畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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現在一周年記念連続投稿中です。未読の方は一〇〇話よりどうぞ。
超久々に撮影パートです。体感的には半年ぶりくらい。


一〇三話:ペンギン劇団撮影風景 ・

「準備って言っても、具体的に何をするんだ?」

 

 と、『少し準備する』と言ってメモを取り出して台本ストックを色々見ていた俺に、横合いからコウテイがそう問いかけてきた。

 まぁコウテイ的にも、映画撮影に何が必要かとか分かんないしな……。当然の疑問だ。

 

「映画ってのは、基本的に誰かが考えたお話を皆で演技するものだ。……お話ってのは分かるか?」

「流石にそこはな。先輩がたまに話しているし……。ただ、えんぎ? というのがよく……」

「あー、つまりだな」

 

 言ってから、そういえば演じるという概念自体の説明は難しいな……と気づいた。うーむ、そうだな。

 

「『おい、勇者チベスナ!』」

「はっ!? いきなりなんだと思いますよ!? 聖剣チベスナカリバーでもくれるんですか!?」

 

 突然のネタ振りにもアホみたいなボケを返してくれるチベスナに、俺は鷹揚に頷く。

 

「『まさしく。魔王セルリアンに国を荒らされジャパリパークが危機に瀕しているので、勇者チベスナにこの聖剣チベスナカリバーを使って討伐してもらいたいのだ』」

「やってやろうと思いますよ! チベスナさんにお任せだと思いますよ! して、お助け料の方は……」

「お前勇者のくせに金取る気なの?」

 

 俗物な勇者もあったもんだな……。いやまぁ、現実的に考えれば、仮にも国家の危機なんだし大金出してでも報いるのが筋なんだが。

 と、まぁ小芝居はこのくらいにして。

 

「こんな感じだな。今のは『偉そうな人が俗物勇者に聖剣を渡して魔王討伐を命じるお話』を俺とチベスナで『演じた』ってわけだ。これなら分かるか?」

「わ、分かったが……。すごいなお前たち。いきなりそんなことやって……。わ、わたしにはとても……」

「あー、実際には台本とか作って、喋るセリフは前もって練習できるから」

 

 なんか白目になりかけてるコウテイに、俺は苦笑しながら付け加える。そういえばコウテイはこんな感じだよね。なんか安心感ある。

 

「手をグーした後のチーターみたいだと思いますよ」

「え!? 俺あんな顔してんの!?」

 

 白目剥いてんの!? 嘘だろ!?

 

「雰囲気の話だと思いますよ」

「ふっ……くくく……くひ……」

 

 雰囲気の話か……。そしてジャイアントペンギンは笑うなよ! 笑うなら押し殺さないで笑え! なんか惨めになるだろ!

 

「……まぁ。今のは簡単な小芝居だから台本なしでやれたが、本来はそうもいかない。セリフを用意したり、動きを決めたり、その他必要な小道具があったらそれを造ったり……。前準備ってのはけっこう大事なんだよな」

「なるほどなー」

「チーターさん、いつもそういうことをやってらっしゃるんですね……」

「最近はそうでもないと思いますよ!」

 

 イワビーとジェーンが俺に感心していると、横合いからチベスナが文句を投げかけてきた。まぁまぁそう言うなチベスナ。これから今までの分きっちりと映画撮影してやるから。図書館に行くまでは我慢しろ。

 

「ともかく。そういうわけで台本を作るんだが、まぁ今から全部作ってたんじゃ時間がかかるし……。だからこうやって、事前に用意しておいたメモから使えそうなネタを選んでいるわけだ」

「いつもそうやって思いついたことをメモしてるのか?」

「最近はな。ちょっと思うところがあって」

 

 オオカミ先生と色々話してから、こういうのも必要だと思ったのだ。前から台本をメモに書き込んだりはしていたが、旅の途中で思いついたことは積極的にメモするようになった。じゃないと、時間を置いたらすぐ忘れちゃうからな。

 

「まぁ、全部が全部俺のアイデアってわけでもないが……」

 

 遊園地でやった西遊記しかり、わりと『童話をジャパリパークに合わせて組み替えたネタ』もメモしたりしてるんだよな。たとえばこれも。

 ……む、良い感じに配役を整えたら、このメモでなんとかいけそうだな。

 

「よし、題目が決まったぞ。ジャイアントペンギン、台本のレクチャー手伝ってくれないか?」

「はいはい。任されたぞー」

「ちょっとチーター、チベスナさんには頼まないと思いますよ!? チベスナさんも文字を読めると思いますよ!」

「お前教えんの下手じゃん」

 

 ムキー!! と憤慨するチベスナはさておき。

 水辺地方での、久々の撮影が始まった────。

 

の の の の の の

 

みずべちほー

 

一〇三話:ペンギン劇団撮影風景

 

の の の の の の

 

「助けてください! 命を狙われているの!」

 

 開口一番、海底のようなデザインの水族館のホールで告げたのは──ジェーンだった。

 いかにも逃げてきましたと言わんばかりに髪を振り乱したジェーンに続くように、ホールの袖から次々と今回の『役者』たちが現れる。

 

「どうしたんだぜ! そんなに慌てて! 白雪ペンギン、お前のせっかくの美貌が台無しだぜ!」

「じゃぱりまんでも食べて落ち着きなよ~」

 

 イワビーとフルルが、ジェーンの声に応える。二人とも自分の個性を強く出した演技ではあるが、棒読みとかそういったことは一切ない。

 このあたりは、仮にも後にPPPとして歌って踊れるペンギンアイドルの活動をすることになるフレンズの面目躍如といったところだろうか。物覚えの良さもそうだが、こうした『自分の身体を使った表現』全般において、やはりチベスナなどとは比較にならない表現力がある。

 

「それが……実は、お妃様に命を狙われているんです。なんとかお城から逃げ出して、この海の底まで来たんですけど……。わたし、これから先どうすればいいのか」

 

 途方に暮れたように言うジェーン。言い終えるとジェーンは、はぁとため息をついてその場に崩れ落ちた。少々オーバーではあるが、しかしそれはそれで舞台劇的な雰囲気もある。少なくとも、今までの撮影の中では随一の演技派といえるだろう。

 ちなみに、この『白雪姫』──もとい『白雪ペンギン』は、その名の通り白雪姫をペンギン向けに改変したストーリーである。なので白雪姫が逃げ込んだ先も森ではなく海底という改変があるのだが──そこは言葉を変えただけなので、本筋にはあまり関係ないのであった。

 

「なら、ここで暮らすといいぜ! ここなら誰も来ないしな」

「ジャパリまんもおいしいよ~」

 

 そんなジェーンに対し、暖かな態度を見せるイワビーとフルル。しかしそんな時間も、長くは続かなかった……。

 

「──鏡よ鏡。世界で一番美しいのは、誰だい?」

 

 カツン、と。リノリウムの床を靴が叩く音が、その場に響いた。

 象徴的な演出とは裏腹に一応ここが海底であるという設定は一旦忘れるしかない。このへんは作劇の都合もあるのであった。

 声はフレンズが演じているとは思えないくらい、悪意に満ちた嫌な雰囲気を伴っていた。もちろん演技ではあるのだが、通常のフレンズではありえないくらい──真に迫った演技がそこにあった。

 

「……それはもちろん、白雪ペンギンだと思いますよ!」

 

 それに答えるのは、画面外にいるチベスナだった。どうやら今回はチベスナは声のみの出演ということらしい。

 もちろん、チベスナは本来そんな端役で納得するようなタイプではない。ではなぜ彼女がこのような役どころに甘んじていたのかと言えば──。

 

「なるほど。それじゃあ()()()()だ」

 

 カツン、カツン、と。画面内に入ってきたのは──言わずもがな、ジャイアントペンギンだった。

 人間の悪意的な演技をするのは、フレンズには難しい。だからこそヒトを知るジャイアントペンギンに、そういったものを演じてもらう必要があったのだろう。

 そんな役どころを任されたジャイアントペンギンは、明らかに悪い笑みを浮かべながらこう続ける。

 

「──鏡よ鏡。()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ──そう。

 原典の『白雪姫』ではただこの世で最も美しい存在を調べることにしか使われていなかった魔法の鏡だが──当然、それにしか使えないわけではないのだ。

 このように魔法の鏡を伴いながら行動指針を決める際にいちいち質問していけば、魔法の鏡は常に『この世の真実』を返してくれるというわけだ。無駄な能力バトル的応用である。

 

「ここにいると思いますよ! ちなみにけっこう参ってるので今ならチャンスだと思いますよ!」

 

 さらに余計な情報まで付け加える魔法のチベスナ。一応白雪ペンギン推しだというのに魔法のアイテムに心などないと言わんばかりの公平性だった。声だけの出演だというのにそこそこ取れ高があるポジションに置くあたりにチーターの采配的配慮が見える状態である。

 

「わっ! じゃ、ジャイアントお妃様……!」

「くっ、白雪ペンギンは渡さないぜ!」

「わたしたちのしかばねを越えてゆけ~」

 

 それに相対するのは、イワビーとフルルの二人。一応小人ポジションということになっているイワビーとフルルは、大胆にも堂々と直接攻撃へ乗り出してきたジャイアントお妃様に向かっていく……が。

 

「──鏡よ鏡。この世を統べるに相応しい者は、誰だァい!?」

「お妃様だと思いますよ!」

 

 叫ぶと同時に振るわれたジャイアントお妃様の腕の余波だけで、哀れにも吹っ飛ばされてしまう。どうでもいいがあまりにもパワフルすぎるお妃様である。ちなみにチーターの脚本ではここまでするとは書いていない。完全にジャイアントペンギンの悪ノリ──もといアドリブであった。

 そんなアドリブはさておき、ジャイアントお妃様はド悪党極まるアブない笑みを浮かべながら白雪ペンギンに向き直る。

 

「さぁ、白雪ペンギン……。この世にアタシよりも美しい者が存在しちゃあいけないんだ……。悪いが、お前は…………アタシがこの手で殺す。安心しなぁ……。アンタの肝は、アタシが責任もって塩茹でにして喰ってやるからさァ……」

「ひいっ! だ、誰か助けてー!」

 

 このまま白雪ペンギンは恐ろしくパワフルなお妃様に殺されてしまうしかないのか。──そう思われた、その時だった。

 

「親が子を殺すなんて……痛ましい話だ。たとえそれが、継母だったとしても」

 

 サッ! と二人の間に割って入る影。

 それはもちろん、今までに登場していないフレンズで──、

 

「我こそは隣のちほーのコウテイである!」

 

 ──レオタードを身に纏ったセクシーなフレンズ、コウテイに相違なかった。

 演じる前はあれほど自信なさげだったコウテイは、プロの女優も顔負けの自信に溢れた演技でジャイアントお妃様を見返す。

 そのあまりの眼力に、パワフルお妃様も思わずたじろいだ。その勢いのまま、コウテイは拳を構える。

 

「見せてやるジャイアントお妃様……コウテイの力を!!」

「ククク……! 面白い! 答えろ鏡! この世で一番強いのは────誰だァ!?」

 

の の の の の の

 

「誰だァ!? じゃないが」

 

 ──そこで俺は、思わずカットをかけた。

 ……いやね、違うんですよ。そうじゃないんですよ先輩。確かに悪役っぽい雰囲気で演技してくれとは言ったさ。フレンズってやっぱ悪意的な感情とは縁遠いからさ。オオカミ先生とかならともかく、普通のフレンズって悪っぽい演技がどうしても棒になってしまいやすいんだ。

 そこんところでジャイアントペンギンは人間の感情を知ってるから演じやすいかなと思って、やってもらいはした。ただな……そこまでパワフルな悪役をやれとは言ってないんだよなぁ!

 なんだよ、腕の一振りで小人を吹っ飛ばすお妃様って! 確かに鏡の能力を使って白雪姫探索するのは俺の脚本だけどさ。鏡に『この世で一番強いのは誰だ!』ってマジキチスマイルで叫ぶのは完全に作品のジャンルを変えちゃってるでしょ!!

 

「えー、ダメだったか?」

「いや正直面白かったが……」

 

 こういうバトル展開もいいよねって思っちゃうもん。男の子だから。

 でもさ! 脚本のジャンルを変えちゃうアドリブはダメでしょ! ジャイアントペンギンはそういうの知らないからしょうがないけども!

 

「まぁ実際、今までのフレンズよりも皆演技が上手くはあったな」

「本当ですか!? 頑張って演技したので嬉しいです」

「わたしも、おかしくないならいいんだが……」

「『えんぎ』ってけっこうおもしろいなー! まだまだ頑張れるぜ!」

「ふふん。そうでしょうそうでしょう。……あれ? さっきのフンなんとかはどこだと思いますよ?」

 

 ん? 言われてみればフルルがいないな……。

 と、あたりを見渡してみると……フルルは隅っこのほうでジャパリまんを食っていた。……あー、流石に集中力がもたなかったか。フルルはマイペースだからなぁ。

 

「じゃ、一旦休憩してからまた撮影ってことで。熱が入っちまうせいか、なかなか時間がかかるなぁ……」

「別によくないですか? チベスナさんは長い映画を撮るのはいいことだと思いますよ」

「んー、まぁな……」

 

 そうとも言えない事情があるんだよなあ。

 

 うーん……。この分で間に合うかな…………。




◆一周年記念イラスト◆
流石に前回で終わりだと思っていた……のですが!


【挿絵表示】

昨日、もはや毎度おなじみと言ってもいいハヤサカ提督様よりいただきました! 毎度ありがとうございます!
何気にソリはイラスト初出なのです。同じ方向を向いて歩いている二人に言いようのないエモを感じます……!

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