筆頭のカリピスト ~変革の物語~   作:三方真白

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第11話 最後に残った笛の音

 

 竜ノ墓場ってどこにありますか? それと黒い竜の目撃情報を下さい。

 

「随分な依頼だな。相談事かと思いきやこれだ。ハンターに依頼というよりは情報屋の仕事だな。ましてや黒い竜なんざお伽噺でしか俺も知らねぇ」

 

 もう一つ。

 

「まだあるのか?」

 

 私がこの港に来る以前、全滅したキャラバンの話は聞いた事ありませんか?

 

「さあなぁ…。だがお前さんにとっちゃ大事な事っだってのは分かった。その三つ調べておこう」

 

 お願いします。

 

* * *

 

 それから数日の後───。

 私は、アニキが付きとめてくれた竜ノ墓場へと向かっていた。

 

 イヤ、正確には少し違う…。

 

 夢の終りの場所。

 出会いの場所。

 私が、今の私になった場所。

 

 そんなところだろうか。

 

 今の私が目覚めた場所は、竜ノ墓場からはきっとそう遠くない。地理感覚の乏しかったあの時ならいざ知らず、ハンター生活を続けてきた今なら間違いなく辿り着ける。

 だが、正確な場所の情報としてはやはり足りない。

 

 夢の中の道なき道。

 未開の地、竜ノ墓場の場所。

 あの日、あの時の私は馬車に乗ってどうやってあそこまで来たか。

 

 全ての情報を精査してより正確な位置を導きだした。

 あの出来事のあった場所を……。

 

 そして辿り着いた。

 

 死にたがりのキャラバンが望みを達成した場所に。

 

 転倒し破損した荷車。

 黒く焼け焦げ、抉られた地面。

 薙ぎ倒された木々の残骸。

 

 あの日から時が止まったような生々しい傷跡が、今尚そこにあった。

 ここだ。間違いない。

 

 アイツが臨んで辿り着いた場所。

 そして私という存在が産まれた場所。

 悲しんでいいのか、喜んでいいのかもわからない。

 ここに来て何をどうしたかったのかもわからない。

 ただ来ようと思った。一度ここに来なきゃダメだと思った。

 自分に整理を付ける為にも。

 

 生きる事に困った人々が唯一見つけ出した道。

 明日を捨てた者達が集ったキャラバンの行く果て。

 わざわざ訪れ全てを奪っていった災厄の竜。

 何人もの民が願ってその命を差し出した事件。

 

 そして、その後に生き残った者…。

 

 

 …ニャァべえ、知っていたのか?

 

「うん、知っていたニャ」

 

 私の背後、それまで何も無かった所に、いつの間にか影のように白いアイルーがたたずんでいた。

 なぜ、教えてくれなかった?

 

「知らない方が幸せって事もあるニャ。それに知った所で記憶が無ければ他人事ニャ。一連の流れは変わらなかったと思うニャ」

 

 お前は、私の監視役か?

 

「半分正解ニャ。ギルドの規定ではハンターが4人いればアイルーは必要とされないニャ、一人の方にオトモするのが自然ニャ。姿を見せなかったのはちょっと手荒な新人教育だと思って欲しいニャ」

 

 この装備の私と一緒に居たくなかっただけでは…?

 

「………」

 

 …黙るな。

 馴れるとコレも存外良いものだぞ。

 他人から選ばれる基準はとてつもなく上がるが、逆にこちらも選ぶ事がやり易くなる。

 そして、覆う防具やスキルにばかり気を取られているよりもスタイリッシュだ。

 こだわりが持てる。新しい境地を常に発見できる。

 裸身を一部でも晒すことで、自身が自然の一部である事を実感できる。

 

「全くワケがわからないニャ」

 

 モンスター自然の一部なのだと納得して狩猟に臨める。

 我々のエゴだけで狩っているのではないのだと。

 

 ……この事件も、自然の営みの一部だと納得できる。

 

「本当ニャ?」

 

 多分だ。

 彼らがそう望んだのも、生きる強さを持てなかったからだ。

 その代わりに死ぬ勇気を持った。両方とも未来が見えないにも関わらず、だ。

 強ければ生き弱ければ死ぬ、なんてのはあくまで生きている者の意見だ。

 死んだ者からすれば、生きている奴らは好んで苦労している弱虫かもしれない。 

 

「何か思い出したのかニャ?」

 

 いいや、そう思っただけだ。

 なぁ…亡くなった人たちの墓は無いのか?

 

「あるニャ。このすぐ近くにリーダー達が弔ってやったニャ。ついてくるニャ」

 

 ニャァべえの後に付いて行った先は少し離れた開けた場所だった。

 いくつも差し込む光の帯に優しく照らされながら、数知れない墓標が立っていた。その中の一つは夢の中で見覚えのある大剣だった。

 この為に最後まで綺麗にしていたのかな、とふと考えてしまう。

 俺はここにいたんだぞ、というような。

 

「全くワケがわからないニャ。あしたを生きる絶望と、きょう死ぬ希望が等価値だなんて……。ニャァ達はその日その日を楽しく生きられればそれでハッピーなのにニャ。人間ってまだまだ分からない部分が多いニャ」

 

 名も無い標を見ながら歩いていると、その中の一つに何かが紐でかけられていた。

 ん?、これは…?

 

「あぁ、その壊れた笛かニャ? 誰のか分からなかったから、適当にかけさせてもらったニャ」

 

 これは…、私のだ。

 

「じゃあ、持ち主の所に返すニャ。持っていってニャ」

 

 ありがたくそうさせてもらおう。私もここにいた証として、もう忘れないように。

 

 残念なのはもう音が出せないという事だが…そうだ。

 せっかくだ、コイツは加工屋で今の私用に狩猟笛にしてもらえないだろうか?

 

 うん、竜人の技術なら問題なく行けるだろう。

 

 そうしたら、ソイツの音色でとびっきりの葬送曲を奏でてやろう──。

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