意とするバッシャーフォームに姿を変えた武神ディケイド(キバ)は、右手に召喚された銃――バッシャーマグナムの銃口をホエールイマジンの腹部に押し当てた。
「な~ん~だ~?」
違和感を感じたホエールイマジンは、武神ディケイドを殴る手を止めて自らの腹に視線を移す。
その瞬間、武神ディケイド(キバ)はバッシャーマグナムの引き金を引いた。
「うおっ!? おおお~……」
銃口から連射された何発もの水圧弾が、ホエールイマジンの身体を水面に向かって押し上げていく。
物凄い勢いで浮上していくホエールイマジンの姿を捉えながら、武神ディケイド(キバ)はさらにカードを取り出す。
『フォームライド・デンオウ・ロッド!!』
武神ディケイドの姿がさらに変化を遂げる。
武神キバ・バッシャーフォームの姿から、電車の力を備えた戦士――武神電王の素体プラットフォームの姿へと変わり、その上に青いアーマーと海亀の様な形状のマスクが装着される。
武神ディケイドは武神電王・ロッドフォームの姿へと変化した。
バッシャーフォームと同じく、ロッドフォームも水中戦が得意な形態だ。
ホエールイマジンの後を追うように、武神ディケイド(電王)も水面に向かって急浮上する。
先に水面を飛び出したホエールイマジンは、その勢いのまま空中に投げ出される。
遅れて海からジャンプした武神ディケイド(電王)は、ホエールイマジンよりもさらに高く上昇し、空中で新たなカードをディケイドライバーに装填した。
『ファイナルアタックライド・デデデデンオウ!!』
右足にフリーエネルギーが集中し、武神ディケイド(電王)はその足を前面に突き出した。
「はぁああああー!!」
必殺技デンライダーキックが炸裂。
「ちょっと待っ…ぎょわぁああああ~……」
空中で直撃した武神ディケイド(電王)の右足の破壊力に、ホエールイマジンの身体は爆発。断末魔を上げながら木っ端微塵に消し飛んだ。
黒煙をバックに、武神ディケイド(電王)は橋の上に着地した。
ホエールイマジンを最後に、道中に立ち塞がった5体の怪人は全て消滅。
カードの効果が切れ、元の姿に戻った武神ディケイドは、トライドロンとマシンゴーストライカーが走り去った方角を見つめながらホッと胸を撫で下ろした。
「ま、こんなもんか」
ため息交じりで呟いた武神ディケイドの姿が残像となって消滅し、替わりに1人の青年が武神ディケイドが立っていた場所に現れた。
ロングコートを身に纏った茶髪の青年は、首にぶら下げたピンク色の2眼のトイカメラを手に取ると、ランマルとシグレ、そして2人の武神ライダーが通った武神鎧武の根城へと続く道筋をレンズ越しに覗き込んだ。
真っ直ぐと伸びた道にカメラのピントを合わせると、青年は徐にシャッターを切った。
「用事はもう済んだのか?」
唐突に背後から声がした。
青年はカメラから瞳を離すと、その視線をそのまま声がした背後へと向ける。
「ああ。悪かったな、役目を代わって貰って」
青年の視線の先にいたのは、武神ディケイドと全く同じ姿をした一人の戦士だった。
戦士は腕組みをしながら軽く顔を横に振る。
「気にするな。しかし驚いたよ。俺と同じ姿をした武神が他にも存在して、そいつが俺の前に現れた時は」
「ふっ。俺は武神じゃない。まあ、似たようなものだけどな」
「教えてくれ。君は一体何者なんだ?」
青年の前に現れた戦士は、緑色の複眼を青年に向けながら尋ねた。
「俺はただの旅人さ。無数に存在する世界を渡り歩く、写真好きのな。ただ、この世界では“やること”があってな。そのために、俺と同じ姿のお前に役目を変わって貰ったって訳だ」
「その“やること”っていうのは?」
「お前達の仲間の“あの2人”、シグレとランマルだったか……。あいつらを無事に送り届ける事。それがこの世界で俺がやること、らしいぜ」
「なぜあの2人を?」
「さあな。俺にもよくわからん」
「ふむ……。なんとも珍妙な話だな」
「ああ。大体わかってくれればそれで良い」
「そ、そうか……。ところで、君はこれからどうする? 皆の後を追うのか?」
「いや、俺の役目はここまでだ。他にも武神が同行してるし、後はあいつらの物語だ。俺はここで失礼する」
「わかった。随分と不思議な経験をさせてもらったが、君に会えて良かった。そうだ、最後に名前を聞かせてくれないか?」
「門矢 士。通りすがりの仮面ライダーだ。覚えなくて良い。……じゃあな」
そう言って軽く手を振ると、青年――門矢 士は現れた灰色のオーロラの中へと消えて行った。
「門矢 士……。仮面ライダーディケイドか……。いずれまた会おう!」
消えてゆくオーロラに向かって、戦士――本物の武神ディケイドも力強く手を振り返した。
世界を繋ぐ旅人は、こうして武神の世界を後にした。
☆
鬱蒼とした森の中。
無数に聳え立つ背よりも高い木々。
盛んに生え広がった枝葉に阻まれて、天から降り注ぐ陽の光もほとんど届かない。
そんな薄暗い森林の奥へと続く一本道を、トライドロンとマシンゴーストライカーはただひたすら走り続けた。
この不気味な森の、奥の奥の更に奥に、武神鎧武が生前に根城にしていた洞窟がある。
武神ディケイド――いや、武神ディケイドに成りすましていた仮面ライダーディケイドと別れたランマルとシグレ、そして2人の武神ライダーは、その洞窟を目指して前進する。
森の中を1時間ほど走り続けると、2台のマシンのヘッドライトが前方に現れた巨大な岩壁を照らし出した。
岩壁の一部には大きめの真っ黒い穴が開いており、一本道もその穴の前で途切れていた。
停車したマシンから降り立ったランマルとシグレ、武神ドライブと武神ゴーストは、周囲を警戒しながらゆっくりと岩壁の穴へと近づいていく。
が、しかしその時、唐突に頭上から飛び降りてきた4つの影が、2人の戦士と2人の武神ライダーの前進を妨げた。
「下がれ!」
ランマルの咄嗟の言葉を合図に、一同は一斉に後退りして現れた影から距離を取った。
行く手を塞ぐようにその姿を見せた4つの影は、やはりどれも異形の姿をした怪人だった。
ロード怪人――クイーンジャガーロード・パンテラス・マギストラ。
ミラーモンスター――シールドボーダー。
地球外生命体ワーム――ビエラワーム。
ファンガイア――シースターファンガイア。
橋の上で遭遇した連中と同様、外見も種族もバラバラだが、共通するのはこいつらも武神鎧武軍の残党兵だという事。
「ちっ! またか!」
ランマルはうんざりした様子でホルスターから拳銃を抜き取った。
続けてシグレも鞘から刀を抜く。
武神ドライブと武神ゴーストもそれぞれ武器を手に取り、戦闘態勢に入る。
「ここから先へは行かせない……」
「グモォオオオオ!」
「ギィイイイン! ギィイイイン!」
「アッハハハハハハ!!」
クレオパトラの様な衣装に身を包んだ女性型の豹怪人――クイーンジャガーロードは人語を用いながら、武器の錫杖をシャリンと鳴らした。
しかし他の怪人達はまともな言葉を口にすることもせず、各々特徴的な鳴き声やら奇声やらを高らかに発するだけであった。
森のざわめきと共に戦いは始まった。
戦士と怪人は一斉に走り出しぶつかり合う。
シグレの刀とクイーンジャガーロードの錫杖が激しく火花を散らし、ランマルの放った弾丸をシールドボーダーの盾が弾いていく。
『カイガン! ロビンフッド! ハロー! アロー! 森で会おう!』
緑色のパーカーゴーストを身に纏い、武神ゴーストはロビン魂へと姿を変えた。
弓の名手であるロビンフッドの魂をその身に宿した武神ゴーストは、ガンガンセイバー・アローモードを手にシースターファンガイアを狙い撃つ。
『ドラァーイブ!! ターイプワイルドォー!!』
武神ドライブは赤いボディのタイプスピードの姿から真っ黒い4WD車の様なボディのタイプワイルドへと変化した。
基本形態であるタイプスピードが言葉通りスピードに特化した形態なら、タイプワイルドはパワーに特化した形態だ。
専用剣――ハンドル剣を手に、武神ドライブ・タイプワイルドはビエラワームの身体に重い斬撃を浴びせていく。
「ギィイイイン!」
バイオリンムシによく似た性質を持つビエラワームは、バイオリンをかき鳴らしたかの様な耳障りな鳴き声を上げながら後退りする。
武神ドライブが更に追い討ちを仕掛けようと突進するが、するとその時、一瞬構えたビエラワームが刹那の間に武神ドライブの視界から姿を消した。
「なにっ!? 消えた……?」
突然標的を見失い、戸惑う武神ドライブ。
すると次の瞬間、
「うぐっ!?」
身体に鋭い衝撃とダメージが与えられ、武神ドライブはバランスを崩して地面を転がった。
「なんだ今のは……」
唐突に襲い掛かってきた見えない攻撃に、武神ドライブは慌てて周囲を見回すが、やはりビエラワームの姿は何処にも無い。
ただ、何かが近くを駆け回る気配だけは微かだが感じ取ることができていた。
『落ち着け、武神ドライブ! これは恐らく、武神カブトや一部の敵が持っている超加速能力――クロックアップだ!』
苦戦する武神ドライブを見兼ねてそう助言してきたのは、武神ドライブの腰に装着されたベルト――ドライブドライバーだった。
「トノサマ!」
現在、全国に16人存在する武将達。その中でも武神ドライブが仕える武将はかなりの変り種だった。
自らも己の軍を守護する武神ライダーと共に戦いたい。自分も武神ライダーの戦いの助けになりたい。そう考えた武神ドライブ軍の武将は、己の肉体を捨て、自分の魂も記憶も人格も――その全てをドライブドライバーという器に移し替えたのだ。
機械の身体――ドライブドライバーそのものになった武将は、武神ドライブと一心同体となり、戦闘のあらゆる面で武神ドライブのサポートを担っている。
『敵は消えたのではない。時間流に干渉して眼に見えないほどの速度で動き回っているんだ!』
「どうすれば奴を止められる?」
『こちらもスピードを強化して対抗しよう! スピード自慢のドライビングテクニックを見せてやると良い!』
「了解だ! ひとっ走り付き合ってもらうぜ、トノサマ!」
そう言って威勢良く立ち上がった武神ドライブは、左腕のシフトブレスに青いフォーミュラカー型のシフトカーを装填した。
『ドラァーイブ!! ターイプフォーミュラァ!!』
電子音声と共にタイプワイルドのボディが解除され、替わりに青いレーシングカー型のアーマーと黄色いヘルメットが装着された。
武神ドライブ・タイプフォーミュラ。
最もスピードに優れた武神ドライブの強化形態である。
『フォ・フォ・フォーミュラ!!』
武神ドライブは早速左腕のシフトレバーを3回倒し、加速状態に移行した。
「スピード勝負だ! いくぜっ!」
大地を踏み込み、一瞬にしてクロックアップ状態のビエラワームに追いつく。
「見えた!」
加速空間の中でビエラワームの姿を捉えた武神ドライブは、並走しながらその拳を振り上げる。
武神ゴースト・ロビン魂が連続で放つ光の矢を、ヒトデの様な怪人シースターファンガイアは軽快な身のこなしで周囲の木々を盾にしながら回避していた。
「くそっ! すばしっこい奴……」
なかなか矢が命中しない事に武神ゴーストが苛立ちを感じていると、その隙を狙ってシースターファンガイアが反撃を仕掛けてきた。
木の影からヒョコッとその姿を露にしたシースターファンガイアは、身体の中心にあるコアから電撃を放出した。
「なっ!? ぐわぁああああ……」
電撃をまともに喰らい、感電した武神ゴーストは力が抜けたように両膝を付いた。
「アッハハハハハハハハ!!」
狂ったように笑いながら、シースターファンガイアは武神ゴーストの方へゆっくりと歩み出す。
「まだだ……。相手が電気なら、こっちだって!」
よろめきながらもなんとか立ち上がった武神ゴーストは、懐から黄色い眼魂を取り出した。
腰のゴーストドライバーにその眼魂をセットし、力を込めてレバーを押し込む。
『カイガン! エジソン! エレキ! ひらめき! 発明王!』
ゴーストドライバーから飛び出した銀色のパーカーゴーストを身に纏い、武神ゴーストはエジソン魂へとチェンジした。
エジソン魂は、発明家トーマス・エジソンの魂を宿した電気の属性を持った姿だ。
銃形態ガンガンセイバー・ガンモードを手に取り、武神ゴーストはシースターファンガイアに狙いを定める。
「ハハハハッハ~!!」
相変わらずの不気味な笑い声を上げながら、シースターファンガイアは立ち上がった武神ゴースト目掛けて再び電撃を放つ。
しかし、武神ゴーストが羽織った銀色のパーカーが、シースターファンガイアの電撃を全て吸収する。
「お返しだ!」
そう言って武神ゴーストはトリガーを引く。
ガンガンセイバー・ガンモードから撃ち出された電気を纏った弾丸が、シースターファンガイアの身体を貫いた。
「イギャア!?」
己の放った電撃が全て吸収された事に戸惑いを隠せなかったシースターファンガイアは、武神ゴーストの攻撃にも対応しきれず、電気の弾丸をまともに喰らった。
「もらった!」
シースターファンガイアが怯んでいる隙に、武神ゴーストはガンガンセイバー・ガンモードをゴーストドライバーにかざす。
『ダイカイガン! オメガシュート!』
ガンガンセイバーの眼の紋章とゴーストドライバーの中央にある眼球が重なり、エネルギーの送受信アイコンタクトが行われる。
武神ゴーストは電気エネルギーが蓄積されたガンガンセイバー・ガンモードの銃口をシースターファンガイアに向ける。
「はあっ!」
次の瞬間、トリガーは引かれ、銃口からより一層強力な電気の光弾が放たれた。
「ギャァアアアア……!」
眩い光をその身に受けたシースターファンガイアの身体は、ガラスの様に音を立てて粉々に砕け散った。
木と木の間を猛スピードで潜り抜けながら、武神ドライブとビエラワームは激しくぶつかり合っていた。
ビエラワームが鞭の様に伸ばす触手の攻撃を回避しながら、武神ドライブ・タイプフォーミュラは一気に距離を詰める。
そして、敵の腹部に強烈なパンチを叩き込み、ビエラワームを背後の樹木に叩きつけた。
その一撃により、ビエラワームのクロックアップは強制的に中断した。
同時に武神ドライブの超加速も止まり、周囲からもその姿が視認されるようになった。
『チャンスだ、武神ドライブ! 相手が再びクロックアップする前に止めを刺すんだ!』
「わかってるぜ、トノサマ! こいつで一気に決める! 来い! トレーラー砲!」
武神ドライブの呼び声に呼応して、青い大型トレーラーの形をした大砲が戦場に駆けつけた。
武神ドライブは手にしたトレーラー砲の銃口の上部にフォーミュラカーのシフトカーを装填、トレーラー砲を起動させた。
タイプスピードとタイプワイルドへの変身に用いる2つのシフトカーをトレーラー砲の中に格納し、エネルギーを蓄積させる。
『ヒッサァーツ!! フルスロットル!! フルフルフォーミュラー大砲!!』
徐々にテンションが上がっていく電子音声と共に、武神ドライブはトレーラー砲の銃口をビエラワームへと向ける。
銃口にはエネルギーが集中し、キラキラと光が漏れている。
いつでも発射できる状態だった。
「くらえっ! はっ!」
武神ドライブは背後の木に凭れ掛かっているビエラワームにしっかりと狙いを定めると、気合と共にトリガーを引いた。
次の瞬間、トレーラー砲から強力なエネルギー波が放たれた。
「ギッ……ギィイイイイイイィィィ…ィ…」
悲鳴の様に聞こえる甲高い奇声を上げながら、ビエラワームの身体は体重を預けていた背後の樹木諸共、焼き尽くされて消滅した。
ランマルが発砲する銃弾をものともせずに、シールドボーダーは手にした盾を前に突き出し勢い良く突進を繰り出してきた。
イノシシをモチーフとするシールドボーダーのその姿はまさしくそれそのもの。
猪突猛進という言葉を全身で表すかの様な勢いだった。
「くっ!」
ランマルはやむを得ず銃撃を中断すると、横転してシールドボーダーの走る軌道から外れる。
標的を見失ったシールドボーダーはそのまま木々を薙ぎ倒していく。
「なんて破壊力だ……」
ドミノ倒しの様に横たわっていく樹木の姿に、ランマルは思わず戦慄した。
あんな一撃をまともに喰らえば、生身である自分の肉体なんて一瞬にして砕け散るだろう。
想像しただけでもなんともおぞましい。
何本もの木にぶつかった事で突進の勢いが弱くなり、ようやく自らの意志で停止したシールドボーダーは、くるりとその身体を方向転換させ、再びランマルの姿を捉えた。
もう一度盾を前に出し、力強く何度も大地を踏みしめて勢いをつけている。
またあの突進を繰り出すつもりだ。
さっきはなんとか回避できたが、もう一度アレを避ける自信はさすがのランマルにも無かった。
「どうすれば……」
万事休すだった。
なんとか対抗策を見つけ出そうと思考を駆け巡らすが、そうしてる間にシールドボーダーが発進してしまった。
「グモォオオオオ!!!」
地面に響く様な、なんとも低い咆哮を上げながら、シールドボーダーが凄まじい勢いで近づいてくる。
一か八か、もう一度回避を試みようと両足に力を入れた。と、その時、
『カイガン! ベンケイ! 兄貴! ムキムキ! 仁王立ち!』
ベルトから鳴り響く電子音声と共に、空中で武蔵坊弁慶の魂を身に纏った武神ゴースト・ベンケイ魂が、両手に構えたガンガンセイバー・ハンマーモードをシールドボーダー目掛けて振り下ろした。
「グモッ!?」
まだ自分でブレーキを掛けられる速度だったシールドボーダーは、慌てて急停止すると盾を頭上に突き出し、武神ゴーストのハンマーの一撃をギリギリのところで防御した。
「コイツは俺に任せて!」
シールドボーダーと鍔迫り合いをしながら武神ゴーストがランマルに言い放つ。
「武神ゴースト!」
突然乱入してきた武神ゴーストの姿に、ランマルは呆気にとられた。
「2人は先に、洞窟の中へ!」
そう言って続けて駆けつけたのは武神ドライブ・タイプフォーミュラ。
クイーンジャガーロードとチャンバラを繰り広げていたシグレの前に乱入し、ハンドル剣で敵の攻撃を引き受けた。
「武神ドライブ!」
「こいつらを倒したら、俺達もすぐに後を追うから!」
「2人は早く敵地の制圧を!」
「……わかった。ここは任せるぞ! 行くぞ、シグレ!」
「うん! 武神ドライブと武神ゴーストも気をつけて!」
この場を武神ドライブと武神ゴーストに預け、ランマルとシグレは洞窟の中へと入って行った。
☆
洞窟の中は空気がひんやりと冷たく、地面に落ちる水滴の音が何処からともなく反響していた。
ランマルとシグレは、それぞれの武器を常に携えた状態で、警戒しながら一直線に伸びた薄暗い通路をゆっくりと進んでいた。
「油断するなよ、シグレ」
「わかってるよ、ラン姉」
互いに声を掛け合いながら、1歩、また1歩と前進していく2人。
しかし不思議なことに、どれだけ警戒しても道を立ち塞ぐ敵が眼前に現れることは無かった。
後方の敵は武神ドライブと武神ゴーストが食い止めてくれているとして、深部に繋がる前方から敵が1人も現れないというのはなんともおかしな話だ。
敵地の真っ只中だというのに、なんとも拍子抜け――いや、それが逆に不気味だった。
暫くして、ランマルとシグレは通路を抜けて大広間に辿り着く。
岩肌に無数に立てられた松明に灯された広い空間。
中央には大きな祭壇が置かれていた。
「これは……」
周囲を警戒しながら、ランマルは祭壇に近づく。
すると、祭壇の真ん中に、あるものが祀られていることに気づいた。
恐る恐るそれを手に取ったランマルは、思わず驚愕の表情を浮かべる。
「こいつはたしか……武神鎧武の……」
ランマルが手にしたもの、それはかつて、武神鎧武が身につけていた機械仕掛けのベルト――戦極ドライバーだった。
「なんでこのドライバーがここにある!?」
「ラン姉、どうしたの?」
思わず大きな声を漏らしたランマルの様子に気づいたシグレがゆっくりと歩み寄る。
するとその時、
「よお! 待ってたぜ!」
唐突に背後から声がした。
常に周囲に気を張り巡らせていたランマルとシグレは、突然の声に機敏に反応。反射的に武器を構え、銃口と刃を声の主に差し向けた。
2人の背後にいつの間にか立っていたのは、民族衣装の様な格好をした1人の男だった。
「何者だ!」
右手の拳銃を構えたまま、ランマルが強気で言い放つ。
左手には戦極ドライバーがしっかりと抱えられている。
「おいおい、そんな怖い顔するなって。俺は別に、お前達の敵じゃない」
武器を向けられているというのに、男の表情からは笑みが浮かんでいた。
不思議な雰囲気を醸し出す眼前の男に、ランマルとシグレは一層警戒を強める。
「敵じゃないだと? ならばなんだと言うんだ!」
「そうだな……。時間によって、世界によって、場所によって、呼ばれた名前は幾つもあるが……。例えば、かつては“蛇”と呼ばれたこともある」
「蛇……?」
「ああ。それとも、最近名付けられた名前を名乗るのも良い。だとすれば、我が名は……ヘルヘイム!」
男は胸に手を当てながら、堂々と名を告げるのであった。
☆
『ダイカイガン! オメガボンバー!』
洞窟の前で繰り広げられる戦いの中、武神ゴースト・ベンケイ魂は、ガンガンセイバー・ハンマーモードとゴーストドライバーをアイコンタクトさせた。
手中の武器にエネルギーを集中させ、武神ゴーストは渾身の力でハンマーを振り下ろした。
シールドボーダーは自慢の盾を前に突き出して防御を図るが、ハンマーの衝撃を受けた瞬間、盾は粉々に砕け散った。
「グモォ……」
得物を失い、動揺した様子を見せるシールドボーダー。
「今だ!」
敵が隙を見せている間に、武神ゴーストは真っ赤に燃える炎の眼魂をドライバーに装填した。
『闘魂カイガン! ブースト! 俺がブースト! 奮い立つゴースト! ゴーファイ! ゴーファイ! ゴーファイ!』
炎のパーカーゴーストを身に纏い、武神ゴーストは全身真紅の強化形態、闘魂ブースト魂へと姿を変えた。
『ターン!! ドリフトカイテーン!!』
武神ドライブ・タイプフォーミュラは全身を高速スピンさせ、ハンドル剣でクイーンジャガーロードを斬り刻んだ。
斬撃に吹き飛ばされたクイーンジャガーロードは大きく宙を舞い、シールドボーダーの足元まで転がった。
「一気に決めるぞ!」
「わかった! 一緒に!」
『ヒッサァーツ!! フルスロットル!! フォーミュラァ!!』
『闘魂ダイカイガン! ブースト! オメガドライブ!』
肩を並べた武神ドライブと武神ゴーストは、同時に必殺技を発動。
それぞれの右足にエネルギーを集中させ、一斉に跳躍する。
「たぁあああー!!」
「はあぁぁー!!」
空中で右足を前に突き出した武神ドライブと武神ゴーストは、猛スピードで急降下していく。
2人の必殺キックが炸裂し、シールドボーダーとクイーンジャガーロードの肉体は爆発。爆炎の中に消えていった。
着地を決めた2人の武神ライダーは、すぐさま基本形態のタイプスピードとオレ魂の姿に戻ると、ランマルとシグレの後を追って洞窟の中に入っていった。
☆
洞窟の最深部。祭壇の前では、ランマルとシグレが謎の男と対峙を続けていた。
「ヘルヘイム? それが名前?」
刀を握り締めたまま、シグレが小さく呟く。
「名前なんてどうだっていい! 私が聞いているのは、貴様の目的が何なのかということだ!」
引き金にかけた指に神経を集中させながら、ランマルは相手を威嚇するように声を荒げる。
ちょっとでも妙な動きをすれば、即座にこの指を引いてやる。
鋭い視線がそう訴えているようだった。
「目的……、目的ねぇ……。お前たち2人を待つこと。それが俺の目的だ」
ヘルヘイムと名乗る男はフッと笑みを浮かべながら、ランマルの質問に答えた。
「私たちを待つだと? 一体何のために!」
「お前たちに選択を与えにきた。これから先の、お前たちの運命を左右する大事な選択をな」
「選択? 言っていることがわからんな。妙な言葉で私たちを翻弄しようとするなら、今すぐ貴様の頭に風穴を開けてやるぞ?」
ランマルはさらに強気な態度で、標準を男の眉間に合わせる。
「まあ聴けって。これから俺がお前たちに提示する提案は、お前たちにとっても悪い話じゃないはずだ。とりあえず、まずは話を聴いて、それから判断しても遅くはないだろう? 最終的に決断するのは、お前達の意思次第なんだからな」
「……」
「あの……、提案って何ですか?」
ランマルが判断に困っていると、今まで大人しくしていたシグレが先に話を切り出した。
男はシグレの姿をジッと見つめると、落ち着いた様子で虚空に手をかざした。
すると、ジィィイイイというジッパーが開くような音と共に、空間に裂け目が生まれた。
裂け目の奥に見えるのは、青空に向かって聳え立つ巨大なビル群だ。
見たこともない景色を目の当たりにし、ランマルとシグレは言葉を失う。
「この世には、あらゆる歴史や文明を持った世界が無数に存在している。お前たちが暮らすこの世界もその1つであり、この裂け目の向こう側に広がる世界も、またその一つだ。……それぞれの世界は幾度も破滅と再生を繰り返してきた。古いものは滅び、新しいものが世界を支配する。それが万物の理だ。しかし時として、そんな運命から抗おうとする奴らが現れることもある。この世界もそうだ。この世界もかつて、破滅の運命を辿りかけたことがあるはずだ。その時、この世界の連中は“武神ライダー”という力を生み出して破滅を乗り切った。同じく、この裂け目の向こう側の世界の奴らは“アーマードライダー”――いや、“仮面ライダー”という力で破滅を食い止めた。お前には心当たりがあるはずだ。覚えていないか?」
男はランマルに尋ねた。
「アーマードライダー……。仮面……ライダー……。もしかして……」
記憶を辿ったランマルはあることを思い出す。
それは以前、武神鎧武との戦の最中に現れた異世界の武神ライダー達のこと。
空間に生まれた裂け目を通ってこの世界に降り立った6人の男達。
1人は武神鎧武と似た姿をしたオレンジ色の鎧武者。
1人は紫の鎧を身につけた中華風の銃使い。
1人は凄まじい剣捌きが特徴の盾を持った白き武将。
1人は武神ウィザードと瓜二つの指輪の魔法使い。
1人は獣の如き金獅子の魔法使い。
そして最後の1人は、ランマルにとっては特別な存在。
武神オーズを失い、軍の長であったノブナガ亡き後に衰退した軍を奮起させ、立て直してくれた男。アーマードライダーバロン――駆紋戒斗。
忘れもしない。
あの男が武神バロンを名乗って軍を引っ張ってくれたおかげで、武神オーズ軍は壊滅せずに済んだのだ。
いわばあの男は命の恩人。あの男がいなければ、私は当の昔に命を落としていたであろう。
「……その裂け目の向こう側の世界が、戒斗のいる世界だというのか?」
「駆紋戒斗か。あいつはなかなか面白い男だった」
「貴様、戒斗を知っているのか?」
「ああ、それなりにな。そしてお前の言うとおり、この向こう側の世界は駆紋戒斗が生きた世界だ。奴は他のアーマードライダー達と共に、何度も破滅の脅威と戦った。そして、奴は既にこの世を去っている」
「死んだのか!? 戒斗が!?」
「駆紋戒斗は世界を賭けた最後の戦いに敗れ、宿敵の胸の中で命を落とした。しかしその甲斐あって、あの世界はこうして今も存在し続けている」
「まさか戒斗が……」
男から告げられた真実を前に、ランマルは困惑の表情を隠せなかった。
「さて、ここからが本題だ。今の話の通り、この裂け目の向こう側の世界はかつて駆紋戒斗が生きた世界、駆紋戒斗の死によって成り立っている世界だ。奴が生き抜いた世界を、その眼で確かめたくはないか?」
「……戒斗が…生きた世界……」
「選択っていうのはつまり、その世界に行くか行かないかってことですか?」
男の申し出に心が揺れ動くランマルを尻目に、シグレは質問の意味を男に確認する。
「その通り。お前たち2人が向こうの世界に足を踏み入れるか、もしくはこの世界に留まるかで、お前たちの今後の運命が大きく変わってくる」
「そんなの、選ぶまでもない話だと思いますよ。僕たちはこの世界の住人なんだ。武神鎧武軍の残党兵たちを全滅させないといけない大切な時に、他の世界に構ってる余裕なんてありませんよ。大体、僕たちが向こうの世界に行ってなんになるって言うんですか? 行く理由がない」
「行く理由か……。確かに、あの世界がどうなろうとお前たちには関係のない話だな。だがな、言ってみればこれは俺の願いだ。あの世界は今、新たな問題を抱え始めている。その問題を放っておけば、いずれお前達の世界にも危機が訪れるかもしれない。できることなら、そうなる前にお前たちに対処してほしいと、俺は思ってる」
「だから、何故僕たちなんです? あの世界で今起きている問題は、あの世界だけの問題でしょ? まだこの世界には何も起きていないのに、僕たちが手を下す必要はないでしょ?」
「……そうだな。確かにお前の言うとおりだ。だけど言っておくぞ。お前は知らないかもしれないが、この世界は、あの向こう側の世界の連中に大きな借りがある。そうだろ? ランマル」
男は視線をランマルに向ける。
ランマルは神妙な顔でコクリと頷いた。
「……ああ。シグレはその時いなかったから知らないだろうけど、武神鎧武を倒し、この世界を救ってくれたのは、あの世界からやって来た者たちなんだ。彼らがいなければ、この世界は今頃、武神鎧武の天下だっただろう」
「そう。だからお前たちには、あの世界の問題に関わる権利がある。あの世界の連中に、借りを返す良い機会だとは思わないか?」
男は皮肉を込めて言う。
ランマルは一瞬沈黙して考えを決めると、シグレに向かって口を開いた。
「シグレ。正直に言うと、私はあの世界に行ってみたい。武神鎧武を倒してくれた借りを返すためでもあるが、何より、駆紋戒斗――かつて我が軍を救ってくれたあの男の世界を、この眼で見てみたい」
「ラン姉……。でも――」
「わかってる。この国の平和を維持するために、今が大変な時なのは十分わかっている。だけどこの世界には、頼りになる武神たちや数多くの同胞たちがいる。私1人がいなくとも国の平和は守れるはずだ。…それに、私が行くことであの世界の助けになるというのなら、喜んで力になりたい」
ランマルの言葉を受け、シグレも少し考えた。そして、
「わかったよ。ラン姉が行くなら僕も行くよ。ラン姉があの世界の助けになりたいと思うのと同じように、僕は常にラン姉の力になりたいと思ってる。だから、ラン姉が行くところには僕も必ずついて行く」
「シグレ……。わかった。行こう、一緒に」
こうして2人は決心した。
この世界を後にし、別の世界に旅立つことを。
「気持ちは固まったようだな。ならば、あの世界を生き抜くために俺からのアドバイスだ」
男はそう言うと、ランマルの手から戦極ドライバーを取り上げ、それをシグレに手渡した。
「このドライバーはお前のものだ」
「え? 僕の?」
「そう。そしてコレは……俺からのプレゼントだ」
シグレが唐突に渡された戦極ドライバーに戸惑っていると、男はさらにあるアイテムをシグレの手に握らせた。
それは赤いオレンジの絵が描かれた南京錠のような物体――ブラッドオレンジロックシードだった。
「そのドライバーはお前を選んでいる。ずっと昔からな」
「どういうことですか?」
「いずれわかる。それよりも、早くゲートを潜った方が良い。こうしている間も、向こうの世界では混乱が起きているからな」
男に背中を押され、ランマルとシグレは裂け目の前に立つ。
「結局、あなたが何者か分からず仕舞いだったんだけど?」
裂け目を潜る直前、ランマルは男に問いかける。
「気にすることはない。俺はただの観客さ。未知の世界でお前たちがどれほどまでに輝けるか、楽しみにしてるぜ!」
男はそう言い残すと、2人を見送ることもなく一足先に姿を消した。
文字通り、まるで幽霊のようにスッと姿を消したのだ。
ランマルとシグレは不思議そうな表情を浮かべながらも、裂け目の奥に見えるビル群に視線を向ける。
2人は大きく深呼吸してから、最初の1歩を踏み出した。
ゆっくりと歩み出し、裂け目の中へと入り込んでいく。
武神の世界を後にした2人の背で、裂け目は静かに閉じられた。
武神ドライブと武神ゴーストが駆けつけた頃には、人の気配は完全に広間から消え失せていた。