「くそっ!」
黒い霧にのまれ、円が飛ばされたのは山岳ゾーンだった。空中に投げ出されるが、地面に足をついたと同時に一回転して力を逃し、綺麗に着地する。
円の目の前には数多くの敵たちが集結していた。後ろでは一緒に飛ばされてきた上鳴と八百万、耳郎が言葉を失い固まっている。
「この中に円城円はいるか?」
敵の中から1人が声をかけてくる。狙いの一つが円である以上恐らく他のところでも同様の問いかけがされているだろう、と予測をつけながら円は自分でこの質問に答える。
「おれが円城円だ。お前らの狙いはおれなんだろ。後ろのやつら、いや他の生徒にも手を出すな。相手ならおれがしてやる」
「お、おい!円城」
後ろから上鳴の心配気な声が聞こえてくる。敵の子供であることを知っても、心配してくれる入学試験からの友人に思わず笑みが浮かぶ。
「やったぜ!ラッキー!お前は知ってるだろうがな、敵にまで手を出してたブラッディは俺たちからも恨まれてんだよ!痛めつけてから連れてってやる!1人でこっちにきな。約束通り後ろのやつらには手を出さねえでやるよ!」
その言葉を聞き、円は敵の集団に向けて歩みを進める。後ろから3人が呼びかけてくるが、「大丈夫だ」と声をかけて歩みを止めない。
「よし、そのまま動くんじゃねえぞ」
敵の前で止まると、敵の中から1人が出てきて拳を振り上げる。
「円城!!」
上鳴の声が聞こえるが安心して欲しい。そんな簡単に殴られてやる趣味はない。
拳が振り抜かれる!
円は振り抜かれた腕を左腕でとり、残った右腕で敵の頭を引き寄せ顔面に膝を打ち込む。
「ぐへっ…」
衝撃が増幅された膝蹴りは敵の鼻っ面をへし折り一撃で昏倒させる。
「ただで殴らせるつもりはねぇよ。見たところあんたら全員"個性"持て余したチンピラにしか見えねえ。それならおれのクラスメイトたちは絶対に切り抜けられる」
「てめぇ…、ふざけやけやがって!ぶっ殺してやる!!」
1人がやられたことで残った敵たちが円に向かっていく。
「悪いが、お前らの仲間になるつもりなんてこれっぽっちもないからよ、とりあえず全員ぶっ倒す!」
ドガッンッ!
衝撃音を残して円が搔き消える。その瞬間円の目の前に向かっていった敵が蹴り飛ばされた。敵たちに向かっていったことで逆に囲まれるが、そんなことは関係ないとばかりに次々に敵を無力化していく。
円の"個性"により山岳ゾーンにいる伏兵も既に見えている。地面に潜り潜んでいるようだが関係ない。
強く、強く地面を踏み込む!衝撃が最大増幅される。
「大震撼!!!!」
瞬間、円を中心に地面が割れる!
「な、なんじゃこりゃ!」
「話と違うじゃねぇか!こんなに強いなんて聞いてねぇぞ!!」
敵たちから悲鳴が上がる。地面に潜っていた伏兵が露わになった。これでこの山岳ゾーンにいる敵は全部。
「上鳴、八百万、耳郎!!こいつらを無力化する!手伝ってくれ!」
「おうよ!」
「わかりましたわ!」
「了解!」
三者三様の返事が飛び、再び先端は開かれる。
最も多くの敵に円は囲まれているが、既に円には敵わないと悟ったのか、複数の敵たちが上鳴たちの方に向かっている。だが、円に心配はなかった。3人とも強いことを知っているからだ。
3人よりもまずは自分の分を終わらせる。囲まれてるとは言っても全員で一斉に殴りかかれるわけじゃない。敵は大勢、こちらは1人。どうしたって円との近接戦闘の間合いに入ってくるのは3人程度。だが、遠距離からの攻撃もある。まずはそちらを潰す。
円のコスチュームであるスーツには数々の機能に加え、様々な武器も仕込んである。ウエストポーチの中には閃光弾などの戦闘を補助してくれる道具が、スーツの中やレッグホルスターには暗器が。
右腕で敵たちの攻撃を捌きつつ、左手を懐に突っ込み刃が潰されたクナイをとりだし、それを遠距離から攻撃してくる敵に投げつける。
投げる瞬間の衝撃が増幅されたクナイは敵が反応できない速度で飛んでいきクリーンヒットする。
遠距離からの支援が止まる。円の近くにいた3人をそれぞれ囲んでいる敵の方向へ吹き飛ばす、と同時に体に勢いをつけて回転する。
回転した衝撃を増幅し周囲に拡散、囲んでいた敵たちを吹き飛ばした!
それと同時に声が飛ぶ。
「円城さん、こちらへ!」
声をあげたのは八百万。見れば"個性"である創造で何らかのシートを創り出している。
恐らくは絶縁体のシートだろう。なるほど、これなら上鳴の"個性"を最大限に活かせる。
円は崩した包囲を抜けて八百万たちの元へ向かい絶縁体のシートを被る。
「上鳴!あとは頼んだぞ!」
「任せとけよ!これなら俺は、クソつえぇ!!」
大放電!!
上鳴から放電された電撃が敵たちを行動不能にする。
だが、1人の敵が電撃を受けても平然とした様子でここから逃げようとするのが見える。
地面に潜って隠れていた敵だ。恐らくはあいつが電波を遮断していた敵だろう。上鳴の放電が効いていないということは同じような電気系の"個性"である確率が高い。
逃げられる前に行動不能にする!
シートから出ると同時に"個性"も併用して敵に向かって駆け出す。
「電波をジャミングしてんのお前だろ。悪いがお前は逃がさねえぞ」
逃げる敵の前に立ちはだかりそう言った円に向けて、敵が電撃を放ってくる。
「くっそ!くらいやがれ!」
円は避けるそぶりを見せず直接くらう。敵の口角が一瞬上がるがすぐに驚愕の表情へと変化した。
「な、なんで倒れねぇんだよ!!」
「おれのコスチュームには耐電機能もついてるんでね、とりあえず眠ってろ!」
驚愕の表情を浮かべる敵の顔面を殴りつける。衝撃が増幅された一撃は確実に敵の意識を刈り取った。
▽ ▽ ▽
「円城さん!大丈夫ですか!」
逃げ出した敵を昏倒させたところで、八百万たちが円の元へと駆けつけてくる。
「おう!大丈夫だ。そっちも大丈夫そうでよかったよ」
「まぁ、円城がだいたい片付けてくれたからね」
耳郎の言葉を聞きつつ周りを見回しても駆けつけてきたのは、八百万と、耳郎の2人だけ。上鳴の姿が見当たらない。
「あれ?上鳴はどうしたんだ?」
「あぁ、上鳴だったら…」
2人が円を先導して歩いていけば、そこは先ほど上鳴の放電で敵たちを一網打尽にした場所だ。
「ウェーイ、ウェウェーイ」
そこでは上鳴が許容量をオーバーし、「ウェーイ」としか言えないアホになっていた。
「ほんと勿体無いなこいつ」
その円の一言に2人は同意する頷きを返したのだった。
だが、とりあえずアホになった上鳴は置いておく。
「八百万。まずはロープかなんかでこいつらを拘束しておこう。作れるか?」
「勿論ですわ!」
そう言ってロープを創造してもらい、3人で協力して敵たちを拘束していく。
「さて、敵もまとめて拘束し終えたし、おれたちにできることは4つある」
敵たちを拘束し、4人で集まってこれからどうするかを話し合おうとゆう場面なって、まずは円が切り出した。
「1つめは他の奴らを助けるか?」
アホから解放された上鳴がまずは1つめを答える。
「そうだな、それが1つめだ」
「2つめは正面ゲートへの援護ですわね」
「んじゃ、3つめは相澤先生の援護?」
八百万と耳郎の言葉に無言で頷き肯定を示す。そして、円自身が4つめを切り出す。
「4つめはこのまま何もしないだな。もしくは別の場所から逃げるか」
この4つめの答えに3人が3人ともなんとも言えない表情をする。円たちはヒーロー志望、このまま何もしない、ましてや逃げるなんてできないのだろう。
「まぁ、おれも4つめは無いと思ってる。ならまずは上鳴」
「お、おう。なんだよ?」
「ジャミングしてるやつは気絶させた。学校に連絡試してくれ」
いきなり声をかけられて驚いている上鳴にこう告げると、まずは驚き、ついで納得といった表情見せた上鳴が「まかせろ!」と言って学校への連絡を試してくれた。
「よし、それじゃあ上鳴が学校に連絡入れてる間におれたちの方針を決めとこう」
円のこの言葉に真っ先に反応したのは八百万だ。
「私は他の方々の手助けに行くべきかと。円城さんの"個性"ならば探し出すのも容易なはずです」
「ウチもそれに賛成かな。相澤先生のとこは危険すぎると思うし」
2人の意見は他のクラスメイトたちの救援で一致している。事実上選択肢は2つしかない。1つは2人の言っているクラスメイトたちの救援、そして2つが正面ゲートの援護だ。相澤が相手にしている敵の中にはやばそうなやつも混じっていた。何より、円たち生徒が介入してはプロの邪魔になる。
だが、それでも円は分かっていても自分の考えを曲げることはできない。
「おれは、相澤先生の救援に行く」
八百万と耳郎は驚愕の表情を浮かべ、次いで「どうしてか!」と問いかけてくる。
最もだ。この2人は一番危険であることもプロの邪魔になることも理解している。だが、敵の狙いが円なら円は逃げるわけにはいかない。
「敵の狙いはおれだ。ならおれは最低限殺される心配はない。相澤先生の相手にしてる敵の中に明らかにやばいのが混じってた。おれは、助けたい」
「で、ですが円城さん…「学校に連絡できたぞ!」」
八百万の声に上鳴の声が重なる。だが、上鳴はこの神妙になってしまった空気に困惑し「ど、どうしたんだよ…」と情けない声を上げている。
状況の分かっていない上鳴に円が自分で状況を説明する。そして、当然のごとく上鳴からも反対される。
「何言ってんだよ、円城!それでもし円城が連れていかれたりしたらどうする気だよ!」
「そうだよ、ウチらが行ったって相澤先生の邪魔になるだけでしょ」
「円城さんが狙われているというのなら、むしろ円城さんは隠れているべきです」
3人とも円を心配してくれているのだろう。純粋に嬉しい気持ちが心を満たしてくれる。
敵の息子であることをあんな形で知らされて、拒絶されるだろうと予想していた円にとってこれは嬉しい誤算だった。
「でも、あいつらがこれからもおれを狙うなら逃げるわけにはいかない」
円は決意を込めた表情でそう告げる。3人が気圧されたような表情になるが、一番に声を発したのはやはり上鳴だった。
「学校には連絡取った!オールマイトはこっちに向かってて、先生たちもこっちに向かってきてくれてる!そんな無茶しなくてもよ」
それはかなり、良い知らせだった。八百万と耳郎の顔にも喜びが見えるし、円も思わず笑ってしまうくらいには。だが…。
「しなくても良いかもしれない。でも、おれがそうしたいんだ。3人は他のやつらを助けてやってくれ。どうやらそれぞれが別々の災害ゾーンに飛ばされたみたいだ」
「待てよ、円城!」
このまま相澤の元へ向かおうと3人に背を向け歩き出すと後ろから上鳴が声をかけてきた。
「だったら俺も行くぜ!今のお前を1人にさせらんねえからな!」
「そうですわね、では私も」
「だね、ウチも円城手伝うよ」
思わず円が呆然とした表情を晒してしまう。まさか、こんな展開になるとは予想もできていなかった。
「お前ら、なんで…」
「友達だろーが!円城が狙われんてんだったらヤベー場所に1人で行かせらんねぇだろ!」
上鳴の言葉にまたも呆然とした表情を晒してしまう。
中学時代、円の父親がブラッディであることがバレた。それで、友達だと思っていたやつらも全員が円を避けた。結局卒業まで関係を修復できた友達は誰もいなかった。
だから、ブラッディの息子であることを知っても心配してくれたのが嬉しかったのだ。
ましてや、上鳴はまだ円を友達だと言ってくれた。思わず呆然としてしまった円を責められる人間はいないはずだ。
「お前、ブラッディの息子だからって俺が友達やめるとでも思ってたのか?」
円が声を発さずに呆然としているのを見咎めてそう上鳴が問いかける。妙なところで勘の鋭いやつだ。
そのまま上鳴が言葉を続ける。
「円城は円城だろ!だから俺たちは友達だ!そんで、友達助けんのに理由なんかいらねーだろ!」
その上鳴の言葉に後ろの八百万と耳郎もうなづいている。
「円城さんがすごい方だというのは短い付き合いでも分かります。真剣にヒーローを志していることも」
「まぁ、確かにびっくりしたけどさ、それでも上鳴言ったみたいに円城は円城じゃん。親は関係ないよ」
3人の言葉を聞いて急いで3人に背を向ける。こんな展開になることは予測していなかった。そして、その言葉がこんなにも嬉しいとは思わなかった。
「…危険だからな…。絶対死ぬんじゃねえぞ」
死なせたくないと思った。こんないい友人たちを、円のことを友達だと言ってくれたこいつらを。
「おう!」
「ええ!」
「勿論!」
先に歩き出した円に向かって3人も小走りに駆け寄ってくる。
「円城、もしかして泣いたか?」
にやけながらそんなことを言ってきた上鳴には問答無用で頭にげんこつを振り下ろす。
見直したのがバカらしくなってくるほどに、いつも通りの上鳴だ。
こうして、円たちは噴水前。最も危険であろう。相澤の救援に向かうことが決定した。
▽ ▽ ▽
「がぁぁ…!!」
相澤が脳みそがむき出しになった大男に、マウントを取られ腕を砕かれた。
噴水前の広場では円たちの予測を超えて自体は緊迫していた。
なんか、上鳴の性格変わってたりしてますね。はい、だいぶ自己満足が加速してます。
中学時代の円には敵の息子だとバレた時点で友達がみんないなくなったのでかなり、嬉しかったのです。