幻想郷異人伝~異世界から舞い戻った(?)少年~   作:赤辻康太郎

3 / 3
今回でこの短編は終了です。


後編

「始め!」

「どりゃあああっ!」

「はあああっ!」

 

−−ガギィン−−

 

激突。レミリアが手を振り下ろした瞬間、俺の刀と御領の大鉈が激突し、轟音を上げた。

 

「しゃあああああっ!」

「やあああああっ!」

 

刀と大鉈の応酬。だが元々の力量が違うから俺の方が圧されだした。

 

「……ちっ!」

 

このままでは圧し負けると判断し距離をとろうとしたが、

 

「甘いわあ!」

 

−−ヒュバッ−−

 

御領は大鉈を上段から振り抜き、斬撃を飛ばしてきた。

 

「んなもん当たるっ!」

 

避けようとしたが、斬撃の軌道上には美鈴達がいることに気づいた。危ねえ!

 

「くそがあつ!」

 

−−ギャィン−−

 

俺は斬撃を刀で受け止める事で最悪の事態は回避した。

 

「……こんにゃろめ。味な真似してくれるじゃねえか」

「何でもあり、じゃけえの。こいつがワシの奥の手、『鎌鼬』じゃ」

 

見た目に似合わず老獪な奴め。

 

「樹。今は私達よりも戦いに集中して」

「そうです!私達なら大丈夫ですから!」

 

咲夜、美鈴……。

 

「……わーったよ。お前らも気をつけろよ。特に美鈴はこの後一仕事あるからな」

「はい?」

「……そういう事ね。分かったわ。ほら美鈴、行くわよ」

「え?あの、どういう……」

「いいから!」

 

イマイチ飲み込めていない美鈴を無理矢理咲夜が引っ張って行った。

 

「戦中に女子とお喋りとは余裕じゃのう?」

 

御領があからさまな挑発をかましてきた。

 

「まなあ。負ける気がしねえし」

 

だったら挑発でお返しするしかねえよな。

 

「……ふん。余裕こいちょられるのも今の内じゃ」

 

明らかに不機嫌な顔をして御領は大鉈を構え直した。どうやら舌戦は俺が征したようだな。

 

「そいつはどうかな?」

 

俺は刀を納刀し、刀を両手で握り水平に保った。

 

「何をする気じゃ?」

 

訝しげに首を傾ける御領。まあ見てな。

 

「奥の手って奴だよ。……『Set The Spellcard』」

 

キーワードを宣言すると、刀が淡く輝きだした。

 

「成る程。スペルカードか。じゃがワシには効かんぞ?」

「そいつは、やってみないと分かんねえだろ!」

 

抜刀。すると一気に刀の輝きは増し、光が俺の全身を包み込んだ。

 

「ぬ?あの小娘と違う?」

「俺のは特別製だからな。……行くぜ!」

 

俺は御領に向かって一目散に駆け出した。

 

「その勢いや良し!じゃが甘いわ!」

 

御領は再び鎌鼬を放ってきた。しかも今度は連発で。

 

「斬撃を飛ばせるのがテメエだけだと思うなよ!衝波『魔神剣・双牙』!」

 

俺は刀と拳を交互に振るうと、地を這う衝撃波を出し御領の放った鎌鼬にぶつけて相殺した。魔神剣・双牙はルミナシアにいた時に使用していた特技の一つで、何故か幻想郷に来た時に術技は全てスペルカード化していた。もう術技は使えないと思っていた俺にとっては嬉しい誤算だった。

 

「ほう。そうくるか。なら、これでどうじゃ!」

 

御領は今度は大鉈を水平に振るい鎌鼬を飛ばしてきた。確かにこれなら魔神剣での相殺は無理だ。

 

「んなもん!」

 

俺は飛んでかわしたが、

 

「そうじゃろうな!」

 

御領はさらに上から俺を真っ二つにしようと大鉈を振り下そうとしていた。

 

「甘いな」

 

俺は刀を頭上で刃が大鉈に対して丁度垂直、鉈の刃と刀の刃が上下から見て十字になるように構える。

 

−−スゥ−−

 

刀と大鉈がぶつかる瞬間、俺は刀を大鉈のスピードに合わせて引いた。

 

「ぬ?」

 

そして、丁度顔の位置で大鉈のスピードが零になったのを見計らっ――。

 

「だあああっ!」

 

着地のタイミングと同時に一気に刀を押し上げた。

 

「ぬおおおっ!」

 

御領はまるで鞠の様に飛んでいき、地面に激突して轟音を立てた。

 

「ぬうう。今のは……」

「『寸打』の応用さ。相手の攻撃を利用する返し技だ。」

 

首を軽く振りながら起き上がる御領に種明かしをした。

 

「ふん。小細工が効かんのは兄やんの方じゃったか」

「まあ能力のお陰もあるけどな」

 

元々この手の奇襲奇策は得意だしな。

 

「ならばこっからは小細工なしじゃ!」

「だな!」

 

そこからは、二度目の剣劇の応酬だった。今度はこっちも遅れを取らねえぞ。

 

「連閃『瞬連刃』!」

「ぐうっ!」

 

高速の四連続斬り『瞬連刃』を繰り出し、御領の大鉈を弾いた。

 

「双閃『双旋牙』!豪衝『剛断牙』!」

 

俺はその隙を逃さず、鞘と刀を横薙ぎに払い、更に軽く跳躍し宙返りして刀を御領に叩きつけ衝撃波で追撃した。

 

「ぐおおおっ!」

 

止めどなく繰り出した連続攻撃に、ついに御領は片膝をついた。それだけではない。

 

「な、何故じゃ!何故ワシの身体から、血が!?」

 

そう。今まで傷つけることの出来なかった御領の身体を、俺は斬り裂いた。

 

「……その刀か!」

「御明察。こいつはかつて、かの源頼政が鵺を退場した時に用いた刀、銘を『妖刀・禍太刀(まがつたち)』」

 

『源頼政』。平安時代後期に活躍した武将。また宮中に現れた妖怪『鵺』を射落とした事でも有名。禍太刀はその鵺の首を斬り落とした際、鵺の血を吸って妖刀となった、らしい。ぶっちゃけこの話はパチュリーに刀を貰った時に聞いた話だから俺は知らなかったんだけどな。

 

「禍太刀!頼政公の御剣(みつるぎ)か!」

 

あれ?有名だった?

 

「くっ、ならワシの身体を傷つけたカラクリも納得がいく。じゃが何故最初から使わんかった?」

「まあ事情があるんだよ」

 

禍太刀は最初力を封印されていて、見た目はただの刀だった。俺がパチュリーに「スペルカードをカード無しで使いたい」と相談したら、「禍太刀に組み合わせれば可能」と言われた。ただしその弊害として、スペルカード宣言する度に封印が解かれる様になってしまったんだ。そしてその状態のまま使い続けると刀に魂を喰われて妖怪化してしまう可能性があるそうだ。つまり、技の使用=妖怪化のリスクを背負ってしまったわけだ。

 

「悪いが時間が惜しい。直ぐにケリをつけさせてもらうぜ!」

「吐かせえ!」

 

−−ガギィン−−

 

鍔ぜり合い。だが、今度の鍔ぜり合いは勝手が違った。

 

「なんと!」

 

禍太刀の刀身が、大鉈に食い込んでいた。

 

「はあああっ!」

 

−−バキャ−−

 

俺は刀を走らせ、大鉈を叩き斬った。

 

「わ、ワシの大鉈が」

 

武器を破壊されたショックからか、御領は今までにない動揺を見せた。

 

「今だ、美鈴!」

「はい!」

 

俺の呼び掛けに応えて、美鈴が木立の陰から飛び出してきた。そして、俺と美鈴を光の線が結んでいた。

 

「斬閃『刹華瞬光』!」

「極彩『彩光乱舞』!」

 

俺は高速の連続斬りからすり抜け様に斬り裂き、美鈴は虹色のオーラを纏い回転しながら上昇し攻撃した。

 

−−共鳴術技発動!−−

 

「風刃の檻にて」

「極光と散れ」

「「風刃封縛殺!」」

 

俺が御領を斬りつけ鎌鼬の檻で動きを封じ、美鈴が上空蹴り飛ばし、さらに落下のタイミングに合わせて二人で挟撃した。

 

共鳴術技(リンクアーツ)もルミナシアにいた時に稀に使用していた特殊術技だ。光の線で繋がった二人が同時に術技を使用した時に発動する。まさか幻想郷で、しかもスペルカードでも使えるとは思わなかった。

 

「があああああっ!」

 

とうとう御領が地に伏した。これで決着がついただろうな。

 

「ぐ……ま、ま、だ……」

 

だが御領は無理矢理立ち上がろうとしていた。

 

「もう止めておけ。立ち上がったところで、お前に勝ち目はねえよ」

「わ、ワシは……まだ……」

「言ったでしょう。『戦闘不能になったら負け』と。それとも、鬼が一度交わした取り決めを反故にするのかしら?」

「……」

 

レミリアに指摘され、御領は口を閉じ、半身を起こした状態で止まった。この瞬間、勝敗が完全に決した。

 

 

−−その日の夕餉−−

 

 

「何で!何で起こしてくれなかったの!?」

 

俺と咲夜が夕食の支度をしていると、濃い黄色の髪に真紅の眼をした少女がそう叫んだ。少女の名前は『フランドール・スカーレット』、通称フランまたは妹様。スカーレットの名の通り、レミリアの妹だ。妹と言っても性格は勿論、髪の色も羽の形も姉は膜翼で妹は七色の結晶とまるで違う。共通点と言えば被っているナイトキャップくらいか。フランは情緒不安定なとこがあり、そのためか何百年間かレミリアによって幽閉されていた。これはフランの性格と『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を危険と判断したレミリアによる苦情の決断だった。だがそれはフランにとってストレスとなりその『狂気』を増大させる要因となっていた。まあそれをレミリアに指摘したらブチギレられて死にかけたけど。今はフランも以前より大人しくなったので結果オーライだろう。

 

「しょうがないだろ。そんな暇なかったんだから」

「むー。じゃあ今度と樹が遊んでよ」

 

そして何故か俺に懐く様になり、遊んでとせがんでくる。ただしフランの遊びは殺し合に等しい。

 

「お前が手加減できる様になったらな」

 

でないと妖怪化がマッハで進んじまう。

 

「じゃあ美鈴でいいや」

「い、妹様。私も勘弁して欲しいなあって」

「ダーメ♡」

「ですよね〜……ハア」

 

がっくりとうなだれる美鈴。まあ普段居眠りしてるからいい罰だろう。

 

「お食事の準備が整いました」

「そう。咲夜、樹。貴女達も席に着きなさい」

「畏まりました」

「了解」

 

レミリアの令で俺と咲夜も席に着いた。席順は上座に当主であるレミリア。レミリア側からフラン、その向かいにパチュリーその隣に咲夜、その向かいに美鈴で美鈴の隣が俺の席だ。

 

「私ここ〜」

 

席だったんだが、何故か俺の膝にフランがチョコンと座った。

 

「……フラン、一応聞いておくわ。何しているの?」

 

レミリアが片方の眉をピクピクとさせながらフランに聞いた。

 

「だって皆して楽しいことしてたんでしょう?それも私抜きで」

「楽しいって。あれは紅魔館の従者として当然の仕事であって遊びではないのよ」

「そんなの私には関係ないよ。ともかく、私はここで食べるの」

 

レミリアにそっぽを向くフラン。どうやら相当拗ねているようだ。

 

「フラン、よく聞きなさい。貴女も誇り高きスカーレット家の一員なの。だから淑女たる者が簡単に殿方の膝の上に座るなんて−−」

「樹、『あーん』して」

「フラン!」

 

ついにレミリアがテーブルを叩いて怒鳴った。

 

「はいはいそこまで。レミィ、そんなに怒鳴っては逆効果よ。フランもふざけないの」

「……分かってるわよ」

「はーい」

 

パチュリーが手を叩いて注意し、レミリアとフランは渋々頷いた。フランは相変わらず俺の膝の上だが。

 

「樹も。あまりフランを甘やかさないの」

「分かってるよ。よっと」

「わっ!」

 

俺はフランを両脇から抱え上げ、フランを自分の席に座らせた。

 

「ぶー」

「我慢、我慢」

 

俺はふて腐れるフランの頭を撫でると自分の席に戻った。

 

「それじゃあ……あら?樹、貴方のお魚は?」

 

食事の号令をかけようとしたレミリアが俺の皿に魚がないことに気がついた。

 

「ああ。数が足りなかったんでな。俺のをなしにした」

「そう。なら仕方ないわね。じゃあ頂きましょうか」

 

レミリアの号令で食事が始まった。今日のメニューはパンとサラダ、シチューとメインの川魚のムニエル。ただし、さっき言ったように、数の都合上俺の魚はなしだ。

 

「た、樹さん。私のを半分どうぞ」

 

と美鈴が自分の魚を半分に切り分けて寄越してきた。

 

「いや気にするな。美鈴が食べればいいよ」

「でも……」

「なら皆で少しずつ交換しようよ」

 

俺と美鈴が押し問答をしていると、それを見かねてかフランがそんな提案をしてきた。

 

「あら、いい案ね。私もフランや咲夜のを食べてみたいわ」

「私も異論はないわよ」

「なら私が取り分けますね」

 

あれよあれよと言う間に咲夜がテキパキと魚を切り分けて分配していった。

 

「いいのか?」

「別に構わないわよ。よく考えたら、当主が従者に冷遇させるのは貴族のやることではないわ。勿論、失態を犯した時の罰は別だけど」

 

俺の質問にレミリアは妖しく笑って答えた。

 

「それに皆で同じもの食べた方が楽しいよ」

 

フランも無邪気に笑ってそう言った。

 

「そっか。ありがとな」

「えへへ」

「何で美鈴が照れるのよ」

「え?いや、その……」

「じゃあ樹、『あーん』して」

「フラン、いい加減にしなさい」

「えー」

「私が先よ」

「おい」

「い、妹様の次は私で」

「美鈴もかよ!」

「諦めなさい」

 

その日の夕餉の席は、俺が幻想郷に来てから一番賑やかな席だった。

 

 

−−とある空間−−

 

 

「……まったく。相変わらず暢気なものだな」

 

樹達の様子を、九本の尻尾を生やした少女がスキマに映った映像から監視していた。

 

「藍、調子はどう?」

「あ、紫様」

 

少女の元に、妙齢の女性が現れた。女性の名は『八雲紫』。幻想郷創成に携わった妖怪の大賢者である。自分の名前と同じ紫色のドレスを身に纏い日傘をさしていた。

 

「はい。今のところは大丈夫なようです」

 

藍と呼ばれた少女の名前は『八雲藍(やくもらん)』。紫の式である大妖『九尾の狐』だ。道着の様な服を着て二山のある帽子で耳を被っている。

 

「そう。なら引き続き監視をお願い」

「はあ。しかし、何故監視を続けるのですか?自分で幻想郷に連れて来たのに」

 

藍の言葉通り、樹をルミナシアから現世ではなく幻想郷に連れて来たはのは紫だった。そして紫はその真意を樹本人にも、部下の藍にも教えていなかった。樹にいたってはまだ直接会ってすらいない。

 

「監視は彼を死なせないためよ。貴女にもいってあるでしょう?」

「はい。『津浦樹が死なない様に監視し、場合によっては保護せよ』でしたね」

「覚えているならいいわ。連れて来た理由は、そうねえ……『借りを返して貰うため』かしら」

「はあ」

 

藍は納得していないが頷いた。八雲紫に理由を尋ねて明確な返答が返ってくることがないのは、藍だけでなく八雲紫を知る幻想郷の住民の共通意識だった。

 

「とにかく、彼の存在は重要なのよ。それだけは理解して頂戴」

「分かりました。ところで、彼が重要なのは幻想郷にとってですか?それとも、『八雲紫』にとってですか?」

「両方よ。じゃあ私はもう寝るから。お休み」

 

紫は藍の質問に一言で答えると返事も待たずにスキマに消えていった。藍は「お休みなさい」と紫の消えた空間に一礼すると、再び樹の監視に戻った。映像から見える樹の顔は自分の置かれている境遇などまったく知る由もなく、ただ楽しそうに笑っていた。

 




今回初めて1人称に挑戦してみましたが如何だったでしょうか?

ご意見・ご指摘・ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。