畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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一周年記念連続投稿中です。
一〇〇話からスタートしているのでご覧になってない方はどうぞ。


一〇五話:深蒼揺蕩う遺物

「と、とりあえず地下港でも見に行こうぜ」

 

 ジャイアントペンギンに煽られて潜水艦欲しいモードに移行しかけていたチベスナを遮るように、俺はそう提案した。

 まったくジャイアントペンギンも困ったもんだよ。チベスナを煽ったら主に俺の方にその影響がいくんだからな……。特に潜水艦なんか鉄でもないと作れっこないんだから。

 

「別にいいが……さっきも言ったようにジャパリマリンは全部流されてるぞ?」

「それでもいいよ。なんか秘密基地みたいな感じで面白そうだし」

 

 まぁ潜水艦の話題から話をそらすという意味もあるが、それはそれとしてなんかこう……地下の港ってイメージ湧きづらいじゃん。どんな形状してるのか気になるでしょ。

 

「秘密基地ねぇ~。わたしにとっては、そんな大層なもんじゃないが……」

 

 俺の言葉にいまいちピンと来ていないらしいジャイアントペンギンは、そんなことを言いながらも俺たちのことを案内する。

 カツカツと、階段を下る音だけが響き──。

 

の の の の の の

 

みずべちほー

一〇五話:深蒼揺蕩う遺物

 

の の の の の の

 

「おー、ここが地下港……!」

 

 そこは──まるでSF作品に登場する基地のような、未来的な印象の施設だった。

 上のファンシー要素とは一線を画す、無骨なデザイン。印象的には、砂漠地方の地下にあったバイパスのような、ジャパリパークの事務的側面を表出させたような雰囲気だった。

 見た目の印象としては、地下駐車場が一番近いだろうか。

 階段から降りるとそこは待合室のような場所で、ガラス張りの壁とコントロールパネルのようなものが置いてある。ガラス張りの壁の向こうにはがらんどうの空間が広がっていて、空間の床部分は真ん中が丸く区切られていた。

 おそらく、あの床の丸部分が動くのだろう。下に床が下りて潜水艦に乗り込むための場所に移動できるとかそういう感じだと思われる。

 ジャパリパークの設備がけっこう生きてることを考えると、今も案外コントロールパネル周りは動かせるのかもしれないが……ジャイアントペンギンが『ジャパリマリンは流された』って言ってたし、動かすのはやめておくか。

 もしかしたら半端に故障していて、ジャパリマリンを動かそうとしたら外から海水が流れ出てきたー……みたいなことになったら最悪だしな。此処はジャイアントペンギンの居場所なわけだし、無用に施設を壊しかねない行動は慎んでおきたい。

 

「どーだ? 何もないだろ?」

「いや、何もなくはないだろ」

 

 言いながら、俺は階段を下りたすぐ先にある近未来的な雰囲気のするコントロールパネルを裏拳気味に軽く叩く。

 

「これとかな。ラッキーが整備してるのか知らんが、まだ動かせそうじゃないか。あとガラス張りの壁の向こうとか……」

 

 こうやって色々見てるだけでも面白いよな。あっち側の部屋には行けないのかな? と思って壁を確認してみると……階段から見て奥の壁に見づらいが扉があった。あそこから入るのか。

 入ってもいいか? という意思を込めてジャイアントペンギンを見てみたが……ジャイアントペンギンは静かに首を横に振った。だめかー。まぁしょうがないな。

 

「鍵がかかってるんだ、そこ。だから入れない。力づくで壊すと、浸水したとき怖いしなー……」

「なるほど」

 

 ジャイアントペンギンの補足に、俺は納得した。確かにこういう場所って危険だから運営時以外は施錠してるよな。ヒトがパークから撤退した時点ではキョウシュウエリアの一般公開は止まってるはずだから、鍵がかかりっぱなしになるのは納得だ。

 わざわざここに入りたがるフレンズもいないはずだし、そもそもラッキーが許可しなさそうだから余計にだ。

 

「ん?」

 

 そこで、俺はふと気づいた。中に入れないなら……ジャイアントペンギンはどうやってジャパリマリンが全部なくなっていると確認したんだ?

 外から泳いで確認した、って線もあるが……普通に考えて、外から見えるように潜水艦を保管しておくだろうか? 流石に潜水艦って言っても結構高いだろうから、そんなずさんな保管方法はしないはずだ。だとすると外からも中からも確認できないってことになるよな……?

 

「なあジャイアントペンギン。さっきの話だが……ジャパリマリンが全部なくなってるって、どうやって確認したんだ?」

 

 なので俺は、そう問いかけてみた。もしかしたら何か理由があってジャイアントペンギンが俺たちに嘘をついているんじゃないかと思ったからだ。

 しかし、ジャイアントペンギンはというとあっさりとした調子で、

 

「ん? チーターは知らないのか? ああ……まぁ知らなくてもしょうがないかな」

 

 ジャイアントペンギンは思い返すように笑いながら、

 

「ジャパリマリンはな、全部廃棄したんだよ。フレンズはジャパリパークから出ると元のけものに戻ってしまうから」

 

 と答えた。

 ……ああ、確かそんな話、ネットで見たような気がする……。具体的にソースがどこだったとかは知らないからアレだが。

 しかしなるほど。確かに、フレンズがジャパリマリンを操縦できたら、どこまでも遠くへ行ってしまいそうだしな。そうなると、ヒトがいなくなったパークでフレンズが勝手にジャパリマリンを使ったりできないように廃棄処分にするしかなくなるのか。

 

「だいぶ土壇場で廃棄されたから、担当部署にいない限り分からんだろうからなー。チーターが知らなくても無理はない」

 

 と、フォローするようにジャイアントペンギンが付け加える。いや、俺はパークで働いてたわけじゃないから知らなくて当然なんだけどな。

 

「自分から捨てちゃったんですか? もったいない……。チベスナさんは乗りたかったと思いますよ」

「海は怖いぞ~? 海をナメてると、本当に死ぬからなー」

 

 冗談めかしたジャイアントペンギンのセリフだったが……なんだか冗談と切り捨てるには大きすぎる説得力があった。ジャイアントペンギンはその海で暮らしてるわけだからな……。恐ろしさとかもそりゃあ知ってるだろう。

 というか俺としては、『どこまで行ったらフレンズ化解除か』っていうラインの見えない海とか早々出たくない。

 フレンズ化の効果範囲がジャパリパーク圏内と考えるときっと相当広いだろうから心配はいらないんだろうが……。

 というか、そもそも潜水艦自体操縦できないしな。ラッキーにやってもらわんと。

 

「確かに、チベスナさんはともかくチーターはやばいと思いますよ。油断してたら本当に……」

「何で俺なんだよ?」

 

 泳げるって言ってるからな俺。言っておくが海は雪山とか高山とかとは別物だぞ! 山を登るのと海を泳ぐのじゃ難易度の方向性全然違うから!

 

「はっはっはー。安心しろ、悪くすれば二人とも死ぬからー」

 

 …………という言い争いの芽は、直後にぶち込まれたジャイアントペンギンの朗らかな一言によってかき消されてしまったが。

 和やかにえげつないこと言うなよ。お前が言うと冗談に聞こえないんだよ。

 

の の の の の の

 

 その後も探索は続く。

 ジャパリマリンの乗り場を見た後は、再び水族館巡りをした。流氷のような足場を大量に用意することでセイウチ系の動物が入り込みやすくした区画や、大型魚類が大量に流れ込めるような大規模水槽、果てはクジラも通れそうな巨大チューブなどなど……。

 なんだか見ているだけで楽しくなれるような施設が目白押しだった。ジャイアントペンギンも、住処を案内するのは新鮮な体験だったらしく、とても楽しそうにしているように見えた。

 流石にジャパリパークの水族館だけあって、水族館というのになんか大きめの町くらいの広さで、回るのにもそこそこ時間を使ったが──やはりフレンズの健脚は凄い。

 途中何度か休憩を挟んだものの、夕方になるころには大体全部の場所を回ることができていた。

 

「フー。面白かった面白かった。ところで二人はこの後どうするつもりだ? 何か見たいところがあるなら案内するけど」

「んー、今んところ、この次は砂浜のリゾートに行くつもりだな」

 

 言いながら、俺は地図を指さした。流石に今日は時間も遅いから寝床を探して休むつもりだが、明日は朝イチで砂浜行って、周辺探索してリゾートで一泊しようかなーと思ってる。

 

「ほー。あそこか。あそこはけっこう過ごしやすいぞー。後輩連中もけっこうあそこにいたりするから、明日はまた出くわすかもしれないな」

 

 と、俺の計画を聞いたジャイアントペンギンはそう言った。PPPの面々にはお土産渡しちゃったからまた会うのは微妙に据わりが悪い、が……。まぁ、別にフレンズはそういうこと気にしないだろうし問題はあるまい。

 

「それで、今日はもう遅いから、寝床を用意した方がいいと思うが──」

「それならここを使えばいい、と言いたいとこだが、それはちょっと問題かもなー」

 

 俺の言葉を引き継ぐように、ジャイアントペンギンは顎に手を当てた。袖あまりのジャージがもふっと顎のラインを隠す。

 うむ。そこは俺も考えていたところだ。

 

「今日、コウテイたちはかなり大きめのセルリアンに襲われてたしなー。さすがにあんなの滅多にないとは思うが、セルリアンが屋内に現れる可能性を考えると、のんきに水族館の中で何も対策せず寝るのは危険だ」

 

 これでセルリアンが出てなければ、気にしなくて済んだんだが……前例があるからなぁ。これでは、危険度についてはほぼ屋外と同レベルってことになる。

 ただ──そういう場合の対処法を、俺は既に知っているのである。

 

「どうする、チーター? 今から別の屋根がちゃんとしてる場所に行くか? わたしは夜目がきかないからあまり頼りにできないぞ」

「いや、大丈夫」

 

 俺はソリにあるあの『便利アイテム』を思い浮かべながら、ジャイアントペンギンに言ってやる。これでも伊達に旅はしていないのだ。安全な寝床を作る方法なら、かなり心得ている。

 

「要するに、地面みたいなセルリアンがすぐに俺たちを見つけられる場所に居なきゃいいんだろ? それなら解決策は簡単。──高い所にタオルを敷いて、寝床を造ればいいのさ!」

 

 ここまでは、何かとジャイアントペンギンの経験に押されっぱなしだったが……見せてやろう、現役の旅人としての、俺たちのスキルを。




こちら、本来一話になる予定だったものを分割した前半部分になります。

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