模擬市街地演習が始まり5分程度はたっただろうか。スタートダッシュは遅れた円と上鳴だったが今は順調に仮想敵を倒してポイントを稼いでいた。
「なぁ、円城。さっきの入り口のやつなんだよ?俺まだちょっと吐き気するんだけど…」
「あれは俺の"個性"のバリエーションの1つ。詳しくは企業秘密で」
上鳴が言ったのは入口での高速移動についてだった。スタートダッシュを切れなかった円と上鳴は円の"個性"を利用し高速で移動し他の受験者たちを軒並みごぼう抜きし今この場にいるのだ。
「教えてくれたっていいじゃねぇかよ」
「俺の"個性"はお前のと違ってわかりやすくないんだよ。右手の角から2ポイントくるぞ」
「はいよ」
軽く返事をして上鳴は2ポイントの仮想敵に向かって行く。そして触れると同時に電撃が弾けた。直接電撃を浴びた仮想敵は煙を上げて沈黙する。
「派手でいいなお前の"個性"。現代じゃ勝ち組だ」
「だろ。機械相手でよかったぜ。円城の索敵?の"個性"も使い勝手良さそうだな」
「そんなことねぇんだけどな」
円と上鳴が粗方刈り尽くしたのか周りには仮想敵はいない。周りにも何人かの受験者がいるが、その受験者達よりも見た感じ円と上鳴の方がポイントを稼いでいるようだ。
「俺のポイントが38。上鳴が42。周りの奴らは20後半から良くて30前半。この調子なら合格圏内だろうな」
「お前俺のポイントも覚えてんのかよすげーな」
「最初からずっと一緒なんだなんとなくわかる。」
「それじゃあこの調子で時間まで行こうぜ!」
「そうしたいところだが、妙だな」
「何がだよ?」
「いや、0ポイントの仮想敵がステージ上を暴れまわるって聞いたが未だに姿が見えない。おれと上鳴はかなり動いている方だと思うんだが…」
そう、暴れまわると聞いていた0ポイントの仮想敵が、未だに姿を見せないのだ。暴れまわるというくらいだからさぞ目立つだろうと円は考えていたのだが。
「わかんねーけど、わかんねーことはほっといてさっさっとポイント稼ごうぜ」
「はぁ…、単純め…。まぁ確かにそうだな。移動しよーー
その時だった。
ドゴォォン!!近くのビルが倒壊したような爆音が鳴る!
もうもうと上った煙から現れたのはあまりにも大きすぎる、予想をはるかに超えた大きさの0ポイントの仮想敵だった。
「いやいや、ちょっと待てよ…。デカすぎでしょなに考えてんだよ雄英は…」
「確かにあれはデカすぎるな…」
周りを見ればほとんどの受験者達が逃げ出している。この状況なら仕方ないだろう。時間も残り少なく、余力がなくなってくる時間帯だ。
「おい!円城、俺らも逃げようぜ!」
「いや、おれはあいつを倒す。上鳴手伝ってくれ」
「いや、待て待て待て。おかしいぞ円城!あんなでかいの逃げた方いいって!」
確かに上鳴の言う通りだ。この場面、逃げた方が賢明だろう。いくら、円が余力をしっかりと残しておいたとしてもだ。
だが…ーー
「周り見てみろ上鳴」
「は?周り?……っあ」
「気づいたか。余力がほとんど無くて動けないやつ、びびったやつ、ビルの倒壊にまきこまれたやつもいるな。ほっとけねぇだろ」
そうだ。ただほうっておけないのだ。円が目指しているのはヒーローだ、人を救うヒーローだ。
「ヒーロー目指してんならさ、ここで逃げんのは違うだろ!」
「マジかよ、円城…お前…」
「逃げたいなら逃げてくれ。おれ1人でもやれないこともない」
円1人でもあれを倒すことはできる。だが、ここにいる全員を助けたいなら一撃で無効化する必要がある。それをするためには上鳴の力が必要だった。
「あーもう!そこまで言われて逃げられるかよ!俺だってヒーロー目指してんだ!」
「サンキュー上鳴!少しでいい、電撃で足止めてくれ!後はおれが、一撃で沈める!」
「わかったよ!任せろ!」
上鳴が仮想敵に向かって走り出す。
円が今から繰り出す技は大技だ。その分かなりの集中が必要になる。
上鳴りが仮想敵に放電を始める。動きが止まった。
「動き止めたぞ!円城!!」
上鳴の声が聞こえるまえに飛び出した!仮想敵に向けて走り出し一気に仮想敵に向かって跳躍する。
そして、仮想敵の胸部に向かって一撃!
「大震撼!!!!」
円が殴りつけた胸部を中心に仮想敵に向かって衝撃が走り抜ける。
今の円ができる最大の増幅。その衝撃は仮想敵を沈めるには十分だった。
ズズゥゥゥン……
「試験!!終了!!」
仮想敵が倒れると同時に試験が終了したという放送とサイレンが鳴り響く。
円は地面に衝撃を叩きつけて綺麗に地面へと着地する。仮想敵を倒せたお礼を言おうと上鳴の方を見ると、何故かアホみたいになっていた。「ウェ〜〜イ、ウェ〜〜イ」とアホみたいな顔をして、繰り返している。
「なんだあれ…」
円は個性の反動だろうとあたりをつけてとりあえず上鳴を休めるところまで連れて行った。
▽ ▽ ▽
雄英高校大会議室。ここでは雄英の教師陣が集まり会場をそれぞれモニターでチェックしていた。
「すごいですね、今回は。0ポイントに向かって行く生徒はいても倒してしまう生徒は最近見ていない。しかも2人です」
「片方はかなりの反動があるように見えたがもう片方はケロリとしてるな。0ポイントの足止めしていた生徒担いでるし」
「あの個性なんなんでしょうね。かなりの汎用性がありそうです」
教師たちが0ポイントを倒した生徒たちを中心に意見を交換していく。
「嬉しそうな顔してますね」
「いやなに、豪快だなって思ってさ」
「確かに怪我した方はともかく、もう片方はいいですね。豪快さもありつつ繊細さも持ち合わせていそうだ」
「2人ともいいじゃないか。あの場面であれほど巨大なものに立ち向かえる勇気賞賛に値すると私は思うね!」
「合理的では無いですがね」
この2人も含めて教師たちの議論も白熱していく。
▽ ▽ ▽
「お〜、一佳。試験お疲れさん」
「円遅かったね。なにしてたの?」
「ちょっと野暮用でね。悪いことしてねぇから心配すんな」
「別に心配とかしてないから!」
円が試験を終えて学校を出ると、すでに試験を終えていただろう一佳が待っていた。
このままいつものように帰ろうかと校門へ歩き出そうとすると、後ろから円を呼び止める声が聞こえてきた。
「おーい!円城待ってくれよ!」
模擬演習で一緒に行動していた上鳴だった。あの後、何故かアホになった上鳴を円は運び出し雄英の養護教諭であるリカバリーガールに預けてきたのだが、あの様子を見る限りアホでは無くなったようだ。
「よう、上鳴。アホは治ったのか?」
「ちょっと、あんたそれは失礼だろ…」
「ぐえっ…」
事実を聞いただけなのに、それを知らない一佳は円の脇腹を殴ってきた。かなり痛い。
「いや〜、大丈夫だわ。ありがとな、運んでもらっちゃて」
「こっちこそ手伝ってもらったんだ。ありがとな」
「手伝ってもらったってなんだよ」
試験会場が違う一佳は円と上鳴が2人で協力していたことを知らない。もちろん0ポイントの大型仮想敵に立ち向かったことも。
「0ポイントのやつ倒すとき足止めしてもらったんだ」
「あれ、マジキツかったんたんだからな!俺はキャパオーバーするとアホになっちゃうんだよ!」
「なんだそれ、面白いな」
上鳴の個性のデメリットを聞いて円が笑っているところに、一佳が突っ込みをいれてきた。
「あんたは…、また無茶して…。まったく、しょうがないやつだね」
「ほっとけなかった。しょうがねぇよ」
「でも、あんときの円城まじでかっこよかったぜ!ほんとにヒーローみたいだった!」
「それ、言ってもらえると頑張ったかいあったよ」
3人で談笑しつつ歩いていると、まだ自己紹介をしていないことに気づいたんだろう。一佳が急に自己紹介し始めた。
「そういえば自己紹介まだだった。私は拳藤一佳。このばかの幼馴染みたいな感じ。よろしくね上鳴だっけ?」
「俺は上鳴電気。よろしくな拳藤。んでさ、こいつ彼氏じゃないんだろ?よかったら俺と今度飯でも行こうぜ」
上鳴が自己紹介ついでにナンパのようなことを始めた。円はこの行動で悟ってしまった。
(こいつは"個性"でアホになるとか関係ないな。ただのアホだ)と。
「悪いけどナンパは勘弁かな。そういうのめんどくさくてさ」
「くっそ!でも俺は諦めないぜ!」
上鳴は1度断られたくらいで諦めないらしい。さらにアホさが露呈した気がしないでもない。
「お前アホだな。"個性"とか関係ないよ」
「ちょっ!円城酷くね!」
「酷くねーだろ。まだ合格かもわかんねえんだぞ。一佳もう一回ナンパすんなら今度は受かってからにしとけよ」
円は至極真っ当なことを言ったつもりだったが上鳴にはかなり堪えたらしい。ついでに一佳にもだ。
「だよなぁ…。まぁ終わったことあれこれ考えてもしょうがねえしな。それじゃあお2人さん!次は雄英の教室で会おうぜ!」
「ポジティブだな、お前。まぁ、クラスは違うかもしれないけど楽しみにしとくよ」
「そうだね、私も。それじゃあ上鳴今度は雄英の制服着てだね」
「楽しみにしてるわ!」、という上鳴の声を聞いて2人でいつものように雄英からの帰り道を歩く。
「私さ、ポイント25しか取れてないんだ。筆記は大丈夫だったと思う。でも…」
「確かに25ポイントは低めかもしれないな。おれは38ポイントだ。多分これがギリギリくらいだと思ってる」
「じゃあ、やっぱり私は…」
「でも、決めるのは一佳でもおれでもない、雄英だ」
一佳が円の方を少し涙の溜まった瞳で見つめてくる。
「合格発表は1週間後。それまでは落ちたなんて思わないでおこうぜ。大丈夫!一佳ならきっと受かってるさ」
「なんで、円にそんなことわかるのよ…」
憮然とし表情で一佳が聞いてくる。この質問に答えるは簡単だ。
あのとき、泣いてる円の手を笑いながら引いてくれたあのときから。円にとってのヒーロは両親だけじゃない、拳藤一佳も円にとって最高のヒーローなんだ。
「それは、内緒だ。恥ずかしいからな」
「なによそれ」
円の答えに一佳が笑う。このことを言うのは恥ずかしい。だけどいつか、言える日がくるといい。そう願いながら円は家への帰り道を歩いた。
3話目です。書き留めとかないので毎日投稿できるかはわかんないですけど、頑張ります!
あと、この話の上鳴ちょっと男前すぎたかもしれません…。
でも、彼はアホなんです!強いのにアホそこがいいんです!なのでもう少しアホっぽくできるように頑張ります!
できたら感想、評価お待ちしてます!