反応次第では頻度があがるかもですが。
忍者という職業をご存知だろうか。主に諜報や暗殺を生業とし、時には逆に護衛をしたりする。
「ふぁ~、ねみぃ……」
そして、忍者というのは何処かの里に所属しており、所属する忍者の里ごとに秘伝と呼ばれる忍術や技などがあり、それは秘匿されるものだ。故に、里を抜けることは非常に忌み嫌われる行為だ。そう、忌み嫌われる行為ではあるのだが。
「次は何処に行くかねぇ」
眠そうな三白眼。まるで生気を失ったかのように感じる白髪。ボサボサの髪を乱雑に掻き揚げるとぷらぷらと歩き始める。
「見つけたぞ、段蔵!」
段蔵と呼ばれた男の周囲に降り立った黒装束に身を包んだ男たち。その数は十。
「あら、結構早かったな」
「我ら風魔を舐めているのか!貴様、何処の手の者だ!」
「俺か?俺は唯の流浪の忍者だよ」
「流浪の忍者!?まさか武田の手の者か!」
「耳悪いの、あんたら。俺はただ風魔の術を知りたかっただけだって」
じりじりと包囲網を狭くしてくる風魔の忍。段蔵は全く動揺する様子はない。
「忍者にとって抜ける、というのがどういう意味か分かっているな」
「自由になるってことだろ」
「舐めたことを!やれ!」
一人の風魔の言葉によって全員の姿が掻き消える。と、同時に段蔵の口元がニヤリと歪められる。
段蔵の死角をついて苦無を投げる風魔。それを視線すら向けずに掴むと誰もいない方向へと投げ返す。
「ぐっ!?」
その苦無にあたった風魔が一人地面に伏す。それに目もくれず、同時に四方から攻撃を繰り出す。
「忍法」
段蔵がそう呟き、手元で何かの印を結ぶ。
「風隠れの術!」
その言葉と同時に周囲を突風が包み、段蔵の姿が消える。
「くっ!逃げたか!?」
「誰が?」
即座に風魔の言葉に答える段蔵。その声に視線を向けると遥か上空にまるで立っているかのような様子の段蔵が。
「忍法」
再び印を結ぶ。
「鎌鼬!」
再び段蔵を中心に突風が吹き荒れる。その風には白い斬撃が混ざっており、それに触れた風魔たちはくぐもった声を上げて次々と倒れていく。すたっと地面に降りた段蔵の周囲には既に立っている人影はなかった。
「……殺せ」
「ん、死にたいのか?まぁ、死にたいなら殺すのは構わないけど面倒だから自害でもすればいいんじゃね?」
そう言って背を向け歩き出す。
「あ、でもお前らも全然強かったと思うぜ。ただ……」
立ち止まり、少し振り返ると親指で自分を差す。
「俺が強すぎるんだよ」
「……で、逃がしたって?」
「……はっ」
「有り得ないしっ!何で逃げられるし!?」
報告を受けてきーっと声を上げているのは風魔の長である風魔小太郎、通称を姫野という少女だった。
「御家流……この場合は忍術でしょうか、あの者はそれを使いこなし更なる追跡の目をも眩ましたと」
「……ちっ、使えないし!で、他の家に派遣してる忍たちからの報告は?」
「武田、長尾共に所属している形跡はないと。……それと、伊賀、甲賀からも同じように抜け忍が出ている、と」
「……それって同じ……あの段蔵っていう胡散臭い奴だし?」
「可能性は」
「……そうなると、やっぱり抜けさせるわけにはいかないし。人数増やしてでも……」
姫野がそう考えて命令をしようとしたときに姫野の側近でもある上忍が耳打ちする。
「頭、御本城さまからの密命を考えると少々難しいかと」
「……う~!!じゃ、じゃあ出来る限り捕らえるように命令するし!」
「はっ」
「さて、これからどうするかね」
悠々と歩きながら考える。
「まだ路銀に余裕はあるからなぁ。そうだな、何処かに仕える前に色々な情報を集めておくか」
段蔵は頭の中で有用そうな情報を思い浮かべる。
「……やっぱりアレか。新進気鋭のうつけ……織田の情報か」
田楽狭間にて今川義元を打ち破り、天人を受け入れたという噂。
「……面白そうだしな」
目指すは尾張。尾張にいる天人を見てみるというのも楽しいだろう。
「腹減った……」
ようやく尾張についた段蔵。いい飯屋がないか探し回っている最中だった。そんなに腹が減っているのであれば何処でもいいから食べればいいと思われるだろうが、彼は自称美食家なのだ。
「あー!何か怪しい奴がいるわん!」
あっちへふらふら、こっちへふらふらと歩いていると突然大きな声が響き渡る。誰のことかと周囲を見渡すが、それらしき姿は見られない。
「……?」
「アンタだよ、アンタ!」
赤髪の少女が指差す先にはやはり段蔵以外には居ない。
「……はっ!?まさか俺かっ!?」
「そうだよ!そう言ってんじゃん」
呆れたように言われて唖然とする段蔵。
「え、俺って胡散臭い?」
「胡散臭い」
「胡散臭いわん」
はじめに声を上げた少女と紅髪の少女が近づいてくる。なんとなく距離を取ろうかと後ずさると。
「はいはーい。怪しい人は止まってね~」
いつの間にか背後に立っていた紫髪の少女に背後から抱きつかれるような形で捕獲される。
「うぉっ!?お前も忍者か!」
「うん~。雛は忍者の末裔って名乗ってるよ~。……お兄さんも忍者なのかな~?」
「む!ち、違うぞ?」
「え~、でも胡散臭いよ?」
「……」
何が嬉しくて初めて出会った少女たちに胡散臭いといわれなくてはならないのだろうか。というか、そんなに胡散臭いのか。
「雛ちゃんさすがー!……でも、和奏ー、この後どうするのー?」
「どうするって……」
「怪しいからつかまえたーって言って何もなかったら壬月さまに……」
何かを思い出したのだろうか、ガクガクと震えだす犬っぽい少女。
「う、うぅ……」
「あー、じゃあ俺はもう行っていいか?」
いつの間にか雛の捕獲から逃れていた段蔵が手を振りながら言う。
「あれ、いつの間に……」
「おい、雛。何で丸太を持ってんだよ」
「あれれ~?」
「やっぱり怪しいぞ~!」
「そ、それはそうと美味しい飯屋とかないか?これも何かの縁だ、奢るぞ?」
「「「!!」」」
「何だよ~!お前いい奴じゃんか!」
「わーい!ご飯食べ放題だわん!」
「太っ腹だねぇ」
「……まぁ、いいんだけど」
何故かそのまま一緒に連れて行かれた『一発屋』という店の机一杯に並べられた食事。その量は明らかに四人分という範疇を超えている。
「……凄い量だな」
「犬子は大食いだからなぁ」
「う、うぅ……大食いじゃないもん」
「まぁ、コレくらいなら『飲み込める』か」
「飲み込む?変わったこと言うねぇ、段蔵くん」
「はっはっはっ」
「和奏~、アンタ大丈夫なの、こんな量頼んで」
「へっへ~ん。今日はこいつの奢りだから大丈夫!」
「へぇ……って見ない顔だね」
「どうも、段蔵って言います」
「よろしくね、私はきよってんだ」
よろしくと言いながら飯を口に運ぶ。
「……はっ!う、美味い!?」
「あはは、そんなにがっつかなくても沢山あるから……まぁ、犬子もいるからすぐなくなるか」
「「おかわり!」」
「ってえぇっ!?もう食べたの!?」
「ふぅ、美味かった」
「だろ!おすすめの店だからなー!」
「久しぶりに一杯食べたわん!」
「雛、見てるだけでおなか一杯になっちゃうよ」
食事が終わって四人で何故か仲良く歩いている。まるで最初の不審者扱いが嘘のような状況だ。
「お、三馬鹿じゃんか」
「誰が三馬鹿だ!」
「三若だよ~!」
「って、和奏、犬子。相手相手!」
雛が少し慌てて小声で和奏と犬子に言う。二人が視線を向けて少し顔色を変える。
「何だ、胡散臭い奴連れてんなー」
「こ、小夜叉!?」
「も、森だー……」
「ちょ、犬子、聞こえるって」
三人の言葉から察するに目の前の少女が噂の森一家なのだろう。元から細い目をさらに細めて観察する。
「(ふむ、確かになかなかの逸材だな。まだ荒削りのようだけど)」
「(こいつ……胡散臭い見た目の癖に隙がねぇ)」
小夜叉と呼ばれた少女がにやりと笑うと槍を構える。
「おう、三馬鹿!そんな怪しい奴連れて何してやがる」
「ちょ、街中で槍構えるとか何考えてんだよ!」
「わわ、と、とめないと!」
「段蔵くんさが……」
雛が段蔵を後ろに下がらせようとしたが、既に一歩前に踏み出していた段蔵は小夜叉の前に立ちはだかる形になる。
「へぇ、オレとやる気か?」
「知らん。やる気かどうかはお前のほうだろ?」
「森一家舐めてんのか?」
挑発的な段蔵の態度にイラッとした態度を見せる小夜叉。殺気を明らかに段蔵に向けて放っている。何事かと周囲に人が集まり始める。とはいえ、小夜叉の殺気が凄いのであまり近づいては来ないが。
「ほら、遊ぶなら相手してやるよ、餓鬼」
「……上等だっ!!」
ダン、と地面を蹴ると小夜叉が一気に段蔵と距離をつめる。にもかかわらず悠然と立っている段蔵。
「段蔵!」
「危ないわんっ!」
ニヤリ、と口元を歪める段蔵に突き出される槍。それには一切の躊躇がなく、段蔵を貫くかに見えた。
「忍法」
「っ!?」
小夜叉が真剣な顔になり、槍の方向を無理やり変え段蔵の居ない方向へと突き出す形になる。
「自雷針……の予定だったんだが、よく見抜いたな」
「ちっ……」
「やめろ、ガキ!」
「なっ、母!?」
「ガキィ、相手の強さも分からんのか?」
何処か少女と似た雰囲気を持った女性を見て段蔵が警戒を強める。そろそろ潮時か、とも思う。到着したばかりだが。
「ほぅ……」
獲物を見定めるように段蔵を見る母と呼ばれた女性。恐らくは森の頭領だろうか。
「それじゃ、俺はここで……」
「待て、孺子」
「こぞ……おい、俺はそんな年じゃ……」
「はっ!名前を知らんのだから仕方なかろう!で、何処から来た」
「……北?」
「ざっくりだな。ふむ……」
まじまじとまた見られる段蔵。
「ははっ!気に入った!よし、殿のところに連れて行こう」
「……は?」
「ほう、桐琴が気に入った相手か」
「殿、暫しの間こやつの逗留の許可を」
「……は?」
「へぇ、君が噂の桐琴さんが連れてきたって人?俺、新田剣丞。よろしく」
「……は?」