りつにゃんこ   作:bui

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りつにゃんこのお正月のエピローグ:節分のにゃんこたち


第13話

「いわしってさ、うまそうだよな。」タカノがこんがりとグリルで魚を焼いている匂いを嗅いでリツがゴロゴロとのどを鳴らす。

 

『オサカナ』と『猫』はセットだと思われるのは『サザエさん』のせいか?

 

でも俺も魚は大好きだ。

 

クールに振舞っているつもりでも、尻尾がゆらゆらと揺れてしまうし、ヒゲだって期待にぴくぴくしてる。と言うのも「イワシの頭をヒイラギと一緒に玄関に飾りたいだけだから、身はみんなで食べようね」ってオノデラが言ったからだ。

 

生で飾るとさすがに臭いから焼いてるらしい。俺たちは生でも全然かまわないんだけどな。

 

今日は土曜日でタカノも休みで『節分』なんだそうだ。リツが節分って何だ?うまいのか?って聞いたけど、今日は「うまいぞ」って答えていいはずだ。

 

だってイワシはたべられる(らしい)し、夜はマグロなんだそうだ。

 

熱々に豆を炒って鬼は外って撒くんだって。そして海苔で巻いた『太巻き寿司』を無言で食べるのが最近の流行なんだそうだ。

 

無言って言うからには何にも言っちゃいけないんだってさ。

 

「おいしいって言えないのはすこし辛いね。」ってオノデラが言うから、タカノが「じゃあちいさいヤツ作くってさ、一本はそうやって食って、他は手巻きにして食おうぜ。」って言った。

 

「マサムネ、リツ、マグロのぶつ切り買ってきてあるからね。」ってオノデラがつやつやのほっぺを嬉しそうにキュって寄せて言うからリツの目もきらきらになってやばい。

 

サーモンとかいう他の刺身もちょっと食わせてもらったことがあるんだけど、やっぱりあの真っ赤なマグロのぶつ切りに勝るものはないよな。何よりぶつ切りはひとつひとつがでっかくて、お上品にちっと食うよりガッツリ食える。

量より質なんてお上品なこと言ってらんねーよな。大きいのをガツガツ食うほうがうまいに決まってる。

 

あ、でもブリのカマトロはうまかったな…。あれはオノデラのところにオセイボとかで、でっかいこいのぼりみたいなのが来た時に食ったんだよな。

 

タカノが『動画』っての見て綺麗に捌いてくれたんだ。

あんまり脂が多いのはだめって言ってちっとしか食べさせてくれなかったけど、あれはうまかった。

 

と…、もとい。

 

とにかく今日はうまいらしい。

 

昔の人は明日からお正月になるからっていろいろな行事をやったんだそうだ。昔の人はずいぶんゆっくりとお正月をやったんだな。

 

お正月は大変だった。

 

オノデラは『実家』で嫁探し始めるし、タカノはなかなか迎えに来ないし、タカノのことは気に入らないこともいっぱいあるけどオノデラがタカノを好きなのが分かってるから、俺はいつだってタカノのことを許している。

 

だけどオノデラを泣かすなら噛み付いてやる。歯が折れたって爪がはがれたって絶対に許さないんだ。

だからタカノは用心したほうがいい。俺にチミドロにされないようにな(笑)

 

 

実家から帰ってきてからタカノはオノデラのほっぺたをぺたぺたと触りながら泣きそうな顔で「何でそういうことすんの?本当に結婚するつもりだったの?」って言った。

 

オノデラは何にも言わなくて、うつむいたまま手をもにょもにょ動かすだけだった。

 

リツが「タカノははっきりと色んな事を言って欲しいのに、オノデラはいつもごっくんって言いたいことを飲み込んで、結局なんにも言わないから怒るんだ。」ってちょっと青い顔をしてソワソワしていた。またこの後あんなふうに喧嘩になったらどうしようって心配しているんだ。

だけど「俺がいつも追い詰めるから何にも言えなくなるの?」ってタカノがオノデラの手を上から握りしめてから軽くささすったから、それを見て、俺はきっとタカノは怒らないし、この後仲直りするんだって分かった。

 

オノデラはごめんなさいどころか言い訳もいろいろな説明もなんにもしなかったけど、タカノの目をちゃんと見ていた。そして結局ひくひくと鼻をすすりながら涙を流したからタカノはオノデラに何にも言わさないでほっぺの涙を掬いながらチュっとキスをした。

 

俺にはオノデラがタカノが来てくれて嬉しかったって言ってるように思えた。ずっと迎えに来て欲しいって思ってたことも知ってた。

 

だからオノデラの『実家』にいる時も、いつだってさっさと帰れるように気持ちの準備をしていたんだ。そしてきっとその日はすぐ来るってなんとなく分かってた。

 

あーあ、全く人間ってめんどくさいよなって、また今回も思ったさ。

 

 

▽

 

イワシがこんがりと焼けて、タカノがクリリと首をむしった。

 

タカノの手は細いんだけどでっかくて、遊んでくれるときなんかにガッツリつかまれると大きな獣に食べられてるようにひーーーって叫びたくなるような錯覚に陥るくらいだ。

 

その指が器用にこげた皮を剥いで、身をペりペりはがしてから髪の毛より細い骨を二つの指で綺麗にこそげた。それから脂があんまり多いと良くないからって、キッチンペーパーの上で少しトントンと脂を拭いてから「マサムネ、リツ」って呼んで、オノデラに皿ごとイワシの身を渡した。

 

俺たちはオノデラのひざの上にピョンっと飛び乗ってから手のひらに乗せてあったイワシの身をハムハムと食べた。まだ少し熱くてホクホクの身がうますぎて、舌もうまいんだけど鼻の奥まで美味しかった。

量が少なかったから名残惜しくて、オノデラの手もザリザリと舐めて、ついでに自分たちの顔まで舐めて拭いてしまった。

 

タカノがその間に長い木の棒にとげとげの葉っぱとイワシの頭を刺した。

 

このイワシと柊の飾りは、悪い鬼が来ないようにという謂れがあるんだそうだ。

タカノが玄関の下駄箱の棚の上に飾りを小さい花瓶に生けた。

 

炒った豆は「鬼は外。福は内」って言ってタカノが撒いて、オノデラはそれを「年の数プラス1個べるんだよ」って言って拾った。

 

でもマサムネ達はお腹壊すといけないからダメだよ。って言うことも忘れなかった。

 

そんなカスカスの豆、食いたくもないとフンっとしているとこれで悪い鬼はどっかに行くねと柊とイワシの頭を見て優しく笑った。

 

そういえば以前ハロウインの時も言ってたっけ?そんなようなこと?

 

この世界には怖いものとか悪いやつが多くて困るな。タカノとオノデラの怖いもんもオニなのかな?

俺が怖いのは?

ばあさんみたいに嫌なにおいの奴にリツやオノデラやタカノが連れてかれることだ。

それ以外は別になんでもない。牙と爪でひっかいてやっつけてやるんだからな。

 

 

 

▽

夕方になって、白飯が炊けて、タカノが酢っぱい匂いのご飯を作った。

 

玉子焼きとかえびとかマグロとかウナギとか、とにかくいろんなものをぎっちりと海苔で巻いて『太巻き』ってやつをタカノが巻いた。

 

包丁で切ったらよくないんだって言うけど、ちょっと長すぎて一回に食べるのは大変そうだったから、少し考えてから半分に切って皿に並べて「まだ新しい流行もんだからいいだろ?」って笑った。

 

ゲン担ぎって気持ちの問題だから、美味しく食おうぜとも言った。

ゲン担ぎってなんだ?うまいのか?ってリツじゃないけど少し思ったことは内緒だ。

 

太巻きの断面は緑とかピンクとか赤に茶色って感じですごく綺麗だったから、こんなのもいいなってクンクンしていたらリツがペロンとよだれを垂らした。

 

オノデラとタカノがそんなリツをみてケタケタと腹を抱えて笑ったから、リツはちょっとムッとしたみたいだったけど、すぐに出て来たマグロにすぐそんなことは忘れたみたいだった。

 

でも、食べる前にちょっとだけまた恒例の写真タイムに『オニ』のお面ってやつを頭に乗っけられて俺とリツはマグロ食べたさに頑張ったさ。

 

最近は俺たちの写真はすごく人気でイイネとかすごいんだって。インスタ映えとか言うらしい。

 

オノデラは満足げにふふって嬉しそうに笑って、やっとたっぷりのマグロの皿を目の前に並べてくれた。

 

「マサムネ、俺オニでもなんでもいい。すげー幸せ~。」ってリツがマグロを食べながら髭をピンピンと揺らした。リツが嬉しそうなら俺はなんでもいいや。俺はそれで幸せなんだから。俺って安い奴だよな~。

 

 

 

 

俺達がうみゃいうみゃいとマグロを食べている頃、オノデラは恵方ってやつを向いてでっかい口で太巻きを食べていた。

 

オノデラが太巻きを咥えて一生懸命食べているのにタカノが耳元でなんか言うから無言でちゃんと食べ終えようとしたオノデラがご飯を吹いてしまった。

 

「きたねーな」ってタカノが笑って、オノデラは「笑わすからでしょ!」って吹いたご飯を片づけながらプンスカ怒っていた。

 

「じゃあタカノさんが食べる番だから」って口をへの字に曲げて目の前に太巻きを差し出す。

 

自分ばっかり笑わされたのはよほど悔しかったみたいだな。

 

オノデラって時々すごい負けず嫌いなんだ。普段ほにゃっとしてるくせに。

 

タカノが挑発は気にしないようにひょいっと太巻きをつまんで口に放り込んでムグムグ食べていると、今度はオノデラがタカノの耳元で何かをボソっと言った。

 

途端にタカノも白い酢飯やら、黄色や赤やら緑やらをブーっと吹いた。

 

切れ長の目がまん丸に見開かれてオノデラを見つめて、オノデラはちっと恥ずかしそうにほっぺたを桜デンブみたいな色に染めてプイっと横を向いた。

 

それからはすごいスピードでタカノがオノデラを抱えて寝る部屋に飛び込んで、オノデラは「違う、待って、キャー」とか騒いでいたけどバタバタしていたのは少しの間でそのうちに静かになった。

 

あーあ、オノデラ陥落。イチャイチャが始まったってことだな。

 

俺とリツはしばらくは心配して耳を立ててたけど、そのうちに「あほらし…。」って思って、いつものごとくため息をついてからオノデラの部屋の方の猫タワーに遊びに出かけた。

 

 

 

『暦』の上ではもう『春』になるんだってさ。

 

リツにそう言うとそれ旨いのかって言われそうだけど、春はキラキラでピカピカなんだ。いいにおいがするし、風も優しいんだ。リツとオノデラの誕生日も来る。

 

 

今はまだ寒い冬だけど春を待ってるわくわくする気持ちが楽しい。

 

 

明日になったらイワシの頭は食っていいのかな?リツと半分こで食べようかな?喉にくちばしが刺さらないといいな。

 

 

 

『今年の最後の日』だってさ。だから『豆まきの日』おめでとうだね???

 

 

年神さん、また来年もよろしくな。

 

 

 

 

 




りつにゃんこのお正月、おしまい~。
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