りつにゃんこ   作:bui

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りつにゃんこのバレンタイン



第14話

世間はバレンタインっつうモンなんだってさ。バレンタインには好きだって告白してチョコレートを贈るという習慣があって、猫にはチョコレートは有害なんだとかで、もちろん生まれてから一回も食ったことはない(はずだ)。

 

オノデラが時々「生き返る~」とか言って食ってる茶色い塊らしいことは知っている。

ニンゲンが生き返るほどの強い効能があるからダメなのか分かんないんだけど、ダメって言われると余計に食べてみたいよな…。

 

バレンタインっていう日はどうやら仕事のある日らしくて、その前のお休みの日に、タカノとオノデラは台所で二人でいそいそと甘ったるい香りを立てていた。

 

茶色いチョコレートを溶かしたり固めたり、それって意味あんの?そのまま食えばいいじゃね?って思ってたら「人間は面倒なことが好きだよな」ってマサムネも眠そうな目で言った。でもオノデラはすごく得意顔で見てみてと出来上がったハートの形の元も今もチョコレートのままのモノを見せてくれた。

 

クンクンと鼻を近づけて匂いを嗅ぐと、目の前に見せつけるように翳したくせに「あ!だめ!食べられないよ!」って引っ込めるからムカツク。

絵にかいた餅よりよっぽど質が悪い!だってそれ絵にかいてあるわけじゃなくて本物の餅なんだろ!?

 

ケッと思って椅子から降りるとマサムネが片目だけこっちを見てあほかって顔をした。

 

ムカツクムカツクムカツク

 

バレンタインってなあ告白する日なんだぞ!

俺がお前に好きですって言うかもしれねーって思わねーわけ?お前。

ホントお前俺のこと好きなの?

 

べたべたしてくるくせにこうやって時々バカにすんだよな。

 

ふて腐ってテラスの日の当たるところで日向ぼっこしていたらスズメが来て神社の鳩がいかに優遇されているかを愚痴ってった。

 

あいつらさあ、俺に食われるとかちっとでも疑わねーのかな?

猫は狩りをするもんなんだぞ!?

 

まあ、生ものなんて食ったら腹壊しそうだから飛びついたり噛みついたりしねーけどな。

その上でこの高い場所からうっかり落ちたら死ぬし、冒険はできねーな。

 

前にスズメが高いところから落ちた猫の話をしていたのを覚えている。

奴らは羽根があるから飛べるけど猫は飛べないからペチョって地面にぶつかってぺったんこで血がいっぱい出たんだって…。

 

死ぬってどんな感じなんだろう?前にオノデラが怪我した時は真っ赤な血が出たけど死ななかった。あんなに痛そうでぐじょぐじょだったのに死ななかったんだ。

 

マサムネはばあさんが嫌な臭いのものに包まれて動かなくなるところを見ていたって言っていたけど、ばあさんは血が出たんだろうか?

 

前に鳩が、生き物は死んだら天国に行くんだって言っていた。

 

でもいいことをいっぱいした奴しか入れないから、悪いことをした奴は怖いところに連れてかれるって言ってた。

 

鳩はいいことはしてないけど悪いこともしてないからギリ天国組だって偉そうにしてた。

そんなもんなのか?俺も今んとこ悪いことはしてねーと思うけど、うっかりどっかでしてたらどうしよう。

 

まあ、死ぬまでにはまだすごく時間がかかるだろうから気をつけておかねーとな。

 

 

真冬っていう季節らしくて、この間は雪がいっぱい降ったけど、今日は温かい。

 

ぽかぽかして背中がジンジンしてくるぐらいだ。

 

部屋の中ではタカノがまだバレンタインしてるみたいで、オノデラがなんか言ってる声がする。パンが焼けるみたいな匂いもするからご飯の仕度もしてるのかな?

 

ちぇ、バレンタインなんて全然楽しくない。

マグロのあった豆まきの方がよっぽど楽しかった。

 

 

▽

 

朝のテレビでも『今日はバレンタインですね』なんて『女子アナ』ってやつがにっこにこして喋ってる。

 

バレンタインって何?それ旨いのか?って、猫にはそんな感じだね。

 

バレンタインだろうとなかろうとタカノとオノデラはイチャイチャして、朝から二人で人間の名前を言いながらもう一度リボンのついたプレゼントみたいなモンを整理していた。

大きな紙袋はあまったるい匂いのするもんでぎっしりで、どうせ猫は蚊帳の外さって余計にふて腐った気持ちになったね。

 

このところスネ気味の俺にマサムネはあんまりちょっかいを出してこないし、朝のご飯だって特別にゴーカでもなかった。

 

枕崎産の削り節ぐらいトッピングしてもいいんじゃね?って文句を言うけど、俺たちの言葉を人間は理解しないから「リツ。美味しい?」ってオノデラの笑顔にごまかされた。

 

そりゃうまいよ。前はカリカリだけだったけどさ、最近はちょっとだけやっこいものも混じるようになったから味にメリハリっつうの?それが利いて、昔よりちょっとだけグレードは上がったような気がする。

 

それはオノデラの実家に行った後、オノデラのママってやつがリツっちゃんマサムネ君へって言って、猫大好き美味しいフードとかいうやつを送ってくるようになったからだ。

 

でもさ、メリハリの面で言うなら毎日おんなじよりちょっとずつ違う方がいいって気もするんだ。上等なごはんばっかり食べているとたまにはお茶漬け食いたいって感じだな。

 

それはオノデラの実家で学んだ貴重な経験だ。(役には立たないけどな…。)

 

そして、ワイドショーのおねーさんから天気予防のおにーさんになるころ、タカノもオノデラも仕事に行った。

オノデラは週に3日ほど会社に行くから今日はその出勤日だったということだ。

 

 

つまんねー、つまんねー。つまんねー

 

一日ふて腐って、ちぐらの中でももっとふて腐ってたけど喉も乾いて水を飲みに行くとマサムネの姿はなかった。

隣のオノデラの部屋でタワーでも攻めてるんだろうか?マサムネは時々ストイックに何かを攻略しようと試みている。

 

誰にも見せないけど、バランスボールにうまく乗って転がすことができるようになってることを俺は知ってる。

 

そういう姿勢はかっこいいなって思うけど、もちろん俺は言わない。

 

それでも猫的本能では高い所を攻略したい欲というのはある。

箪笥の高いところからタカノの肩に飛び降りたりするとすごくびっくりして、そういうのがちょっと楽しいって思う気持ちもある。

 

そんな気持ちでピョンっとカウンターに飛び乗ると、リボンがしてあるバレンタインが二つあった。

 

タカノ達が忘れてったのかな?

 

俺の気が晴れないのはこいつのせいだ。

 

猫が食えねーってどういうこと。

 

オノデラもタカノも楽しそうにしやがって。おれっち全く仲間外れじゃねーの。

 

俺達家族じゃなかったの?おれっちが食えないようなもん、楽しそうに作っちゃってなんなわけ?

 

 

急にむかついて、そのリボンに爪をひっかけるとあっけなくほどけて、バレンタインは中身をさらした。

オノデラが見せたのは茶色のもんだったけどこれは妙に白い。これもチョコレートなのか?

 

ペロリと舐めてみるけど別に腹も痛くならないし血も出ない。

しかもミルクの香りがしてなんとも食欲をそそる。

 

うっかりチョコレートを全部食べ切ってハッとして急に怖くなった。

 

 

ヤバイ俺死ぬ?????

盗み食いして死ぬって…、

 

『悪いことをした奴は怖いところに連れてかれる』

 

急に鳩の言っていたことが頭の中に浮かんだ。

 

「マ、マサムネ!マサムネ!」

 

思いっきり叫ぶと隣の部屋からマサムネが血相変えてやって来た。

 

「マサムネ!俺死ぬんだ。天国に行けないんだ!どうしよう」

 

ワンワンとワンコみたいに泣いてマサムネに縋るとマサムネが困惑してどうしたと聞くから「チョコレート食べた…、」と正直に白状した。

 

「何でそんなことした?!」

「だって、タカノもオノデラもバレンタインバレンタインって楽しそうでむかついて」

「バカ!すぐ吐いて!毛玉吐くときみたいに吐いて!」

「何にも出ねー。もうだめだ。マサムネ、大好きだったよ、天国に行けないけど俺のこと忘れないで。」

「ばか!何言ってんだ!もうすぐタカノもオノデラも帰ってくるから!」

「もう目がかすむ…、マサムネが見えない…、」

「リツ!!!!」

 

 

どんどん意識がなくなってくるような気がする。

遠くで玄関ドアが開く音がする。

 

ああ、みんな帰ってきたんだな。

 

俺は家族に見守られて死ぬことができるんだ…、幸せ猫(モン)だ…、

 

 

「ただいま~、あれ?リツとマサムネ、何仲良ししてるの?」

 

一足早くダイニングに来たのはオノデラみたいだな、相変わらずお前は間抜けだ。俺はもう死ぬんだ。マサムネがオノデラに必死で「リツが大変なんだ」って訴えてくれてるけどオノデラは猫語が分からないから全く緊張感のない態度だ。

 

「あ~!誰~!?食べちゃったの!だめじゃない!」

 

俺が悪かった。喰っちまった…。だから罰を受けるんだ…。

 

「猫用バレンタイに用意してたのに。先に食べちゃうなんて悪い子だね。」

 

オノデラが一つ残ったリボンのチョコを手に持って言った。

 

『猫用?』

 

ピッと耳を立てるとマサムネと目があった。

マサムネはみるみるうちに怒りの目をしてガツっとオレの頭を叩いた。

 

「アホか!」

 

 

渾身の猫パンチだった。

 

 

 

マサムネが目をウルウルさせてるのが見えて、俺は心底反省した。

 

 

 

▽

 

マサムネは口をきいてくれなかったけど、そのあとの夕ご飯はタカノとオノデラはカレーを食っていて、俺たちにはマグロがあった。

 

バレンタインってなに?それ旨いのか?

答えはうまかった。

 

「でも。リツから告白聞けたからいいか…。」

 

マサムネがつぶやいた言葉は…、俺以外には誰にも聞こえなかったと思う…。

 

 

ハッピーバレンタイン。

 

 

 

 

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