「雲水、ライブ行かね?」
「ライブ?」
「そう。ライブ。赤羽にチケットもらったんだけどよ、それが今日なんだ。二枚あるのに一人で行ってもあれだし、付き合ってくれねぇか?」
突然そう言って俺をライブに誘ったのはコータローだった。
「どうして俺なんだ?水町とか雷門とかは誘ったのか?」
「それが水町は筧と飯食いに行くんだってよ。今、アメリカ帰省してるらしい。モン太とセナは課題が終わってなくて今日は缶詰めだとよ。頼むよ雲水~。」
そう言われても音楽なんてほとんど聞かないし、ましてライブなんて行こうと思ったこともなかった。
「そんなこと突然言われてもな」
「そこをなんとか頼む!飯奢るからさ!」
両手を合わせて頼むコータローにため息をついて応える。
「分かった。今日はこの後何もないしな。」
「サンキュー、雲水!!助かるぜ!」
俺はこの時想像もしてなかった。
「で?なんのライブなんだ?」
「Roseliaっていう最っ高にクールなガールズバンドだぜ!!!」
俺はその日、運命に出会う事になる。
あまりにも俺にそっくりな、しかし俺なんかよりもずっとずっと強い女の子に。
一言で言えばライブは最高だった。
これまで特に興味のなかった俺でも分かるくらい演奏のレベルは高く、初めて聴いたのにファンになってしまうくらいに最高だった。
「どうよ?雲水?最高にクールだっただろ?」
「ああ。また来たいと思ったよ。」
とある路地にあった自動販売機の前で缶コーヒーを飲みながらライブのことをコータローと話す。
今日のライブが良かったこととコータローが金欠だったことで飯ではなく缶コーヒーで手を打ったのである。
「おお。あの堅物雲水がライブにまた来たいとは。皆には悪いが用があってくれて良かったな。お前最近難しい顔ばかりだったし。」
「む。そんな難しい顔をしていたか?」
どうやら気を使わせていたらしい。
「おう。一週間前に最京大との練習試合に負けてからだな。」
「そうか。すまん。気を使わせたな。」
「そんな事ないさ。あれはお前ひとりで悩むものじゃないだろ。」
「そうは言ってもな…。俺がもっと司令官としてしっかりしていればヒル魔の奇策に騙される事もなかったかもしれないのに。」
途中までは追いつき追いつかれでいい試合だったものの、ヒル魔の奇策で流れを持っていかれ、じわじわと点差を開かれてしまい、最終的にはかなりの差で負けてしまったのである。
「あ~もう。やめやめ!楽しいライブの後に辛気臭い顔はなしだぜ!」
続けようとしたもしもの話を打ち切られてしまう。
「…そうだな。今日、話すことではないか。反省はまたいつでも出来るしな。」
「そうそう!!息抜きも大切だからな。」
全くもってその通り。また気を使わせてしまうところだった。
「ところで雲水、あの子たちの中でどの子が一番かわいかった?」
「は?」
あまりに突然の問いかけに固まる。
「あの子たち皆かわいかっただろ?あの子たちのなかだったらどの子が雲水の好み?」
「突然何を言ってるんだ…」
呆れながら応える。
が、その時すでに頭の中ではギターの女の子が浮かんでいた。
「ま、聞かなくても分かってんだけどよ。ギターの子だろ?」
「な!?」
「「どうして分かった?」て顔だな。お前、結構顔に出るからな。ライブ中ギターの子しか見てなかったぞ。」
全く自分では気づいてなかったがずいぶん分かりやすかったらしい。
「で?あの子のどこが良かったんだよ?」
もうこれは隠せないらしいかった。
観念して応えることにする。
「何故かと言われてもよく分からないんだ。あの子がギターを弾いてる姿がどこかで見たことがある気がして…」
「?会ったことがあったのか?」
「いや、そういうことじゃないんだが…」
言葉に出来ないことがもどかしい。
あの子がギターを弾いてる姿は俺には必死にもがいているように見えていた。
それを何時も見ていたような不思議な感覚。
どう言葉にしたらいいのか分からなかった。
「ふーん。よく分からんがあの堅物雲水に春が来たと思えばいいことだな。今度話しかけてみようぜ?」
「なっ!?いや俺は…」
「キャー!」
否定しようとしたところで突然悲鳴が聞こえた。
コータローと顔を見合わせ、声の聞こえた方へ走る。
そう遠くない。
路地を曲がった所で女の子たちが数人の男に囲まれていた。
「悲鳴上げることないじゃん。今から俺たちと遊ぼうってだけだぜ?」
そう言って男が女の子の肩を抱こうとする。
「止めなさい!」
後ろに他の子たちをかばいながら髪の長い女の子が手を払いのける。
死角になっており女の子たちの顔は分からない。
「このっ!!」
男が手を振り上げるのが見えた。
俺は咄嗟に持っていた缶コーヒーを男に投げつける。
隣を走っていたコータローも缶を蹴り男にぶつけた。
「スマートだぜ!!」
そう叫んだコータローと共に女の子たちを隠すように前に立つ。
それだけで男たちは怯んだ様子だった。
当然かもしれない。
俺たちはアメフト選手だ。
ラインの選手に比べれば大したことないかもしれないが筋肉質だ。
「これ以上遊んでほしいなら俺らが相手してやるよ。なあ?」
そう言って俺をみるコータローに短く応える。
「ああ。」
男たちはこちらを睨みつけていたが、しばらくして舌打ちをしながら去って行く。
「大丈夫だったか?」
そう言って振り返ると驚いた。
「金剛雲水?」
呆然と俺を見ながら呟くギターの女の子がいたからだ。