いろいろな敵キャラが出てきたり剣が出てきたりで作者自身も混乱中。
しかし、あまり突っ込まないで気楽に呼んでください笑
ステラちゃん回です。
お楽しみに。
「はあっ・・・はあはあ。」
湖を囲むようにして生い茂る、針葉樹林の間を縫うようにして走り、私は今ログハウスへと向かっている。
時折、突きだした枝葉が腕や太ももに突き刺さり、切り傷や擦り傷があちこちにできてしまっていた。
だけど、そんなこと今はかまっていられない。
遠くの空を見ると、まだ昼間だというのに夕焼け色に染まり、あたりの空気も熱気を帯びている。
ステラは額に浮かんだ大粒の汗を払い落とし、更に速度を上げる。
目的地へと近づくにつれ上がる温度。
体感温度で言えばすでに五十度近いかもしれない。
数メートル先の草花がゆらゆらと陽炎に包まれて見える。
彼女は不安と焦燥のどちらも振り払うように顔を下げ、歯を食いしばり、全力で走り抜けた。
パッと視界が開ける。
林を抜けたのだ。
彼女はそれを感じ視線を前方へと向けた。
唖然とした。
あれがあの思い出のログハウスかと目を疑った。
白い砂浜から伸びていた木製の階段はあちこち黒く焦げ落ちているし、ログハウスの窓ガラスはもれなくすべて吹き飛んでいる。
あたりの木々は紅蓮の業火に包まれており、屋根にも飛び火してものの数時間であのログハウスは焼け落ちてしまうだろう。
私はどうしようもなく泣きたくなった。
あの建物には少なくない思い出が詰まっている。
だが、その思い出たちまであのログハウスとともに燃えてなくなってしまいそうな漠然とした予感に打ちのめされそうになっていた。
その場に座り込んで気の済むまで泣きじゃくりたくなった。
エイラの胸元にすがりつきたかった。
だけど、今彼女はいない。
あの、炎渦巻く煉獄で一人敵と戦っているのだ。
私は目尻に浮かんだ涙を力強く振り落とし、両ほほを強くひっぱたいた。
こんなところでナヨナヨしてるな、私!今できる最善を尽くすんだ!
そう自分を叱咤し再度かけだした。
きめの細かい白い砂浜に炎の赤みが反射して一面血の海にでも染まってしまったかのように思える。
湖の潮騒ですらどこか不気味で不快に思えた。
自分の砂浜を蹴り込む音が大きくなる。
なにか自分の中の弱さを振り払うように強く、強く駆ける。
ついに、私は階段の前にたどり着く。
これを上りエイラを助ける。
その階段に一歩足を乗せた、そのときだった。
足下に大きな魔方陣が出現した。
紫色の不気味な光を放ち出す。
それは、何かの術式の起動を意味していた。
罠か!
私は鋭敏にそれを察知し、後ろへと跳躍。
すると、その魔方陣はほんのわずか光を収束させた次の瞬間にまばゆい閃光を放ち爆発した。
間一髪、トラップを回避した私はあたりを見渡す。
トラップを仕掛けた術者を見つけるためだ。
ぐるりと見渡すが誰も見当たらない。
生ぬるく不快な風がほおを撫でていく。
燃焼に酸素を使われているのか息苦しく、視界も熱気でぼやける。
まるで、自分一人が地獄へと迷い込んでしまったかのようだ。
あと、少し・・・あと少しなのに・・・!
視線の先にあるのはログハウス、エイラが戦っている場所だ。
ドーン!
そんな爆発音とともにログハウスの一部が吹き飛んだのが見えた。
やはり、中で戦っている。
エイラはあそこだ!
しかし、私ははやる体を押さえ、あたりを警戒した。
考えなしに動くことほどの愚策はないと知っているから。
私は辛抱強く待った。
もう、全身の血が逆流するのではないかと言うほどにもどかしかったが待った。
そして、待つだけではなかった。
私の精霊術『サーチングサイト』であたりに人影がないかも探っていた。
すると、ある一点が私の目にとまる。
一見なんの変哲もない陽炎。
だが、私の精霊術をごまかすことはできない。
「出てこい!卑怯者。」
私は鋭い声音で隠れているであろう術者に呼びかけた。
返事はない。
だが、しばらくすると空間の揺らめきはいっそう激しさを増し、術者の姿が現れた。
男だった。
身長は高く、やせ形。
足元まで伸びた黒衣を見に纏っている。
肌が異常に白いし、頬はやせこけ、目は落ちくぼんでいる。
だが、彼が弱々しく見えるかというとそうではない。
彼の大きな黒い目はなにか狂気的な輝きを放っており、見る者すべてを射すくめるだけの力があるように思えた。
彼は細く白いモールのような指を複雑に絡ませ、気味の悪い軟体動物のような動きを見せて言う。
「うはあ・・・。なんてみずみずしい命なんでしょう!白く輝く肢体、曲線美を描くシルエット。ちょこんと乗った小さく可愛いお顔。ああ、なんて素晴らしい・・・。早く、早く摘み取って僕の新しい玩具にしないと・・・。キヒッ!」
なめるような視線で私を見つめて引きつった笑みを浮かべた彼に私はヒドい嫌悪感を抱き顔をしかめた。
目の前の男は明らかに狂っている。
私の嫌悪をはらんだ視線にもキヒッという引き笑いを返しその後、全身を軽くけいれんさせながら不器用にもお辞儀した。
「キヒッ!・・・申し遅れましたことお詫び申し上げます、私『ザーテュル』と申します。どうぞヨロシク!あはははははははは!なんか照れちゃいますねえ、そうでしょう?いや、やっぱりそうでもない?どっちでもいいですかね。ええ、どっちでも良いですよ。なんてったってあなたの命はもう私の物なんだから。そしてあなたは私の玩具なんだから。私を死ぬまで、いや、死んでからも楽しませてくれたらそれで結構なんだ!ひとまず、あなたを殺します。それからだ。何もかもそれからなんですよ!あなたにお話しすることは何もない!そうでしょう!?だってあなたはもう私のオモチャなんだから。」
狂った人間というのは独自の思考回路と論理を作り出すことがよくあるが、ザーテュルの場合特にそれがヒドい。
全く筋の通らないことをさも論理であるかのように語っていた。
私にはとうてい理解できない論理やゆがんだ感性。
彼もジャバウォックによって歪められた被害者の一人なのだろうが正直そんなことに構ってなどいられなかった。
だって、こうしている間にもエイラが苦しんでいるかもしれない。
そう考えるといても経ってもいられないのだ。
私は高位精霊術『精霊憑依』の詠唱を開始した。
『森の御霊よ 汝ら 我に 力を与えん』
詠唱が開始すると私の周りにフワフワと黄色い光が漂い出す。
はじめはもやのようにぼんやりとした明るさだったが次第に明るさを増し、パチッパチパチと閃光を放ち出す。
『我が身に 宿り給え』
最終節の詠唱を完了。
すると、それまで漂っていただけの光が逆巻きながら私の体へと収束していく。
光は私の足から包み込んでいき、頭のてっぺんまで行くとパッと消え、自分の力が増幅されているのを感じる。
自分の体を見下ろすと、両脚、両腕、脇腹、首筋、右頬。
これらすべての部位をつなぐようにして青白く輝く複雑かつ美麗な文様が浮き出している。
銀色の髪の毛に白いワンピース、そして青い文様。
もはや、ステラの美しさは人間のそれではなかった。
ザーテュルはステラの変わりように歓喜して言う。
「うひゃあ、なんて美しい!天使様だ天使様だ天使様だ!いいですねえ。ますます私の玩具にほしい・・・!だから、早く殺さないと!早く殺さないと・・・早く、早く早く早くはやぐぅうー!」
彼の興奮はピークに達し、全身がこれまでの比じゃなく震えたかと思うと彼の周りを魔方陣が囲み出す。
ザッと二十はあるだろうか。
しかも、これは先ほど見せた爆裂系の魔方陣ではないようだ。
どこかで見たことのある術式が浮かんでいたが、魔方陣に突如現れたモノを見ると考えるまもなく答えが分かってしまった・・・。
「まさか・・・。お前、死霊術士なのか・・・?」
「あはははははは!気づいちゃいましたかあ?そう。私はネクロマンサー。生と死を司る死霊術士。だから、こーんなにも可愛い可愛い玩具ちゃん達を生み出すことができるのでーす。キヒッ!」
彼の周りを取り囲むようにして現れた異形の存在『アンデッド』。
彼らの肉体はすでに腐りかかって、あたりには強烈きわまりない腐臭が漂う。
どの個体にも目に光はなく、うつろに見開かれているばかりだ。
しかし、手にはどいつもこいつも武器を持っており槍であったり、短刀であったり、弓であったりと多種多様だ。
私もそれに対抗するべく胸元にある幾何学模様に手を当てる。
「バルザック」
そう呼びかけると、まばゆい閃光が迸る。
私は柄を取りゆるりと引き抜いた。
自分の身長ほどもある肉厚な片刃の大剣。
峰にはこちらも青い装飾が施されており、美麗きわまりない、だが、装飾に凝った見かけ倒しの剣というわけでは断じてなかった。
その証拠に、肉厚な刃は切っ先が透き通るほど鋭く研ぎ澄まされ、刀身全体が濡れたように輝く見事な霞仕上げ。
美麗かつ残忍。
ステラ自身を体現しているかのような魔剣だった。
私はバルザックを右手一本で中段に構え、ザーテュルを見据える。
ザーテュルはキヒッキヒヒと薄気味悪い引き笑いを浮かべながらドンドン魔方陣によって死者を呼び起こしていく。
すでに五十体はいそうであった。
チッと小さく舌打ちする。
そんな私のいらだちめいた様子を見ていたザーテュルはいやみったらしいゆがんだ笑みを浮かべて高笑する。
「あはははははははは!いいですねえ、いいですねえ。その焦りと不安が入り交じった腹立たしげな顔。ああ、ホルマリン漬けにしてお部屋に飾りたいぐらいすてきです。なので、もっともっと見せてください。あなたの感情むき出しな表情を。あなたの奥底に眠る大切な大切な部分を私にもっと見せてください。味わせてくだざぃいい!」
ザーテュルが叫ぶのと同時に異形の存在『アンデッド』達が動き出した。
私は前方から迫り来る二体のアンデッドを右手の大剣でなぎ払う。
だが、ザーテュルめがけて駆ける私に次々と彼らは襲いかかった。
右のアンデッドから突き込まれる槍を大剣で弾き、反動を利用して回転、左から迫るアンデッドと右のアンデッドを一気に切り裂いた。
「うぎゃあっ!」「ぐわあ!」
悲鳴を上げながら倒れるアンデッド。
私はそれを見届けることもせず、次のアンデッドを殺す。
ザーテュルはまだまだ先だ。
私は突き進んだ。
無数の屍を築き上げ、なおも進んだ。
向かってくる者は皆殺すべき敵。
視界に入る者すべてを切り伏せる。
だが、正面から飛びかかってきたアンデッドを両断したときに血しぶきが私の顔をぬらす。
「血・・・?」
左手で顔を撫でるとどろりとした感触。
見ると赤黒く染まっている。
おかしい、おかしい、おかしい。
あいつは死霊術士。敵はアンデッドの大群。
アンデッドは肉体を持つが血の通わない冷たい肉体。
だから、切り裂こうが分断しようが血が吹き出ることは絶対にない。
今も、右から斬りかかってくるアンデッドを切り伏せたが血を吹き出すことなんてなくただグシャリと倒れるだけ。
だからこそ、私は躊躇なく切って来れた。
アンデッドだから、敵だから、人間じゃないから。
躊躇なく切れたのだ。
だが、今、左から迫る女のアンデッドを切り伏せるとまた血潮が勢いよく吹き出し私の顔をぬらす。
そのとき初めて、私は倒れた屍の顔を見た。
――それは紛れもなく血の通った人間だった。
私はそれを認識した途端、耐えがたい恐怖に見舞われた。
私が切り伏せた無数の屍の内どれだけが人間だったのだろう?
私は罪のない人間をどれだけあやめてしまったのだろう?
――罪悪感。
ただ、その感情に支配され、私は動けなくなった。
「あれれ?どうされまっしたかー?」
妙なイントネーションで聞くザーテュル。
私を襲ってきていたアンデッドの大群はぴたりとその攻撃の手を止めている。
でも、もう私は剣を振るう気力を失っていた。
ただ、一つだけ聞きたいことがあった。
私は力なく大剣を下げたまま、ザーテュルに聞いた。
「あなた・・・本当に死霊術士なの?」
「うはああ!気づきましたか・・・?ようやく。」
「気づいたも何も、あなた最低よ!」
「ええ、ええ。私、ゲスであると心得ておりますので。」
ニヤーと底意地悪い笑みを浮かべザーテュルは続ける。
「・・・私、あなたが想像しているとおり、実は死霊術士っていうだけではありません。あ、勿論ネクロマンサーではあるんですよ?でも、兼業で他にもやっておるのです・・・。それは・・・。」
ザーテュルは指を細かく動かして見せると彼の周りを囲むようにして存在する十人ほどが全く同じ動きで踊り出す。
ウハウハと楽しそうに見ていたかと思うと突然『死ね』そう言って手を思いっきり握る。
すると踊っていた彼らの体がねじ切れ、血しぶきがまるで噴水のように上がった。
血潮が細かく降りしきる、その向こうでザーテュルは笑いながらこう言った。
「それは・・・傀儡使い。あなたもこうなってもらいます。私のお人形さんに、ね?」
私はそれを聞いた瞬間膝から崩れ落ちた。
やはり、私は操られただけのなんの罪もない人間を何人も殺していた・・・。
取り返しのつかないことをしてしまった。
左手を見ると消えようもない赤黒い血。
これが私の罪の証。
「あは、あはは。あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
私の中の何か大切なモノがグシャリと壊れた瞬間だった・・・。
「あはぁ・・・壊れてくれました。これで心に隙間ができた。」
耳元で響く甘い声。
ザーテュルだ。
だけど、私は何もする気力が起きない・・・。
――大丈夫、心配しないで。私はあなたを愛している。何があっても受け入れる。
ホント?
――うん。だって、私は絶対的な悪。あなたの罪なんて私の前では可愛いモノだよ?
・・・許してくれるの?
――うん、だからね、こう言って?
・・・うん。
『アブソリュートリー・オベイ』
いかがでしたか?
まさかの闇墜ち展開。
作者自身も混乱中笑
次話もお楽しみに!