畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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未読の方は一〇〇話よりどうぞ~。


一〇四話:大海眺める箱庭

 そのあとの撮影はスムーズに終わらせることができた。

 

「……よし! こんなところだな。みんなお疲れ様」

 

 ジャイアントペンギンもあの後は特に悪ノリすることもなく、台本に忠実に演技をしてくれ……無事、コウテイとジャイアントお妃様の勝負はコウテイが制して終わった。

 …………なんかもう既におかしな感じになっているのだが、ここは脚本通りである。やっぱ短い話の中で全部の要素にけりをつけるとなると、戦闘で物語のフックを全部回収するのが一番楽なんだよね。

 そういう意味では、ジャイアントペンギンのアドリブは『お妃様の戦闘面での強さ』を強調するものだったから、物語の起伏をつけるのに一役買っていたと思うが……。

 

「撮影、楽しかったぜ!」

 

 と、そんな風に撮影風景を回想していると、イワビーがそんなことを言ってきた。楽しめたなら何より。まぁ、フレンズって基本的に真新しいこと好きだしな……。ヒトもそれは同じだと思うけど。

 だからこうやって撮影を一緒にやると、大体のフレンズは何だかんだ喜んでくれるんだよな。

 

「ああ。最初は不安だったが……。こういうのも、けっこう悪くないな」

「はい! なんだか夢中になっちゃいました」

「わたしは疲れちゃった~」

 

 フルルは相変わらずだが……概ね楽しめたようで何よりだ。フルルにしても、実際撮影って大変だからな。セリフ覚えたり動き覚えたり……。タイミングとかも大事になってくるし、初めてだと疲れるのは当然だ。

 むしろ、初っ端から普通に演技して楽しめるだけの余裕がある他のPPPメンバーが凄まじいともいえる。チベスナなんて俺と一緒に旅をし始めてからもしばらくはズタボロだったからな……。

 

「俺達とジャイアントペンギンはこの後も此処を観光して回る予定だが……お前らはどうするんだ?」

「……え?」

 

 これからのことを決めようと四人に問いかけると、コウテイが軽く首を傾げた。……ん?

 

「でも、ここって先輩の……。……先輩、いいんですか?」

「あー、気にしない気にしない。そもそも、別に他のフレンズにしたって来ちゃいけないとは言ってないしな。わたしはものを壊すなと言っただけで」

 

 なんか……ジャイアントペンギンがほかのフレンズをここに招くのは珍しい、みたいな雰囲気だな……? どういうことだ?

 

「そうですか。……じゃあ、わたし達は帰りますね。先輩が元気でよかったです」

「おー、またなー」

「また機会があったら一緒に撮ろうと思いますよー」

「ん、おう……。あ、待ってくれ! 最後にこれ」

 

 そう言って、俺はポケットの中に幾つか持っておいたお守りを四人に手渡す。いつものお土産である。

 

「これは……?」

「それは『アクセサリー』だよ。みんなにお土産として渡してるんだ。俺たちがジャパリシアターに戻ったらそこでも配る予定だから、気が向いたら来てみてくれよ」

「おお! なんだかキレーだし嬉しいぜ!」

「ありがとうございます、チーターさん」

「うん。大切にするよ」

「まるくてジャパリまんみたい~」

 

 うむ。なんだかんだで喜んでもらえているみたいで何よりだ。

 そうこうしているうちに、コウテイ達はそのまま水族館を後にしていった。結局、俺達三人だけが残ることになったわけだが……さっきのジャイアントペンギンのやりとり、どういうことだろう?

 

の の の の の の

 

みずべちほー

 

一〇四話:大海眺める箱庭

 

の の の の の の

 

 PPPの面々と別れを告げた後、水族館観光を再開した俺達だったが──その道すがら気になることがあったので、俺はジャイアントペンギンに声を掛けていた。

 先ほどの、コウテイとジャイアントペンギンのやり取りの話だ。

 

「なあ、ジャイアントペンギン」

「ああ、さっきのコウテイとの話か」

 

 ……。うむ、既に慣れたが話がめちゃくちゃ早いぞジャイアントペンギン。

 

「別に妙な話でもないんだが……。簡単に言うと、ここがわたしの縄張りの一つ……みたいな話だなー」

 

 ああ、そういうことか……。そういえばコウテイ達がセルリアンに襲撃されたって聞いたとき、フレンズがあまり寄り付かない水族館になぜアイツらがいたのか疑問だったが……。

 

「普段ここにずっといるってわけじゃないんだが、まぁ、よく来る場所の一つってことだ。でもここは廃墟だからな……フレンズが集まると、色々と壊れやすいんだよ。ガラスもあるし」

「確かに」

 

 ちょっと周りを見てみるだけでも、水槽のガラスとかがいっぱいあるしな……。水は既に抜けているようだが、割れたら怖いし、あまりフレンズは近づかない方がいいだろう。

 

「だからほかのフレンズには『ここではあんまり騒ぐな』って釘刺してたんだがなー。どうやら連中からしてみれば、『あんまり近づかない方がいい場所』みたいに思えていたらしい」

「基本的に騒ごうと思って騒ぐタイプじゃないしな、みんな」

 

 騒ごうと思って騒ぐんじゃなく、自然と騒いでしまうのがフレンズっていうか。自分を律さなくてはいけない環境っていうのは、それだけでフレンズにとっては窮屈さを感じさせてしまうのかもしれない。

 なんというか、我が身を省みてしまう話だな……。

 

「ま、以前も言った通り、一番の理由は此処に面白いものがないってことだけどなー。わたしが此処に居ついてるのは……ここが賑やかだったころを覚えているからだし」

 

 それは……。

 

「そ、れ、よ、り!」

 

 と、辛気臭い気持ちになった俺の心の隙を突くみたいに、ジャイアントペンギンが俺にずいと顔を寄せてくる。

 

「さっきのアクセサリーはなんだ? あれは……」

「ああ、あれか? お土産だよ、お土産。ロッジ地帯の地下にあったんだ。フレンズに配って、ついでにジャパリシアターの宣伝もしてるんだ」

「ロッジ地帯の地下か。……そんなものがあったとは知らなかったなぁ」

 

 へえ、ジャイアントペンギンでも知らないことってあるんだな。

 

「なんだ、その顔は? わたしにだって知らないことくらいあるぞ。お前のことも知らなかったしな……」

「それは例外だろ」

 

 流石に何の事前情報もない状況から俺の素性を完璧に理解されてたらビビるしかないわ。実際、完璧とはいかずともジャイアントペンギンはそこそこいい線まではいってたわけだしな……。

 

「んで、さっきのアクセサリーは『お土産』だから、わたしにはまだ渡さないってことか?」

「そだな。ほしいなら今渡すけど」

「いや、いい。楽しみが増えたからな~」

「そうか?」

 

 そこらへんジャイアントペンギンは大人だよね。これがチベスナだったらすぐに欲しい欲しいの大合唱だっただろうし。こういうところは見習ってもいいんじゃないか? んん?

 

「チーター、なんですその顔? チベスナさんに何か言いたいことがあるならはっきり言った方がいいと思いますよ」

「いや別に」

「嘘だと思いますよ! 今完全に耳がチベスナさんのことをバカにしてたと思いますよ! 吐くといいと思いますよ!」

「耳ってなんだよ俺の感情はそこまで筒抜けなのか!?」

「ほらーやっぱりだと思いますよ!」

 

 ぐう……! おちおち隠し事もできんのか俺の耳は……! 消したい! 耳…………消したい!!

 

「ほらー。二人とも、水族館観光はどうしたー?」

 

 と、そこでジャイアントペンギンが上手い具合に助け舟を出してくれた。助かった……。

 んで、これは……?

 

「地下港への道だよ」

 

 ジャイアントペンギンが、さらりとそんなことを言った。 

 地下……港? 何それ? 地下に港なんか作っても、海中だから船なんて置けなくないか?

 …………いや、違う。潜水艦か。

 

「ご明察。この水族館は、言ってみれば『ヒトが海の生き物を観察しやすくするための場』だからなー。海の生き物が水槽の中に入ってこれる道を作って、それを観察するのも一つの手だが……」

 

 コンコン、とジャイアントペンギンは海底のような色合いの壁を叩き、

 

「自分たちが潜水艦──ジャパリマリンに入って、海の中を実際に探検するのも、一つの手段ってわけだ」

 

 確かに、陸上ではジャパリバスが動物観察のサポートとして存在していた……ってことは、海中での動物観察に何かしらの乗り物があるはずってことにもなるんだよな。

 しかし潜水艦かぁ……。男のロマンだよな、潜水艦。俺も機会があれば乗ってみたいが…………。

 

「二人とも! ジャパリマリンってなんだと思いますよ!? チベスナさんも海の中……探検してみたいと思いますよ!」

 

 と、そこでチベスナが予想通り乗っかってきた。そうだよね、乗ってみたいよね。俺も乗ってみたい。

 ただ……。

 

「んー、無理だなー」

 

 そこで、ジャイアントペンギンはばっさりとチベスナ(と俺)の希望を切って捨てた。

 まぁ、そうだよね。

 

「なんでだと思いますよ!?」

「なんでってなー……。そりゃ、ジャパリマリンはもうどこかに流れちゃったんだ。全部」

「ぜ、ぜんぶ……」

 

 だろうな。

 アニメでも、ジャパリバスはかなり散逸している印象だった。ヒトの管理を離れたんだから、いずれどこかに転がって行ったりしてもおかしくないのだ。

 まして水族館はこの寂れよう……。ジャパリマリンとやらをここにつなぎ留めておく機構が壊れてしまえば、仮にジャパリマリンがまだ動かせたとしてもどうしようもない。

 

「それに、陸で生きてるヤツが海に入るのは危ないからなー。個人的にはやめといた方がいいと思うぞ? 泳げるならいいけど」

「…………」

 

 あ、チベスナが目をそらした。お前微妙に泳げないもんな。俺は泳げるけど。

 

「あ、そうだチーター! ないなら作ればいいと思いますよ! 潜水艦チベスナ号! ソリみたいに作りましょう!」

「無茶言うなや」

 

 ソリと潜水艦じゃレベルが違いすぎるんだよ、難易度の。できるわけないでしょうが。

 いや、ビーバーあたりなら案外作ってしまいそうな信頼感もあるが、そもそもああいうのって木製じゃすぐに水が染み出てきちゃうだろう。最低でも鉄を使う技術がない限り無理だと思うし……。できたとしても、かばんが出てきてから、って感じじゃないか?

 

「あっはっは、案外チーターならできそうな気がしないでもないけどなー」

 

 そんな俺に、ジャイアントペンギンは無責任に笑い、

 

「もし作る気になったら言ってくれよー。わたしも協力するから」

 

 おま……そうやってチベスナに希望を持たせるのやめろよ!




・ロッジ地帯の地下か。……そんなものがあったとは知らなかったなぁ
チーターは「このことはジャイアントペンギンでも知らなかったのね」と納得していますが……。

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