未読の方は一〇〇話よりどうぞ。
あと感想七〇〇件突破してました。モチベの主成分です。いつもありがとうございます!
「あー……」
背後のジャイアントペンギンが、なんとも気まずい声をあげる。
まぁ、ジャイアントペンギンは賢いから、俺が今までチベスナに転生のことを話してないことも察しがついているのだろう。実際確かに、そういう視点から見ると──ずっと旅をしている相棒に隠し事がバレた、という状況はかなり気まずい。
チベスナの方も──どうやら耳のよさのお陰でさっきのやりとりは一部始終聞こえているらしい。表情の困惑具合から、それが容易に読み取れた。
──俺の脳裏に、あの日の葛藤が蘇る。
砂漠地方で俺は、自分の素性を正直に話すことができなかった。ヒトの魂を持っているということになんとなく後ろめたさを感じていた。
そして今、図らずもチベスナに真実を聞かれてしまった俺は。
俺は────。
「いやだから、俺の前世はヒトだったんだって」
普通にさっき言ったことを言い直した。
というかまぁ、さっきも言ったが今はもう自分の前世がヒトだったことに後ろめたさとかないし……。今までチベスナに話してなかったのは単純に言う機会がなかったのと、チベスナに諸々の説明を分かりやすくするのが面倒くさかっただけだからな。
だってほら。
「チーター?」
こんなややこしい事実、チベスナが理解するにはかな~り噛み砕いて説明しないといけないし。
「ち、チーター……? いいのか? お前、チベスナには……」
「言ってなかったな。でも別にいいんだ。言う機会がなかっただけだし」
確かに、砂漠地方を旅していた頃の俺は、正直言ってフレンズに対して劣等感があった。
目の前にあるものを素直に受け止め、そして明るく天真爛漫にふるまえる。行動全てが無邪気な善性によって回っているようなフレンズは、人間社会で長く過ごしてきた俺にとっては眩しすぎるものだった。
けっこう自分本位なチベスナでさえ、『ムービースターになる』っていう夢の為にアイツなりに頑張ってたわけで。まぁその頑張りは見当違いもいいところだったのだが、だからこそ俺はあの時チベスナのことを旅の道連れにしたわけでな……。……まぁ、この話はいいか。
ともかく、そういう意味で俺にとってフレンズっていうのは、人間社会で過ごしてきた俺が持ち得なかった尊い何かの象徴みたいな節があったわけだ。
今もその認識が変わっているわけじゃない。
フレンズはどれだけ知能が高くても根は純粋だし善良だ。俺はフレンズのように純粋にはなれない。
ただ──今はもう、劣等感はなくなっていた。
だってほら、今までの旅路は、いつも明るいものだったしな。さすがに俺も無限のポジティブ思考を持ってるわけじゃないから、ヒトだったことでなんかテンションが下がる出来事がたくさん起これば色々考えたかもしれんが……基本的にお気楽だったし。
そんな旅を続けといて、ヒトだったことに劣等感が~とか…………今更じゃね?
そういうわけで、俺はもう特に自分がヒトだったことについて劣等感とかないし、特にチベスナに自分の素性を話すのに抵抗はないのだった。いや、めんどくさいので後回しにしたかったのはあるが。
「だからチーター、転生とかヒトとかどういうことだと思いますよ? ……あっ、ヒトっていうのは分かると思いますよ。えいがに出てきてましたので」
「流石にヒトのことも分からなかったらちょっとびっくりだわ」
フレンズみたいなけものとか言いそうだよね、チベスナなら。
「ま、簡潔に言うと俺は普通のフレンズとはちょっと違うタイプの元動物だったってことだな」
「はー……。まぁそれは何となく分かってたと思いますけど、要するにどういうことだと思いますよ?」
まぁこの説明で分かるわけないよな。だがこれは複雑な説明を少しでも簡潔にする為の前段階。ここを足掛かりに、複雑な説明を分かりやすく噛み砕くのである。これ、いつもチベスナに言い直し要求されて身に着けた俺の処世術な。
…………ん?
いや待て。今コイツなんて言った? 『それは何となく分かってた』?
「分かってたって言ったのか、お前?」
「はい? チーターが普通とは違う元動物からフレンズになったって話ですよね? なんとなく分かってたと思いますよ」
「マジで!?」
マジで!?
……はっ。思わず心と言葉が同調してしまった……。
「マジだと思いますよ! チベスナさんが嘘を言うと思いますか?」
「見栄はよく張るだろ」
「張らないと思いますよ!」
ほら今見栄張ったぞ。
「まぁいいや。で、なんで分かってたんだよ?」
「だってチーター、ボスのことずっとラッキーって言ってたと思いますよ」
え?
ああ、それな……。アニメでかばんがラッキーさんラッキーさん呼んでたから、なんとなく俺もそう呼ぶようになってたってやつ。でもあれは、博士達から聞いたってことで納得されてたと思うんだが……。
「最初ははかせ達から聞いたんだと思ってましたけど、チーター、はかせ達と会ったことないですよね?」
「あれ、そのこと言ってたっけ?」
流石にそこ言ったらバレバレだからと思って、博士達と面識がないことは言わないようにはしてたんだが……どこかで言ったか?
「いえ。アミメキリンと話してるときに、なんだかはかせ達と会ったことなさそうなことを言ってたので。チベスナさんが推理したと思いますよ!」
そう言うと、チベスナはドヤァと笑みを浮かべた。
アミメキリンってことは……ロッジ地帯を旅してたときか。けっこう最近だな。遊園地地帯でヒグマ達とその話をした後だから余計に気づきやすくなってたのかもしれないな。
…………でも、アミメキリンとそんな話してたっけ……。全然覚えてない。
「それに、チーターは生まれたばかりのフレンズですからね。色々知ってるのはおかしいと思いますよ」
「……お前、俺がいつ生まれたとか分かるのか?」
「いえ? でもチーター、フレンズの身体にまだ慣れてないみたいですし、生まれてすぐなんだろうなと思ってたと思いますよ。でもそんなことありえないので、なんか変わった生まれだと思ってたと思いますよ」
うわ、それは想像してなかった。たしかにチーターの身体の特性とはいえすぐ疲れてへばったりするのは普通のフレンズらしくないしな……。
そう考えると、チベスナの前には色んな証拠が転がってたのか。
にしても……。
「お前よく見てるなぁ……」
と、俺は思わず感心してしまった。明確な証拠とか完璧な確信とかじゃないあたりが実にチベスナらしいが、それでもそういう細かいところを見て俺の素性に気付いてたって言うんだから、やっぱこいつも伊達に俺と長い間旅してないってわけだ。
そう、考えてみればコイツ、この旅の間ずっと、俺のことを近くで見続けてたんだもんなぁ……。
「──受け入れたわたしが言うのもなんだけど、お前らあっさりしすぎじゃないか? もっとこうなー」
と、そこで俺とチベスナのやりとりを遠巻きに眺めていたジャイアントペンギンが、そう口を挟んできた。
「流石に俺も、ほかのフレンズ相手ならこうはいかないけどな」
言いながら、俺はジャイアントペンギンの方へ向き直る。
やっぱほかのフレンズがヒトのことをどう思うかは分からないし。キンシコウとかは確かヒトのことを悪く思ってないみたいな描写がアニメであった気がするけど……確か最終話の内容だし、今の時点で教えたらどうなるかなんて分かんないし。
……ああそうそう。あんまりヒトの話を吹聴したくないっていうのは、あんまり言いすぎるとこう……かばんが生まれた後、フレンズ伝いに俺のことがかばんに伝わったら、確実に興味を惹かれるというのもある。
俺はパークの外のこととか知らないし、期待に満ちた様子で聞きにきたかばんに『詳しいことは何も分かりません』って言うの、すごい心苦しいじゃないか……。そういうこともあるのでやっぱりこれからも、なるべく隠していきたいという方針に変わりはない。
ちなみに、ヒトのことを話したら悪感情を~みたいな心配は、チベスナに対してはハナからしていない。ここまで旅をしておいてチベスナがそういうことを考える可能性があると思うヤツがいるなら、そいつの目は節穴だよ。
「なるほどね。『チベスナだから』ってわけだ」
そんな俺を見て、ジャイアントペンギンはそう総括した。
つまるところ、そうだ。今ままで一緒に旅をしてきて人となり(フレンズとなり?)がよく分かっているチベスナだからこそ気兼ねなく話せたってのは大いにある。
「ま、そういうことになるな」
ただまぁ、そんな高尚な話でもないんだけどな。
チベスナになら、言ったところで伝わる心配ないってこともあるし。こいつの頭で俺の事情を分かるように誰かに伝えることは不可能だから。
「チーター! なんか忘れられてますけど、普通と違ったタイプのけものってどういうことか説明するといいと思いますよ。ぐたいてきに!」
と、そこでチベスナがぐぐいとこちらに距離を詰めながら言ってきた。
あ、そういえば説明すんの忘れてたな。こうやってすーぐ話が変わるから……。今までチベスナに前世の話をしてなかったのは、こういうのも一因としてあるかもしれない。とにかくフレンズの会話って話題がころころ変わるんだよ。
「んーと、そうだな」
俺は少し考えるようにしながら、
「簡単に言うとだな……俺はチーターとして
「おお」
うーん、理解度三〇%ってところか?
「で、生まれる前の俺はチーターじゃないけものとして生活していた。それがヒトだったってわけだ」
「えぇ〜……」
「なんで今更眉唾って感じのリアクションすんだよ! 自分で普通のフレンズとは違うタイプの元動物だと思ってたって言ったじゃねぇか!」
思わずツッコミを入れるが、チベスナは相変わらず胡散臭いものでも見るような目で俺を見て、
「確かにチーターは色々詳しいと思いますけど、ヒトは手をグーってやらなかったと思いますよ」
「うぐっ」
言いながら招き猫の手をしてみせるチベスナに、俺は思わず呻き声をあげてしまう。
これこそ俺が克服したい克服したいと思いつつ未だに克服できてないけものとしての本能……いやこれを本能と言っていいのかは正直謎だが……。
「だが、だからこそ俺はこの手をやめたいとずっと思ってるんだよ! 身体がいかに獣の本能を覚えても、それでも人間としての矜恃を忘れない! 俺は常にその思いを胸にだな……」
「あー、なるほど。だからいつも固まってたんだと思いますよ」
「……」
俺の必死の演説はほぼスルーし、チベスナはぽんと掌を叩いた。くう……! こいつめ……!
「でも、これでなっとくだと思いますよ。チーターがカメラを使えたのも、その『ぜんせ』がヒトだったからですね。ちなみにヒトって今どうしてるんだと思いますよ?」
あ、全然分からない質問来た。絶対来るとは思ってたが。
「……あー、それは、」
「そのへんにしておいた方がいいかもなー?」
と、そこで絶妙なタイミングのジャイアントペンギンが割って入った。そのへんにしておいた方がいいって……ああ、なるほど確かに。
「そろそろ、時間的にもコウテイ達がこっちに戻って来る頃だろー? さっきみたいなことになっても面白くないしな」
改めて集中してみれば、確かにコウテイのものと思しき匂いがした。
流石にペンギンの聴力じゃああそこまで鮮やかにとはいかないと思うが、それでも気をつけるに越したことはないよな。助かったよ。
感謝の気持ちを込めて視線を返すと、ジャイアントペンギンは呟くようにこう付け加えた。
「……それに、知らない方がいいこともあるってもんだ」
…………んん? なにか誤解されているような……。
転生の告白は王道の展開ということで劇的なものになるかと
思っていたのですが……このことそれ自体は何気ないものでした。
ちなみにこの話(転生告白編)はこれで終わりではありません
◆一周年記念イラスト◆
【挿絵表示】
今回は友人のセンシュデンさんに描いてもらいました。
へいげんちほーを旅してるときの二人だそうです。
(twitter:https://twitter.com/neduysnes)
(pixiv:https://www.pixiv.net/member.php?id=1955485)