りつにゃんこ   作:bui

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りつにゃんこのクリスマス 前編


第9話

今度の日曜はクリスマスイプで、タカノとマサムネの誕生日だ。

誕生日って何だって話だけど、とにかくめでたいらしくて、なんだかうまいもん食えるらしい。

 

オノデラは何をどうなのかよく分かんないんだけど『内緒だよ』とか言って甘そうなケーキや赤と白のワイン、ごてごてしたリボンがついた綺麗な色の食いもんをネットで頼んだりしていた。

 

あいつは料理がからきしだから、って言うか恐ろしいからお願いしてでも料理はやってもらいたくない。

だから店屋で買ったもんでいいんじゃねえ?と俺もマサムネも思っている。

うん、その方が間違いない。

 

それからマサムネへのプレゼントは猫パンチが思いっっっっっきりできるおもちゃらしくて、リツだけに見せてあげるねって『スマホの映像』とやらを俺は見せられた。

 

小さい四角の中でブランブランとモッサリとしたボールがクルクルと動き始めると、それに目が釘付けになって追っかけたくて尻尾がうずうずしてしまう。

それでも限界まで我慢したんだけど、とうとうもう無理で思わずガツっとやってしまった。

 

オノデラは「わわわ、」とかあわてて持っていたスマホをお手玉したと思ったら、ポーンとなぜだかそれを高く遠くに飛ばしてしまって、タカノが飲んでるビールのコップにポチャンとホールインワンさせた。

 

手で狙ってそん中に入れようったってストレートには入らなそうな細っこいコップだったのに、オノデラには本当にこういう才能がある。

 

結局タカノもスマホもびしょぬれになって、タカノはすぐにシャワーを浴びに行く羽目になったしボールをちらつかせていたスマホはウンともスンとも言わなくなった。

 

そして結局…、店屋で修理してもらったんだそうだ。

まあ、半分以上俺のせいだけどさ…、あほか…。

 

「とりあえずホケンに入ってて良かった」ってオノデラが言ってた。

ホケンってなんだ?うまいのか?役に立つヤツだってことだけは分かるけど、わかんないことはマサムネに聞こう。

 

でもさ、あとでなんだっけって思い出そうと思うと全部忘れちゃってんだよな、俺。

 

そんなこんなでオノデラは『ジッカ』とか言うのに明日行くらしくて、年末も近いからってタカノと買い物に出かけていた。

 

オノデラのジッ力って俺たちの大好きだったばあさんの家の近くなんだって。

場所は良く覚えていないけど、ばあさんがとってもかわいがってくれたのは覚えてる。

マサムネもオノデラがそう言った時、複雑な顔をした。

 

あそこは俺たちとおんなじ猫がいっばいいて、毛玉みたいにころころと遊んだっけ。

今はここにいられて良かったって思うけど、ばあさんの家もメチャ楽しかったよな。

 

オノデラはジッ力にー晩だけ泊まってくるからって土産も買ったと言ってた。

 

タカノと一緒にプレゼントとかあれやこれやと買い物をしてついさっき帰ってきたところだった。

 

「つかれた。」

 

オノデラはタカノにそう言ってちっとも疲れた感じのしない顔で笑った。

オノデラって時々プンスカする以外はほとんどの時間笑ってる。俺なんてプンスカの方が多くてマサムネに呆れられてるってのにそういうところはすげーなって感心する。

 

本当にそういうところだけだけど、本当にたまにだけだけどな。

 

オノデラは買ってきた荷物を開いてああしたらとか、こうしたらとか分けたり仕舞ったりしているんだけど、あっという間に包装紙とかで部屋中がグチョグチョになってしまうんだ。

あいつは片づけがへたくそなんだからタカノに任せればいいのに、でも、買ってきたものを袋から出してすごくうれしそうに二コ二コ笑ってるから仕方ないって思っちゃうんだよな。

 

きっとタカノもそうに決まってる。

猫の俺が言うのもなんだけど、オノデラってさ、悩みがなさそうでいいよな。

タカノ曰く『お坊ちゃま』で『七光り』なんだそうで、意地悪くタカノがそう言うと、オノデラはむきになって怒るけど、すぐにタカノに頭をボンボンとかされて二コ二コ笑うんだ。

 

能天気な奴なんだよな。

 

 

▽

ダイ二ングテーブルではタカノがお湯を沸かしてる。きっとタカノはまた『コーヒー』を飲むつもりなんだ。

 

タカノはコーヒーが好きだから帰ってくるとすぐに電気のケトルでお湯を沸かす。シュンシュンってケトルが白い湯気を吐くのを見てると俺までなんだかボワンとあったかくなるような気がして気持ちがいいんだよな~、なんて悠長に湯気を見ていて油断した!

 

「リツ〜。」

 

オノデラが後ろから来て俺になんかをスポンとかぶした。

急に目がふさがれたからびっくりしてピョンっと飛び跳ねたら、「危ない!」ってタカノのでかい声がして身体がビュンっと飛んだ。

 

ちようど湯が沸いたケトルの方へ飛びのいたから俺はタカノの手に突き飛ばされたんだ。

 

そこへタイミング良くオノデラが手を伸ばして俺を受け止めてくれたんだけど、オノデラは足が悪いから踏ん張りがきかなかったみたいで、台所のカウンターに背をぶつけて上のものがなぎ倒されて、落ちてガチャンと派手な音を立てて砕けた。

 

野菜とかを入れるガラスのボールよりは少しだけ小さいまん丸いものは、オノデラが大事にしていた『スノードーム』というものだと知っている。

 

オノデラがいつも大事そうに磨いたり、フルフルとガラスの丸いところを振ったりしていた。

スノードームは揺らすと中できらきらしたものが巻き上がって、ふわふわゆれてやがてゆっくりと落ちてくるんだ。

中には『サンタクロース』と『子ども』と『天使』が二人いて、『サンタクロース』が『子ども』にリボンのついたプレゼントをあげているところなのだそうだ。

 

「あ!」

 

オノデラの短い声は悲鳴に聞こえた。床がびっしょりとぬれて薄いガラスが鋭いかけらになって一面に散らばった。

 

オノデラが真っ白い顔をしてガラスの破片を拾うから、なんだか申し訳なくって近くで二ャンっと鳴くと「リツは大丈夫だった?」と笑いたくないくせにこわばった笑顔でオノデラが頭をなでた。

 

タカノがガラスを片付ける手伝いをしようと近づくと「大丈夫です。」とオノデラが小さく言って、タカノの手を押さえた。

 

「ガラスで切ると危ないから…、」

「ごめん…。」

「何でタカノさんが謝るんですか?俺が悪かったのに…。」

「いや…。」

 

タカノが謝ったのには理由があった。そのスノードームはオノデラの『トモダチ』ってヤツが持って来たものだった。昔オノデラがイギリスにいたときに、『コットウ市』とかでオノデラにそいつが買ってプレゼントしたのに、その頃のオノデラはそれを受け取らなかったのだそうだ。

「今ならもういいだろ?」ってオノデラにそいつが渡しているところを俺は見ていた。

オノデラは泣きそうな、でも嬉しそうな顔をしてそれを受け取ってそいつにありがとうってすごく綺麗に笑ったんだ。

 

仕事から帰ってきたタカノがその報告を聞いてちょっと不快そうな顔をした。なんであいいつがそれを寄越したんだって怖い声で言った。

捨てろってことも言った。

 

でもオノデラはちょっと困った顔のまま何にも言わなかった。

 

オノデラは困ったことがあるとしゃべるのをやめてしまうのに、時々タカノが怖い声でオノデラにがつがつ言うから、オノデラは余計に何にも言えなくなっちゃうんだって、なんでタカノはわかんないんだろう。

 

そしてタカノはこともあろうに「リツたちがじゃれて割れるかもしれないからどっかにしまっとけ。」って言ったんだ。

 

「そんな嫌な事を言わないでください。声に出すとそうなるって昔の人が言ってました。」ってオノデラがちょっと怒って言った。

 

あの時タカノが呪いをかけたんだ。

 

だからスノードームは割れちゃったんだ。タカノがあんなこと言うから…。俺が思うぐらいだからオノデラも少しそう思ったんじゃないかな。

 

マサムネがしょんぼりしているオノデラの手やらほっペたやらをザリザリと舐めてる。

そうしたらオノデラはポロリと涙をひとつ流した。

まるで真珠のように丸くコロリと転がる涙だった…。

 

マサムネはオノデラのナイトだから仕方がない。今は許してやる。っつうか俺も一緒に慰めてやる。

 

タカノのばかやろう。

 

 

 

▽

その夜、オノデラはバックを用意するって言って寒い自分の部屋に行った。

 

俺が飛び跳ねたのが悪いって少し反省するところもあったから(でもオノデラが急に帽子をかぶせたせいなんだけど)マサムネをタカノの所に残して俺がオノデラと一緒に隣の部屋に行った。

 

オノデラはあのあと平気そうな顔をして笑っていたけど、

なんだか今までオノデラが笑ってるのは能天気なだけだと思ってたけど、

今はオノデラは笑うために笑ってたって分かったような気がした。

 

そして案の定部屋に入った瞬間オノデラはぼろぼろと涙を流した。

 

「りつ…、」

 

ギュって抱きしめられて、グリグリと頭をこねくるみたいになでられて、濡れたほっペたを擦り付けられても俺は嫌がらずにされるがままでいた。

 

「心臓が止まるかと思った。」と、ボツリとオノデラが言った。

 

「先輩に振られたと思って自暴自棄でイギリスに行ったんだ。もう何を見ても綺麗に思えなくて、なんにも楽しくなくて…。クリスマスマーケットに無理やり連れて行かれたときに、このスノードームを見つけたんだ。男の子が先輩にそっくりで目が離せなくなって、ナオが見かねて買ってくれたんだけど、先輩に似た子の置物なんて受け取れなくて、いらないって騒いで…。でもまたタカノさんと出会って、一緒に住むようになったらナオがもう大丈夫だろって持ってきてくれた。」

 

オノデラはズルっと鼻をすすって少しだけ息を整えて何かを考えているみたいに目を瞑った。

 

「リツは覚えてるかな?あの中に天使が二人いて、二人がリツとマサムネみたいで、先輩にプレゼントをあげたいと思ってた俺はサンタかなって…。」

 

オノデラはそのあたりでもうヒャックヒャックとしゃくりあげ始めて俺はどうしていいか分からなくなった。

 

「割れちゃった…。」

 

オノデラが小さくつぶやいた声が悲しくて、苦しくて、何だか俺まで一緒に泣きたい気持ちになったんだ…。

 

 

 




後編へ続くよ。
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