俺たちが寝坊して、オノデラの部屋からニョロニョロと顔を出すと、タカノとオノデラは二人で雑誌を見て何やら相談をしていた。
こんなでっかいの売ってるんだなとか、持って帰って来れるでしょうか?とか、でも楽しそうだとか…。
そして二人でいそいそ出かけて行ったと思ったらじきに大きな丸いものを抱えて帰ってきた。
床にどさりと置かれたそれは妙に明るいオレンジで、見慣れないのに存在感ありすぎでちょっとばかし緊張が走る。
マサムネは「リツ、下がってろ」って言ったけど、よく見ると手も牙もないから飛び掛ってかまれることはなさそうだぞ。
ソロリソ口リと近づいてにおいを嗅いでみるけど特別に変な匂いはしない。
どちらかと言うと青臭いキュウリみたいなにおいで、どうやら野菜だろうとは分かったけど、いつもの野菜はこんなにでっかくないし、レイゾウコにはこれじゃあ入んないんじゃないかな?
ここには二ンゲンは二人しかいないのに何人で食べるつもりなんだろう?
非常食ってやつなんだろうか?
マサムネはそれでも不安らしくて、フウッと威嚇して、ガツっと飛びかかり、ネコキックをかましたけどその野菜は傷もつかないし微動だにしなかった。
マサムネ、かっこいいけど負けてんぞお前…。
やっちまった感がちょっと漂いはじめるとマサムネはさらに妙なスイッチが入ったのか、又はオスとして群れを守る使命感に高揚したのか、背を曲げてタテガミを立てて、つま先立ちでグルグルと周りを回って威臓している。
だけど2撃目を食らわす前にその腹はスイっとタカノに抱き上げられて空振りに終わった。
「ダーメ。」とタカノがマサムネのほっペたにキスをしながら笑うのを見ていたらオノデラが俺を抱き上げて喉をスルスル撫でるから、気を抜いていて、うっかり気持ちよくなってゴロゴ口喉を鳴らしちやったじゃないか。
それからタカノがマサムネもオノデラに手渡して、俺とマサムネはオノデラにギュっと抱きしめられたまま、タカノがよいしょとダイ二ングテーブルに載せた大きな野菜を見つめていると、硬いものを切るときに使うぎらぎらと尖った包丁をタカノがザクリとその丸のテンコにつきたてた。
こりゃタカノの勝だな…。
力持ちのタカノでも眉間に皺を寄せて力いっばいって分かるほどギリギリと穴を開けたあと、中身を鍋にくりぬいて出すと、オノデラが俺たちに頬ずりしながら二コ二コと「カボチャのジャックオランタンだよ。」と教えてくれた。
「ジャックオランタンはハロウインの時の魔よけなんだ。悪霊が来ないように飾るんだよ。」
オノデラは丁寧に俺たちに説明をしてくれているようだけど、言ってること、全然わかんねーや。
悪霊ってなんだ?
そう言うとマサムネが「お化けのことだろ?」と髭を揺らした。
マサムネは俺より少しばかり年上だから少しばかりモノを知っている。
オノデラがいちいちこういう風にネコのマサムネ相手に説明をしてくれていたからきっと物知りに育ったんだ。
タカノは俺を可愛がってくれるけど難しい話はあんまりしてくんない。どっちかって言うと昔話とか、そういう心の中の話が多いのかもしれない。
そう考えると実はオノデラの方が男らしいのかも?って…、これは変な気持ちだ…。
タカノはしばらくそのかぼちゃをがりがりとほじったり、皮に細い包丁を突き立てたりしていたけどいよいよ終わったらしくて、そのかぼちゃをクルリンとひっくり返すと、俺たちの目の前には怖い顔をした『ジャックオランタン』がいた。
ギャーってちょっと(かなり)びっくりして尻尾が縮まった気がしていたら「夜になったらロウソクをともしてランタンにしよう。」とタカノが一抱えもあるくらい大きなお盆に、それより大きな人相の悪いそいつを載せて玄関の横の廊下に置いた。
玄関に置いておけばこいつが門番みたいにお化けが来ないように見張ってるってことなんだろうか?
オノデラからマサムネが離れて、相変わらず警戒しながらそいつの周りをまたグルグルと回って、『油断ならん』と尻尾を膨らめるし、俺も睨まれているみたいでさっきのドキドキがずっと続いていて落ち着かない。
こいつの方がよほど悪いやつに見えるんですけど?
俺はオノデラの腕に収まったまま、二ャンっとタカノに訴えるけど高野は知らんぷりでタ飯の支度なんかをはじめちまった。
もう役立たずめ!オノデラとだけイチャイチャしてりやいいってもんじゃねーだろ。
まあ、オノデラがずっとするすると撫でてくれているから、不安な気持ちもだいぶ納まって来たんだけどな。
「マサムネ」とオノデラが呼ぶとジャックオランタンが気になるらしいマサムネだったけど廊下からリビングに戻ってきた。
オノデラは足が悪いからあんまり床には座らないのに、珍しく床にペタリと座って俺と戻ってきたマサムネを背筋が伸びるように背を摩りながら座らせる。
オノデラが俺たちを追いかけられないことを知ってるから、俺たちは呼ばれたら言うことを聞いてすぐに膝の上に行くんだ。
だって、仕方ないだろ?弱った下っ端の面倒は元気な奴が見てやんなきゃなんないんだ。これ猫の掟だ。
「ペットショップでカボチャのクッキーを買って来たんだ。だけど先にこれかぶって。」
オノデラはいい香りのするクッキーを一度俺たちに見せてから、紙袋からガサゴソと小さいオレンジの丸い帽子と黒い尖った帽子を出した。
うわ…、
いやな予感しかしない。
俺たちがオノデラを拒否しないと分かってるからって、こいつ最近やりたい放題だぜ。
この間はオトコの俺にフリフリの工プロンのついた服と、マサムネには蝶ネクタイの黒い服を着せたんだ。
もう…。
「カボチャの王様の衣装はマサムネね。二ャンコの魔女はリツ。」
オノデラは細くて長い指を紐にきれいに絡ませて、俺たちに帽子をかぶらせてマントのような服を羽織らせた。
そして恒例の短い時間だけど結構緊張する撮影会が始まった。
かぼちゃのクッキーのためだ、我慢我慢とマサムネがぶつぶつ言ってるのが可笑しかった。
俺たちの写真がSNSでイイネをされるんだそうで、オノデラは俺たちの写真を見るたびにデレデレしてて、まあ、タカノやオノデラに可愛い可愛いって言われたり、頬ずりされたりするのはイヤじゃないから仕方がない。
家族サービスだと思って我慢してやるさ。
俺だって男だからな。
帽子や服はあんまり好きじゃないことを知っているから、写真を撮ったらオノデラはすぐに脱がしてくれるし、そのあとにもらったカボチャのクッキーはめちゃうまかったから今日も結局赦すんだよ。
そこんとこ、よく覚えておけよ。
そのうちに、台所でごそごそと人間のご飯を作っていたタカノが準備が終わったらしくてオノデラの近くに来た。
オノデラがスマホの画面を嬉しそうに見せると、タカノも顔を寄せて画面を見ながらオノデラにチュっとキスをした。
それをみてマサムネが俺のほっぺたをベロンと舐めるから、俺もマサムネの顔をツルツルと舐めてお返しをしてやった。
なんで人間はチュッとするだけでベロベロしないのかな?
ベロベロした方がずっといい気持なのにな。
人間てやっぱり馬鹿だな。
「タ飯はカボチャのフルコースだよ。リゾットとグラタンとサラダだ。リツとマサムネにもカボチャのペーストのトッピングをしてやるからな。」
タカノが俺とマサムネをグンっと抱き寄せてチュッチュっとキスをして言うからトッピングってどんな魚だろうって少し楽しみになった。
今夜はお化けが出る日らしいけど、玄関の門番が見張っててくれるからマサムネ安心して眠れるよ。
二人で包まって家に入ってこれないお化けを窓の外に探そう。
そんなハロウインの夜でした。
おしまい。