長いお休みが終わった週末、タカノとオノデラは新年会だと言って揃って家を出て行った。
『新年会』?
何それおいしいの?ってまあ、いつものごとく俺は思ったって思っただろう?
残念ながらちゃんとオノデラが説明をしてくれてったさ。
綺麗な服着てごーかな料理を食べるんだって。
ただ、親会社のおえらいさんとか取引先の人間も来るからそれなりにご挨拶とか営業も必要なんだって言ってた。
建設業は深くて高くて広いんだって。(建設業ってなんだ?うまいのか?)
昔のオノデラはその高い方にいたけど、今は先っぽの方をウロウ口してるってタカノが茶化してた。でもオノデラは「先っぽにいるからいろいろなことがよく見える。高いと雲で隠れて下界は何にも見えない。俺は下界が好きだ。」って笑った。
家にいるときのオノデラはボーっとしてて、時々パソコンの画面に向かって「ヤヤヤ」っとか「ワっ」とか騒いでる。
何をしているのかと不思議に思ってたけど、あるときにマサムネが説明をしてくれた。
どうやら自分の作った『図面』ってヤツがアプリに『だめだし』をされるらしい。ダメ出しって、要するに間違えてるってことだってさ。
でもさ、端からは遊んでるみたいにしか見えないんだ。
普段は週に3日しか会社に行かないし、オノデラの言うところのくたくたで手触りのいい洗いざらした『タカノのお下がり』のフランネルのシャツを着ているから、いつも外に行くようには見えないんだ。その服はいっぱいに伸ばすと『萌え袖』とかになるらしくて、いつも袖はクルリンとめくりあげられているけど、でっかいタカノのだからダブダブしていて中で身体が遊んでる。
人間ってさ、毛皮がないから不便だよな。
何で頭だけあんなにモッサリしてあったかくしてるかね。神様ってヤツもわけ分かんないことするよな。変な事ばっかり考える脳みそは冷えたらだめになるんかね?
尻尾もないからバランス悪くして、だからオノデラはこけて怪我したに違いないんだ。
そんなオノデラとタカノがすごくシュッとした服を着て出かけて行ったのがその新年会ってヤツだった。
マサムネが言うには、オノデラは昔はいつだってあんな格好をしていたんだそうだ。懐かしいって言ってた。
そうだったかな??俺が知ってるオノデラはいつも家にいる時の寝巻みたいな服着た感じだからちょっとびっくりした。
まあ、はじめの頃はオノデラもマサムネもむかついて無視してたからしょうがないよな。
今は…、や、今だって完全に気を許してるつもりじゃないけど、安定してるっつうか、普通の感じだから、まあこのままでいいって思ってる。
「またリツはなんか面倒なことかんがえてんな?」
マサムネはフワフワゆれている『観葉植物』ってやつの、クリンとしたツルの先の葉っばの誘惑にいかにじゃれつくのを我慢するかの修行に飽きたようで、パスンとソファーに乗ってきた。
「俺はリツとオノデラがいれば何でもいい。だからタカノのこともおんなじように許してやるんだ。」
と、まるで今俺が何を考えていたかが分かってるみたいなことを言うから「別にそんなこと思ってねーし…。」と耳をプルプルと振るった。
タカノとマサムネは面白い関係だって思う。おんなじようにオノデラが好きだから、マサムネはタカノのことを好きではないのに信頼している。
タカノがオノデラを泣かせたら全力で威嚇するくせに、根っこではタカノがオノデラを大事にするってことだけは疑わない。
俺はどうなんだろう?
タカノはオノデラが一番に好きだからマサムネがタカノを認めてるみたいに許している?ってわけじゃない。
なんつうか、ほらあれだ。一番下っ端のオノデラが泣いたりしないように群れの一員として見守ってるっつうか、あぶかなっかしいから目が離せないっていうか…、
つまりそういう事だ。
オノデラは正月には餅が旨いって言っていっぱい口に入れすぎて窒息しそうになるし、お屠蘇を飲んで酔っ払って俺にキスしまくるし、下敷きになった俺の中身が出そうなほど押しつぶしたまま寝るし。(これ違うか?)
とにかくどうしようもないから心配だ。うっかりしているとそのまま死んじゃったりしたら群れの人数が減るじゃないか…。
今日の新年会もちゃんとできてるんだろうか?
ああ、心配だ。あいつはうちん中では一番下っ端でどうしょうもないから。
▽
新年会から帰って来たオノデラはご機嫌だった。
なんでも刺身を切っている板前さんが、残ったマグロのサクをこっそりくれたんだそうだ。
新年会はみんなお酒ばっかり飲んでいて、お料理が減らなくて、お酒の飲めないオノデラがおいしそうなお刺身を切ってもらって食べていたら、上等なネタなのに一度持ってきてしまったものは捨てなければならないとその板前さんが嘆いていたんだって。
もったいないな…、うちのにゃんこはマグロのぶつ切りなんて大ご馳走だから盆と正月が一緒に来たくらいに喜ぶのにって言ったら、どうせ捨てちまうんだからって、最後に内緒だよって、スチロール容器にサクのままのマグロを入れて持たせてくれたんだって。
目がハートになるね。こんなお土産は。でかしたオノデラ!お前も狩りができるようになったなら一人前だ。
色を付けたんじゃないかって言うくらい鮮やかなマグロは舌がとろけそうにうまくて、マサムネと俺はもうマグロにメロメロになった。
なんっつうか…。舌の上に乗せた瞬間滋味っつうの?うまさが伝わるっていうか、鼻に抜ける香りが嫌な取って付けたみたいな匂いをさせないし、シャリンっと噛むと歯ごたえがカリカリとかチュールとは違ってジュっと旨い汁が出る。
ついついミヤンって声が出ちまったほどだ。
内緒って旨いな。
でも、俺たちがマグロのうまみを思い出してはその感想を語り合っている間に何やら問題が勃発していたらしい。
数日うっかりしている間にタカノとオノデラの感じが変になっていた。