晋介君の成長が目覚ましいのでそこにも注目です。
楽しんで読んでいただけたらうれしいです。
剣術を極めし者にのみ与えられる称号――剣聖。
この世界にその称号を持つ者はたった五人しかいない。
世界を構成する五つの国――五大国は
北の国――ノース・ステイト
南の国――サウザン・ステイト
東の国――イースト・ステイト
西の国――ウェスト・ステイト
世界の中心――セントラル・ステイト
であり、剣聖たちはそれぞれ国ごとに一人ずつ存在する。
剣聖の選出方法は実に明瞭で、それぞれの国で五年に一度開かれる剣術大会を勝ち上がり、見事優勝した者が次期剣聖として選出されるのである。
出場条件は剣術を扱えることだけ、というシンプルなものなので、暮らしぶりの悪い平民出の青年たちには、自らの境遇、村の運命を変えることのできる千載一遇のチャンスである。
よって、この五年に一度の大会は異様な活気を帯び、出場者も文字通り死にものぐるいなので
ルールには――殺してはならない――とあるのだが残念ながら黙認されているのが事実だ。
貴族は自らの威信のために、平民は下克上をなすために剣聖の座を奪い合うのである。
そんな、命がけのデスゲームをいくつもいくつも勝ち抜いた末につく剣聖は言うまでも無く圧倒的強者であり国内では無敵を誇る。
そして、五大国の中でも群を抜いて強いとされているのが剣聖同士の大会――剣聖剣術武闘大会の覇者であり、世界の中心で最も文明の発達したセントラルの剣聖。
その剣聖があまりにも神々しい剣術を扱うことから人はその剣聖を――神聖剣帝、と呼ぶ。
「と、言うことなの。この神聖剣帝が実質上、世界の王と言ってもいいかもね。晋介君にはこの神聖剣帝よりも強くなってもらうから。」
エマがすごく楽しそうにそう言ってくる。
剣聖ってそんなに強いのかよ・・・。
やばい。これから先のことをほんの少し考えただけで気が遠くなってくる。
何でこんな朝っぱらから憂鬱な気分になってんだ、俺。
事の発端は俺の何気ない一言だった。
いつものごとくエマちゃん、カーティス師匠、俺の三人で朝ご飯を食べていた時のことだ。
俺が「剣聖って何なの?」という至極純粋な質問を投げかけると、二人とも目を点にした後、「そんなことも知らないの!?」と驚いたのだった。いや、知らないに決まってんだろ。と心の内で毒づいているとエマちゃんが呆れつつも懇切丁寧に説明しだし、剣聖の化け物具合や修行の道のりの長さを改めて認識して今に至った、という感じである。
これからのことを不安に思っていると、それが顔に出ていたのだろう。
師匠が快活に笑いながら
「安心しろ。君の成長は私が保証するよ。なんてったって、この私がその五人の剣聖の一人、ヴァン・エヴェレック・カーティスなんだからな」
と言った。
え?今、師匠なんて言った。自分が剣聖だ!みたいなことを言ったような・・・。いや、無いだろ。そんなことあるはずもない。うん、聞き間違いだ。そうに違いない。
「今、師匠なんて言いました?」
「だから、私がこのイースト・ステイトの剣聖だ、と言ったんだ。」
――うそ、だろ・・・?でもこれまでの言動や、あのバカ力や殺気。まさか、本当に・・・剣聖?
「なんだってぇぇぇええええ!!!!!」
異世界に来てから二番目に大きな絶叫だった。
「198!199!200!よし、今日の素振り終了!」
初めての素振りから約一月が経過しようとしている。
はじめの頃にはヘロヘロになってやっていた素振り200回も今となっては二時間程度でこなすことができてきた。
体つきも着実にはじめの頃とは変わってきて、しなやかでたくましい筋肉が肩周りや背中などに付いてきている。
いっぱしの剣士らしくなってきたことをうれしく思いつつも、まだまだ師匠には敵わない。
師匠の修行をこなせばこなすほどにその壁の高さを思い知る。
以前なら、上ろうとも、見上げようともしなかっただろう。
しかし、今は登頂不可能とすら思える頂への道を突き進むことが苦しくもあるが愉しく思えてならない。
逆境に打ち克つ。
この歓びこそ現実世界の俺には欠落していた。
そして、この歓びが明日の希望になることを知らなさすぎたのだ。
希望とは、成長している実感であり、明日は今日よりもよくなるという確信である。
だから、いくら困難や逆境に襲われようとも俺の希望の灯りは消えることはない。
この茨の道を進み続ける限りは。
ここに来なかったら一生気づかなかったかもしれない。
異世界に転移させてくれたエマちゃんには本当に感謝するしかないな。
そんなことを思いつつ井戸の水をがぶ飲みしていると、師匠が近づいてきた。
「そろそろ、次の段階に入るか。晋介君。」
そう言って自らの木刀を手にとる。
「いいか、君はすでに素振りの型である大上段振り下ろしをマスターしたと言って良い。しかしこれは基本も基本で剣術とは言いがたいものである。」
そうだろうな・・・。まだ口が裂けても自分を"剣士"だ、などといえるレベルではないことぐらいは重々承知のうえである。
「だが、すべての剣術はこの基本の上に成り立っている。構えと集中力、そして振り下ろし。素振りで養った三つのポイントを忘れないでここから教える型の練習に取り組んでくれ。」
「はい、分かりました!」
「よろしい。ではまず壱の型をやるからその目に焼き付けろ。」
そう言って師匠は右足を一歩前に、大上段に木刀を構える。
「は!」
裂帛と同時に振り下ろす。素振りの型では体正面で止めていたのだが、今回は振り抜ききり体の左に刀身がある。
木刀の動きが止まると同時に刃を返し、
「やあ!」
左足を踏み込みながら右方向に一閃。
すごい速さの二連撃だ。速いのに無駄がなく、何よりも美しい。
洗練された動きとは剣術であっても人を虜にするのか・・・。
師匠は演舞のせいで少し乱れた髪を払い立ち上がる。
未だ先ほどの演舞に陶然としていた俺に笑いかけながら
「どうだ、これが壱の型だ。基本の型は壱から拾の十個だ。ここからはこの十個の型を修得していってもらう。
三年後に迫るイースト・ステイトの剣術大会での演目だからしっかり取り組むように!」
「はい・・・。」
あれ?今師匠なんて言った?俺が剣術大会にデルだって~。おっかしーなー。そんなこと言ってたっけ~?
「師匠。一応確認なんですけど、俺が剣術大会に出場するんですか?」
「当たり前だろ?何のための修行だと思っている。神聖剣帝よりも強くなる、ということは剣術大会で優勝して剣聖剣術武闘大会で神聖剣帝を倒すためだろうが。」
「・・・なんだってぇぇぇええええ!!!!!」
本日二度目の絶叫だった。
俺が三年後の剣術大会に出場するという衝撃のカミングアウトから数日。
あれから俺は十個の型をマスターした。
だが、マスターしたといっても動きを覚えただけで、完成度は師匠にまるで及ばない。
あの高速かつ流麗な剣技を自分のものにしたい。
そんな欲求が自分を型の反復練習に向かわせる。
毎日毎日覚えた型の練習を二人が寝た後にこっそりやっているのは秘密だ。
今日も深夜の二時頃にこっそりと中庭に降り、すべての型の反復を行う。
「ふっ!」
振り下ろしたこの刃の勢いを殺さずに、体をひねる!
「は!」
右足を踏み込みつつ左に一閃!
振り抜いた体勢でしばらく制止する。
ふー、と息を吐き体を起こした。
「よし、拾の型も完璧だ。あとは壱から拾までの連続剣技の舞を反復練習すれば終わりだ。」
そうなのだ。この壱から拾までの型は次の型へすべてつなげることができる。
師匠が数日前に
「最も効率の良い連続剣技の一つだから実践においても使われているところをよく見る。たとえば壱の型から弐の型、という連続剣技なんかは使い勝手の良い剣技だ。」
そういって手本を見せてくれた。
大上段に構え、右足を踏み込み、振り抜く。
刃先を返し、左足の踏み込みと同時にすぐさま右に一閃。壱の型だ。
両手持ちから左手を離し、左足を軸にして一回転しさらに右に一閃。弐の型である。
技の継ぎ目継ぎ目が分からないくらいに無駄のないなめらかな剣舞だった・・・。
師匠から教わった型の連続剣技は実践で必ず武器になる。
大会のための演目で終わらしちゃダメだ。
神聖剣帝と戦うのは実践で、なのだから。
井戸水で顔をバシャバシャと洗い、眠気を追い出す。
よし!次行くぞ!
そう意気込んで秘密の自主トレを再開したのだった・・・。
習った型はすべて体にたたき込み、連続技もあらかた修得した俺はその日、中庭でいつものように素振り、型の反復をこなしていた。
すると、師匠とエマちゃんが中庭に降りてくるのが見える。。
師匠はともかくなぜエマちゃんがここに?
疑問に思っていると師匠がその疑問を解決してくれた。
「今日からは私との模擬戦闘を行う。実践慣れもしておかなければ大会を勝ち抜くことなどできやしないからな。本気でかかってきなさい。あと、この模擬戦闘は木刀を使って行うから問題ないとは思うが、万が一大けがを負ったときにはエマの魔法で治癒してもらう。」
なるほどエマちゃんは救護班みたいなものか。
「何か質問はあるかね?」
「一つだけ質問があります。」
「何だ?」
「魔装は使っても?」
そう。俺は連日連夜、型の練習だけでなく魔装を用いての剣技を練習していたのだ。
やり始めた頃には、かなり苦戦したが、なんとか形になってきているのでできれば実践で試してみたい。
「なに?魔装を用いて剣術が使えるのか・・・。お前さては隠れて何かやっているな?」
ニヤリと俺にほほえみかけて来る師匠。
やばい、さすがに感づかれてるな・・・。
「いえ、ただの復習です。」
俺は不敵に笑いながらそう答えた。
「まあ、良いだろう。そういうことにしといてやる。魔装を用いようが何をしようがかまわないよ。晋介君のできる全力でかかってきなさい。」
「分かりました。俺の全力を見せてやりますよ。」
そう言って中庭の中央に正対して木刀を構えた。
全力の戦闘は現実世界でもこっちに来てからも初めての行為。
緊張は確かにある。
だが、それ以上に俺はあこがれの師匠と戦えることに興奮していた。
その興奮を力に変えるべく少し冷静になる。
体の内に熱い炎を蓄えるかの様に闘志を燃やすのだ。
師匠の構えは、木刀を持った右手を緩く下に下ろし、左手は腰にある。
受けに回るつもりらしい。
なるほど。ならこっちは全力で攻撃するだけだ。
「魔装!」
右手で両足に触れると、燐光を放ち出す。
「charge」の詠唱は早くてエマには聴き取れないスピードで、魔力生成も瞬時に完了している。
成長している。
そして、晋介が左足を踏み出した、と思ったときには20メートル先にいる師匠に打ちかかっている。
「弐の型!」
そう言って体を右にひねり、右手で持った木刀を振りかざす。
師匠は口元に笑みをたたえながら
「遅い!」
そう言って木刀をいなす。
晋介の木刀は空を切るが、
「まだまだー!」
右足をつくと同時に踏み込み、右にある刀を引いてきて肩に担ぐ形へ。
滑るようにして師匠に近づき、低い体勢から思い切り刀を振り抜く。
「三の型ー!」
この連携は一から十ある型の中で最も早いコンビネーションである。
魔装によってブーストされているため、通常時とは比べものにならない速さだ。
師匠もこの連続技には驚きを隠せていない。
目は大きく見開かれ口元からは笑みが消えている。
イケる!
そう思ったときだった。
「なっ!」
師匠が消えた。晋介の木刀は空を切り、勢いを殺しきれずに一回転してしまう。
どこに行ったんだ?
そう思っていると背後から
「やるな、晋介。感心したぞ。」
という師匠の声。慌てて飛び退き、師匠を見ると両足が紫色の光を発している。
俺の魔装とは比べものにならないぐらいまがまがしいオーラを放っている。
「私に魔装を引き出させるとは・・・。本当にたいしたもんだ。侮っていたよ、君の実力を。」
「そりゃ、どうもです。それにしてもその脚の光は何ですか?ファッションにしては悪趣味だ。」
そう言うと、師匠は笑いながら
「はっはっは、ファッションなんかではないよ。これは魔装のレベル5状態と呼ばれているものだ。
君の魔装はレベル1。初期段階と呼ばれているものなんだ。つまり、私の魔装は君のよりも四ランクほど上の代物って言うことだよ。」
なに!魔装にレベルがあるなんて初耳だぞ。
エマちゃん情報伝えなさすぎでしょ。これと言い、剣聖のことと言い。
というか、師匠そんな本気の代物使うってずるくね?
「師匠、そんなもの使ったってことは俺の勝ちってことで良いんすよね?」
「ああ、今回は君の勝ちだ。認めるよ。」
師匠は拍子抜けするほどにあっさりと負けを認めた。
あまりにもあっさりとしていたためまだ頭が追いつかない。
・・・やった、やったぞ。魔装なしの師匠とはいえ、俺は師匠に勝ったんだ・・・。
「よっしゃぁぁぁぁああああああ!!!!!」
こうして初めての模擬戦闘を勝利で飾ったのだった。
いかがでしたか?
戦闘シーン初めて書いたので不安です。
次話もよろしくお願いします。
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