[1201号室 リツにゃんこ]
タカノが鼻歌を歌いながらオノデラの世話をするのを見るのはむかつくけど、それよりもマサムネがぴったりとオノデラにくっついて一日を過ごすのがムカつく。
だから俺はマサムネを押しのけてオノデラの膝の上に乗ってやるんだ。
オノデラは初めの日こそしょんぼりしていたけど二日目からはパソコンに向かって一生懸命仕事をしていた。
「今はオンラインでなんでもできるから困らないね。」
細くて長い指で俺の耳の付け根をクリクリと撫でるから俺も仕方なく撫でさせてやってる。
マサムネはオノデラが笑ってるから安心したようんに足元で丸くなって眠る。
仕事の合間にはオノデラがマサムネって呼んで俺とマサムネを二人膝にのせて頭や喉をスルスルと撫でてくれる。
俺が気持ちいいとオノデラも気持ちいいみたいで、だから俺はオノデラのために撫でさせてやってるんだとマサムネに言ったら、ウンウンとマサムネも目を月形に緩めて笑った。
ちょっと、本当にちょっとだけだけど、昼間タカノは家にいないので寂しいなって思う時もあったけど、今はオノデラがいるからよかったって思う…。ことだってちょっとだけある。
マサムネもおんなじ気持ちみたいで、タカノに悔しいけど感謝しなきゃと言っていた。
俺がまだマサムネを赦してないことを知ってるからか、マサムネは俺に自分から話しかけてこない。
言いたいことがあるなら言えばいいのにって思うけど、俺が怒ってるから仕方ないのかな?
「ねえ、マサムネ、リツ、聞いてくれる?」
オノデラがあるとき二人の頭のテンコをぐりぐりとさすりながら言った。
「俺ね、昔高野さんと恋人だったんだよ。」
俺とマサムネはびっくりして顔を見合わせてしまった。
「だけどね。高野さんに振られて海外逃亡しちゃったんだ。」
海外ってなんだ?美味しいものか?ってちょっと思ったけど(きっとマサムネも思ってるだろうけど)そのまま静かに聞いていた。
「振られたって思ってたのは間違いだったみたい。どうしたらいいと思う?」
オノデラが俺とマサムネを両方抱えて頬をぴったりつけて呟く。
「俺、本当に先輩のこと、大好きだったんだ…。初恋だったんだ。」
すると隣でマサムネが
「オノデラ!生き物はいつどうなるかわかんないんだ。ばあさんも仲間の猫も、そして大事だったリツももう会えないって思ってた。だけどリツとはまた会えた。オノデラもタカノと会えたんだからもう一度大好きって言えばいいんだ。」
と叫ぶように言った。
「リツ、好きなんだ。ずっとずっとリツのことばかり考えて暮らしてた。またあえて嬉しい。」
マサムネがぺろりと俺の頬を撫でるから、急に居心地が悪くなってオノデラの膝から飛び降りて背を向けたままマサムネに言った。
「タカノが初恋は実らないって言っていた。俺の初恋はマサムネだったから実らないと思ってた。」
するとマサムネが「誰が決めた決まりか知らないけどここに実るっていう実例があってもいいと思う。」と強く言った。
「オノデラとタカノもきっと決まりを破って初恋を実らすんだ。」
「決まりを破る?」
このところずっと俺の傍に寄るのもためらっていたくせに。
ちょっと意地悪な気持が湧く。
「俺はもう誰も好きになんてならない。」
そう宣言するとマサムネは「無理だね。絶対に恋に落ちる。俺はリツがもう一度恋に落ちるまで諦めない。」と久しぶりのどや顔で言った。
リツが恋に落ちる日まで…。何日?
ここにも小さい世界一初恋のカウントダウンが始まる。
のか?
続く