仮面ライダー 鎧武&オーズfeat.ライダーズ ~暁の鎧~   作:裕ーKI

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第二話 鎧武の章:暴走! インベス人間!

 どんなものにもルールはある。この世界にも生命にも。

 それは長い年月をかけて築き上げられたものもあれば、理のように最初から定められていたものもある。もしくは、これから生まれるものも。

 ルールはどんな世界にも存在する。

 この世界にはこの世界のルールがあるように、私たちがいた世界にも私たちの世界のルールがちゃんと存在する。

 私たちは今まで、自分の世界のルールに従って生きてきた。

 勿論その世界に存在している以上、それは当然のことであり、生き抜いていくためには必要不可欠なことだった。

 しかし、世界の壁を越えた時――つまり、別の世界に足を踏み入れた時、ルールの違いに戸惑うのは必然ではないだろうか。

 例えば、ある人間が祖国を離れ、海を越えて外の国を来訪した時、やはり最初に驚くのは文化の違いだと思う。

 今まで当たり前に使ってきた言語が通じなかったり、食事のマナー1つ取っても混乱することだろう。

 モラルに対する価値観だって、きっと噛み合わないことがあるに違いない。

 そういう不安要素と同じようなことが、異なる世界の人間同士の間にも起こることは、誰が見ても明白である。

 

 私たちの世界は、戦が絶えない戦国時代同然の世の中だった。

 生きるために戦い、平和を守るために戦ってきた。

 私たちの戦の勝敗は、勝つか負けるかではない。生きるか死ぬか――殺すか殺されるかの極論でしかないのだ。

 自分の命を守るため――殺されないためには相手を殺すしかない。敵の脅威を少しでも削ぎ落とすためには1人でも多く殺すしかない。自分の血を見るか敵の血を見るか、それは己の腕次第。

 それが私たちの常識であり、私たちの世界のルールだった。

 誰が定めたか知る由もない、弱肉強食のルールだった。

 

 ずっとそのルールが正解であり、正しいと信じてきた。

 あの世界で生を受けて十数年、1度も疑問を感じたことさえなかった。

 だけど、この世界――命の恩人である駆紋戒斗が生き抜いたこの世界の様子を見るに、どうやら私たちの世界のルールとは少し勝手が違うようだ――。

 

 

 ☆

 

 

 ここはビートライダーズ――チーム鎧武の活動拠点であるガレージの中。

 普段はこの場所でチームメンバーたちがダンスの練習やミーティングを開き、時には他のチームとの交流の場所にもなっている。

 戦闘を終えた光実と貴虎は、落ち着いて話をするために謎の少年少女を連れてこの場所を訪れていた。

 無人のガレージは随分と物静かで、いつもはメンバーたちの笑い声で賑やかなだけに、ほんの少し寂しさを感じさせる。

 しかしそれだけに、話をするには好都合な場所だ。

 

「ここならゆっくりと話ができる。お前たちの話を聞かせてもらおうか」

 

 貴虎はスマートに着こなした黒のスーツのポケットに両手を突っ込んだまま、その鋭い眼光を少年少女に向けた。

 少年は貴虎の眼力に思わずたじろいでしまったが、少女の方は負けじと睨み返す。

 

「前フリもなく唐突だな。こういう時は、まずは君たちから名乗るのが筋……と、言いたいところだけど、私は君たち2人のことを知っている。いや、覚えてる」

「覚えてる? それはどういう意味だ? 何処かで顔を合わせたことがあったか……?」

 

 貴虎は顔色1つ変えることなく、険しい表情のまま少女に言葉を投げ掛ける。

 すると、少女の顔を眺めていた光実が、「あっ!」と何かを思い出したかのように唐突に声を上げた。

 

「君の顔、前に1度見た記憶が……。そうだ、たしか異世界に迷い込んだ時に!」

「異世界? 何の話をしている? 光実」

「兄さんも覚えてるでしょ? 前に僕と紘汰さんと駆紋戒斗が迷い込んだ世界で、武神鎧武を名乗るアーマードライダーと戦った時のことを」

「武神……鎧武……。あのおかしな世界のことか!」

 

 すっかり忘れていた記憶が蘇り、ハッとした表情を浮かべる貴虎。

 

「どうやら思い出したみたいね。「おかしな世界」って表現は少し引っ掛かるけど……。私の名前はランマル。こっちはシグレ。君たちが思い出したとおり、私たち2人はこことは違う別世界の住人。今は訳あって、こっちの世界にお邪魔しているの」

「訳って……一体どんな?」

 

 光実は警戒した表情で尋ねる。

 

「恥ずかしい話だけど、この街――いや、この世界は過去に何度か、外部からの侵略を受けて滅びかけているんだ。だから“別の世界の住人”なんて聞くと、簡単には安心できなくてね」

「そうか……。君たちの世界も大変なんだな。……いいわ、答えてあげる。私とこの子――シグレは、ある時、不思議な男と出会った。男は私たちに、この世界に足を踏み入れるか否かの選択を突きつけた。最初は迷ったけど、結局私たちはこっちの世界に来ることを選んだ」

「どうしてこの世界に来ようと思ったんです?」

「それは……」

 

 光実の問いに、ランマルは一瞬言葉を詰まらせた。

 すると、説明を引き継ぐようにシグレが、

 

「ラン姉は言っていました。今の僕たちの世界が以前よりも平和なのは、あなたたちが武神鎧武を倒してくれたおかげだと。だからそのお礼が言いたい。恩返しがしたいと」

「恩返しって……。別に僕たちはそんなつもりで戦ったわけじゃありませんよ。あの時は、元の世界に帰るため、囚われた仲間を助けるため。皆それぞれ、自分の目的のために戦っただけですよ。結果的にそれが、あなたたちの世界を救う結果に繋がった。ただそれだけです。だから変に恩を感じたり、そういうのはやめてください」

「しかし……」

「そんなことより、我々はまだお前たちに聞きたいことがある。恩返しだとか、そういうことを考えているのであれば、お前たちの知っている情報をもっと詳しく教えてくれないか?」

「……わかった」

 

 貴虎に促され、ランマルは渋々頷いた。

 こちらの気持ちを蔑ろにされたようで、なんだか腑に落ちない気分だが、相手方がそう言うのであれば仕方がない。

 

「それで? 何が聞きたい?」

「まずはお前たちが所持しているドライバーについてだ。我々が持っている戦極ドライバーと全く同じ物に見えるが、それを一体何処で手に入れた?」

 

 ランマルとシグレを交互に見つめながら、貴虎は淡々と質問を繰り出した。

 返答したのはシグレだった。

 

「これはえ~っと……、僕たちの世界にあったものを持ってきたっていうか……。元々はとある洞窟の中の祭壇に祀られていたものだったんですけど、さっき言った不思議な男が寄越してくれて。これと一緒に……」

 

 そう言ってシグレは、懐からブラッドオレンジロックシードを取り出した。

 

「ロックシード……。その……君たちが言う“不思議な男”って一体どんな人?」

 

 シグレが見せつけるブラッドオレンジロックシードを眺めながら、今度は光実が問いかける。

 

「さあね。正直、私たちにもよくわからない。独特の雰囲気を持った不気味な男だったけど……。確か自分のことを“ヘルヘイム”と名乗っていたわ」

「ヘルヘイム!?」

 

 ランマルが口にした思いがけない言葉に、光実と貴虎は驚きの表情を浮かべた。

 “ヘルヘイム”とは、本来は北欧神話の中に登場する言葉だが、光実と貴虎にとっては別の意味で馴染み深い言葉だった。

 野生のインベスや知性を持ったオーバーロードインベスが生息し、ロックシードの素となる果実が実る異世界の森に与えられた名前。そして、ある人物が名乗った名前でもある。

 当然、2人はその人物に心当たりがあった。

 

「その男ってまさか……」

「サガラか……」

 

 光実と貴虎は、共に1人の男を連想した。

 掴みどころのない言葉で人を惑わす神出鬼没のあの男。

 時にはインターネットラジオのカリスマDJに成りすまし、時には民族風の衣装を纏って忠告者を気取り、時には蛇の姿で相手を煽る。

 徹底して自分のことを“観客”だと言い切り、世界の行く末を見届け姿を消した。

 

「あの男のことを知っているのか?」

 

 打って変わって明らかに様子が違う光実と貴虎に、ランマルは不思議そうな表情を浮かべながら尋ねた。

 

「うん。まあ、ちょっとね……。話せば長くなるんですけど……。ただ、あの男が現れたということは、きっと何か意味があると思うんです」

「意味?」

「ええ。それが何なのかは、僕にはわかりませんけど……」

「なんだかスッキリしない答えね。つまり、その意味とやらは自分たちで見つけろってこと?」

「かも、しれません……」

 

 随分と歯切れの悪い言葉で頷く光実。

 無理もない。あの男――サガラの考えは人類の常識を超越しているのだから。

 そもそも人ですらないサガラ。

 その正体は、本人曰くヘルヘイムの森そのものなんだとか。 

 

「……まあいい。あの男についてはそのうちわかるでしょう。……ところで、今度は私からも質問して良いか?」

 

 そう言って、ランマルは唐突に話題を切り替えた。

 

「なんですか?」

「さっきの怪物のことだ」

 

 ランマルが切り出したのはインベス――特に曽野村たちが変身したインベスについてだった。

 

「あれは一体何なんだ? 戦いの最中、怪物の姿から人の姿に変わったが……」

「見ての通りだ。あの怪物は人間が化けたもの。恐らく何らかの方法で、怪物になれる力を手に入れたんだろう」

「奴らが変身した怪物――あれはインベスって言うんですけど、正直今回の件に関しては、僕らはまだ何もわかっていないんです。ただ、奴らがインベスになる時、怪しい小瓶を出していた……」

「小瓶だと?」

 

 光実の言葉に、貴虎が反応する。

 

「うん。液体が入った小瓶。曽野村たちはその液体を飲んでインベスに変身していた」

「果実ではなく……液体……。この案件は初めてのパターンだな……」

 

 貴虎は呟きながら、考え込むように俯いた。

 

「怪物の正体が人間なのは理解した。だけど私が気にしているのはそのことじゃない。あの時の君たちの戦い方だ」

「どういうことだ?」

「武神鎧武との戦を見ていたからわかる。君たちは相当に強い。なのにさっきの戦いでは、あの時の気迫が全く感じられなかった。何故だ? 2人の実力ならばあの程度の敵、簡単に始末できたのではないのか?」

 

 光実と貴虎に、交互に熱い視線を送りながら、ランマルは力説をする。

 その様子を、シグレは無言で見つめていた。

 

「力を抑えるのは当然のことだ。さっきも言ったはずだ。相手はインベスに化けているとはいえ人間なんだ。人間を殺すことなど、我々にはできん」

 

 そう言いながら貴虎は首を横に振る。

 するとランマルが、

 

「それは随分と甘い考えだな」

「なにっ?」

「相手が人間だろうと怪物だろうと、敵意を向けてくるのであればそれは敵だ。殺さなければ、己の命も他者の命も守れないぞ?」

「命を奪うことだけが解決策ではないだろう。拘束し、力の源を断てばそれで済む話だ。監視下に置けば、そこから情報を得ることもできるしな」

「そう簡単に物事が運ぶと思うのか? いつ何時何が起こるかわからない、それが戦というものだ。それにもし、相手が既に人間じゃなくなっていたらどうする?」

「どういう意味ですか?」

 

 貴虎とランマルの口論を傍で聞いていた光実が、不意に口を挟んだ。

 

「言葉通りさ。そもそも例え一時でも異形に姿を変え、牙をむいてきた相手を人間だと何故言い切れる? その身に非常識な変化が起こった時点で、そいつはもう普通の人間とは言えないのではないのか?」

「でも、奴ら――曽野村たちにはまだ人間としての人格も心もありました。ならまだ、手遅れにはなっていないはずです」

「楽観的な考えだな。私たちの世界の敵にも、元々は人間だった連中がいるが、そいつらも1度力を手に入れた時点で、既に人間とは呼べない存在に成り果てていた。そういうものさ。……力というものは、簡単に人の何かを狂わせてしまう。壊れた人間は、もう人とは呼べない別の存在に成り果てるのさ」

 

 ランマルの言葉に、光実と貴虎は妙な説得力を感じていた。

 単なる戯言ではない。幾つもの修羅場を乗り越えてきたかのような意志の強さが感じられる。

 しかし、だからといって2人も引き下がるつもりはなかった。

 

「お前の言っていることはわかる。我々もかつて、似たような光景を何度も見てきた。より多くの人間を救うために、怪物と化した人間を殺す覚悟もしてきた。いや、実際そうしてきた。だが、ある友人に言われて気がついた。人の命とは、簡単に割り切って良いものではない。僅かでも救える可能性があるなら、決して諦めてはいけないとな」

 

 貴虎の脳裏に、1人の青年の姿が思い浮かぶ。

 禁断の果実を手に入れ、神の力を得てこの地球を旅立った青年の姿が。

 

「……」

「……」

 

 互いに1歩も譲らず、にらみ合うランマルと貴虎。

 ガレージの中に気まずい空気が流れるが、その重苦しい雰囲気を断ち切ったのは、唐突に鳴り出した光実のスマートフォンだった。

 受話器に耳を傾けると、逃亡したチームレッドホットを追跡しているザックの声が聞こえてきた。

 どうやら奴らのアジトを発見したらしい。

 光実は二言三言会話を交わし、ザックに「すぐに合流する」と伝えると、スマートフォンをポケットに仕舞いこんだ。

 

「兄さん、ザックが曽野村たちの居場所を突き止めたって」

「そうか……。ならば急いで向かおう。……光実、お前は今ロックシードを失っている。ここは俺に任せて、お前はここで待機していろ」

 

 ランマルから視線を逸らした貴虎は、ガレージの扉の方に振り向きながら光実に告げる。

 

「待って! 僕も行くよ、兄さん。戦いに使えるロックシードならまだ持ってる」

 

 光実はそう言って、所持している2つ目のロックシードであるキウイロックシードを見せ付ける。

 貴虎は光実の表情を見つめながら少し考え、途端に口を開いた。

 

「……わかった。だが、そのロックシードだけでは心許ないだろう。お前はこいつを使え」

 

 そう言いながら貴虎が光実に差し出したのは、次世代型の変身アイテム――ゲネシスドライバーとメロンエナジーロックシードだった。

 ゲネシスドライバーもメロンエナジーロックシードも、戦極ドライバーとロックシードの発展型として開発されたシステムであり、普段は貴虎がアーマードライダー斬月・真に変身するために使用しているものである。

 以前、光実も数度に亘って斬月・真に変身したことがあるが、当時はその力を使って大きな過ちを犯してしまった。

 

「兄さん、これは……」

「今のお前なら、この力を正しく使うことができるはずだ」

 

 突然のことに戸惑いながら、光実は貴虎のゲネシスドライバーとメロンエナジーロックシードを受け取った。

 かつては兄の許可も得ずに、半ば無断で使用していた次世代アイテムだったが、今回は自分のことを信頼してくれている兄自身の判断で貸し与えられた。

 そんな兄の気持ちが、光実は内心嬉しくて仕方なかった。

 

「ありがとう、兄さん。使わせてもらうよ」

 

 ゲネシスドライバーとメロンエナジーロックシードを握る手に思わずギュッと力を込めながら、光実は笑顔で礼を言った。

 

「ああ。それより時間がない。急ぐぞ」

「うん!」

 

 出口に向かって歩み出す貴虎と光実。

 しかし、そんな2人をシグレが慌てて呼び止める。

 

「待ってください! またさっきの奴らと戦いに行くんでしょ? だったら僕たちも!」

 

 そう言って2人に付いて行こうとするが。

 

「気持ちは嬉しいが、お前たちの力を借りるつもりはない」

 

 足を止めた貴虎が放った言葉は無情なものだった。

 

「そんな……どうして?」

「さっきの話でわかった。敵という認識だけで、相手の命を躊躇なく斬り捨てようとするお前たちは、この世界での戦いはきっと向いていない。世界の壁を越えてまで足を運んできたところ悪いが、さっさと自分達の世界に帰ったほうが良い」

「君たちだけで戦うつもりか?」

 

 鋭い視線を向けたまま、ランマルは貴虎に尋ねる。

 

「無論だ」

「そう……。なら1つだけ聞かせて。君たちがまだ人間と信じる敵が、もし既にそうじゃなくなっていたら、君たちはその敵を殺せるのか?」

「ああ。罪を背負う覚悟はできている。随分前からな……」

 

 その言葉を残して、貴虎と光実はガレージを後にした。

 2人の後姿を、ランマルとシグレはただ見つめることしかできなかった。

 

 

 ☆

 

 

 斬月とナックル、そして突如現れたアーマードライダー鎧武・華の前から姿を消したチームレッドホットの3人は、逃亡の末、廃屋となったバーの中に身を潜めていた。

 そこはかつてのヘルヘイムの森の侵食がきっかけで潰れてしまった店跡で、建物内のテーブルや椅子は乱雑に放置され、窓ガラスの殆ども割れてしまっていた。

 光実にチームレッドホットの居場所を伝えたザックは、駐車場に停めて忘れ去られた数台の廃車同然の車の間をすり抜けながら、曽野村たちが潜む建物の傍へと忍び寄っていた。

 息を殺し、割れた窓から中の様子を覗くザック。

 廃屋の中では、なんとか逃げ延びたチームレッドホットのメンバー――初級インベスに変身していた曽野村の手下の2人が、テーブルに腰を掛けながら談笑に浸っていた。

 会話の内容は、殆どさっきの出来事に対する愚痴のようであったが、ザックが気になったのは、その奥のカウンター席で会話にも交ざらずに背中を向けている曽野村だった。

 まるで酒にでも溺れているかのように、ブツブツと独り言を呟きながら無我夢中で何かを飲み続けている。

 既に数え切れないほどの本数を飲み干しているのか、足元には何本もの小瓶が散らばっている。

 

「あの瓶ってまさか……」

 

 床の上に転がる見覚えのある小瓶を目の当たりにしたザックは、思わずその目を見開いた。

 間違いない。あの小瓶は、さっきの戦いで曽野村たちがインベスに変身する際に使用したものだ。

 人間をインベスに変える危なげな液体。そんなものを1度に大量に飲んでしまって大丈夫なのだろうか。

 大きな不安を感じるザックの存在を知る由もなく、手下の2人も曽野村の異変に気づいたようだ。

 

「リーダー? どうしたんスか? さっきからなんか静かッスけど?」

「曽野村さん?」

 

 返答がない曽野村の様子に首を傾げる2人。

 カウンターに座り込んだまま、振り向こうともしない曽野村の傍に歩み寄ろうとするが、足元に散らばった大量の小瓶に気がつくと、2人は血相を変える。

 

「そ、曽野村さん……まさかコレ、全部飲んだんですか……!?」

「たしか“ヘルジュース”って3時間に1本のペースじゃ……。っていうか大丈夫ッスか、身体」

 

 2人の男は恐る恐る曽野村の顔を覗き込む。

 その瞬間、2人は恐怖のあまり言葉を失い、血の気が引いた表情で悲鳴を上げた。

 

「うわあああああああ!!!」

「ば、バケモノォオオオオ!!!」

 

 戦慄した様子で慌てて後ずさる2人。

 彼らが見た曽野村の顔は、最早人のものとは思えないほどに変形、変異していた。

 顔の表面は真っ赤に変色し、両目はカエルやカメレオンのように丸く膨張し腫れ上がっている。

 さらに舌が異様に長く伸び、口の隙間からは大量の涎が零れ落ちていた。

 

「足りネえ~……もット力がホシ~……。ツヨくナリてエ~……」

 

 うわ言のような言葉を口にしながら、尚も小瓶の中身を飲み干していく曽野村。

 

「あアぁ~……ソレニしてモ腹ヘッたな~……」

 

 やがてその視線は傍に立つ手下の男達に向けられる。

 

「お前ラ、なかまダろトモだチダろゲボクだろォ~! チョット飯に付きアエよ~!」

「め、飯って一体何を……?」

 

 怯えた表情で男の1人が聞き返す。

 すると次の瞬間、

 

「メしといえバ仲間ノことだろうガァ!!」

 

 まるで餌を発見した獣のように、曽野村が男に飛び掛った。

 

「ぎゃぁあああああああああああ」

 

 衝撃で床に倒れこんだ男の上に覆いかぶさった曽野村は、そのまま男の首筋を噛み千切る。

 

「がはっ……」

 

 刹那に吹き出した大量の血飛沫と共に、男の断末魔は途切れ、男の命も息絶えた。

 ただの真っ赤な肉塊となった男の身体に、曽野村は嬉しそうにかぶりつく。

 その光景は獲物を貪るサバンナの肉食動物そのものだった。

 

「なんだよ……これ……」

 

 窓の外から中の様子を見ていたザックは、目の前に広がる地獄絵図に絶句。その生々しさに吐き気を感じていた。

 

「あ……あぁ……わあああああああああ!!!」

 

 血の海の真ん中で仲間を喰らう仲間の姿に、完全に怖気づいたもう1人の男は、曽野村が仲間の屍に夢中になっているその隙に、出口の扉に向かって全速力で走り出した。

 縺れる足も顧みず、男は絶叫しながら全身で扉に体当たりした。

 腐りかけの木製の扉が勢い任せに開き、男は曇天の下に開放される。

 来た道を振り返る間もなく、急いでその場から逃げようとする男だったが、それに気づいたザックが慌てて後を追い、男の肩を掴んだ。

 

「おい! ちょっと待て! 何がどうなってんだ!?」

「し、知らない! 俺にもわからない! それよりも助けてくれ!」

 

 怯える男は無我夢中でザックの袖にしがみ付く。

 まともな返答を得られず、困惑するザック。

 しかし、そうしている間にバーから出てきた曽野村が、1歩、また1歩と背後に迫りつつあった。

 

「き、来た……。追いかけてきた……。今度は俺を食うつもりだ……」

 

 ガタガタと身体を震わせながら、男はザックの背後に隠れる。

 

「曽野村! お前、一体どうしちまったんだよ!?」

 

 少しずつ後退りしながら、ザックは歩み寄ってくる曽野村に問いかけるが。

 

「アあぁ? どウモこうもアルかよォ! オレハ腹が減ってンダヨ! ソイつは仲まナンダよ! だかラ俺のメしナンダよ! ダカらおれ二食わセロよぉ!」

 

 仲間の返り血で赤い服をさらに赤く染めた曽野村は、ビー玉のような狂気染みた瞳をコロコロと転がしながら、ザックとその背後にいる男の姿を捕捉する。

 

「こいつ……狂ってやがる……」

 

 噛み合わない言動や人間離れした曽野村の姿を改めて間近で見たザックは、その醜悪さに思わず表情を歪めた。

 

「俺ノめしダァアアア!!」

 

 威嚇するように大きく叫んだ曽野村は、その口から太く長い不気味な触手を吐き出した。

 体液が滴る1本の触手は、ザックたちに向かって真っ直ぐと伸びていく。

 

「伏せろ!」

 

 咄嗟に危機を察知したザックは、背後の男共々しゃがみ込み、触手の一撃を回避した。

 

「ちっ! 仕方ねえ! お前は逃げろ!」

 

 触手が曽野村の口の中に戻っていくその隙に、ザックは男をその場から逃がすと、戦極ドライバーを装着し、クルミロックシードを開錠させた。

 

「変身!」

『クルミアームズ! ミスタァーナックルマン!』

 

 アーマードライダーナックルに姿を変えたザックは、両腕のクルミボンバーを構えながら曽野村に向かって走り出す。

 

「おマエも俺ノ仲まになるノかァ~!!」

 

 感情の高ぶりと共に全身が植物に覆われ、ライオンインベスに変貌した曽野村は、接近してくるナックルに飛びついた。

 

「ふざけんな! 仲間になるのも餌になるのもどっちも御免蒙るぜ!」

 

 ナックルはすかさずストレートパンチを繰り出し、ライオンインベスを押し戻す。

 

「ちょっと大人しくしろよ! 曽野村ぁ!」

 

 アスファルトに着地し、再び突撃してくるライオンインベスを捕捉しながら、ナックルは戦極ドライバーのカッティングブレードを素早く2回倒した。

 

『クルミ・オーレ!』

 

 ドライバーから電子音声が鳴り響く中、ナックルは左右の拳を交互に突き出し、クルミ型のエネルギー弾を撃ち出した。

 

「ギャァアアアアア!」

 

 弾は真っ直ぐと飛び、ライオンインベスに直撃。

 死なないようにパワーは抑えたが、この攻撃をまともに喰らえば暫くは動けないはず。

 砂埃に包まれたライオンインベスの姿を確認するべく、ナックルはじりじりと近づいていく。

 するとその時、

 

「グルァアア!!」

 

 突然、獣のような咆哮と共に真っ赤な手がナックルの視界に飛び込んできた。

 

「うわっ!?」

 

 不覚にも驚いてしまったナックルは思わず声を上げるが、同時にライオンインベスの爪が勢い良く振り下ろされた。

 胸部アーマーに引っ搔き傷を残されたナックルは、たじろぐように後退りする。

 

「ひヒヒひヒ……。今ノハ驚いタだろ? 今度はテメエのノドヲ切り裂イてヤロウか……」

 

 涎をボタボタと垂らしながら、砂埃から姿を現すライオンインベス。

 

「こいつ……俺の攻撃が効いてないのか……」

 

 その光景にナックルは愕然とする。

 

「へへぇ~。てメえの攻撃ナンザ痛くモかゆくもネエ! 大人シク俺の飯二なっちマエヨォ!」

 

 威嚇するように両手の爪を立てたライオンインベスは、ギラリと牙を光らせナックルに襲い掛かる。

 

「この野郎!」

 

 闘志を滾らせるナックルも、負けじと拳を振り上げ、敵を迎え撃つ。

 

 

 

 繰り広げられるナックルとライオンインベスの戦い。

 その様子を、上空を無音で飛ぶ1台のカメラ付きのドローンが監視していた。

 撮影された映像はとある場所に設置されたパソコンのモニターに映し出されている。

 薄暗いオフィスの中でその映像を見つめる1人の女性が、タバコを銜えながら不敵な笑みを浮かべた。

 

「……見つけた」

 

 

 ☆

 

 

 穏やかに流れる水の音が心地良い川沿いの道。

 ウォーキングを楽しむ老人や追いかけっこして遊ぶ子供たちとすれ違いながら、ランマルとシグレはのんびりとその道を歩いていた。

 

「これが戒斗の生きていた世界か。私たちの世界と似ている部分もあるが、確かに別の世界だな」

 

 ランマルは物珍しそうに辺りを見回しながら、沢芽市の風を肌で感じていた。

 眼に映るもの全てが新鮮に見えてワクワクが止まらない。

 林立する建造物群やコンクリートで固められた道を走る自動車、川を流れる水や雲が浮かぶ空、何もかもが自分たちの世界のものと同じようでいて全然違う。

 ランマルは大きく深呼吸して暖かな空気を吸い込んだ。

 道端に生えた草木の香りが彼女の心をリラックスさせる。

 

「この世界は良い風が吹くな。我々の世界とは大違いだ」

 

 ランマルとシグレが生まれた世界は戦乱の世。毎日のように彼方此方で戦が起こる物騒な世の中だ。

 少し歩けば道端に死体が転がっていることなど日常茶飯事だった。

 ランマルたちの世界――武神の世界の風は血の臭いを孕んでいた。

 血の臭いだけじゃない。死体が腐った臭いや火薬の臭い、戦の残酷さを象徴するような臭いが幾つも混ざっていた。

 とてもじゃないが気持ち良く深呼吸なんてできやしなかった。

 あの2人――呉島光実と呉島貴虎の話によると、この世界も過去に何度か戦が起きていたようだが、どうやら今はまだ、風を血に染めてはいないようだ。

 

「しっかり守り抜いている……という訳か」

 

 川の流れを見つめながら、ランマルは小さく呟いた。

 

「ねえ、ラン姉」

 

 後ろを付いてきていたシグレが不意に声を掛けてきた。

 

「どうした? シグレ」

「あ、いや……あの人たちの後を追わなくて良いのかなって……」

 

 シグレは少し言いづらそうに言葉を口にした。

 

「あの人たちってさっきの2人のことか」

「うん。だって、ヘルヘイムを名乗る男が言っていたこの世界に起きている問題って、きっとあの怪物になる人間のことでしょ? だったら、やっぱり僕たちも彼らに協力した方が良いんじゃないかな」

「しかしなシグレ、協力を断ったのは向こうなんだ。拒否されている以上、我々は手の出しようがない。悔しいけど彼らの言うとおり、帰る方法を探して、私たちはさっさとこの世界を後にしよう」

 

 ランマルはため息混じりに言った。

 

「ラン姉はそれでいいの?」

「え?」

「彼らには僕たちの世界を救ってもらった恩があるんでしょ? 彼らはああ言っていたけど、恩を仇で返したままでラン姉はそれでいいの?」

「どうした急に。お前はどっちかっていうと、この世界の問題に関わるのは反対だったじゃないか。なのに今更――」

「僕はただ、ラン姉に付いていくだけだよ。だからラン姉が帰るって言うのなら、僕も文句を言わずに一緒に帰るよ。だけど、ラン姉は本当にこのまま帰って大丈夫なの?」

「どういうことだ?」

「このまま帰ってしまって、後になって後悔しない?」

「後悔……?」

「僕はラン姉が大好きだよ。だからラン姉にはどんな時でも後悔はしてほしくないんだ。悔いがないように、どんな時でも最善の選択をしてほしい」

 

 シグレの真っ直ぐな瞳に見つめられ、ランマルは思わずたじろいだ。

 時々シグレはこういう眼をする。

 曇り1つない、純粋で無垢な眼差し。

 ランマルはシグレのそういう眼が好きであり、同時にある意味苦手でもあった。

 彼の子供のようにキラキラと輝く瞳の前では、どうにも反論する気が失せてしまう。

 ランマルはやれやれと肩を落とした。

 

「……わかったよ。お前がそう言うなら、もう1度あの2人に会ってみよう。ヘルヘイムという男の話が本当なら、この世界の問題はいずれ我々の世界にも影響を与える可能性がある。私たちの世界を守るためにも、簡単に諦めるわけにもいかないしな」

「そうだね」

 

 ランマルの言葉に、シグレは笑顔で頷いた。

 

「そうと決まれば、急いで2人の所に戻らないとな」

「うん。あ、でも……きっと彼らはもう戦に出ているよ。土地勘のない僕たちじゃ、2人の居場所を見つけられないよ」

「大丈夫。私たちには“コレ”がある」

 

 そう言うと、ランマルは懐からあるアイテムを取り出した。

 それは赤いラインが入った銀色の缶のような物体。中心には鷹のシルエットが描かれている。

 シグレはランマルの手に握られたそれを見て、思わず驚きの表情を浮かべた。

 

「あ! カンドロイド!?」

 

 

 ☆

 

 

 アーマードライダーナックルとライオンインベスの戦場に、光実と貴虎が駆けつけた。

 

「ザック!」

「ミッチ! 待ってたぜ!」

 

 曽野村が変貌したライオンインベスの爪の攻撃を両手の拳で受け止めながら、ナックルは安堵の声を漏らした。

 肩を並べて立つ光実と貴虎は、一進一退の戦いを繰り返すナックルとライオンインベスの姿を視界に捉える。

 2人の腰には既に変身ベルト――戦極ドライバーとゲネシスドライバーが装着されている。

 

「兄さん!」

「ああ。行くぞ、光実!」

 

 光実と貴虎は、取り出したメロンエナジーロックシードとメロンロックシードを開錠させた。

 

『メロン!』

『メロンエナジー!』

 

 2人の頭上にクラックが開き、形成された果実の鎧が降りてくる。

 光実と貴虎は同時に叫ぶと、ロックシードとエナジーロックシードをドライバーに装填した。

 

「「変身!!」」

『ソイヤ! メロンアームズ! 天下御免!』

『ソーダァ! メロンエナジーアームズ!』

 

 頭から被った鎧を身に纏い、2人はアーマードライダーへと姿を変えた。

 貴虎は斬月メロンアームズに。そして、兄から借り受けたゲネシスドライバーを使い、光実は斬月・真メロンエナジーアームズへと変化した。

 2人の斬月が今、戦場の大地に並び立つ。

 

「よっしゃ!」

 

 斬月と斬月・真の姿を目の当たりにし、気合を入れ直したナックルは、2、3発拳を叩き込んでライオンインベスを怯ませる。

 その隙に斬月と斬月・真はそれぞれ武器を構えて一斉に走り出す。

 素早く急接近した2人は、威力を加減しつつも手にした刃を振り下ろした。

 斬月の無双セイバーと斬月・真の創生弓ソニックアローの刃が、ライオンインベスのボディを切り裂いた。

 

「グェえエえ……! ヤ、ヤリやがっ…ガッガったな……。オデ、お前ララ……こ、コロス!」

 

 狂った悲鳴を上げたライオンインベスは、標的をナックルから斬月と斬月・真へと変更。口から零れる涎を飛び散らせながら、2人に向かって攻撃を仕掛ける。

 

「なんだこいつ……。さっきと様子が違うぞ!」

「なんか変だ……。ザック、一体どうなってるんだ!?」

 

 初戦の時と明らかに違い、人間離れした狂気を感じさせるライオンインベスの猛攻に、斬月と斬月・真は違和感を覚えた。

 デタラメに振り回す爪の攻撃をソニックアローの刃で受け止めながら、斬月・真はナックルに尋ねる。

 

「曽野村の奴、あの怪しい小瓶を数え切れないほど飲みやがったんだ。それでおかしくなったこいつは、仲間の1人を食いやがった!」

「食べた!? 人間を!?」

 

 ナックルの言葉に、驚きを隠せない斬月・真。

 

「人を食うインベスなど聞いたことがないぞ!」

 

 メロンディフェンダーと無双セイバーを交互に繰り出しながら敵の攻撃を対処していく斬月も、ナックルが口にした真実を疑わずにはいられなかった。

 無理もない。彼らが知る限り、インベスが摂取するのはヘルヘイムの森に実る果実だけのはず。人肉を喰らった例など、これまで1度もないはずなのだ。

 呆気にとられる斬月と斬月・真を余所に、ナックルは話を続ける。

 

「それにこいつ、症状が少しずつ酷くなってるみたいなんだ! 言葉まで狂ってきてる……」

「理性や知性が消失しかけているのか……」

 

 斬月は爪の一撃をメロンディフェンダーで弾き、がら空きになった懐に一太刀を浴びせる。

 

「ギィエエ!」

 

 悲鳴と共に後退りするライオンインベス。

 そこにすかさずナックルが拳を打ち込む。

 

「兄さん! どうにかして曽野村を人間に戻せない?」

 

 ソニックアローを構えながら、斬月・真は斬月に問いかける。

 

「奴らをインベスに変えた小瓶の正体がわからない以上、手の打ちようがない……。くっ……。あの女の言うとおりになってしまった……」

 

 斬月――貴虎の脳裏にランマルの言葉が過る。

 

“壊れた人間は、もう人とは呼べない別の存在に成り果てるのさ”

 

 理解はしている。確かにその通りかもしれない。

 だけど、そう簡単に受け入れたくない。諦めたくない。諦めてはいけない。僅かでも救える可能性があるのなら。

 己を奮い立たせるように、貴虎は仮面の下で唇を噛み締める。

 

「とにかく、奴を拘束して保護するぞ! 詳しく調べれば、奴を元に戻す手立てが見つかるかもしれない!」

 

 士気を鼓舞するように、斬月は大きな声で言い放つ。

 その言葉に頷いた斬月・真とナックルは、ライオンインベスの動きを封じるために行動を起こす。

 

「オラオラオラオラァ!!」

 

 斬月・真がソニックアローのトリガーを力いっぱい引いている間に、軽快なフットワークで接近したナックルが、ライオンインベスの身体に強烈な連続パンチを叩き込む。

 ライオンインベスが怯んだ隙に、今度は斬月・真がトリガーを離し、ソニックアローから光の矢を発射した。

 エネルギーで形成された矢は真っ直ぐ飛んで敵の胸に命中。刹那に爆発し、ライオンインベスを背後に吹き飛ばした。

 アスファルトの上をゴロゴロと転がり、横たわるライオンインベス。

 一気に勝負を決めるべく、斬月が攻撃を畳み掛けようと前に出るが、するとその時、ふらつきながらも立ち上がったライオンインベスが、光実から奪ったブドウロックシードを取り出した。

 

「あれは僕の……」

 

 敵の不可解な行動に警戒を強めるアーマードライダーたち。

 そんな中、ライオンインベスが取った行動は予想外のものだった。

 

「腹ガ……減ッタ……」

 

 ライオンインベスは、鋭い牙が生えた口をガバッと大きく開き、そこにブドウロックシードを持った手をゆっくりと近づけていった。

 

「あいつ、ミッチのロックシードを食う気か!?」

「そうはさせるか!」

 

 誰よりも先に敵の行動を察知した斬月が、咄嗟に無双セイバーをガンモードに切り替え、ライオンインベスの手の甲を射撃した。

 

「ガッ!?」

 

 無双セイバーの銃口から発射された光弾に弾かれ、ライオンインベスの手を離れたブドウロックシードが宙を舞う。

 

「光実!」

 

 斬月が叫ぶのとほぼ同時に、斬月・真は地面を蹴って跳躍し、空中のブドウロックシードを片手でキャッチした。

 

「僕のロックシード……。良かった……」

 

 愛用のロックシードが無事手元に戻ってきたことに、斬月・真――光実はホッと胸を撫で下ろした。

 

「同時に仕掛けて奴を追い込むぞ!」

「わかったよ! 兄さん!」

「任せろぉ!」

 

 斬月、斬月・真、ナックルの3人は一斉に駆け出し、ライオンインベスを取り囲む。

 

『ブドウ・チャージ!』

 

 斬月・真は取り戻したばかりのブドウロックシードをソニックアローに装填し、上空に向かってそのトリガーを引き放つ。

 ライオンインベスの頭上まで飛んだ光の矢はぶどうの形に変化し、次の瞬間、花火のように弾け飛んで粒状のエネルギー弾が拡散。真下にいるライオンインベスへと降り注いだ。

 

「ガルルアアァァァ……」

 

 光のシャワーを浴びせられ、ライオンインベスは悲鳴を上げる。

 そこへさらに斬月とナックルが追い討ちを仕掛ける。

 

『メロン・スカァーッシュ!』

『クルミ・オーレ!』

 

 エネルギーを集中させた斬月の刃とナックルの拳が、同時にライオンインベスの身体に叩き込まれた。

 2人のアーマードライダーの挟み撃ちを受けた瞬間、ライオンインベスの悲鳴は途切れ、その真っ赤な身体はバタリとその場に倒れ伏した。

 ピクリとも動かずに横たわったままのライオンインベスに、3人のアーマードライダーたちは息を呑む。

 

「こいつ……まさか死んだのか……?」

「いや、威力は抑えた。まだ息はあるはずだ」

「今のうちに拘束して、何処か安全なところに……」

 

 そう言って斬月・真がライオンインベスに手を伸ばした。と、その時。

 

「グルァアアアアアアア!!」

 

 唐突に飛び起きたライオンインベスが、斬月・真の身体に掴み掛かった。

 

「こいつまだ!?」

「てめえ! ミッチから離れろ!」

 

 すかさず放ったナックルの一撃がライオンインベスを吹き飛ばす。

 しかし、ライオンインベスはまるで猫のように空中で宙返りして着地。獰猛な目つきでアーマードライダーたちを睨みつける。

 

「許……サネエ……許……サネエ…………ユルサネエエエエエエエ!!!」

 

 その瞬間、怒りに満ちた凄まじい叫び声と共に、ライオンインベスの肉体に異変が起きた。

 両手を地面につけたライオンインベスの身体が大きく膨張し、爪や牙もさらに鋭く発達していく。

 背中の翼は天空を覆い隠すほどに伸長し、眼光を放つ瞳からは人間の意志は完全に失われていた。

 超大型ダンプトラックと同じほどの大きさに巨大化したライオンインベスは、最早四足歩行の獅子の怪獣と化していた。

 

「グォオオオオオオ!!!」

 

 アーマードライダーたちが呆然と立ち尽くす中、巨大ライオンインベスは地面を振るわせるほどの咆哮を上げながら、助走無しのロケットスタートで突進を繰り出してきた。

 

「散開しろ!」

 

 斬月の咄嗟の指示を合図に、アーマードライダーたちは一斉に回避行動を取る。

 その巨体に見合わぬスピードで迫り来る巨大ライオンインベスの攻撃からなんとか逃れた斬月・真は、人の形を失った敵の姿に愕然としていた。

 

「兄さん! どうなってるの、これ……。曽野村はどうなったの?」

「あのインベスの中に残っていた人間性が完全に消えたんだ……。こうなってはもう、奴は暴れまわるだけのただの怪物だ……」

 

 斬月・真の問いに、斬月は悔しさを滲ませた声で答えた。

 

「どうすんだよ? 貴虎さん!」

 

 ナックルも判断に困り、次の行動を起こせずにいた。

 そうしている間に、振り向いた巨大ライオンインベスは2発目の攻撃を放とうとしていた。

 

「このままでは街に甚大な被害が及んでしまう……。我々にできることは、奴にこれ以上罪を重ねさせないことだ!」

 

 沢芽市を守るため。そして、人間として救い出すことができなかった曽野村にせめてもの救済を。

 斬月は覚悟を決めるように右手の無双セイバーをより一層強く握り締めた。

 

「倒すしかない! ザック!」

「ああ。やるしかねえってことか!」

 

 斬月の覚悟を察した斬月・真とナックルも、腹を括って武器を構えた。

 決意したアーマードライダーたちを前に、巨大ライオンインベスはその口を大きく開いた。

 口の奥からは圧縮された炎の塊がメラメラと顔を出している。

 巨大ライオンインベスの獣の目が、3人のアーマードライダーたちをしっかりと捉え、今まさにオレンジ色の火炎弾が発射されようとしていた。

 攻撃を防ごうとメロンディフェンダーを前に突き出す斬月。

 先制攻撃で発射を阻止しようと、ソニックアローのトリガーに手を掛ける斬月・真。

 渾身の力をこめたパンチで火炎弾を打ち返そうと試みるナックル。

 各々が戦いに勝つために抗おうとする中、するとそこへ、1羽の鳥が真っ直ぐと戦場に飛来した。

 普通の鳥ではない。全身を特殊な金属で覆われた機械仕掛けの鳥。

 赤色のラインが特徴的な鋼の鳥は、果敢にも巨大ライオンインベスの顔面に勢いよく体当たりして、火炎弾の発射を妨害した。

 小さくとも鋭い鋼の鳥の不意打ちは、巨大ライオンインベスを僅かだが怯ませた。

 

「なんだ今のは!?」

 

 アーマードライダーたちが突如現れた鳥の姿に驚きの声を上げる中、鋼の鳥は空中で缶の形に変形し、その場に現れた1人の少女の手の中に収まっていった。

 銀色の缶が飛んでいった先に立っていたのは2人の少年少女。その2人の姿を目の当たりにした途端、斬月は思わず叫んだ。

 

「お前たちは……。何故ここにいる!?」

 

 斬月の問いに対し、少女は手に取った銀色の缶を見せびらかしながら口を開いた。

 

「これは我が武神オーズ軍の装備品の1つ、鷹のカンドロイド。こいつが君たちの居場所を見つけてくれたよ! この戦、私たちも手を貸そう!」

 

 アーマードライダーたちの視線を釘付けにする少年少女の正体、それはチーム鎧武のガレージで別れたはずの異世界からの訪問者――ランマルとシグレだった。

 

「お前たちの力を借りるつもりはない。そう言ったはずだ!」

 

 ランマルの申し出を拒否するように、斬月は言葉を返す。

 

「確かにそうだが、シグレに色々言われて私も気が変わったのさ。それに思い出したんだ。以前、君たちが我々の世界を訪れた時、君たちは誰に言われるでもなく、勝手に武神鎧武と戦い、勝手に世界を救ってくれた。だから私たちも、勝手に君たちの戦いに首を突っ込み、勝手に手助けすることに決めた! 勿論、この世界にいる間はこの世界のルールに従うさ。それなら文句はないだろう?」

 

 ランマルに言われて斬月は考えた。

 確かに、敵が予想外のパワーアップを遂げた以上、戦力は1人でも多い方が良い。

 もし本当に、彼らがこちらの意志に従って戦ってくれるのであれば、心強いことは間違いない。

 少しの間沈黙していた斬月は、ランマルとシグレの姿を見つめながら、念のためにもう1度確認する。

 

「……本当に、こちらのルールに従ってくれるのか?」

「当然。元々私たちは、君たちに協力するためにこちらの世界に来たんだから」

「……わかった。その言葉を信じよう。協力を頼めるか?」

「ええ。喜んで」

 

 ランマルはコクッと軽く頷き、隣に立つシグレも同調して笑みを浮かべた。

 こうして沢芽市のアーマードライダーと武神の世界の戦士たちは協力関係を結ぶことになった。

 

「それで? 目の前にいるあの怪物は一体何?」

 

 さっそく状況確認に取り掛かったランマルは斬月に尋ねる。

 彼女たちが見つめる先では、斬月・真とナックルが巨大ライオンインベスを相手に激闘を繰り広げている。

 

「あれはさっきの戦いでインベスに化けていた人間の……成れの果てだ。悔しいが君の言うとおり、我々が駆けつけた時には奴は既に人間ではなくなっていた」

「……そう。それなら、君たちはこれからどうするつもり?」

「辛いことだが……奴を倒す。この街の為にも、奴のためにも……」

「……わかった。ならばその手伝い、引き受けましょう。……シグレ!」

 

 戦況と斬月の心境を理解したランマルは、傍にいるシグレに目配せを送る。

 彼女の意思を読み取ったシグレは腰に戦極ドライバーを装着し、巨大ライオンインベスを視界に捉えて前に出る。

 

「任せてラン姉! この戦、僕たちが終わらせる! 変身!」

『ブラッドオレンジ!』

 

 シグレは開錠したブラッドオレンジロックシードを戦極ドライバーに装填し、カッティングブレードを倒した。

 

『ハッ! ブラッドオレンジアームズ! 茨道・オンステージ!』

 

 頭上に開いたクラックから舞い降りた真っ赤な果実の鎧を身に纏い、シグレはアーマードライダー鎧武・華へと姿を変えた。

 赤い大橙丸を握り締め、鎧武・華は斬月と肩を並べて走り出す。

 その後姿を見送りながら、ランマルもホルスターから2丁の拳銃を抜き取り、行動を開始する。

 

「くっ……強い……」

「なんなんだこいつ……」

 

 巨大ライオンインベスの猛攻に、斬月・真とナックルは苦戦を強いられていた。

 そこに鎧武・華と斬月が合流する。

 

「大丈夫ですか! 僕も皆さんに加勢します!」

 

 目の前に現れた新参者に、斬月・真とナックルは一瞬戸惑うが、斬月から事情を聞いた2人はすぐに納得し、鎧武・華の協力を快く受け入れた。

 眼前で肩を並べる4人のアーマードライダーたちを凶暴な眼差しで睨みながら、巨大ライオンインベスはグルルと喉を鳴らす。完全に獣と化した今の曽野村にとって、目の前のアーマードライダーたちは、空腹を満たす餌以外の何者でもなかった。

 

「いくぞ!」

 

 斬月の掛け声を合図に、アーマードライダーたちは一斉に攻撃を仕掛けた。

 敵の全身を見渡せる位置までバックステップで移動した斬月・真は、相手の無防備な部分を的確に狙って光の矢を浴びせていく。

 ナックルは振り下ろされる前足を掻い潜りながら、巨大ライオンインベスの腹の下に潜り込み、強烈なアッパーを叩き込んだ。

 真下から打ち込まれた衝撃により、巨大ライオンインベスの巨体が若干だが浮かび上がる。

 その隙に鎧武・華と斬月は同時に跳躍し、空中で交差しながら巨大ライオンインベスの顔面を切り裂いた。

 巨大ライオンインベスの額に×字の切り傷が浮かび上がる。

 

「グォオオオオオオオオ!!!」

 

 怒り狂った巨大ライオンインベスは、耳障りな咆哮と共に背中の両翼を大きく広げ、上下に羽ばたかせて突風を巻き起こした。

 

「なにっ!?」

「うわっ……」

 

 凄まじい風圧により、空中に巻き上がるアーマードライダーたち。

 自由を奪われ、このままでは反撃できない。

 

「なんとか…しなければ……」

「僕に任せて!」

 

 暴風に捕らわれたこの状況の中で、そう切り出したのは光実――斬月・真だった。

 斬月・真は空中で身体を揺さぶられながらも、懐からキウイロックシードを取り出した。

 それをソニックアローにセットし、渾身の力で一振りする。

 

『キウイ・チャージ!』

 

 ソニックアローの両端の刃から、輪切りのキウイの形をした2枚の光の刃が放たれた。

 高速回転しながら暴風の中を突き抜けた円盤状のエネルギー刃は、途中で二手に分かれると、巨大ライオンインベスの両翼を根元から切断した。

 2枚の大きな翼がバサッと地面に落ち、暴風もピタリと止んだ。

 開放されたアーマードライダーたちは難なく着地を決める。

 そんな中、

 

「ガァアアアアアアア……」

 

 切り口から噴水のように血飛沫を噴き出しながら、巨大ライオンインベスはもがき苦しみ悲鳴を上げた。

 そこへ2発の銃声が鳴り響く。

 アーマードライダーたちが反応するよりも速く、撃ち出された弾丸はある箇所に命中。

 刹那に巨大ライオンインベスの悲鳴はより大きなものに変わった。

 見ると、巨大ライオンインベスの両目が破裂したように潰れ、血が涙のように流れている。

 銃声が聞こえたのは背後だった。振り向くと、2丁の拳銃を構えたランマルの姿がそこにはあった。

 

「ラン姉……」

 

 鎧武・華が徐に呟いた。

 

「ボヤっとしないで! 敵を仕留めるなら今よ!」

 

 銃を下ろしながら、ランマルは言い放つ。

 

「……いくぞ! 奴に止めを刺す!」

 

 斬月にそう言われ、アーマードライダーたちは腰のドライバーに手を掛ける。

 

『メロン・スカァーッシュ!』

『メロンエナジー・スカァーッシュ!』

『クルミ・スカァーッシュ!』

『ブラッドオレンジ・スカァーッシュ!』

 

 ロックシードの中に込められたエネルギーが全身を駆け巡り、4人のアーマードライダーたちの右足に集中する。

 斬月、斬月・真、ナックル、そして鎧武・華は一斉に地面を蹴って跳躍し、巨大ライオンインベスの頭頂を超える高度まで舞い上がる。

 そして、

 

「はあぁー!!」

「やぁあああああ!!」

「おらぁああああ!!」

「てぃやあああー!!」

 

 4人は右足を前に突き出し、一気に急降下していく。

 眼球を潰され、視力を失った巨大ライオンインベスは、アーマードライダーたちの姿を捉えることもできず、成す術がない。

 4人のアーマードライダーたちは、渾身の力を込めた一撃をその真っ赤な巨体に叩き込んだ。

 その瞬間、アーマードライダーたちの右足に集中していたエネルギーは果汁の飛沫のように飛び散り、巨大ライオンインベスの体内へと流れ込んでいく。

 キックエネルギーが全身に浸透すると、巨大ライオンインベスの肉体は内部から崩壊を起こし爆発。分解し、バラバラになった肉塊は炎の中で塵となって消滅した。

 

 

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 空に向かって立ち上る炎と黒煙を見つめながら、アーマードライダーたちは呆然と立ち尽くしていた。

 確かに戦いには勝利した。しかし、歓喜の声を上げる者など、この中には1人もいない。それほどにこの戦い、この結末は後味の悪いものだった。

 曽野村や彼に食われたその仲間、2人を救う手立てが他にあったのではないのか。殺さずとも生かす方法が何処かに隠されていたのではないのか。そんな後悔と遣る瀬無い気持ちが、彼らの心にしつこく居座っていた。

 鎧武・華とランマルは、彼らの心中を察して沈黙を貫いた。

 暫くすると、斬月が不意に口を開いた。

 

「……奴らをインベスに変えた小瓶の正体、なんとしても突き止めなくては」

「曽野村の仲間は小瓶のことを“ヘルジュース”って呼んでいた。逃げたあいつから話を聴けば、きっと何か分かるかもな」

 

 ナックルは戦闘前に逃がしたチームレッドホットのメンバーの1人のことを思い出す。

 

「だったら、急いでそいつの身柄を確保しなくちゃ!」

 

 頷きながら斬月・真が言う。

 と、その時だった。

 

「ダエジュロシャミョブリョフォ!」

 

 突然、何処からともなく声が聞こえてきた。

 それはなんとも不思議な言語であったが、少なくとも斬月や斬月・真、そしてナックルには聞き覚えのあるものだった。

 

「今の声は!?」

「誰だ!」

 

 何を言っているのか、言葉の意味は皆目見当も付かないが、その言語を使う種族のことならしっかりと覚えている。

 

 オーバーロードインベス。

 

 ヘルヘイムの森に生息する生物――インベスの中でも特別な存在であり、知性と力を兼ね備えた森の支配者たち。

 かつて、この地球がヘルヘイムの森の浸食を受けた時、混乱に乗じて一部のオーバーロードたちが沢芽市を襲撃し、侵略を企てたが、葛葉紘汰――鎧武を始めとするアーマードライダーたちの活躍により、その野望は打ち砕かれ、オーバーロードたちも皆全滅した。

 奴らは滅びた。

 この世界にはもう、オーバーロードインベスはいないはずなのだ。それなのになぜ……。

 斬月、斬月・真、ナックルの3人は、慌てて辺りを見回し、声の主の姿を探した。

 

「あそこだ!」

 

 しかし誰よりも早く、指差しながら叫んだのはランマルだった。

 戦乱の世で鍛え上げられた彼女の殺気を感知する力が、声の主の居場所を一瞬にして見破ったのだ。

 ランマルが指先で指し示すのは廃屋となったバーの屋上。

 鎧武・華を含めた4人のアーマードライダーたちも、遅れて屋上の方に視線を向ける。

 するとその眼に映ったのは、夥しい数のミミズの群れが寄り集まって人型になったような醜悪なバケモノだった。

 

「なんだ……あれ……」

「オーバーロードなのか……」

 

 廃屋の屋上に佇む異形の姿に、アーマードライダーたちは息を呑んだ。

 その全身から醸し出される異質な雰囲気は、インベスやオーバーロードインベスともまた違うようにも思えた。

 ミミズのバケモノはアーマードライダーたちの姿を見下ろしながら、再び不思議な言語を言い放った。

 

「エバリャエバリャデェボリャビリェブリョジャ、シャジュジェミャミエコシュフォムファンションフォ!」

「あの怪物……一体何を言っているの?」

 

 オーバーロードインベスの言語を初めて聞いた鎧武・華は、その言葉の意味がサッパリわからず思わず首を傾げた。

 そんな中、ミミズのバケモノはニヤリと不気味な笑みを浮かべると、右腕をスッと持ち上げ、広げた掌をアーマードライダーたちに向けた。

 掌には禍々しい光の粒が収束し、小型の光球が形成される。

 

「あの光は……まさか!」

 

 その時、不意に胸騒ぎを感じた鎧武・華は思わずハッとした。

 未熟ながらも戦士の勘が働いたのか、嫌な予感がする。

 そして次の瞬間、脳裏を過ったのはこの中で唯一生身の格好であるランマルの姿だった。 

 

「ラン姉!」

 

 鎧武・華は血相を変えてランマルの元へと駆け出した。

 手にしていた大橙丸を投げ捨て、覆いかぶさるようにランマルを抱きしめる。

 その直後だった。

 ミミズのバケモノはアーマードライダーたちに向かって光球を撃ち放った。

 それは凄まじいスピードと破壊力を持ったエネルギー弾であり、アーマードライダーたちが抵抗する間もなく地面に着弾。刹那に大爆発が起きる。

 その威力は相当のもので、直撃ではないものの、爆炎に吹き飛ばされた4人のアーマードライダーたちは全員、変身が強制解除するほどのダメージを受けていた。

 抉られたアスファルトに出来上がったクレーターの中で横たわる5人。

 貴虎も光実も、ザックもシグレも、意識はあるがその場から立ち上がることはできなかった。

 唯一、鎧武・華に守られ、ダメージが最小限で済んだランマルだけはなんとか起き上がることができた。

 

「シ、シグレ……無事か……!? しっかりしろ……! 皆も……」

 

 自分を守ってくれたシグレや、周りに倒れている貴虎たちに呼び掛けるランマル。

 するとそこへ、屋上から飛び降りたミミズのバケモノがクレーターの前で着地する。

 相変わらず不気味な笑みを浮かべたまま、ミミズのバケモノは腰に携えていた鞭を手に取った。

 ミミズを模した細長い鞭を両手でピンと張りながら、ゆっくりと歩み寄る。

 ランマルは戦闘不能に陥った仲間たちを守るべく、咄嗟に銃を構えた。

 

「彼らは……私が守る!」

 

 銃口をミミズのバケモノに向け、躊躇なく引き金を引くが、撃ち出された弾丸がミミズのバケモノに通用することはなかった。

 しかしそれでも、ランマルは撃ち続ける。何発も何発も。銃に込められた弾が尽きるまで。

 

「グロンショフォアムフォファン!」

 

 ランマルの抵抗を無意味だと嘲笑いながら、ミミズのバケモノは鞭を振るい上げた。

 

「ラ……ラン姉!」

「やめろぉ……!」

 

 シグレや貴虎が苦痛に悶えながら叫ぶ中、弾数が費えたランマルはとうとう抗う術を失った。

 

 

「デェフィ!」

 

 人間には理解できない言葉を叫びながら、ミミズのバケモノは躊躇なく鞭を振り下ろした。

 ミミズの鞭が今まさにランマルの身体を引き裂こうとしていた。

 しかしその時、突然何処からか飛んできた1本の光の矢が、鞭の先端を弾き飛ばした。

 ミミズのバケモノの一撃がランマルに届くことはなかった。

 

「フォムファンジュ!?」

 

 予想外の展開に、ミミズのバケモノは勿論のこと、ランマルやシグレ、貴虎たちも光の矢が飛んできた方角に視線を向けた。

 するとそこには、貴虎や光実、ザックにとっては見覚えのあるピンク色の戦士が佇んでいた。

 細い腰にゲネシスドライバーを装着し、ソニックアローを構えたアーマードライダー。

 桃の鎧を身に纏ったその姿を前に、貴虎は思わず声を上げる。

 

「バカな……。あれは……湊耀子か!?」

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