仮面ライダー 鎧武&オーズfeat.ライダーズ ~暁の鎧~   作:裕ーKI

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第三話 鎧武の章:スモモのライダー! マリカver.2

 アーマードライダーマリカは戦極凌馬が開発したゲネシスドライバーで変身する新世代ライダーの1人だった。

 戦極凌馬の秘書だった女性――湊耀子が変身し、「世界の王を生み出し、その生き様を見届ける」という志を抱きながらヘルヘイムの脅威と戦った。

 知恵の実を巡る戦いの中で駆紋戒斗に惹かれた彼女は、駆紋戒斗が世界を滅ぼそうとしていることを知りながらも彼に付き従い、彼を守って息を引き取った。

 湊耀子の死と共にマリカの存在も表舞台から消失し、黒の菩提樹の事件で一瞬見せた幻の姿を除き、以降の戦いでその勇姿を見せることは決して無かった。しかし……。

 

 幻ではない。

 確かに今、目の前にマリカがいる。

 周囲の視線を全身で浴びながら、ピンク色の鎧をキラリと煌かせている。

 唐突に現れたその姿に、その場にいる誰もが言葉を失っていた。

 そんな中、

 

「はああああああ!!」

 

 右手のソニックアローを構えたマリカは地面を蹴って走り出した。

 乳白色の複眼ははっきりとミミズのバケモノを捉えている。

 狙いは自分だとすぐに察したミミズのバケモノは、得物の鞭を力強く振り下ろした。

 鞭の一撃がマリカに迫る。

 しかし、マリカは立ち止まることなくその攻撃をソニックアローの刃で軽く振り払い、真っ直ぐと前進を続けた。

 

「ウデュオンエゴジュファン!」

 

 ミミズのバケモノも怯むことなく攻撃を繰り返す。

 2発3発と巧みに鞭を振るい、マリカの前進を妨害しようと試みる。

 津波のように何度も押し寄せる鞭の連続攻撃を小柄な体形を活かして掻い潜ったマリカは、すかさずソニックアローでミミズのバケモノの胸部を切り裂いた。

 鋭い一撃を受け、苦痛に表情を歪ませるミミズのバケモノ。しかし怯みはせず、すぐに再び鞭を振るって反撃を仕掛ける。

 一気に急接近してしまったため、敵の動きに対する反応が遅れてしまったマリカは、回避する間もなく攻撃を浴びる。

 

「くっ…! うあっ……!」

 

 全身に鞭を叩きつけられ、火花を散らしながら地面に倒れこむマリカ。

 しかし、体勢を崩しながらも咄嗟に矢を放ち、敵の追い討ちを阻止する。

 繰り広げられるマリカとミミズのバケモノの攻防戦。だが戦況を見る限り、マリカが劣勢なのは明白だった。

 

 

 

 戦いを見ていたシグレは、なんとか助太刀しようと負傷した身体を押して起き上がる。

 

「行かなきゃ……。あの人だけじゃきっとあの怪物には勝てない……」

「シグレお前……、身体は大丈夫なのか!?」

 

 介抱していたランマルが驚きながら叫ぶ。

 

「大丈夫……。身体中凄く痛くて苦しいけど、まだ戦うことはできる……」

 

 そう言って立ち上がるシグレ。

 

「そんな状態で……。お前1人では無理だ! 私も共に行く!」

 

 傷を負った大切な仲間を、たった1人で戦いに向かわせる訳にはいかない。そんな想いを抱きながら、ランマルも即座に立ち上がるが、

 

「駄目だよ……。ラン姉は生身の身体、変身できないんだから……。大丈夫、ここは僕に任せて……」

 

 戦場へ向かおうとするランマルをそっと制止したシグレは、再びブラッドオレンジロックシードを手に、戦へと歩みだした。

 シグレの後姿を見送りながら、ランマルは悔しそうに唇を噛み締めた。

 

「私にも……鎧があれば……」

 

 その手には新たなカンドロイドが握り締められていた。

 

 

 

 マリカに加勢しようとしているのはシグレだけではなかった。

 呉島貴虎もまた、傷ついた身体を無理やり起こして戦場に舞い戻ろうとしていた。

 

「光実……、ゲネシスドライバーを……」

 

 すぐ傍で横たわる弟の光実に手を伸ばしながら、貴虎は言う。

 

「兄さん……、でも……」

 

 全身を襲う痛みに耐えながら、光実は差し出された兄の掌を見つめ、躊躇った表情を浮かべる。

 光実は貴虎の身体を案じていた。

 自分と同じように負傷してまともに動ける状況じゃないはずなのに。ゲネシスドライバーを渡せば、兄さんは必ず無茶をして戦うだろう。

 光実がそう思っていると、その考えを見抜いてか貴虎が口を開く。

 

「俺のことは心配するな、光実……。それよりもあのアーマードライダー――正体は分からんが、奴があのバケモノと戦っている今がチャンスだ……。奴と協力して、なんとかあのバケモノを退ける……」

 

 貴虎の熱い視線に打たれた光実は、已む無くゲネシスドライバーとメロンエナジーロックシードを渡すことにした。

 差し出された2つのアイテムを受け取り、貴虎は立ち上がる。

 

 

 

 一方その頃――

 

「はあぁ!」

 

 マリカは眼前の敵目掛けて弓を引き続けた。

 ミミズのバケモノの鞭の攻撃を時に避け、時には弾きながらどうにか当てようとするが、相手の不規則な動きに翻弄され、なかなか命中させることができずにいた。

 焦る気持ちをなんとか押さえつけようとするが、意識すればするほど逆に手際が雑になり、命中率が落ちていく。

 その戦闘においての未熟さは、戦いのプロフェッショナルだった湊耀子とは別人であることを表していた。

 

「フォンウデェジョ? オジブリョシェロオブリョファショ?」

 

 鞭を振るい続けながら、ミミズのバケモノは徐々に冷静さを失っていくマリカの姿を嘲笑う。

 

「くっ……馬鹿にしないでくれる!」

 

 ミミズのバケモノの態度に苛立ちを覚えたマリカは、トリガーを引く手にさらに力を込める。

 怒りに任せて放たれた光の矢は、明らかに精密さを欠いていた。

 まっすぐと飛びはするものの、急所からは随分と外れている。

 ミミズのバケモノは余裕の表情を浮かべると、形態を1匹の巨大なミミズの姿へと変え、アスファルトを突き破り、地中へと潜り込んでいった。

 標的を見失った光の矢は虚空を射抜く。

 

「なにっ!?」

 

 攻撃を簡単に回避され、さらには敵の姿が視界から消えたことに、マリカは動揺を隠せなかった。

 一刻も早くミミズのバケモノの姿を見つけ出そうと辺りを見回すが、そうしている間に足元の地面がボコッと大きく盛り上がる。

 

「えっ!?」

 

 気づいた時には既に遅く、地面を突き破ったミミズのバケモノが、滝登りする龍の如く真下から飛び出してきた。

 

「きゃあああああああ……」

 

 足元から勢い良く突き上げられたマリカの身体は宙を舞い、直後にアスファルトの上へと叩きつけられる。

 巨大なミミズの姿から、元の人型へと戻ったミミズのバケモノは、すかさず右手の5本指を触手のように伸ばし、マリカの首を捕らえる。

 

「しまっ――」

 

 細い首を締め付けられ、身動きを封じられたマリカは息苦しそうに身体を震わせる。

 その様子を、ミミズのバケモノは楽しそうに眺めている。

 

「コションフォロ、フィアアーグロンーバリャーフォンファ“メメデュン”! シェデョミョシャンジャシェション、シャファアビリェフェショジブリョミャファショ!」

「……わ、笑わせないで……。猿芝居なんか……やめたら……どう? わかってるのよ……? あんたたちの正体は……」

 

 マリカのその一言に、ミミズのバケモノの表情が変わった。

 

「ほう……。フォボリャグロン、シャシャフェンデェミョジュデェジャエジョラウションジュシャンウションガデョダウファンフォ!」

 

 そう言いながら、マリカの首を締め付ける触手に、より一層強く力を加える。

 首元にさらなる激痛が走り、呼吸困難に陥ったマリカは、悲鳴も発せずにもがき苦しんだ。

 

(まずい……。このままじゃ……)

 

 少しずつ遠のいていく意識の中で、マリカは生命の危機を感じた。

 全身の力が抜け始め、握られていたソニックアローが掌から滑り落ちようとしていた。

 もはやこれまでかと、心の中で死さえも覚悟した。

 しかしその時、

 

『ハッ! ブラッドオレンジアームズ! 茨道・オンステージ!』

『メロンエナジーアームズ!』

 

 マリカの背後で2人の戦士が大きくジャンプした。

 それはシグレが変身した鎧武・華と、貴虎が変身した斬月・真。

 2人は空中で刃を振り上げると、マリカを拘束する5本指の触手を一刀の元に切り落とした。

 触手から解放され、咳き込みながら両膝を付くマリカ。

 

「大丈夫ですか!? 僕たちも一緒に戦います!」

 

 駆けつけた鎧武・華はマリカにそう言うと、触手を切り落としたばかりの大橙丸を構え直し、ミミズのバケモノ目掛けて走り出した。

 

「奴は手強い。協力してこの状況を乗り切るぞ!」

 

 斬月・真は落ち着いた雰囲気で自らの手をマリカに差し伸べる。

 マリカはその手を見つめながら呟いた。

 

「……私の正体も知らないのに……そんなこと言って宜しいんですか?」

「君の正体については後回しだ。あのバケモノと戦うには、今は1人でも多く戦力が必要だ」

 

 斬月・真のその言葉に、マリカは仮面の下で思わず笑みを浮かべた。

 

「……フフッ。相変わらずですね……。そんなんだから、すぐに足を掬われるんですよ、“呉島主任”」

 

 皮肉っぽく言いながら、マリカは斬月・真の手を借りて再び立ち上がる。

 まるで自分のことを知っているかのような彼女の口ぶりに、斬月・真は目を見張った。

 

「君は一体……」

「そのことは後回し……って、今そう言ったばかりですよ? 私も、もう動けます。主任の言うとおり、力を合わせましょう!」

 

 気持ちを新たに、マリカはソニックアローを握り締める。

 斬月・真も、色々と気になることはあるが、それらを一旦頭の隅に置いておくことにした。

 

 

 

 鎧武・華は一足先にミミズのバケモノとの戦闘を繰り広げていた。

 赤い大橙丸を巧みに操りながら次々と攻撃を仕掛けていくが、しかし、ミミズのバケモノは余裕だった。

 ウネウネとした、まさにミミズさながらの動きで回避しながら、振り下ろされる刀身を叩いていく。

 しかも先ほど切り落とされた5本指も、既に再生し生え変わっていた。

 

「シュボリャイ!」

 

 咄嗟に放った鞭の一振りが鎧武・華を吹き飛ばした。

 バランスを崩しながらも、なんとか踏み止まる鎧武・華。

 そこへさらにミミズのバケモノが追い討ちを仕掛けようとした時、鎧武・華の背後から斬月・真とマリカが飛び込んできた。

 跳躍しながら戦闘に割り込んできた2人は、着地と同時にミミズのバケモノに斬撃を浴びせた。

 死角からの不意打ちに、ミミズのバケモノは僅かに怯む。

 

「同時に仕掛けるぞ!」

 

 斬月・真の一言を合図に、アーマードライダーたちは一斉に刃を振り下ろした。

 

「チィイ!」

 

 避ける間もなく斬撃をその身に受けたミミズのバケモノは、露骨に表情を歪ませながら大きく後退した。

 その顔は初めてまともに受けてしまったダメージに対する苦痛と怒りに満ちたものだった。

 ミミズのバケモノは肉体を変化させ、再び1匹の巨大ミミズへと姿を変えると、アスファルトを抉り、地中に姿を晦ました。

 

「アイツまた地面の中に……。2人とも気をつけて!」

 

 ついさっき、敵の同じ戦術に痛い目にあったばかりのマリカは、敵が飛び出してくる可能性のある足元を中心に警戒を強める。

 するとそこへ、斬月・真がある提案を告げる。

 

「円陣を組め! 互いの背中を守り、死角を無くすんだ!」

 

 その言葉を耳にした瞬間、マリカの脳裏にある光景が過る。

 それはこの沢芽市でかつて繰り広げられたある戦いの記憶。真っ赤なオーバーロードインベスとそいつが率いる怪物軍団を相手に死闘を尽くす5人のアーマードライダーたち。1人の男の咄嗟の指示により、5人は円陣を作り、怪物たちの猛攻を迎え撃つ。

 その時の光景と今の状況が、彼女の中でシンクロしていた。

 斬月・真とマリカ、そして鎧武・華の3人は一箇所に固まり、互いの背中を重ねるように小さな輪を作った。

 敵が誰を狙ってくるかわからない以上、バラバラに動いていては敵の出現場所を特定できない。一箇所に固まれば互いの死角をカバーしつつ、敵の動きも最低限に絞り込めるはずだ。

 3人はピリピリとした緊張感の中で周囲に気を配る。いつ敵が現れても対処できるように、武器を握る手にも自然と力が入る。

 地中を掘り進むミミズのバケモノは特殊な力で地上の気配を感知していた。

 3人のアーマードライダーたちが立っている場所を地面の中から把握したミミズのバケモノは、そこに狙いを定めると一気に上昇を始めた。

 足に伝わる地響きが次第に大きくなってくる。それはミミズのバケモノが確実に近づいてきている証拠だった。

 3人が立つアスファルトに亀裂が走り、ボコッと地面が盛り上がる。

 

「やはり下だ! 跳べ!」

 

 斬月・真の思惑通りだった。

 3人のアーマードライダーたちは一斉にジャンプして敵の真下からの一撃を回避した。

 それだけじゃない。空中に舞い上がった3人は、地面から顔を出したばかりのミミズのバケモノ目掛けて攻撃を放った。

 照準を下に向けて撃ち出された斬月・真とマリカの光の矢が炸裂し、同時に鎧武・華の一太刀がミミズのバケモノの皮膚を切り裂いた。

 

「グワァ!?」

 

 思わぬ返り討ちにあったミミズのバケモノは、その衝撃で元の人型へと戻りながらアスファルトの上に転げ落ちた。

 反撃のチャンスは今しかない。一気に畳み掛けるべく、3人のアーマードライダーたちは休む間もなく走り出す。

 しかし、ミミズのバケモノも黙ってはいない。相手を寄せ付けまいと、体勢を崩しながらも長い鞭を振り回した。

 唐突に飛んできたその一振りに身体を弾かれ、思わず足を止める3人。

 その隙に体勢を立て直したミミズのバケモノは、さらに攻撃を仕掛けるべく伸ばした鞭を一旦手元に戻す。

 強力な一撃を放とうと、鞭を握り締めた手を勢い良く振り上げた。と、その時、

 

「フォムファンジャ!?」

 

 何の前触れも無く、突然ミミズのバケモノの動きがピタリと止まった。

 振り上げた手をそのままに、感電したように全身をビクビクと痙攣させている。

 

「なんだ!? どうした!?」

「これは一体!?」

 

 敵の異変に、斬月・真もマリカも戸惑っている。

 そんな中ただ1人、鎧武・華だけは敵の身に起きた異変の原因を理解していた。

 

「あれは――」

 

 良く見ると、ミミズのバケモノの右足首に何かが巻きついている。

 サイズは小さいが、機械仕掛けの細長い物体。形状的に蛇のようにも見えるが、それが何なのか、そして誰がそれを解き放ったのか、鎧武・華は知っていた。

 

「電気ウナギ! ラン姉のしわざか!」

 

 大きな声を上げながら、鎧武・華は戦いを見守っていたランマルの方に視線を向ける。

 ミミズのバケモノの動きを止めているものの正体、それはランマルが所持する武神オーズ軍の装備品の1つ――電気ウナギカンドロイドだった。

 ランマルが起動させた1体の電気ウナギカンドロイドが隠密に忍び寄り、放電攻撃でミミズのバケモノの動きを拘束したのだ。

 

「ボヤっとするな! 仕留めるなら今だ!」

 

 ランマルの掛け声でハッとした3人のアーマードライダーたちは、再びミミズのバケモノを捕捉する。

 

「決めるぞ!」

 

 斬月・真がマリカと鎧武・華に呼び掛ける。

 3人は同時にドライバーに手を掛け、必殺技を発動させた。

 

『メロンエナジー・スカァーッシュ!』

『ピーチエナジー・スカァーッシュ!』

『ブラッドオレンジ・オーレ!』

 

 3人の刃にエネルギーが収束。斬月・真とマリカはソニックアローを、鎧武・華は赤い大橙丸を渾身の力を込めて振り下ろした。

 刃から放たれた三日月状の斬撃が、身動きを封じられたミミズのバケモノに直撃した。

 

「グァアアアアア……」

 

 胸に傷を負い、吹き飛ぶミミズのバケモノ。なんとか体勢を維持しようと両足に力を入れて踏ん張るが、予想以上のダメージに身体がぐらりと揺らぐ。

 

「チッ! オジョベリャフォンシャバリャションコブリョショジュジョショ……。シャシャロエジュジョムレシュジャデェガウ……」

 

 ミミズのバケモノは悔しそうに舌打ちをすると、驚異的なジャンプ力で最初に姿を見せたバーの屋上へと飛び乗った。

 

「逃げる気!?」

 

 マリカが屋上を見上げながら叫ぶ。

 

「アミョイジョジェロショフォボリャデュンデェミョジュデュブリョ! ジュシェンシャダロショフォボリャデュンフォ!」

 

 ミミズのバケモノは眼下に立つアーマードライダーたちにそう告げると、建物の影に姿を晦ました。

 その様子を見ていたランマルは、すかさずタカのカンドロイドを起動させる。

 

「奴を追え!」

 

 その一言と目配せを合図に、タカカンドロイドは大空へと飛び立っていった。

 

 

 

 ミミズのバケモノが姿を消し、戦いは一旦終息した。

 各々が手にしていた武器を下ろす中、その複数の視線はただ1人に集中していた。

 斬月・真や鎧武・華、戦いを見守っていた光実やザック、そしてランマル。その全ての視線が今、マリカへと向けられている。

 強敵を相手にした戦いの中、勝利を掴むために確かに協力関係を結んだ。不利な戦況を打破するために、力の貸し借りをした。

 しかし、目の前にいるアーマードライダー――マリカの正体は依然謎のままだ。

 戦闘においての未熟さや言動、声質から見て湊耀子ではないことは間違いない。そもそも、湊耀子は既に命を落としているのだから。

 だとすれば、今目の前にいるマリカの正体、その鎧の下に隠れている素顔とは一体。

 ドライバーに装填されたロックシードを閉じ、変身を解除した貴虎とシグレ。

 貴虎は鋭い視線をマリカに向けたまま、その口を開く。

 

「さっきは助かった。君がいなければ、あの怪物を退けることも難しかっただろう」

「それはこっちのセリフです。あなたたちの介入が無ければ、今頃私は……。変身してみたは良いものの、やはり“あの人”のようにはいかないみたいです」

「あの人? ……いい加減教えてくれても良いだろう。君は一体誰なんだ?」

 

 貴虎に尋ねられたマリカは一息つくように肩を落とすと、ゲネシスドライバーの中心にはめ込まれたピーチエナジーロックシードをゆっくりと閉じた。

 ピンク色の鎧が粒子となって消え、ようやくその素顔が露になる。

 マリカの鎧の中から現れたのは、豹柄のキャミソールとベージュ色のショートパンツの上にロングタイプの白衣を羽織った長身の女性。髪の色は茶色だが、ショートボブのヘアスタイルとクールな雰囲気は何処と無く湊耀子に似ているようにも見える。

 この場にいる誰もが、彼女の姿を見るのは初めてだった。

 

「桐河羽月と言います。以前はユグドラシルの研究員として、戦極ドライバーの開発に携わっていました」

 

 マリカだった女性は、自己紹介と共に艶やかに微笑んだ。

 

「ドライバーの開発? 凌馬の研究チームにいたということか……」

「はい。私は主にラボラトリー内のみでの活動だったので、呉島主任とは直接お会いしたことはありませんでしたが、噂は良く耳にしていましたよ。良いことも悪いことも……」

「……その噂というのは、凌馬の口から聞いたものか?」

「それは……どうでしょう」

 

 羽月ははぐらかすように笑う。

 それを見た貴虎はやれやれと首を横に振り、

 

「……まあいい。そんなことよりもこの状況についてだ。何故君がゲネシスドライバーとエナジーロックシードを所持している? そもそもここへ来たのは何故だ? 何が目的だ?」

「1度に色々訊くんですね」

「今の我々には、明らかに情報が足りていないからな」

「そうですか……。良いですよ、お答えします。私が何故ゲネシスドライバーを所持しているのか、それについては簡単なことです。さっきも言ったとおり、私はかつてプロフェッサー凌馬の下で働いていました。だから知っているんです。ドライバーやロックシードの製造方法を」

「でも、ロックシードを生成するにはヘルヘイムの果実が必要なはず。果実は何処から?」

 

 羽月と貴虎の会話を聞いていた光実が横から尋ねてきた。

 かつてヘルヘイムの森の浸食を受け、沢芽市は勿論、地球全体が植物に飲み込まれたが、黄金の果実を得て神へと生まれ変わった葛葉紘汰の手により、ヘルヘイムの植物は宇宙の彼方へと消え去った。同時にロックシードの元となるヘルヘイムの果実も、地球上から消滅したと思われていたが。

 

「それも答えは簡単です。確かにかつての戦いの中で、この星を覆っていたヘルヘイムの植物も果実も1度は我々の前から姿を消しました。ですが、存在そのものが消えた訳ではありません。現に森の侵食が止まった後も、こうしてヘルヘイムが関係している事件は後を絶ちませんから。そしてそれは何故なのか? あなたたちも大体察しがついていると思いますが、あの大規模な侵食の際、世界中に実った果実やその種を回収し、そして栽培し、私利私欲のために利用している連中がいます。現在、あなたたちが主に敵に回しているのもそういう奴らでは?」

「確かにその通りだ。同じように、世界中に流出してしまったユグドラシルの技術も含めて、結果的にそれらは我々が齎したことだ。自分たちで撒いた種は、自分たちで刈り取らなければならない」

「責任感の塊のような人ですね、あなたは……。話は少々ずれましたが、私がロックシードを生成できる理由もそういうことです。あなたたちが敵に回している連中と同様、私もあの騒動の時に果実の種を手に入れていたということです。勿論、私はあなたたちの敵になるつもりは無いのでご心配なく」

「では何の目的で種を?」

 

 貴虎の問いに対し、羽月は一瞬間を置いてから答えた。

 

「……“ネオ・オーバーロード”を滅ぼすため」

「ネオ……オーバーロード!?」

 

 羽月の口から出た思わぬ言葉に、貴虎は思わず目を見張った。

 貴虎だけではない。光実もザックも、かつて地球を侵略しようとしていたオーバーロードインベスの存在を知る者たちは皆、驚きのあまり言葉を失っていた。

 

「ネオ・オーバーロードとはもしかして……さっきのミミズの怪人のことか?」

「ええ。ですが奴はそのうちの1人に過ぎません。奴の背後には、さらに多くの同胞たちがいます」

「奴らの――ネオ・オーバーロードの目的はなんだ? 奴らもやはり、ヘルヘイムの森からやって来たインベスなのか?」

「いえ。ネオ・オーバーロードはこの世界――この地球で生まれた生物。その正体は……確信が無いため、今はまだ言えませんが、奴らの目的はハッキリとしています」

「目的?」

「仲間を増やすことです。そのために奴らは、人間を理性を持ったインベスに変える“ヘルジュース”を作り、実験場としてこの沢芽市を選びました」

「ヘルジュースって、曽野村たちが持っていたあの小瓶のことか?」

 

 話を聴いていたザックが、思い出しながら言う。

 

「そう。あの小瓶の中に入っているのは、ヘルヘイムの果実から抽出した果汁に、魔力と呼ばれる力を加えて作られたもの。中毒性もあるし、人間の凶暴性に作用して力を発揮する代物よ」

「そんなものが、今この街に蔓延っているというのか?」

 

 貴虎は深刻な表情で羽月の顔を見つめた。

 羽月は頷きながら話を続ける。

 

「ネオ・オーバーロードが今この街で行なっている行為は、言ってみればかつてのユグドラシルと同じこと。目的のために、街の市民を利用しているのです」

 

 羽月のその言葉を聞いた途端、貴虎は思わず視線を逸らした。

 かつての罪深い記憶が、貴虎の胸にチクリと突き刺さる。

 確かに彼女の言うとおりだった。

 プロジェクトアークと称した人類救済計画。その下準備として、ユグドラシル・コーポレーションは一般人であるビートライダーズにロックシードや戦極ドライバーをばら撒いた。

 必要なデータを取るためだったとはいえ、ユグドラシルは何も知らなかった街の市民たちをモルモットとして利用したのだ。

 計画の責任者として君臨していた貴虎にしてみれば、かつての自分が今この街を脅かしている怪物と同じことをしていたかと思うと、罪悪感を感じずにはいられなかった。

 貴虎が胸の奥から感じる嫌な気持ちを抑えるように言葉を詰まらせていると、代わりに弟の光実が疑問を投げかけてきた。

 

「戦極凌馬の下で働いていた一研究員にしては、随分と情報通なんですね? その情報源は一体何処から?」

 

 光実の物言いは明らかに羽月のことを警戒していた。

 彼女の言葉を信じるには信憑性が必要だ。

 得意の冷静さと慎重さを武器に、光実は羽月の言葉を見極めようとする。

 しかし、

 

「マスターインテリジェントシステム。ご存知ありませんか? プロフェッサー凌馬が独自に開発した情報管理システムのことを」

 

 意外にも、羽月はあっさりと種明かしをした。

 マスターインテリジェントシステム。それはユグドラシル・コーポレーションの科学者――戦極凌馬が秘密裏にこの街に張り巡らせたシステムの名称。

 凌馬が変身するアーマードライダーデュークの情報処理能力と接続することで、沢芽市の通信網を掌握することができる。

 

「システムのメインサーバーは、ユグドラシルタワーの極秘スペースに保管されていました。そのことを知っていた私は、ヘルヘイムの騒動が鎮静化した後、ユグドラシルタワーが解体される直前に持ち出して引き継ぐことにしました。プロフェッサーが所持していたアーマードライダーとリンクさせなければ、まともに起動することができませんでしたが、そこは改良して、今はこの街の監視システムとして正しく利用しています。ただ、改良の時に気づいたことなんですが、システム内には既にいくつかの記録が保存されていました。オーバーロードとの戦いの光景や黄金の果実を巡るやりとり、空に開いたクラックに吸い込まれていくヘルヘイムの植物の映像……とか」

「それらを閲覧することで過去の出来事を知り、現在も凌馬が残したそのシステムを利用することで、今この街に起きている異変も把握している、ということか?」

「ええ。そのとおりです」

 

 貴虎の確認に、羽月はコクリと頷いた。

 

「そもそも、何故凌馬が使っていたシステムを持ち出そうと思ったんだ?」

「それはこの街に潜むネオ・オーバーロードを見つけ出すために……」

「つまりあなたは、ユグドラシルタワーが解体される前から、ネオ・オーバーロードの存在を知っていたということですか?」

 

 貴虎の質問に答えていた羽月を、光実はさらに問い詰める。

 

「ええ、知っていました。だからこそ、私は誰よりも早く行動を起こしたんです。奴らがこの街で何かを企んでいることも、その時既に知っていましたから」

 

 羽月の話を聴いた貴虎は、少しの間何かを考えるような素振りを見せると、その重い口を開いた。

 

「……どうやら、この事件を解決するには、事情に詳しい君の助けも必要のようだな」

「それはお互い様です。私も、ネオ・オーバーロードと対峙するには、自分1人では力不足だと痛感していましたから。アーマードライダーの力を最大限に引き出せるあなたたちの協力があれば、私も心強いです」

「……では、協力関係を結ぶ……ということで、良いんだな?」

「ええ。宜しくお願いします」

 

 そう言って、羽月はペコリと頭を下げた。

 

 

 

 こうして桐河羽月と協力関係になった貴虎たちは、これからのことを羽月に尋ねた。

 すると羽月は話し合いの間、殆ど蚊帳の外だったシグレとランマルを指差した。

 

「あの2人。少しの間、彼らを借りても良いですか?」

「どうするつもりだ? 言っておくが、あの2人はこの世界とは違う――別の世界の住人だ。戦闘には協力してくれるが、街の事情については、殆ど何も知らないぞ?」

「大丈夫です。寧ろ、私が気になるのは彼らのその戦いぶりの方ですから。それに、主任たちは主任たちでやることがあるのでは?」

「そうだ、曽野村の仲間! 逃げたあいつ捕まえて、色々聞き出さねえと!」

 

 羽月の言葉に促されて、思い出したザックが声を大にして言う。

 

「そうですね。事情を知っている者が生きていて、それを都合が悪いと判断すれば、ネオ・オーバーロードたちもその人間を抹殺しようとするかもしれません。奴らよりも早く、その人物を保護した方が良いかもしれませんね。……それに皆さん、さっきの戦いで傷を負っているでしょう。休息も必要でしょうし、とりあえず行方を晦ましたネオ・オーバーロードのことは私に任せてください」

「君1人で大丈夫なのか? 奴は一筋縄ではいかんぞ」

「問題ありません。そのための彼らですから」

 

 貴虎に言われ、羽月はもう1度シグレとランマルに視線を向ける。

 

「最後にもう1つだけ、聞いて良いですか?」

 

 一同がこの場を退散しようとした時、再び光実が羽月に問いかけた。

 

「さっきの戦いの時、あなたはあのネオ・オーバーロードの言葉を理解しているようでしたけど、奴らの言語がわかるんですか? あの言葉は、たしかフェムシンムの……」

「ええ。オーバーロードの言語については、プロフェッサー凌馬が密かに解読を進めていたの。私はそれを引き継いだだけ」

「奴は何を言っていたんです?」

「……大したことじゃないですよ。自分の名前を叫びながら、粋がっていただけ。「俺の名前はネオ・オーバーロードの“メメデュン”だ!」って」

「メメデュン……。それが奴の名前……」

 

 考え込むように、光実は小さく呟いた。

 

 やがて駆けつける、騒動を耳にした警察官たちにこの場を任せることにし、一同は現場を後にした。

 貴虎と光実、そしてザックは負傷した身体の治療と共に、逃げた曽野村の仲間の捜索。シグレとランマルは、羽月に連れられて彼女が所有する研究施設へと向かうことになった。

 

 

 ☆

 

 

 人気の無い、薄暗い地下道の中。

 アーマードライダーたちとの戦闘から離脱したミミズのバケモノ――ネオ・オーバーロードのメメデュンは、地下に流れるひんやりとした空気に包まれながら、身体に負った傷の再生を待っていた。

 

「シュダジュ……。ミョデョショ、オムフォゴジュボリャフェグファンムデュブリョジャロフォ……」

 

 冷たいコンクリートの壁に止しかかりながら、メメデュンはパックリと開いた胸の切り傷を悔しそうに見つめていた。

 3人のアーマードライダーたちの一撃につけられた大きな傷。斜めに真っ直ぐと切れた傷口からは、ドロドロと青い血が流れている。

 傷をつけた3人のアーマードライダーたちの顔を、メメデュンはしっかりと記憶に刻み付けた。

 斬月・真、マリカ、そして鎧武・華。傷を負わせたあの3人は、必ず自分の手で始末する……。

 怒りと復讐に燃えるメメデュンは、胸の傷が塞がるのを今か今かと待ち望んでいた。

 するとそこへ、

 

「無様だな、メメデュン!」

 

 誰もいないはずの地下道に、いきなり男の声が響き渡った。

 唐突に聞こえてきたその声に、思わずビクッとなったメメデュンは、慌てて声のした方に視線を向けた。

 日の光が通らない、薄暗いコンクリートの道をコツコツと足音を立てながら歩く声の主は、口元をニヤッとしながらその姿を現した。

 その男は腰まで伸びた長髪を後ろに束ねたポニーテールでありながら筋肉質な体形をした大男だった。

 

「“シェグロン”! フォディンアミョイションシャシャフェ……!?」

 

 男の姿に、メメデュンは驚くように叫んだ。

 

「あ~良いから良いから。近くに人間はいないし、いつもどおりに喋ってくれて構わねえよ!」

 

 男はめんどくさそうに言いながら、両手を腰に当ててリラックスした体勢を取る。

 

「フォフェジュ!? そ、そうか……」

 

 男に指摘され、途端にメメデュンの言葉も人間の言語へと変わる。

 

「お前がわざわざ出向くとは……。何しに来た?」

 

 メメデュンは恐る恐る男に問いかけた。

 

「何って、テメエの様子を見に来たんだろうが! 部下の面倒を見るのが、上司の役目だろ?」

「部下? 我々は常に対等な関係の筈だ! 確かに組織を立ち上げたのはお前の功績かもしれないが、だからといって図に乗られては困る!」

 

 偉そうな態度を見せる男に、メメデュンはムッとした表情で言い放つ。

 

「まあ落ち着けよ。部下だの上司だのってのはただの冗談だ。テメエの言うとおり、俺たちは古の時代から同じ志を持つ同胞だ。そんなことよりテメエ、さっきはヘマしたみてえだな? 障害を排除するつもりが、逆に痛手を負いやがって……」

 

 男の言葉に、メメデュンはたまらず視線を逸らす。

 

「……問題ない。傷が回復したら、すぐにでも奴らを始末しに行く……」

「そうか? しかし言っておくぞ、仮面ライダーを甘く見るな」

「仮面ライダー? 奴らはアーマードライダーだろ? 心配は無用だ。さっきは油断したが、次は必ず奴らを倒す」

「ほう……。随分と立派な心意気だが、だがな、今は復讐よりも大事なことがあるんじゃねえか?」

「大事なことだと?」

「放置しておくと後々面倒になりそうな奴がいるだろうが!」

 

 男にそう言われ、メメデュンはある人物のことを思い出す。

 

「後は頼んだぜ、同胞!」

 

 男はメメデュンに背を向けると、軽く手を振りながらその場を後にした。

 残されたメメデュンは、男の背中を見つめながら呆然と立ち尽くす。

 その様子を、メメデュンの居場所を嗅ぎつけたタカカンドロイドが密かに静観していた。

 

 

 ☆

 

 

 桐河羽月が運転する青いオープンカーに乗り、シグレとランマルは市内のとある研究所を訪れていた。

 地下駐車場に車を停め、エレベーターに乗って施設内へと案内されていく2人。

 最上階である6階にたどり着き、招き入れられた先は広々とした書斎だった。

 物珍しそうに辺りを見回しながら室内に入ると、途端に妙な異臭が2人の鼻を刺激した。

 

「ごめんなさいね、タバコ臭くて」

 

 申し訳無さそうに謝りながら、羽月は窓際に置かれた自分のデスクへと歩み寄る。

 広く大きく、いかにも高級そうな机の上には、大量の書類やデスクトップパソコン、試作品のロックシードがいくつか転がっているが、それらに紛れて置かれている大き目の灰皿の上には、今にも崩れ落ちそうなほどにタバコの吸殻の山が積み重ねられていた。

 室内に染み付いたタバコの臭いに、シグレとランマルは微妙に表情を歪ませながら、羽月の待つデスクの前へと向かった。

 

「とりあえず、お茶でも飲みながら一休みする?」

 

 机の上に散乱していた書類を整理しながら、羽月はニコッと2人に微笑む。

 しかしランマルは真面目な表情で言う。

 

「まさか、茶に誘うために私たちを連れてきたわけでもないだろう?」

「そうね。たしかに、今はのん気にお茶を飲んでいる時ではないわよね」

「何が目的なんですか? 僕たちを誘った理由って……」

 

 ランマルの横に立っているシグレが、無垢な表情で羽月に問いかける。

 

「単刀直入に言うと、協力してほしいのよ、色々と」

「色々? 随分と漠然とした言い方じゃないか?」

 

 ランマルが険しい表情で羽月を睨む。

 

「まあね。でも言葉通りだから。あなたたち2人の力を見込んで、いくつかお願いしたいことがあるの」

「なんですか、お願いって?」

「それはね……っと、説明の前に、まずはその身体、ウチのスタッフに診てもらいましょうか。さっきの戦いで、2人とも傷を負っているでしょ?」

 

 

 

 羽月の計らいで、ランマルとシグレはメメデュンとの戦闘で受けた傷の手当を受けることになった。

 彼女が呼び寄せた数名の医療班に傷を診てもらうランマルとシグレ。とは言うものの、どういうわけか2人の怪我は思っていたほど酷くはなく、簡単な消毒と包帯を巻く程度で済むものだった。

 ランマルとシグレが治療中の間、羽月は2人の戦慣れした強靭な肉体を興味深そうに眺めていた。

 治療が終わり、医療班が退出すると、再び3人だけのやり取りが再開された。

 

 

 

 書斎の中央に置かれた大きなソファに肩を並べて腰掛けるランマルとシグレ。話しやすいように、向かいの席に羽月も座る。

 

「一時はどうなるかと心配したが、大した傷じゃなくて安心したよ、シグレ」

 

 安堵した様子で、ランマルは隣に座るシグレに笑みを浮かべる。

 先程の戦いでメメデュンが強力な一撃を放った時、咄嗟に自分を庇ってくれたシグレの安否を、ランマルはずっと気に掛けていた。

 医療班に命に別状は無いことを伝えられ、ようやくその気持ちも落ち着くことができた。

 

「それじゃあ話を戻すわね。さっきも言ったけど、あなたたち2人の力を、是非私に貸してほしいの」

 

 向かい合うランマルとシグレの瞳を真っ直ぐと見つめながら、羽月は改めて2人に頼み込む。

 

「貸してほしいも何も、一体何に力を貸せというんだ?」

 

 シグレに向けていた笑顔とは打って変わって、羽月に向けたランマルの表情はやはり険しいものだった。

 しかし、羽月はそんなことお構いなしに話を続ける。

 

「とりあえず、協力してほしいことは今のところ3つ。1つは最も優先されるべきこと、ネオ・オーバーロードの殲滅。2つ目は、沢芽市民――この街の人々のヘルジュースの使用を防ぐこと。そして3つ目は、私の研究の手助け。私が今行なっている研究は、新たなロックシードの開発。私が作った試作品の使用テストをあなたたちにお願いしたいの。これが上手くいけば、2人の新しい力になるし、1つ目2つ目の頼みごとの効率アップにも繋がるはずよ。どうかしら?」

「どうかしらって言われても……。どうする? ラン姉……」

 

 羽月の話に黙って耳を傾けるランマルに、シグレは困惑の表情を向ける。

 すると羽月がさらに、

 

「もし、これらの頼みを聞いてくれるのであれば、この世界にいる間のあなたたちの面倒は、全て私が引き受けてあげる」

「面倒?」

「ええ。だって当分留まるんでしょ、この世界に。だったら必要じゃない? 住む所とか着替えとか。食事や金銭面だって、私だったらすぐに用意してあげられるわよ」

「すぐにって……。あなた一体何者なんです?」

 

 羽月が軽々と口に出してきた交換条件に、シグレは呆気に取られながらも言葉を返す。

 

「何って見ての通り、何処にでもいるごく普通の科学者よ。まあただ、財力だけは腐るほど持ってるってだけよ」

「……あんたが大した金持ちだってことはわかった。我々の状況も織り込み済みだということも。……たしかに、私たちにとってここは見知らぬ未知の世界、頼れる者も誰1人としていない。そんな中でのあんたの誘いは、正直これ以上ないほどの好機なんだろう」

 

 ランマルはそう言うと、一瞬何かを決断するように間を置いてから、再び口を開いた。

 

「……決めたよ。あんたの誘いに乗ろう」

「ラン姉……」

 

 ランマルの意外な返答に、シグレは驚きの表情を浮かべた。

 プライドの高いラン姉ならきっと、この話は断ると思っていたのに。

 

「金に目が眩んだ愚か者と思われるかもしれないが、それでも構わない。この世界で、シグレが惨めな思いをせずに済むのなら……」

「ラン姉……。それって僕のため……?」

「勘違いするな、シグレ。私たちは仕事を引き受けるんだ。どんな世界でも、生きていくためには働かなくてはいけないからな。故郷の世界で、生き抜くために戦に身を投じたように、この世界でも、我々は生きるために戦うんだ」

 

 ランマルは力強く、そして心を込めてシグレに言い聞かせた。

 その様はまるで、厳しくも優しい母親のように。

 

「……それにさっきの戦いで理解した。あんな怪物に、戒斗が生きたこの世界を壊されるのは気に入らないからな!」

「戒斗? 戒斗って……駆紋戒斗のこと?」

 

 ランマルの言葉に、突然羽月の表情が変わる。

 

「あんた、戒斗を知っているのか?」

「ええ、知ってるわ。駆紋戒斗はね――」

 

 と、羽月が言いかけたその時、突如コンコンと何かを叩く音が羽月の言葉を遮った。

 3人が振り返ると、そこには書斎の窓を外からつつく機械仕掛けの赤い鳥の姿があった。

 それは先ほどの戦いの中で、逃走したメメデュンを見つけるためにランマルが起動させたタカのカンドロイドだった。

 

「あれは……」

「私が放ったタカだ。ミミズの怪物を捜索するように命じたんだが……。まさか奴を見つけたのか?」

 

 ランマルの推測は正しかった。

 メメデュンの居場所を捕捉したタカカンドロイドが、そのことを知らせるために主人の元に舞い戻ってきたのだ。

 話し合いは中断された。

 羽月はソファから立ち上がると、シグレに1つの提案をする。

 

「シグレ君だったわね。早速君にお願いするわ。あなたには一足先に現場に向かってもらって、ネオ・オーバーロードの足止めをしてほしいの」

「足止め? あの怪物は倒すんじゃ……」

「勿論。今度こそ、奴を必ず始末する。でも、残念ながら君1人では奴には勝てない。それは君もわかってるでしょ。だから切り札を用意するわ」

「切り札?」

「ネオ・オーバーロードを確実に倒すことができる、私が開発したとっておきよ。それを準備するまでの間、君には時間稼ぎをお願いしたいの。怪我した身体で申し訳ないけど、お願いできる?」

「シグレ……、大丈夫か?」

 

 ランマルが心配そうにシグレを見つめている。

 彼女の瞳を見つめながら、シグレは決心するように拳を握り締めた。

 

「大丈夫! 行ってくるよ、僕! 生きるためにも働かなきゃね!」

 

 すると、羽月は徐に白衣のポケットからあるモノを取り出し、それをシグレに差し出した。

 

「これ、良かったら使って」

「……これは?」

 

 羽月の手に握られているモノ、それはロックシードの一種だった。

 

「これは私が作った最新型のロックビークル。開錠させるとバイクに変形するから、移動手段に使って。戦闘に特化させて作ったから、武器としても使えるわ」

「ありがとうございます! 使わせてもらいます!」

 

 シグレは律儀に頭を下げながら、ロックビークルを受け取った。

 

「敵の居場所はタカが案内してくれる。くれぐれも気をつけてな」

「大丈夫だよ、ラン姉。任せておいて!」

 

 シグレは自信に満ちた表情でランマルに頷くと、扉を開き、出口を目指して走り去っていった。

 シグレの後姿を見届けた後、羽月はすぐにランマルに声を掛けた。

 

「ねえ、ちょっと一緒に来てくれない?」

「ん?」

 

 突然の申し出に、ランマルは首を傾げる。

 

 

 ☆

 

 

 研究所を飛び出したシグレは、即座に戦極ドライバーを身につける。

 

「変身!」

『ブラッドオレンジ!』

 

 変身用のロックシードを開錠させ、頭上に開いた小型のクラックから鋼の果実を出現させる。

 ロックシードをドライバーにはめ込み、固定すると、シグレはカッティングブレードを倒した。

 

『ハッ! ブラッドオレンジアームズ! 茨道・オンステージ!』

 

 電子音声と共に、頭から被った鋼の果実は鎧へと形を変える。

 血塗られたように真っ赤な鎧を身に纏い、シグレはアーマードライダー鎧武・華に変身した。

 

「よし!」

 

 鎧武・華は続けて羽月から手渡されたロックビークルを起動させた。

 開錠すると、ロックシードは変形しながら見る見る巨大化していき、紫色の花の形をしたヘッドライトが特徴的なオフロードバイクへと変貌を遂げた。

 これこそが、桐河羽月が作り上げた次世代型ロックビークル――バトルパンジー。

 戦極凌馬がかつて開発したサクラハリケーンやローズアタッカー、さらにはダンデライナーのデータを結集させ、そこに羽月が独自のアイデアを加えて完成させた新型のマシン。

 サクラハリケーンやローズアタッカー同様、空間移動機能が搭載されており、それに加えて、ダンデライナーから流用したレーザー砲や、新たに追加したホーミングミサイルが装備されている。

 最早バイクというより兵器に近い代物だが、さらにもう1つ、マシン後部にはビークルウェポンと呼ばれる武器が格納されている。

 鎧武・華はバイクに盛り込まれた技術力に衝撃を受けながらも、バトルパンジーに跨った。

 エンジンを起動させ、ハンドルグリップを回す。

 先頭を飛ぶタカカンドロイドの後を追うように、鎧武・華はマシンを走らせた。

 

 

 ☆

 

 

 シグレを見送ったランマルと羽月は、施設内の直通エレベーターに乗っていた。

 突然羽月に案内されて、何も知らされぬままランマルは連れて来られたのだ。

 2人を乗せたエレベーターは真っ直ぐと下へ降りていく。その中でランマルは羽月に疑問を投げ掛ける。

 

「一体何処へ連れて行く気なんだ? シグレを追いかけるんだろ?」

「ええ、そのつもりよ。でもその前に、どうしてもあなたに見せたいものがあるの」

 

 閉じられたエレベーターの扉に視線を向けたまま、羽月は言葉を返す。

 

「見せたいもの?」

「1年以上前、この世界では人類の存亡を賭けた戦いが繰り広げられたの。世界の運命を背負った2人の男の戦い。1人は古より築き上げられてきたこの星の文明や人々を守るため、もう1人は……今ある世界を1度滅ぼし、弱き者が虐げられない新しい世界を作り上げるため。2人は全力を出し合って戦い、そして、世界を作り変えようとしていた男はその戦いに敗れて、息絶えた。今のこの世界がこうやって存在し続けているのは、世界を守るために戦った男が勝利したおかげ。でも、世界を作り変えようとしていた男の想いも、決して間違ってはいなかった。戦いに勝利した男もそれはわかっていたし、後になってこの出来事を知った私も、同じ気持ちだったわ」

「別世界の人間の私に、何故そんな話をする?」

 

 唐突に語る羽月に、ランマルはさらに問う。

 

「知っておいてほしいのよ。これからこの世界で戦っていくのなら」

 

 地下深くまで降下していたエレベーターが最下層で止まると、到着のアナウンスと共にその扉が開いた。

 そこは必要最低限の照明だけが灯る、随分と薄暗い通路だった。

 エレベーターを降りた2人は、さらに奥へと進んでいく。

 

「私には、たった1人の親友と、唯一心から尊敬していた女性がいたわ。どっちも既に亡くなっているけど、尊敬していた“あの人”は、きっとあの男のことを愛していた……」

 

 暗闇に近い空間を真っ直ぐと進みながら、羽月は脳裏に過る2人の女性の姿に思いを馳せる。

 突き当りまで歩くと、ランマルと羽月はゆっくりと足を止める。目の前には巨大で重厚な扉がうっすらと姿を見せていた。

 

「ここは以前、ユグドラシルが極秘に管理していた避難シェルターだったの。沢芽市が破壊的被害に襲われた時、優秀な人間だけは守れるようにって作ったらしいけど……、今にして思えば、随分とふざけた発想よね」

 

 独り言のように言いながら、羽月は小さな灯りに照らされたコントロールパネルにカードキーを挿した。すると大きな音を立てながら、重厚な扉はゆっくりと開いていく。

 扉の奥は通路と同じで薄暗かったが、空気の流れの変化でそこが相当広い部屋だということが、ランマルにもすぐにわかった。

 部屋の中に入ると、いきなり不思議な感覚に襲われた。

 人の気配は全くしないはずなのに、人影がかすかに見える。しかも1人や2人ではない。部屋の奥へと進むにつれて感じる圧迫感から、相当な人数に違いない。

 

「羽月……、ここは一体何なんだ?」

 

 眼前を歩く羽月に、ランマルは声を掛ける。

 

「ごめんなさい、すぐに灯りをつけるから」

 

 羽月がそう言うと、途端に部屋中の照明に光が灯る。恐らく、携帯していたリモコンで遠隔操作したのだろう。

 部屋一面が天井から降り注ぐ人工的な光に包まれ、2人の視界も良好になった。しかしその瞬間、ランマルは自分の視界に飛び込んできた光景に言葉を失った。

 辺りを見回すと、その眼に映ったのは密集する無数の怪物の姿だった。

 怪物は2種類いて、片方は丸みを帯びた灰色のフォルムが特徴的な初級インベス。そしてもう片方は蜘蛛型、コブラ型、蝙蝠型と3つのバリエーションを持つ機械生命体。

 部屋の中心に立つランマルと羽月は、数え切れないほどの2種の怪物たちに囲まれていた。

 

「なんだこれは……」

 

 呆気にとられながらも、ランマルは反射的に銃を構えた。先ほどの戦いで、既に弾薬を使い果たしているということも忘れて。

 警戒するランマルに、羽月は「落ち着いて」と銃を下ろさせながら宥める。

 

「大丈夫、ここにいるインベスやロイミュードは本物だけど本物じゃない、精巧に作られたレプリカみたいなものだから」

「レプリカ?」

 

 羽月の言葉に、ランマルは銃を仕舞いながら首を傾げる。

 

「さっき話した人類の存亡を賭けた戦いが終わった後、暫くして、今度は宇宙からの侵略者がこの街に現れたの。メガへクスって言うんだけど、そいつには人の記憶を元に物質や生命を複製する能力があってね。その力を使って、この街を制圧する戦力として生み出されたのがこいつら。姿形は本物と瓜二つだけど、中身が機械でできたロボットのような存在よ」

「ロボット……? 機械……? こいつらが……?」

 

 ピクリとも動かない周囲の怪物たちを、ランマルは興味深そうに凝視する。

 

「メガへクスはこの世界の鎧武――葛葉紘汰とドライブと呼ばれる2人の戦士の手によって倒された。すると同時に、メガへクスに作られたレプリカたちも活動を停止した。その時から、こいつらの時間は止まったまま。私は2度と動き出すことのないこいつらを運び出し、秘密裏にこの場所に保管しているという訳。勿論、相当な数だったから全部じゃないけど……」

「何のためにそんなことを?」

「目的の1つは研究のサンプルとしてかしら。中身が機械だということを除けば、殆ど本物変わらない。そんなものを容易に作り出すメガへクスのテクノロジー、科学者として、解明したくなるのは当然でしょ?」

「さあね。そんな気持ち、私にはよくわからないな」

 

 好奇心旺盛な子供のように、キラキラと瞳を輝かせながら楽しそうに語る羽月とは対照的に、ランマルは無愛想に肩を竦めた。

 

「それは残念。でもまあいいわ……。それより、こいつらを回収したのにはもう1つ理由があってね。あなたに見せたいものがそれなのよ」

「前置きはいい。さっさと教えたらどうなんだ?」

 

 羽月のペースにいい加減苛立ってきたランマルの口調が、徐々に感情的になっていく。

 

「わかったわ、じゃあ本題よ。実は私には、何よりも大事な目的があるの。どんなことよりも優先するべき目的がね」

「……さっきの頼みごととは別にか?」

「当然。寧ろ、今から話すことこそに全力を注いでほしいくらいよ」

「それは一体なんだ?」

 

 ランマルの問いに、羽月は真剣な面持ちで答える。

 

「……魔王の復活よ」

 

 

 ☆

 

 

 沢芽市南方のとある埠頭に、ネオ・オーバーロードのメメデュンは姿を現していた。

 片隅に詰まれたコンテナの影に身を潜める1人の男。その命を、メメデュンが今まさに奪おうとしていた。

 

「なんでだよ!? なんで俺を狙うんだよ!? 俺たちはお前に言われたとおりにしてただけじゃねえか!?」

 

 赤を基調とした衣装に身を包んだ男は、後退りしながら必死に叫んだ。

 だが、メメデュンはそんなことお構いなしに、一歩また一歩と男を追い詰めていく。

 

「フィムファジョミファンガ! ミョムションエジェファジョミフェ、ルオムフォミロジュムフェンアショフォシュジェゴフォ!」

「なんだよぉ!? 何言ってんのかさっぱりわかんねえよぉ!」

 

 ゆっくりと歩み寄ってくるメメデュンが口にするオーバーロード語を理解できるはずもなく、男は恐怖に身体を震わせた。

 メメデュンは威嚇するように、取り出した得物の鞭を両手でピンと伸ばす。

 その瞬間、男は「ひっ」と怯えながらその場にペタリと座り込んだ。

 身動きを取れなくなった男を前に、メメデュンはニヤリと笑み浮かべた。そして、手にした鞭を躊躇なく振り上げた。

 その手が振り下ろされた瞬間、間違いなく男の命は尽きるだろう。そんな期待を胸に、メメデュンは鞭を握る手に力を込める。

 振り上げられた手が、今まさに振り下ろされようとしていた。

 しかし次の瞬間、突然その場に鳴り響いたエンジン音が、メメデュンの動きを遮った。

 

「フォムファン!?」

「な、何の音だ!?」

 

 メメデュンも男も、直前の動きをピタリと止めて辺りを見回し、轟くエンジン音の正体を探した。

 徐々に近づいてくる音がする方に眼を向けると、視線の先に映ったのは物凄い勢いで接近してくるバイクと、それに跨った真っ赤な鎧武者の姿だった。

 エンジン音の正体、それは桐河羽月から託された次世代型ロックビークル――バトルパンジーを操るアーマードライダー鎧武・華。

 

「ミョジョアミョイショ!」

 

 メメデュンは即座に標的を鎧武・華へと変更し、掌から光弾を発射した。

 鎧武・華は速度を落とすことなく、マシンごとジャンプして光弾を回避。着地すると、そのまま一直線に走り、メメデュン目掛けて突進を仕掛けた。

 

「オミョエ!」

 

 鎧武・華の行動を察したメメデュンは、素早く横転してそれを避ける。

 メメデュンを通り過ぎた鎧武・華は、急いでバトルパンジーをUターンさせ、再び標的を捕捉する。

 

「これならどうだ!」

 

 メメデュンの姿をしっかりと捉えると、鎧武・華はバトルパンジーのコントロールパネルを操作し、搭載されたホーミングミサイルを2発同時発射させた。

 

「フォフェ!?」

 

 慌てて回避行動を取るメメデュンだったが、追尾機能付きのミサイルはその動きに合わせて巧みに軌道を変化させる。

 

「チッ……!」

 

 ミサイルの予想外の動きに対応しきれず、さすがのメメデュンもこれにはお手上げだった。

 次の瞬間、ミサイルは直撃。爆炎に飲み込まれたメメデュンはアスファルトの上を豪快に転がった。

 今がチャンスと言わんばかりに、鎧武・華はバトルパンジーを加速させる。

 コントロールパネルのいくつかのボタンを押し、マシンの後部から刀の柄のようなものを出現させると、鎧武・華はそれを手に取り、思いっきり引き抜いた。

 鎧武・華が抜刀して姿を現したもの、これこそがバトルパンジーに格納されていたビークルウェポン、植物の葉を模した倭刀型の武器――リーフブレードだ。

 柄の部分から刃の先端まで、全身緑色に染められた刀を手にし、鎧武・華は再度突進を仕掛けるのだった。

 

 

 ☆

 

 

 地下シェルター全体に乱雑に並べられた無数の初級インベスとロイミュードのレプリカたち。

 人形のようにただそこに立っているだけの彼らの間を通り抜けながら、羽月とランマルは部屋の奥へと進んでいった。

 そしてやがて2人の眼に、他とは違う特別異彩を放つものが映りこんできた。

 それは初級インベスでもロイミュードでもない。赤と黄色が特徴的な西洋の騎士を思わせる戦士の姿だった。

 糸の切れたマリオネットのように、決して動くことのないそんな戦士の前で、羽月とランマルは足を止めた。

 

「これは……」

「そう、これがあなたに見せたかったもの」

 

 戦士の姿を目の当たりにし、呆然とした表情を浮かべるランマルを余所に、羽月は言い放つ。

 

「駆紋……戒斗……」

 

 ランマルはガクンと力が抜けたようにその場に崩れると、そっと手を伸ばし、戦士の鋼の頬をゆっくりと撫でた。

 ひんやりとした感覚が、ランマルの掌へと伝わる。

 幻なんかではない。駆紋戒斗――アーマードライダーバロンの姿が、間違いなく今目の前に存在している。掌に感じる冷たさが、確かにそのことを証明していた。

 ランマルの脳裏に、戒斗と過ごした記憶が蘇る。

 武神鎧武との戦の最中、主君であるノブナガを失い、絶望に打ちひしがれていたランマルの前に突如として現われ、武神バロンを名乗って軍を立て直してくれた。

 短い間ではあったが、強さと闘いを求める彼の背中に一体どれだけ勇気づけられたことだろう。

 ノブナガ亡き後も、2代目武将として軍を率い、今もこうして別世界を訪れてまで戦えているのは、あの時の戒斗の姿があったからに他ならない。

 それだけ駆紋戒斗という男は、ランマルの中でとても大きな存在だった。

 

「なぜ……? なんでここに武神バロン――いや、駆紋戒斗がいる!? これはどういうことだ!?」

 

 ランマルは立ち上がると、感情を露にしながら羽月に詰め寄った。

 

「落ち着いて。彼もここにあるレプリカと同じ。メガへクスの力で記憶から再現されたコピー態に過ぎない」

「本物であって……本物ではないということか……」

「ええ。彼もここにいるインベスやロイミュードと同じで、メガへクスが倒された今、2度と動き出すことはない。だけど、私はまだ諦めていない」

「……どういうことだ?」

「言ったでしょ? 私の真の目的、魔王の復活。今ある世界を壊そうとしていた破壊者――駆紋戒斗、彼を蘇らせることこそが、私の望みよ!」

「お前は……この世界を滅ぼすつもりなのか?」

 

 羽月の言葉に、ランマルは思わず警戒する。

 

「まさか、そんなわけないでしょ。私はただ、1度で良いから生きた彼に会ってみたいだけ。“あの人”が追い求めた駆紋戒斗がどれほどの男だったのか、見てみたいだけ」

「あの人?」

 

 何かに思いを馳せる羽月の姿を眺めながら、ランマルは不思議そうに首を傾げた。

 

「とにかく、駆紋戒斗を蘇らせることは、あなたにとっても悪い話じゃないはずよ。どうやらあなたも、駆紋戒斗とは何かしらあったみたいだし。もし、あなたが私に力を貸してくれるというのなら、このドライバーとロックシードをあなたに託すわ」

 

 そう言いながら、羽月は白衣の懐からゲネシスドライバーと見慣れないロックシードを取り出した。

 

「これは……」

「このゲネシスドライバーは、さっきの戦いで私が使っていたもの。そしてこれが……ネオ・オーバーロードに対抗するために開発した新型――プラムエナジーロックシードよ」

「……コイツがお前の言っていた切り札って奴か?」

「そう。プラムエナジーロックシードは、かつて葛葉紘汰が発現させたジンバーシリーズの特殊能力を解析して組み込んだ、最新にして最強のロックシード。それだけに並の人間ではまともに扱うことも難しい代物よ。当然、私にも使えなかった。でも、生粋の戦士であるあなたなら……」

「使えると言うのか?」

「試してみる価値はあるわね。どうする? コレが使えないとなると、現状、あのネオ・オーバーロードに勝つ術がなくなるけど? このままじゃ、先に戦ってるシグレ君も……」

「貴様……それは脅しのつもりか?」

 

 シグレの名が出た瞬間、ランマルはムッとした表情で羽月を睨みつける。

 

「脅しだなんてそんな。私はあくまで提案しただけよ。戦うか戦わないか、決めるのはあなた。好きな方を選択して」

 

 羽月にそう言われた途端、ランマルの脳裏にある記憶が蘇る。

 こっちの世界を訪れる直前、ヘルヘイムを名乗る男――サガラに選択を迫られた時の記憶が。

 

「またこれか……。気に入らないな……」

 

 ランマルは不愉快そうに表情を歪ませた。

 あの時もそうだったが、こんなふうに選択を迫られると良い気がしない。まるで自分の運命を、他者に毟り取られているかのような気分になる。

 人を見透かしたかのような態度を見せる羽月に、一言言ってやりたいところではあったが、残念ながら今は時間がない。一刻も早く、シグレの後を追わなくては。

 

「……答えはもう、決まっている」

 

 目の前に差し出されたゲネシスドライバーとプラムエナジーロックシード。心を決めたランマルは、ゆっくりとそれらに手を伸ばす。

 

 

 ☆

 

 

 波の音を掻き消すように、鎧武・華の駆るバトルパンジーが爆音を轟かせる。

 緑色の刀――リーフブレードを片手に、鎧武・華はハンドルグリップを力いっぱい回した。

 加速し、勢いを増す次世代型ロックビークル。

 メメデュンは急接近してくるバトルパンジーを前に怯むことなく構えを取るが、行動を起こすよりも先に、鎧武・華がマシンのスピードに乗ってすぐ傍を横切った。

 すれ違い様に放たれた一閃が、鞭を握り締めていたメメデュンの右腕を切り落とした。

 

「ギャァアアアアア……! ガ、ガシュミャウフェンカ……!」

 

 メメデュンは足元にボトリと落ちた自分の右腕に驚きながら悲鳴を上げる。

 その隙に、鎧武・華はさらなる追い討ちを仕掛けようと、バトルパンジーを再びUターンさせようとするが、

 

「ジェガウデェフェファブリョフォオ!」

 

 怒ったメメデュンが左手の5本指を触手のように撓らせて伸ばし、鎧武・華の首を絡め捕った。

 

「ぐっ!?」

 

 首に巻きついた5本の触手に締め付けられ、呼吸困難に陥る鎧武・華。さらには凄まじい力で引っ張られてバイクからも落ちてしまう。

 無人となったバトルパンジーはバランスを崩しながらアスファルトの上に転倒した。

 徐々に強まっていく触手の締め付ける力に、鎧武・華の意識が朦朧としてくる。

 このままではまずい。

 鎧武・華は咄嗟に戦極ドライバーのカッティングブレードを2回倒した。

 

『ブラッドオレンジ・オーレ!』

 

 ロックシードのエネルギーを右手のリーフブレードに集中。次の瞬間、鎧武・華は一か八かの思いで刀を一振りした。

 するとリーフブレードの動きに合わせて無数の木葉状のエネルギー弾が出現し、メメデュン目掛けて一斉に飛んでいった。

 エネルギー弾は命中すると次々と小さな爆発を発生させる。

 爆炎に包まれたメメデュンは体勢を崩し、やむを得ず伸ばした触手を手元へと戻した。

 5本指の触手から解放された鎧武・華は、咳き込みながらも意識がはっきりしていることを実感する。

 呼吸を整え、再び攻撃を仕掛けるべく立ち上がるが、同じタイミングで、メメデュンも既に体勢を立て直していた。

 メメデュンは切り落とされた右腕が握っていた鞭を左手で拾い上げると、すかさず鎧武・華に狙いを定めて振り回した。

 1撃目をリーフブレードでなんとか防御した鎧武・華。しかし、一息つく間もなく2撃目が飛んできた。

 前回の戦いのダメージが残っていることもあり、得意の反射神経を発揮できなかった鎧武・華は、2撃目をもろに喰らってしまう。

 全身に叩きつけられた鞭の一撃に、堪らず地面に倒れこむ。

 

「アビリェファショジェファン!」

 

 勝利を確信したメメデュンは、誇らしげに言いながら掌から光弾を撃ち放った。

 すぐに立ち上がることができない鎧武・華は、光弾の直撃を許してしまう。

 

「うわあああああああ……」

 

 無残に吹き飛び、地面を転がりながら変身が強制解除される。

 元の姿へと戻ったシグレは、傷だらけになりながらもメメデュンを睨みつけた。

 

「やっぱり……僕だけじゃ……」

 

 無念の思いで悔しそうな表情を浮かべるシグレ。

 そんな姿を勝ち誇るように眺めながら、メメデュンはいやらしくほくそ笑む。

 これで邪魔者が1人減る。

 そう思いながらとどめの一撃を放とうと鞭を振り上げた。しかしその時、突然1台の青いオープンカーが2人の元に駆けつけた。

 

「あれは!」

 

 その車に見覚えがあるシグレは思わず声を上げる。

 猛スピードで近づいてくるオープンカーに乗っているのは、間違いなくランマルと桐河羽月だった。

 羽月が運転するオープンカーはメメデュンを轢く勢いで前進。メメデュンは慌てて攻撃を中断し、シグレから距離を取って退避した。

 悲鳴のような急ブレーキの音を立てながら、オープンカーはシグレの眼前で停止。左右のドアが開き、ランマルと羽月が姿を現す。

 

「羽月さん! ラン姉!」

「無事か!? シグレ!」

 

 ランマルは子を心配する親のようにシグレの元へと駆け寄る。

 

「なんとか間に合ったみたいね。良く耐えてくれたわね、シグレ君」

 

 遅れて羽月も労いの言葉をかける。

 

「後は私に任せろ! ここから先は、私がお前の分も戦ってやる!」

 

 ランマルはそう言うと、シグレを羽月に託し、自らはメメデュンの前へと歩み寄っていく。

 

「ラン姉!? 一体どうする気……」

「大丈夫。ここは彼女に任せて」

 

 困惑するシグレを落ち着かせるように、その肩の上にポンと手を乗せた羽月の表情は自信に満ち溢れていた。

 

「よくも可愛い弟子に傷をつけてくれたな! あいつに代わって、私がお前の息の根を止めてやる!」

 

 足を止め、メメデュンと対峙したランマルの言葉には、静かに燃える炎のように、確かな怒りと殺意が秘められていた。

 

「ほう……。ディムデェグシャウジョエショ? ファンション、ジョジョショウジェショボリャカミャジョフォエアミョイフェ、エジュジョエフォフェションフェンシェブリョ?」

「訳の分からない言葉をゴチャゴチャと……」

 

 そう言い放ったランマルの手には、いつの間にゲネシスドライバーと新たなエナジーロックシード――プラムエナジーロックシードが握られていた。

 ランマルはゲネシスドライバーを腰に装着すると、1度大きく深呼吸してからプラムエナジーロックシードを開錠させた。

 

『プラムエナジー!』

 

 電子音声が鳴り、ランマルの頭上に小さな裂け目が生まれる。

 ヘルヘイムの森に繋がった裂け目から姿を現したのは、真っ赤なスモモの鎧だった。

 

「変身!!」

 

 ランマルは気合を込めて叫ぶと、握り締めたプラムエナジーロックシードをドライバーの中央に装填した。

 

『ロック…オン!』

 

 エナジーロックシードが施錠され、待機音が鳴り響く。

 次の瞬間、ランマルはゲネシスドライバーのレバーを力強く押し込んだ。すると、

 

『ソーダァ! プラムエナジーアームズ! パーフェクトパワー! パーフェクトパワー! パーフェクパーフェクパーフェクトパワー!』

 

 戦極凌馬が開発したレモンエナジーロックシードを連想させるリズムの電子音声と共に、ランマルと鋼の果実が1つになる。

 ヘルヘイムの力を身に纏い、溢れ出たエネルギーが果汁のよう飛び散る。

 現れたのは全身を真っ赤に染めた、まさに女王(マリカ)の姿。

 アーマードライダーマリカver.2・プラムエナジーアームズ、ここに見参。

 

「フォムファンジャ!?」

「ラン姉が……変身した!?」

 

 目の前で起こる予想外の展開に、メメデュンもシグレも驚きの声を上げる。

 しかし誰よりも一番驚いているのは、初めての変身を遂げたランマル自身だった。

 

「これが……私の鎧……」

 

 赤いマスクに覆われた顔や装甲に包まれた腕、右手に出現したアームズウェポン――ソニックアローに、さすがのランマルも戸惑いを隠せなかった。

 新たなアーマードライダーの誕生は、メメデュンにとっては不愉快なことでしかなかった。

 このまま奴を放っておけば、計画の障害になることは間違いない。今ここで排除しなくては。

 メメデュンは威嚇するように、足元のアスファルトを鞭で大きく叩くと、ランマル――マリカver.2目掛けて攻撃を仕掛けた。

 迫るメメデュンの一撃を前に、マリカver.2は慌てて我に返ると、気持ちを戦闘モードへと切り替える。

 飛んでくる鞭の先端に全神経を集中させ、ソニックアローを握り締めた右手を勢い良く振り上げた。

 

「はっ!」

 

 次の瞬間、ソニックアローの刃が鞭の一撃を弾き返した。

 鋭い視線でメメデュンの姿を捉えたマリカver.2は、今度は自分の番だと反撃を開始する。

 地面を蹴って駆け出し、あっという間に接近すると、流れるような動きで敵の身体に斬撃を浴びせていく。

 

「ぐっ! フォフェジュ!?」

 

 メメデュンはすかさず鞭を振るってマリカver.2の妨害を試みる。

 しかし、マリカver.2は軽快なステップでメメデュンの失われた右手側へと回り込む。

 先ほどの戦闘で、鎧武・華に右腕を切り落とされた今のメメデュンにとって、右方向は明らかに死角だった。片腕のみではどうしても攻撃の動作に遅れが生じてしまい、マリカver.2の動きについていくことができなかった。

 その隙にマリカver.2は斬撃に連続キックを加え、フィニッシュに掌底を一発叩き込んだ。

 想像以上の衝撃に、背後に大きく吹き飛ぶメメデュン。

 

「その腕、シグレにやられたんだろう? どうだ、私の弟子は強かっただろ?」

 

 掌底の構えを解きながら、マリカver.2は言い放つ。

 

「……グロンショフォシャジャカ。この程度、なんともない……。俺の腕はすぐに再生するからな!」

 

 心境の変化なのか、それともマリカver.2のラッシュ攻撃を受けて余裕がなくなったのか、メメデュンがシグレたちの前で初めてオーバーロード語以外の言葉を口にした。

 

「なんだ。貴様、人間の言葉も喋れるのか……。まあいい。その腕がすぐに生え変わるというのなら、生え変わる前に決着をつけるまでだ!」

「ふん! お前にそれができるとでも?」

「できるさ。この鎧の力なら!」

 

 そう言ってマリカver.2はゲネシスドライバーのレバーを押し込んだ。すると、

 

『チェリー! プラムエナジー・スカァーッシュ!』

 

 ゲネシスドライバーから電子音声が鳴り響いたその瞬間、メメデュンの視界からマリカver.2の姿が消えた。

 

「なにっ!?」

 

 慌てて辺りを見回すメメデュン。

 しかし次の瞬間、メメデュンの背中に凄まじい激痛が走った。

 慌てて背後を振り向くと、一瞬だがマリカver.2の姿が見えた気がした。

 風を切る音が四方八方から聞こえてくる。誰かが猛スピードで自分の周りを駆け回っている。

 なんとかその姿を捉えようと、キョロキョロと視線を走らせるが、一向に発見することができない。

 徐々に苛立ちが募る中、またしても激痛が身体を襲った。

 今度は左肩。次は胸。さらに足や腹にまで。

 まるでカマイタチのように、見えない刃が次々と肉体を傷つけていく。

 暫くすると、ようやくマリカver.2が眼前に戻ってきた。

 全身にダメージを受けたメメデュンは、思わず片膝を地面につける。

 

「なんだ!? 何が起こった!?」

 

 マリカver.2を睨みつけながら、メメデュンは叫ぶ。

 その疑問に答えたのは、シグレを介抱していた羽月だった。

 

「今のは高速移動よ、ジンバーチェリーの力と同じ。彼女が使用しているエナジーロックシードには、プロフェッサー凌馬が積み重ねてきた研究データの約70%以上が組み込まれている。まさに集大成、最高傑作に相応しいロックシードだわ」

 

 羽月が満足げな表情を浮かべている中、追い詰められたメメデュンは最後の手段に出る。

 

「うっとおしい奴らだ……。全員必ず、俺が始末してやる!」

 

 怒りに燃えるメメデュンは、肉体を肥大化させ、巨大なミミズの姿へと変貌した。

 

「あれは……あの時と同じ……」

 

 シグレの脳裏に、メメデュンと最初に戦った時の記憶がフラッシュバックする。

 あの時もそうだった。巨大ミミズへと形態を変化させたメメデュンが、地面に潜って死角から襲い掛かってきていた。

 

「気をつけてラン姉! きっと奴はまた――」

 

 シグレは思わず叫んだ。

 しかし、その言葉を遮るように、マリカver.2は仮面の下で口を開いた。

 

「ああ、わかってる! 心配するな、シグレ!」

 

 マリカver.2は眼前のメメデュンの行動を警戒しながら、そっとゲネシスドライバーのレバーに手を伸ばした。

 シグレの予想通り、巨大化したメメデュンはその巨体でアスファルトを抉り、ズルズルと地面の中に入り込んでいった。

 その瞬間、マリカver.2は手にかけたレバーを力強く押し込んだ。

 

『ピーチ! プラムエナジー・スカァーッシュ!』

 

 再び電子音声が鳴り響く。

 今度はジンバーピーチアームズの能力と同様の聴力強化が発動した。

 マリカver.2――ランマルの耳に、周囲の様々な音や声が事細かに聞こえてくる。

 近くを走る自動車の走行音や人々の喋り声は勿論のこと、風の音、海の波の音、シグレや羽月の呼吸や心臓の鼓動の音までもがハッキリと聞き取ることができる。

 まるで全ての音や声のスピーカーの音量が最大になったかのようだった。

 普通の人間なら、一斉に耳に飛び込んでくる音の嵐に、パニックを起こしてもおかしくはない。だが、戦士として鋼の精神を手に入れた今のランマルには、この力を制御することは難しいことではなかった。

 マリカver.2は聞こえてくる無数の音の中から、ある1つの音だけに神経を集中させた。それは地面から聞こえてくる地響きのようなものだった。

 足元から確かに伝ってくるその音は、地中を動き回り、反撃のタイミングを見計らっているように感じ取れる。

 マリカver.2は微かな音の変化も聞き逃さないように、その強化された聴覚で捕捉を続けた。

 やがて地面を掘り進む音は消息を絶った。その代わり、海を流れる波の音が僅かに変わったのを、マリカver.2は聞き漏らさなかった。

 

「そこか!」

 

 刹那、マリカver.2はゲネシスドライバーから取り外したプラムエナジーロックシードをソニックアローに装填しながら、勢い良く海の方へと振り向いた。

 虚空の海上に狙いを定め、一気にトリガーを引き絞る。

 次の瞬間、海面が大きく盛り上がり、巨大なミミズが顔を出した。

 地中を移動し、海へと抜け出したメメデュンが、マリカver.2の死角を狙って飛び出してきたのだ。

 前回の戦いのこともあり、相手はきっと足元ばかりを警戒するだろうと、その裏をかいたつもりの行動だった。だがしかし、それは大きな見当違い。地面の中に身を隠したメメデュンの行動は、聴覚を強化したマリカver.2には全て筒抜けだったのだ。

 海面から空中に舞い上がったメメデュンは、その瞬間、既にマリカver.2にロックオンされていた。いや、正確にはメメデュン自身が、自らマリカver.2の照準に飛び込んだことになる。要は待ち伏せされていたのだ。

 そのことに気がついた時には既に遅く、メメデュンはソニックアローのレーザーポインターに捉えられていた。

 照準とメメデュンがピッタリと重なった瞬間、マリカver.2は躊躇なくトリガーを手放した。

 

『プラムエナジー!』

 

 膨大なエネルギーが圧縮された1本の光の矢がソニックアローから放たれ、巨大ミミズの脳天を貫いた。

 

「グォオオオオオオオオオオオ……」

 

 体内に大量のエネルギーが一気に流れ込み、風船のように膨張したメメデュンは、断末魔を上げながら大爆発した。

 飛び散った肉片の1つ1つが炎に焼かれていく様を見つめながら、マリカver.2はゆっくりと弓を下ろすのだった。

 

 

 

「すげぇ……。あの怪物を倒しちまうなんて……」

 

 戦いが終わると、コンテナの影から男が1人姿を現した。さっきまでメメデュンに襲われていた男だ。

 目の前で繰り広げられていた光景をずっと物陰で見ていた男は、メメデュンの死に驚き、同時に自分の命が助かったことに喜びを隠せなかった。

 

「あなた……確かビートライダーズの……」

 

 赤を基調とした服に身を包んだ男の姿を目の当たりにした途端、羽月は声を上げた。

 その男はザックが逃がしたチームレッドホットのメンバーの1人、インベスと化した曽野村に襲われていたあの男だった。

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